11 まずはレベル10へ
「そういえば、リサイクルボックスの話があったけど、生産ってできるの?」
「はい、それはもちろん。良かったらあちらの本棚の上二段は生産に関する本なので、目を通してみてください」
ギルドの一角の本棚を示し、リリィは仕事に戻っていく。
うん、頑張ってほしい。というか、ルチアがそれなりに仕事を増やしてしまったというのに人員補充されないらしい。
今日も今日とて、彼女以外のギルド職員の姿は見えなかった。
心の中でリリィにエールを送りながら、本棚と向き合う。
(ていうか、私も私だよね。
何でもリリィに聞かずに、最初からここのラインナップ把握してれば迷惑かけなくてすむんじゃない?
せっかくの祈りプロジェクトの協力者なんだから)
あんなに忙しそうなのに、ルチアの質問で時間を無駄にしてしまっては可哀想だ。自分で調べられることは自分で。基本的な事である。
どうしてもわからなければ聞くことに決めたルチアは、まず大まかな本のラインナップをメモし始めた。
(生産のこともそうだけど、魔法とは? みたいな基本から書いてる本もあるんだ。
普通に読みたいかも)
ざっくりと本のラインナップをまとめてから「生産の基礎」というタイトルの本を手に取って熟読する。もともと読書は苦にならないことと、文字嫌いの冒険者にも読めるようにと図解が多かったため、すぐに読破することができた。
ルチアの知るゲームとは違う点もあり、なかなか興味深かった。
・レベル10刻みに生産スキルを一つ習うことができる
・生産レベルは、作れば作るほど上がる
・生産レベルは、生産種類ごとに異なる(例えばポーションを造り続ければ錬金の生産レベルはあがるが、鍛治スキルは上がらない)
・特殊なものを生産するには、レシピが必要
・レアレシピをドロップするモンスターもいるらしい
最後の「らしい」というのは、ほとんど市場に出回ったことがないので伝聞であると注釈がされていた。どのモンスターからドロップするかもわからないというのが現状らしい。
このあたりはゲームの知識とリンクしてくれれば、狙いが定めやすいが。まだどうなるかはわからない。
ただ、生産のためだけに誰かと協力プレイをしなければならない、ということがなかったのは大収穫だ。
まだ生産スキルを手に入れていないので、確定とまでは言えないけれど。ただ、全部の生産スキルをゲットできるのはレベル40以降ということは確定だ。
「ふむ、まぁレベル10を目指すことに変わりはないか」
情報は増えたけれどやるべきことは変わらない。死なずにレベルを上げて、この世界存続のために女神への祈りを捧げてくれる人を増やす。
そのための一歩はもう踏み出した。
「とりあえずレアドロップ狙いの乱獲かな?」
まずはリリィに納得してもらうための功績作りだ。
それに、レベルが二桁になれば個別ダンジョンへの鍵が手にはいることも増える。
この世界がゲームと一緒であれば、10レベル以上の敵からはダンジョンに入るための鍵をドロップするはずだ。その鍵が荷物をかなり圧迫するため、捨てるプレイヤーも多かった。だが、ダンジョンでしか手に入らない素材や、先程出てきたレアレシピもあるため潜らない手はない。
ただ、ダンジョンの敵はほとんどが群れでダンジョン内を徘徊しているのが厄介な点だ。
(まぁそれはおいおい考えるとして…。
テルースの女神レベルが上がったら課金アイテムくれないかなぁ…)
そんなことを考えながら、最初の目標であるレベル10到達に向けて、ルチアは街の外へと向かうのだった。
●●●●●
「あ、ポーチパンパンだ…」
初期装備のままレベル3から5の敵を乱獲していると、少し困ったことが起きた。なんでもポーチの中身が溢れてしまったのだ。
このポーチはゲームと同じ仕様らしい。同一素材であればいくらでも収納できる。しかし、素材ではない固有アイテムなら一つ一つが別として数えるられポーチの中身を圧迫していく。そして、全部で50種類しか収納できない仕組みとなっている。どう考えても不可思議だが、まぁそういうものらしい。
今日は初めて3種類のモンスターを狩ったため、ポーチの許容量をオーバーしてしまったらしい。
「改めて考えると不便…いや、この量を手で運ばなくていいだけマシなのかしら」
ポーチの中身を確認しながら呟く。素材類は纏められるおかげで気づかなかったが1種類の個数が三桁に及ぶものも少なくない。
素材には薬草や宝石の欠片と言ったものから、モンスターを討伐した証まで様々。中にはキャベツ一玉というドロップ品もある。ちなみにドロップしたモンスターは「タマナちゃん」というレベル4のモンスターで、キャベツをドレスのように纏った妖精のような風体をしていた。何故ちゃん付けかは不明。
今日のメインはタマナちゃん狩りだったため、キャベツの分量が半端ない。
「引き取ってくれないとかは…ないわよね。
すっごい量だけど」
少し不安を感じながら、荷物を整理する。ものすごい量のキャベツを手で持つことは不可能だが、装備品であればなんとかできるかもしれない。ゲームでは出来なかった芸当だ。
「あれ? これって…」
キャベツまみれのポーチの中で発見した唯一品。同じものはないため、これは装備品だ。しかし…
「壊れてる?」
ルチアの手の中には壊れた指輪の台座があった。色々な角度から見ていると、突然頭の中に言葉が浮かんだ。
・壊れた台座
台座に嵌め込む宝石があれば、また力を発揮するだろう。
「あったね、そんなの。合成するやつだ」
モンスターのレアドロップ品で、たまに見かけたモノだ。
これは一つだけでは意味がない。様々なモンスターがレアドロップとして落とす品を組み合わせて装備品を作るという、ジグソーパズルのようなものだ。
うまくすれば強い装備が作れるが、外れるとゴミにしかならない。
「モノによってはかなり終盤まで使えるのあったわよね」
防御力や攻撃力の補正としては大したことがないモノが多いが、稀にオイシイ特殊効果があるものがあったはずだ。そして、ルチアの記憶が確かであれば、これは片割れとなるアイテムが手に入れば、かなりイイものが合成できるはずである。
ただし、問題もある。
片割れのアイテムが手に入るまで、バッグの中を圧迫し続けるのだ。
「普通に考えたら、指輪の台座なんてポケットにいれててもよくない!?」
そう言ってポケットに入れてみたものの、ものすごく嫌な予感がよぎってしまい結局やめた。なんとなく、気がついたらいつの間にか消えていそうな予感がするのだ。
ドロップ品が、しばらく放置していると自然消滅するのと同じように、消えそうな予感が。
「街に貸倉庫とかないかな? まずはリリィさんのとこもっていこうか…」
幸いこの辺りはまだアクティブモンスターがいない。ちょっと邪魔くさいが戦闘をしないのであれば手に持っていてもなんとかなる。
触れていれば消える気配がないとはいえ、万が一があってはたまらない。うまくすればしばらく使える装備品なのだ。
そう考えて、エイリスに入る直前で手に持つものをドロップした低レベルの装備品に変える。こっちであれば最悪消えてしまっても問題はない。
「よし、入ろう」
改めてエイリスへの転移門をくぐった。
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