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20 久々の再会


「うわわ…、流石にこんなには入らないですよー」


 夜の星屑亭の食堂にて。

 女将さんが今日のお礼としてたっぷりのご馳走を用意してくれた。

 並々とよそわれたブラウンシチューに、先日のサンドイッチの具にもなっていた照焼き。サラダは恐らく子供たちが狩ってきたベビースプラウトからのドロップ品だろう。トレイから溢れんばかりに並べられた食事の量に圧倒されてしまう。


 ルチアとしては単純に覚えている戦闘の仕方やコツを教えただけに過ぎないのだが、女将さんからはかなり感謝されたようだ。ちなみに、女将さんはシャロルさんと言う名前だ。


「そうかい?

 なら明日の弁当にすりゃあいいさね。子供たちが世話になったんだからほんの気持ちだよ」


 今日の午前中はユーリと双子のライとガイに戦闘の仕方を教えてあげた。それ自体は午前中だけで済んだのだが、お昼を食べているうちにその話を聞き付けた奥さまたちがやってきた。ぜひ、うちの子にも…とのことでその対応に追われたのだ。

 話の発端になったシャロルさんがその場をおさめてくれたので良かったが、奥さまがたのパワーは計り知れないものがあった。


 結局

・子供だけで相手をしていいのはベビースプラウトだけ

・3人以上のパーティを組むこと

・誰かが怪我をしたら即街中へ撤退

・大人への報告をきちんとする

・ドロップ品は等分に山分け

・レアドロップや唯一品が出た場合はじゃんけんで決める

・万が一のことがあっても、ルチアに責任はない(これは大人向け)


 というようなことが決められた。

 特に、最後は重要だ。万が一戦闘の仕方を教えた子が怪我をしたり死んだりしたときに責められては割に合わない。

 ボランティアで教えるのに、責任だけはかぶせられるとかどんなブラック企業だ。幸い全員がこの条件をすんなり飲んでくれたので、揉めることはなかった。


 ルチアとしては祈り要員が増えたというだけで十分な収穫だ。特に親にも「子供の無事を女神にも祈ってほしい」と頼んだのでそれなりの人数が祈り要員になってくれた。それがルチアにとって一番ありがたいことなのだが、親たちとしてはお礼なしとはいかないらしい。

 今度市長に「こんな優秀な冒険者を足止めするとはどういうことだ!」と抗議してくれることになった。

 実際問題、現状のままではルチアは一次職の魔法使い、子供たちはノービスという最弱職業で留め置かれてしまう。戦闘勘の良い子もいたのでそれは大変勿体ない。


「抗議してくれる人が増えれば転職できるかしら…?

 というか、この調子で若年層の冒険者化が進めばいい方向に進みそうだけど」


 美味しい料理に舌鼓を打ちながら今後のことを考える。

 どんなに戦闘に慣れて、レベルが上がったとしてもベビースプラウト以外との戦闘は今のところ厳禁にしている。本当は他のモンスターと戦った方が経験値効率もよく、ドロップ品も幅が増えるのだが命の危険が出てきてしまうからだ。

 ゲームとは違い死に戻りができない現状で、子供たちに最弱職業のまま戦わせることはできない。あれはゲームだからこそ出来た縛りプレイだ。


「そういや、あの子もそろそろ他の人捕まえてきてもいいと思うんだけどなー。

 捕まえなくても連絡とれればいいのに」


 あの子とはモチロン女神テルースのことだ。


「転職できないから気まずくて行ってないけど、普通にお祈りしにいった方がいいかも」


 これだけ祈る人数が増えたのだから、彼女にも何か変化があったかもしれない。

 明日の午前中は引き続き子供たちの戦闘を見守らなければならないが、午後からは自分の時間として確保してある。

 転職とは別に少し顔を出しにいってもいいだろう。



●●●●●



「うわーん、やっときたーー!!!!」


「ごめんごめん!

