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13 こちらの世界もお金は大事

 リリィからゴミ(という名のインスタンスダンジョン召喚の鍵)を見せてもらったあと、ルチアは街の貸倉庫の話の場所を聞いた。

 こちらは単純に、街の中央部にあると教えてもらえた。リリィに礼を言ってギルドを出る。相変わらずクマは消えないが、依頼を貼り出している掲示板にはほんの少しだけだが隙間ができたような気がした。


 結局、あのあとリリィに持ち帰った指輪の台座の話も、ダンジョンの鍵の話もすることはしなかった。

 何故なら、ゲームと同じであるという確信がまだ持てていないからだ。


「証拠もないのに言っても信じられないわよねぇ…。

 まぁ祈りの効果は信じてもらえたからいいか」


 今回のドロップ品をきちんと計算しなければわからないが、実際の戦闘時間を考えると僅かながらドロップ率が上昇している可能性がある、と言ってもらえた。

 何より、レベル4のモンスター、タマナちゃんのレアドロップが2つもあったことが決め手となったようだ。なんにせよ、祈る人が増えることはありがたい。


 しかし、合成品やダンジョン鍵のことは話が別だ。

 目の前で指輪を合成してみせれば、あるいはインスタンスダンジョンを目の前で開けて見せればいいのかもしれない。だが、前者は相方となる宝石が手元になく、後者は未だ疲労の色の濃いリリィを仕事場から連れ出すのは気が引ける。


「そもそもインスタンスダンジョンってパーティ組まなきゃクリア難しいレベルなんだけど、この世界でのパーティの概念も謎だし…」


 ゲーム内のインスタンスダンジョンは、鍵を使ったメンバーがいるパーティにのみ見える設定だった。その辺りも、現在は未確定情報だ。

 気になることはたくさんあるが、今はそれはメモをしておくだけに留めておく。何をやるにせよ、今はレベルが足りない。

 ダンジョンに入るための鍵は10レベルにならなければ手に入らないし、合成に使える宝石をドロップするのもその辺りのレベル帯の敵だ。そして鍵を使って入るインスタンスダンジョン内の敵はフィールドとは比べ物にならないほど強いモンスターなのだ。なんにせよレベルが足りない。


 とはいえ、依頼にレベル上げにとキュウキュウとした生活を送るつもりは毛頭ない。


 それではこの世界に来る前の、ブラック企業に勤めていた時代と同じになってしまう。ただただ来る仕事をこなすだけの日々は、もうしないと決めたのだ。


「毎日1レベルあげられれば十分かな? あ、あとはお金かぁ…。」


 いつもの宿で、朝夕のごはんをつけてもらって300sになる。その上で日々の細かな雑費を考えると余裕をもって日に500sは欲しいところだ。

 そのくらいであれば、今まで戦ってきた低レベルモンスターのドロップ品でも稼ぐことはできるだろう。少しばかり都市との往復が面倒だが、リリィからギルド倉庫の鍵を貸してもらえたので手続きなどで時間を取られることはなさそうだ。


 あと、先ほど見た限りでは先日納品したばかりの、ベビースプラウト関連のドロップ品収集依頼があった。誰が欲しがるのか皆目見当もつかないが、少なくとも持ってくるだけ損になるということはない。


