15 念願のレベル10
TTOをやり始めて、はじめに世界が変わるのがレベル10になったときだ。
生産ができるようになる。
職が二次職に変わって、使うことのできるスキルが大幅に増える。
インスタンスダンジョンが解放される。
「見える世界が変わるわよねぇ」
中央都市エイリスを拠点に無理せずのんびりレベルを上げ、とうとうルチアはそのレベルまで到達した。やろうと思えばもっと早く到達できたが、それはしなかった。
ゆっくりとレベル上げをした分どこで時間を使っていたかと言えば、主にこの世界を知ることに費やしていた。
この世界の成り立ちを調べたり、アトリア達が戦っている侵略者について調べたり。ゲームの世界との違いについても実地で調べてみた。テルースに余裕があるときは、テルースとお喋りがてらゲームとの違いについて話し合ったりもした。
もちろん、祈りの有用性を広めるためにレアドロップ掘りは手を抜いていない。お陰でリリィの他にもいるらしいギルド職員(未だに目にしたことはない)も、チラホラ祈るようになってくれたというのは嬉しいニュースだ。
ゲームとの相違点には、例えばフィールドの継ぎ目がある。
もともとのゲームでは、きれいな草原のフィールドから、突然火山の熱気と隣り合わせの鉱山フィールドに転移される作りになっていた。その辺りの繋がりは現実となった今どうなっているのか、というのを先日経験してきたばかりだ。
結論から言えば、とてもうまいこと繋がっていた。
空気が変わったとでも言えばいいのだろうか。
ここから先は今までとは違ったパターンのモンスターが住んでいるな、ということを肌で感じられたのはとても興味深いことだった。
それと、ゲーム中登れそうなのにどうしても登れない小高い丘は、どう見ても登れない壁のような造形になっていた。勿論ロープなどの道具を使えば登れるのかもしれないが、そこまでして登る価値は今のところ見いだせない。
「とはいえ、チャレンジするのはありかもね」
今後、レベルが上がれば高低差のある地形も経験することになる。見えてはいるけど、辿り着くには遠いなんてこともよくあった。その際にロープなどを使ったけどショートカットができればかなり便利になる。
「まずはレベル10で出来ることをやり尽くしてからだけどね」
生産と転職。
ゲーム内では、この二つのクエストを同時進行するのがスタンダードだった。
討伐対象モンスターがほぼ同じだからだ。
今回もそうであることを期待しつつ、まずは職人ギルドへと足を運ぶ。
実は前夜、どの生産スキルをとるか散々悩んだのだ。
生産は、鍛冶・裁縫・錬金・彫金の4つがあり、主に武器・防具・ポーション・アクセサリーがそれぞれ作れるようになる。どのスキルをとっても役立たないと言うことはない。
武器であれば火力が上がり、防具であれば防御力があがって死ぬ可能性が下がる。ポーションは、回復はもちろんのこと状態異常を防いだり、バフをかけることもできる。アクセサリーはモノによっては武器防具の弱点を補ってくれることさえあるのだ。
どれも捨てがたい能力であり、最終的には全て極めたいスキル。
しかしながら、今のルチアはレベル10になったばかり。どれか1つしか選ぶことはできない。
悩みに悩み抜いた末、ルチアは彫金を選ぶことにした。
理由は、ゲーム通りであれば特殊効果をつけることができる唯一のアイテムだから、である。
今ルチアが選んでいる戦闘スタイルはスピード重視だ。最初の一撃で敵の体力をできるだけ削り、残りはクリティカルや短い詠唱で発動する魔法を使っている。
だが、このスタイルは長く続けられない。本来の回復魔法使いは火力がかなり低いのだ。その代わり豊富なバフスキルを用いて、味方を強くして倒してもらうのがスタンダードである。
しかし、今ルチアに味方であるパーティーメンバーはいない。豊富なバフスキルもかける相手がいないのだ。では、どうするか。
「自己バフして、自分で殴り倒す回復魔法使いになる」
そのためには攻撃力も必要だが、素早さが何よりも重要になる。それを補うのは武器や防具ではできないのだ。
「錬金とも悩んだけどね」
ポーション各種を作れるようになる錬金は、速度増加ポーションなども作れるようになる。しかしながら、それには少しデメリットがあった。
それは、ポーチの圧迫である。
ルチアにとっての最優先事項は、祈ってくれる人間を増やすことだ。そのために今ギルドに祈りの有用性を見せつけている最中。
具体的には大量のドロップ品と、今まで出回らなかったレアドロップの納品をしている。その頑張りのお陰で、リリィはようやく自宅で寝ることが出来た、と嬉しそうに語ってくれた。余談だが、彼女のクマは未だに消えていない。
ともかく、今ポーチを塞いでしまうのは得策ではない。というわけで、最初の生産スキルは彫金に決定した。
「こんにちはー。生産スキル覚えたいんですけどー」
訪れたのは都市お抱えの彫金工房だ。
ギルドにあった本には、ここを訪れればスキルを覚えるための試練が与えられると書いてあった。
「あらぁ、いらっしゃい。珍しいわねぇ。冒険者さん?」
「はいそうです」
立派な施設の中に、人間はたった一人。細マッチョな体型に低い声、そしてバチバチに決めた派手な化粧。
この世界の人間の中では、見たことのない人種だった。
「彫金で素早さや詠唱速度をあげたいんです。よろしくお願いします」
「あっらーーーー!
アタシの顔見て逃げなかった子ほんっとーに久しぶりよん! いいワ! アタシが教えられることは全部教えてあげちゃう!」
化粧の濃い顔をグイグイ近付けられて少々びっくりした。確かにこの勢いで来られれば逃げたくなる人もいるだろう。
ルチアはといえば、彼(彼女?)の化粧のうまさに驚愕していたのだが。
(やばい、お肌もキレイだしアイラインプロの技では? てか、この世界お化粧あるの!? 日焼け止めくらいはやりたいんですけど!?)
「アタシの名前はゴリ…じゃなかった、リンリンよん。気軽におねーさまって読んでくれてもかまわないわ」
「じゃあお姉さまで」
リンリン呼びだとなんとなくパンダのような気がしてしまう。彼女はどちらかと言えば孔雀だし。
「あの、本ではまず試練があると書いてあったのですが」
「そうそう、そうなのよー。予習もしてるだなんて偉いワァ!
彫金するにしても、材料の出所を知らずに良いアクセサリーは作れないの。そういうことで、まずは材料をとってきてちょうだい。
持ってきてほしい素材と、それを落とすモンスターをメモしてあげるワ」
予習をしていたことが気に入られたようで、必要な素材のメモもくれるらしい。
(仲良くなったらメイクとか教えてくれないかなぁ…)
暢気にそんなことを考えながら、彫金工房をあとにした。
次は転職のために神殿へむかう。
テルースに余裕があればまた招かれるかもしれない。
報告できることを確認しながら、ルチアは神殿までの道を急ぐのだった。
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