 でも、こっちも大変だったんだってばー」


 次の日、子供たちへの指導も終えて、神殿に入る。するとすぐにテルースの部屋へ呼ばれた。

 半泣きで抱きついてくるテルースをとりあえず宥めて今までの話をする。


「えっとね、まずこっちの話していい?」


 宥めて、ついでにお茶の準備もして、話し込む体勢は万全だ。女子三人揃えば姦しいというが、二人きりであっても話は弾むものである。


「どうぞどうぞ。今のところ新しい冒険者は来てないみたいだけど」


「そう簡単に見つかんないよー!

 でもさ、ルチアなんかやってくれたでしょ? 疲れにくくなったって言うか…祈る人増えた気がする」


「あ、わかるんだ?

 人口から考えたら微々たるものだとは思うけど」


「そんなことないよ! この世界の人口そんなに多くないしさ。

 この分ならルチアの分の課金アイテムくらいなら都合できるかもしんない」


「ほんと!? ソロするなら欲しいアイテムめちゃくちゃあるんだよー!」


 頭の中で、ほしいアイテムを羅列する。特にこれから一人でインスタンスダンジョンに挑むならば絶対に外せないものはいくつかある。


「あんまりたくさんは無理だけどね。

 あ、ちなみにポーチは拡張できてるはずだから後で確認してみて」


「いいの!? かなりお金かかるって話だったけど」


「いいんじゃない?

 一応神官には『熱心な信徒に与えた』とかなんとか言っといたし」


「言ったの!? それはそれで…面倒起きないといいなぁ」


「そのときはごめんねー。もしくはバレないように頑張って振る舞ってください。

 誰に与えたとかまでは話してないからさ」


「丸投げしたー!

 まぁいいか。祈る人頑張って増やしたから調子よくなったなら何よりだよ」


「ほんとだよー。久しぶりに『私女神ー』って感じしてるもん」


 頑張ったかいがあって、テルースの女神としての力は少し増えたようだ。出来ることが増えたと喜んでいるのを見るのは素直に嬉しい。


「前線の方にも祈りが行ってるみたいだし、少し好転した感じかな。

 引き続きあっちの世界の監視も頑張るよ」


「うん、それはテルースにしか出来ないからね。頑張って。あ、あと、もう少し楽な連絡手段ない?

 今神殿に近寄りがたくって」


「? それはたぶんできるけどどうしたの?」


 話し合って、結局テルースが身に付けていた指輪を受け取った。これに向かって祈ればテルースの部屋に繋がる仕組みらしい。

 これも祈る人が増えた影響で出来るようになったことの一つだそうだ。


「で、そっちは?

 これだけ祈りの力が広まったってことはあなたの影響力凄く強くなったんじゃない?」


「ううん、それがねぇ。

 何故か市長さんが転職業務やめさせちゃったらしいの」


「えっ!?

 嘘でしょ? 市長ってエイリスの? 彼未だに熱心な信徒で毎日祈りも届いてるのに!?」


 心底驚いたという雰囲気のテルース。

 あまり良い印象を持てなかった市長だが、テルースの反応を見るとどうも悪い人ではないのかもしれない。


「ていうかね、市長が神殿の業務をどうこうしたところで、彼が得することってないのよ」


「言われてみればそうだわ。

 でも、じゃあなんで市長はそんなことを…」


「冒険者が増えると困る…ってことよね、転職妨害するんだから。

 でも、都市の流通は冒険者がいるから回っていたわけで…それが止まるなんて都市にとっても害でしかないし…」


 ルチアがうんうん頭を悩ませても、市長の考えはわかりそうになかった。

 だが、テルースは何かに気付いたようだ。


「…もしかしたら」


 ハッと何かに気づいた後、思い詰めたような表情を浮かべるテルース。


「なに? なんか思い付くことあった?」


「…ルチア、夜まで時間ちょうだい。

 寝る前にいつも祈ってくれてるわよね。その時間までに用意するから」


「いいけど、どしたの?」


「思い過ごしならそれでいいの。でも、万一そうだとしたらやりきれないわ。

 ごめん、作業に集中したいから追い出すね!」


「えっちょっ…」


 言うが早いか、辺りの景色が真っ白な光に包まれる。

 あっという間にルチアは元の神殿に戻されていた。


「なんなのよ、もう」


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