18 量産の結果
「ほんっと、呆れた子ねぇ…」
朝の彫金生産工房にて。
リンリンおねえさまの前には、量産されたアクセサリーの山がある。昨日ルチアが作り上げた代物だ。
「いやぁ…それほどでも」
「ううん、謙遜することはないワ。確かに呆れた量ではあるけれども、劣悪品は一つもないし、高品質と最高品質のものまであるもの。
昨日一日でかなり生産レベルもあがったんじゃない?」
「はい、それはもう!」
生産レベルがあがるのが楽しくてやり過ぎた、というところもある。
作れば作るだけレベルがあがるのだから、それが楽しくないわけがない。
社畜時代にも目に見えて「書類作成レベル」だのがあれば、もう少し楽しく仕事ができたかもしれない。あったとしても、絶対に戻るつもりはないが。
「それとね…祈りの件だけど。
アタシ個人は見直してもいいかなって思ったワ。だってこんなの目の前で見せられちゃったら、ねぇ?」
「こんなの、とは…?」
「最高品質の出る確率も知らない彫金職人に成り立ての子が、こんなに最高品質作っちゃってるんだもの。
あのね、最高品質はマスタークラスと呼ばれるアタシでも月に一つ出来ればいい方なの」
「それは…私の場合素材も手に入りやすいし、細工も簡単じゃないですか。だからこれだけ量産できたんですよ」
納得して祈りに参加してくれるならば嬉しい。そうじゃないなら騙しているようで気が引けてしまう。
「そうね、確かにこれだけ量産できるほどに手に入りやすい素材と簡単な細工よ。
これだけの数を作れるから最高品質が出たとも言えるわ。それでも、アタシの経験から言わせてもらえば異常な割合なの。だから、その女神への祈りは有用だと認めざるを得ないのよ。
そうじゃなかったら、今までのアタシの頑張りが報われないじゃない?」
「そういうもの、なんですかね?」
職人魂というものなのだろうか。ルチアにはよくわからないが、お姉さまが納得できるのであればそれで構わないと思う。
「ま、アタシがそう考えるだけで、他の職人がどうかはわからないけどね」
「いえ、一緒に祈ってくれる人が多いと嬉しいですから。
あ、じゃあこれからはお姉さまの分も祈れるんですね」
「アナタそんなに信心深かったのね…」
信心深いというよりも、女神はいると知っているだけだ。それと、祈らないとこの世界がまずいということも知っている。
さすがに「この世界が祈りで支えられている」なんて言ったら狂信者扱いされそうなので控えるが。
「信心深い、というよりも前線に友達がいるから、ですかね?
祈りの力が最近届かなくて、前線が押され気味だって言ってたので少しでも力になりたくて…」
実は自分も昔前線にいて、深手を負ったのでレベル1からやり直していました…というのは言いづらかった。何せその前線で戦っていた記憶が皆無だからだ。
話の整合性をつけるにはこれが一番いいと思う。
「えっ、ちょっと聞いてないわよ!?」
「え、まぁそりゃあ前線に友達がいるからって個人的な理由で祈ってもらうのは申し訳ないじゃないですか」
「そうじゃなくて!
前線今危ないの!?」
「あ、はい。そうですね。かなりやばそうです」
実際は前線だけでなく、この世界の存続そのものなのだが以下略。
信じてもらうには、実は自分は女神と話したことがあるんです、とこれまた頭のおかしいことを説明しなければならないからだ。
「それを早く言いなさいよ!
最近生産素材が手に入りにくいことも絡めてほかの連中にもきちんと協力要請できたじゃない!」
「えっそうなんですか?」
「そうよぉ! どこの世界に自分の今いる場所が壊れてほしいなんて奴がいるのよ!
破滅願望がない限り応援してくれるに決まってるじゃない!」
「えっと…でも、証拠出せって言われても出せないんですが」
だからこそ、安易に多くの人に頼むわけにはいかなかったのだ。本当であれば誰彼かまわず布教して回りたいところを遠回りした理由がそれだ。
「この世界に住んでいる人間なら誰しもちょっとした異変は感じてるわよ!
祈るだけで前線が安定するなら安いもんでしょ?
こうしちゃいられないワ! ちょっとアタシ留守にするから! 工房鍵かけちゃうからアナタも一旦出てちょうだい!」
「え、あ、ええええ!?」
急展開に目をまわしているうちに、工房を追い出されてしまった。
けれど、これで職人ギルドの人間が祈ってくれるようになれば、それだけで祈る人数はぐっとふえるはずだ。
今日は職人ギルドの人のためにも祈ろう。一人の祈りの効果なんてたかがしれているが、それでも協力してくれる人に少しばかりの幸運が降ってくるように願わずにはいられない。
「でも…今日どうやってすごそうかしら」
本日のルチアの予定は、材料の許す限り装備品を量産することだった。幸い工房を閉め出される直前にお姉さまが、普通の品質のものは工房専用倉庫からギルドへ、品質の高いものはポーチの中へ突っ込んでくれた。
「今頃リリィ悲鳴あげてるかも…説明しにいかなきゃ」
のんきに狩りにいこうか、とか考えている場合ではない。
事情を説明しなければ最悪彼女の顔にクマが戻ってきてしまう。
ギルドまでのそう遠くない道をルチアは走り出した。
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