「それだけ納品していればお金がなくて路頭に迷うことはなさそう。

祈りのことを考えると、ある程度レアドロップが出るまでは粘った方がいいのはたしかだけど、のんびり観光してもバチは当たらないわよね」


 今までは職業を得ることや、初めて実地で使う魔法に夢中だった。しかし、今は少し余裕ができた。あちこちを散策しながらでも十分やっていけるだろう。

 もちろん、この世界の存続がかかっているので、祈る活動の布教は隙あらばしていきたいところだが。


 現在のレベルは5。午前中だけしか戦闘していないものの、ポーチがパンパンになる程度にはドロップ品を持ちこんだ。おそらく500sくらいなら稼げているはずだろう。

 そう考えると、今日は貸倉庫を探しがてら街の散策に充ててもいいはずだ。


 ギルド倉庫に大量のドロップ品を置いてから、街を散策する。


 中央都市エイリスは、東西南北に火水土風の四大元素魔法を模したオブジェを配置している。

 そして、その中央に神殿やギルド、騎士団などの主要な施設がある。さらにその中央部にはこの都市を治めている市長がいる、市役所という名の塔があった。

 透き通る素材で作られているけれど、中で働く人たちは見えない。高い建物であれば前世で嫌と言うほど見ていたが、こういう造形の建物は初めてなのでマジマジと見てしまう。流石に触ることまではしないが。

 エレベーターなどの機械がないこの都市でどうやって最上階まで行くのだろうと思ったのだが、魔法の力が上手く作用しているらしい。


「住むってなったらお世話になるんだろうけど…旅するのなら、そーでもないかな?

 あ、でもゲームではイベントあったなぁ…」


 クエストを請け負ってマラソンするゲーム時代とは違うので、どういった形でイベントが起きるのかは未知数だ。


「流れをなんとなく覚えてる時点で、少しは死亡確率下げられるかしらね」


 覚えている限りのクエストを頭に並べて見る。どのクエストが起こったとしても自分がやるべきことは明確なので、万が一何かが起きても対処は多少楽だろう。


 そんなことをツラツラ考えていると、貸倉庫についた。都市の中央広場からやや北より。人の行き来が多い転送ステーションに程近い立地に貸倉庫はあった。


「すみません、倉庫を借りたいのですが」


 建物に入ってそう声をかけると、店員らしき人が愛想よく返事をしてくれる。


「いらっしゃいませ。どのような倉庫をお望みですか?」


 詳細を聞くと、倉庫はおおざっぱにわけて二種類。固定と移動の2つがあるとのこと。

 固定とは、この中央都市エイリスでのみ使えるタイプ。移動とは都市間であればどの都市からでも倉庫の出し入れが可能なタイプだ。


 よく考えればどの都市でも共通して物品の出し入れができるというのはすごいことだ。ファンタジーさまさまである。


 もちろん、ルチアは旅をするため、移動タイプを選択したいところ。しかしながら、便利な移動タイプはそれなりに高額だ。


「月5000sで50種類かぁ」


「はい。あとあと拡張することは可能ですが、固定から移動やその逆への変更は受け付けかねます」


 とりあえず、無い袖はふれない。


「ありがとうございます。もう少し吟味してみますね」


「然様でございますか。またのご来店をお待ちしております」


 貧乏人にも嫌な態度をとらない、商売人の鑑だなぁ。まぁ、将来の顧客に失礼な態度はとりづらいのだろうか。


 そんなことを考えつつ、店を出る。


「またひとつ目標が増えたわね。

 あと数日もしたら5000sは稼げると思うんだけど」


 かなりのんびり稼ぎながら装備品を買いそろえたとしても、そのくらいなら達成できそうだ。ただ、それを毎月となるとどうだろう? という疑問が沸く。


「正直なところ差し迫ってはいないかなぁ?」


 ゲーム時代では、膨大な量の生産素材が倉庫やポーチを圧迫していた。別アカウントで何人もキャラを作り、そのキャラを差し迫って使う必要のない素材置き場として使っていた人も多い。ルチアだってそんな人間の一人だ。

 しかし、今はちょっと事情が異なる。

 生産のための素材を含めたドロップアイテムは全てギルドで売買することが可能なのだ。勿論自分で採集して保管していればタダではあるが、貸倉庫の値段やポーチ拡張のお布施の値段を考えればそちらの方が安上がりである。


