19 戦い方指南
「おや、ルチアちゃん聞いたよ。
なんでだか転職させてもらえないんだって?」
「そうなんですよー。張り切ってレベルあげてるんですけどねぇ」
こんな会話をするのは、常宿にしている星屑亭を切り盛りする女将だ。
ゲームの中ではこんな会話はできなかったのでかなり新鮮な気持ちになった、のも束の間で既にこういったのは日常になりつつある。
「まぁ正直あんたがいないと街の流通が滞るってのはあるからねぇ、わからなくもないんだけど」
「冒険者頼みの流通ってちょっと問題ありませんかね!?」
今まではそれで回っていたが、これからはそうはいかなくなる。
未だに連絡のつかない女神テルースがうまいことあちらの世界から人をつれてきてくれれば別だが。
転職を断られてから神殿にも近づきづらくなってしまい、あれから連絡をとることができていない。もう少し彼女の力が強まれば、その辺りの彼女を模した像から会いにいけないだろうか、などと考えてしまう。
「言われてみれば確かにねぇ。
ぶらぶらしてる若い衆にお願いしてみるのはアリかもしんないね」
「正直ベビースプラウトでしたらどなたでも大丈夫なんじゃないかと。
あ、あと数人でパーティを組んでいれば大分安心です」
「…ねぇ、ルチアちゃん。無事に転職が終わるまではこの都市にいるんだろう?」
「そうですね、護衛とか宅配依頼とかが名指しで来ない限りは」
女将はなにか悩むような素振りを見せる。
どうしたのだろうと不思議に思いつつも、次の言葉を待つ。下手に予測して言葉を繋げるよりも、相手の言葉を待った方がいいというのは社畜時代の先輩の教えだ。
「ベビースプラウトであれば誰でもってことは…子供でも大丈夫かしらね…?」
「こども…うーん。
少なくとも3人以上で、街の近くで戦うのであればいけるんじゃないですかね? もちろん装備は最低限用意した方がいいですが人数がいればいけるとは思います」
素手でも大人が複数人なら倒せるだろうが、こどもだとわからない。
「いやね、ちょっと暴れん坊なお子さまたちがいてねぇ。
そんなに元気が有り余っているなら、狩りの方向で発散してくれればいいなと思ってね」
「なるほど…。ちょっとの時間であれば私がついて見ていましょうか?」
この街の流通の手助けが出来るのであれば、手伝わない手はない。
今後冒険者が増えたとして転職も無事できるようになったとしたら、この街はまた素通りポイントになってしまう。
自分達で少しでもモンスターを倒せるようになれば、冒険者に頼らなくても生きていける強い街になるだろう。
それはそれで、冒険者の最初の街としては厳しくなってしまうかもしれないが…。この世界の存続の前では些事と言ってもいいだろう。
「助かるよ。それじゃ…そうだね、ちょっと待ってておくれ。
チビたちに話を通してくるよ」
「はーい。行き違いになってもまずいんでここで待たせて貰いますね」
●●●●●
「「「よろしくおねがいしまーす」」」
暴れん坊と聞いて少し心配していたが、意外と素直そうな少年少女が三人。元気よく挨拶をしてきた。
この中で一番年長な姉貴分のユーリが、年下の双子ライとガイを嗜めてくれているからかもしれない。
「はじめまして。冒険者のルチアです。
じゃあまずはモンスター討伐をする前に、安全な町の中でお互いの無事を女神様にお祈りしようか」
隙あらば布教。
忘れてはいけないルチアの使命だ。だが、やんちゃ盛りの双子はお祈りが不満なようだ。
「はぁー? 祈ったって意味ねーだろ!」
「戦い方教えてくれるって聞いたからわざわざ来てやったのによー」
「こら、二人とも失礼でしょ!」
ユーリが叱りつけるが二人の不満は止まらない。
「そうねぇ…。
じゃあ実地で見せて納得してもらうしかないか。
まず町の外に行きましょう。絶対に勝手な行動をしないこと…もしそんなことしたら麻痺魔法かけて『初めての討伐で漏らしました』って書いた札つけて街中に転がすからね」
「「えっ…」」
「アハハ、いいですね! じゃんじゃんやってください」
もちろん麻痺魔法など現時点のルチアは使えないのだが、ここは嘘も方便だ。
双子はなにかヤバイと感じ取ったようで大人しくついてきた。
もはや見慣れたベビースプラウトが群生している街のすぐ外に到着する。
「はい、じゃあまずは見学ね?
何かあったら一目散に街行きのゲートにとびこんでください」
「「「はい」」」
三人揃っていいお返事だ。
特に双子は街の外に出られたことが嬉しいのか、表情がかなり明るい。
「たくさんのモンスターが密集している場合は、剣を振り回すと当たってしまうことがあります。その結果たくさんのモンスターを一度に相手しなければならなくなり、かなり不利になります。
なので石投げというスキルを使って~」
わかりやすいように丁寧に説明を続けながら、使えるスキルの確認をする。幸いなことに、全員きちんと石投げとセルフキュアという基本スキルは持っているようだった。
これなら子供三人だけでも比較的安全に戦えるだろう。
「そして一番大事な確認ですが今現在、おねーさんは祈られていない状況です」
「そこ大事なのか?」
「祈ろうが変わんなくねー?」
双子が疑問を口にする。言葉にはしていないが、ユーリも不思議そうだ。
「見てもらった方がはやいわね。見てて?」
石投げを発動させ、ベビースプラウトを釣る。初めての時よりもレベルはかなり上がったが、石投げでベビースプラウトに致命傷を与えることはない。
怒ったベビースプラウトがルチアの方へやってきてルチアが剣で迎撃する。それを10回ほど繰り返した。
「なーー! やり方はわかったからやらせろよー」
「そーだそーだ」
「ここからが本番です。三人とも、一度私と女神に祈ってもらえますか?」
「はぁ? そんなことより…」
「麻痺魔法くらいたい?」
「「うっ」」
「ちゃんと言うこと聞きなさい、恥ずかしい」
双子はしぶしぶ、ユーリはきちんと祈りをしてくれる。目には見えないが三人からの祈りは感じ取れた。
「OKです。では、また同じことをするので、どこが変わったかきちんと見ててくださいね?」
石投げからの迎撃。
やることは一緒だが、一点意識することがある。それは、カウンタークリティカルを出すことだ。
先程までのデモンストレーションでは、意識してクリティカルを出さなかった。そうしなくても今は一撃で倒せる。しかし三人に「祈りは効果がある」と見てわかる形で見せたかったのだ。
先ほどまでとは違うインパクト音が響く。
「「すっげー!!」」
「すごい、全然違う…」
「祈りはこんな風に強い攻撃を繰り出す確率をあげてくれます。もちろん私の場合はベビースプラウトとのレベル差がかなりあるのでクリティカルが出やすいというのもありますが。
他にもモンスターのドロップ品が多くなったり、職人さんなら高品質を作りやすくなるという効果があります」
「それなら祈った方が断然いいですね!」
「二人も納得してくれた?」
ブンブンと首がちぎれんばかりに頷く二人。祈りの有用性を見せつけられたようだ。これで三人とも熱心に祈ってくれるだろう。
「それじゃあ、お互いの無事を女神様に祈ったら本格的に開始しましょうか」
こうしてお昼まで、三人に安全な戦い方を指南した。
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