「ながーーーい目で見ればポーチ拡張が一番安い、かな?」


 費用対効果を考えればポーチ拡張ギャンブルが一番割がいいのだろう。そもそもルチアはこの世界の神である女神テルースと知り合いだ。その辺りを融通してもらえないか今度聞いてみるのはアリだと思う。使えるコネは利用した方が良い。


 色々可能性を探ってみたが、半端に貸倉庫を借りない方が良いような気もする。

 結局貸倉庫は借りず、こまめに都市に戻ってギルド倉庫に放り込むという方向で落ち着きそうだ。


 そうと決まれば次に欲しいのは武器と防具。中でも、今一番欲しいのは魔法使いでも使える短剣だ。


 魔法職の武器と言うと杖というイメージだが、このゲームではそれ以外にもオーブや魔導書、変わったところだとアミュレットなんかもある。大雑把にわけると杖が一番平均的な性能で、オーブが威力重視、魔導書やアミュレットは別の特別効果がついていることが多い。


 そして、今ルチアが欲しがっている魔法使いでも使える短剣はかなりトリッキーな部類に入る。

 魔法使い用の短剣は、魔法攻撃力としてみるとあまり強い部類ではない。ただし、その分魔法の発動率が早いのが特徴だ。


 また、魔法使いは一部の魔法を剣に宿らせることもできる。通常はその能力で戦士系のアタッカーに付与魔法をかけて強化するのがセオリーだ。しかし、短剣装備であればその魔法を自分自身の武器にかけることができる。相手モンスターの弱点属性がわかっていれば、その付与魔法は絶大な効果を発揮してくれるのだ。


「できるだけでかい魔法ぶちかまして、クリティカルカウンターでトドメ」


 これがルチアの出した現時点での最適解である。

 味方がおらず、数々の便利な課金アイテムもなく、死んだらそこでゲームオーバーという現実になったこのゲームで、この方法が一番安全だと踏んだ。


 もちろん、クリティカルカウンターを出せなかった場合はかなり危険が迫ることは承知している。だからこそ格下のモンスターしか相手にしないし、複数でつるんでいるモンスター集団にも暫く手を出すつもりはない。


 二次職に転職し、強力な回復魔法や補助魔法を覚えられるようになるまでは。


 二次職になれば、物理攻撃に対するバリアを使えるようになる。当然ながら無敵時間は有限ではあるが、バリアが有効な間にもう一撃魔法を食らわせれば倒せるだろう、という判断だ。その際に短剣であれば魔法の詠唱時間が少なくて済む。


「あとは…詠唱しながら攻撃ができるか、かなぁ?

 これは訓練次第な気もするんだけど…」


 ゲームでは、魔法使いはほぼ固定砲台のようなものだった。

 その場から動けば魔法を途中でやめることになる。そのテクニックを駆使して、魔法詠唱強制キャンセルを繰り返しながらこまめに魔法を叩きこむというソロ戦法もあったほどだ。

 しかし、その場で物理攻撃をしながら詠唱するということであればどうだろう?


「確かめたいこと、やれそうなこと…結構いっぱいあるわね」


 一つ一つ、可能性を探っていく。あるいは、潰していく。

 考えられる限りの間違いを全部経験してこそ、成功は得られるものだ、とかいうのはブラック企業で無理やり読まされた自己啓発書の言葉だった。

 あの時は「失敗したら即罵声」のような環境だったため全く役に立たなかった。

 自由度の高い今、やっとその意味がわかったような気がする。


「短剣が向かないなって思ったら別の武器に変えればいいし、ソロがどうしても駄目ならそれはそれで構わないしね」


 うんうんと一人頷きながら歩いていれば、目的の武器屋までたどり着いた。まずは短剣の値段のリサーチから。余裕があればお店の人の話も聞いてみよう。

 メモ帳を準備しながら、ルチアは武器屋の扉をくぐったのだった。


 


閲覧ありがとうございます。少しでも面白いと思っていただけたらブクマや評価よろしくお願いします。励みになります。

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