10 成果の確認
「ありがとうございます。お陰さまで苦情処理じゃなく本来の業務ができそうですー。
…良かったらここにある依頼書全部やってくださってもいいんですよ!
なーんてね!」
どう聞いてもリリィの「なーんてね!」からは、誤魔化せない圧を感じる。
あのあと、レベル2のオニオンベビーと、レベル3のチクタク虫というコミカルな動きをする虫を午前中に実験と検証を兼ねて乱獲した。
その結果、ルチアのレベルは5になっている。
今回倒したモンスターも、ルチアはゲーム内で見掛けたことがない。動きが似たモンスターならいたのだが、いかんせんそれと比べるとかなり弱かった。
夢中になって検証をした結果、今の装備でもレベルが2つほど下であれば魔法+クリティカルカウンターで倒せることがわかった。
簡単に倒せてしまうとわかると、ついつい楽しくなってくるのが人情というもの。最終的にオニオンベビーとチクタク虫のレアドロップが出るまで狩り続けてしまった。
今は、そのドロップ品なんかをギルドに届けて依頼処理をしてもらっているところだ。
「まずは、昨日までの依頼達成の処理をさせてくださいねー。ベビースプラウト討伐とベビースプラウトから採取できる山菜や種、あと錬金の材料などなど。
全部で6000sとなります」
「えっそんなに!?」
大量に持ち込んだ記憶はあるが、それでもちょっと金額が多くないだろうか?
昨日の宿に20日間も泊まれる金額である。
「一つ一つの単価は10sとか13sとかなんですけど、ルチアさんものすごい量もってきてましたんで。
あ、あとは放置されていた依頼なので多少の割り増し料金も入ってます。
それから冒険初心者さんや町の人用の武具なんかもありましたしね」
「そういえば防具もドロップしてたっけ」
一瞬、魔法使い用の武器防具があればと思ったが、レベル1のモンスターからのドロップ品であれば問題ないかと思い直す。
「今回は武器防具も依頼があったので、そちらで換算させていただきました。
でも、依頼がない場合はギルドに持ってくるより、リサイクルボックスにいれちゃうのもアリかと」
リサイクルボックスとは、ようするに交換システムだ。いらなくなった装備品を溶かして、新しい装備品を作るときの繋ぎにする、ということらしい。
生産をする予定であれば、素材として集めておいた方がよい。
「んー…でもギルドで集めてる場合もあるのよね」
「はい。なので、できれば一度ギルドに持ち込んで頂いて、依頼がなければお返しする形にしますか?」
「じゃ、そうしてもらおうかな」
ごく稀にではあるが、リサイクルボックスから貴重な宝石や素材が出てくる場合もある。とはいえ、まだまだ積み上がっている書類の山を目にすると、品があるのに持ち込まないという選択は出来なかった。
「ありがとうございます。助かります~」
「どういたしまして。そういえば、まだベビースプラウト狩った方がいいのかしら?」
レベル1なので経験値は美味しくないが、困っているのであれば多少協力はしたい。
「あ、いえ。昨日持ち込んでいただいたので十分です。その気になれば町の人でも倒せるモンスターですから。
それよりは、ベビースプラウトより手強いモンスター討伐をよろしくお願いします!」
「まぁ、死なない程度に頑張るね」
調子にのった時が一番危ないのだ。注意しすぎることはないと肝に銘じて、曖昧に笑って返事をする。
「っと、ドロップで思い出した。
ねぇ、リリィさん。冒険者から依頼人に要望って出せないのかな?」
テルースと話していた、祈りの件である。
もし、祈ってもらえるのであれば値引きには応じる予定なのだが。
「あーえっとー…。
ギルドに出す依頼は守秘義務がありまして、誰が依頼を出したのかわからなくなってるんです。
そうしないと、依頼の質に差が出たり、酷いときは冒険者がグルになって一つの依頼だけ完了させないなんてこともあったんですよね。逆もです。評判の悪い冒険者だから断ったり、駆け出し冒険者に宅配依頼をして自作自演の窃盗事件を起こしたり、などですね。
なので、ギルドは双方匿名という形で処理させていただいてるんです」
「あー…なるほどねぇ」
確かに、匿名性が高ければ平等になる部分も多いだろう。
だが、これでは祈ってもらうことはできなさそうだ。
「どうかしたんですか?」
「えーっと、祈りの力があればドロップ率も良くなるのになぁって思ったの」
「えっそれほんとですか?
もしかして今までのレアドロップとか、そもそもあの大量のドロップにはそんなわけが!?」
リリィさん、物凄い食いついてきた。
確か、仕事の大部分は未達成依頼の処理なんだとか愚痴をこぼしていたような…。
これは、押したらいけるかもしれない。
「ほんとほんと。
と言っても一人では微々たるものだし、実際に戦う私と女神テルースにも祈ってもらわないとなんだけど」
さりげなく女神にも祈るように誘導する。
欲を言えば前線の戦士にも、とは思うがそれに繋げるうまい理由が見当たらなかった。
まずは、祈って貰うことが大事なので欲はかくまい。
「女神様にもですか?
…もしかして、今までの冒険者さんたちが『祈っても意味ない』って言ってたのは単に女神様への祈りを怠ったから…?
祈りは教会のお作法にのっとってやればいいんですよね?」
「そうそう。ただ、確率をあげるだけで必ずレアがドロップするわけじゃないんだけど…」
「いえ、今までのルチアさんのレアドロップ率を見れば可能性は高いと思います。
ご心配なく! 合理的な休憩を挟む時間に祈るので処理は遅くはなりません! それよりもこの未達成依頼処理がなくなるかも、という可能性の方が大事ですから!」
追い詰められた者は藁にもすがる。
祈るだけなら実質ノーコストなので試す価値は十分にあるのだろう。
「うまいこと祈りの価値が認められたら、ギルドのどの支部でもレアドロップ増えるかもだしねぇ」
「それは…支部長案件になってしまいますが、実際に功績を上げればギルドを上げて応援できるかと!」
いつになく力が入るリリィ。
何日目ぶりの我が家への帰還がかかっているとなればそうなるのも当然だ。
「検証サンプルが私だけだから申し訳ないんだけどね。
まだまだレベルも低いから、無茶はできないし」
「確かに、命あってのモノダネですからね!
ですがら期待してます! ほんとに!
どうぞ中央都市エイリスのギルドを救ってください!」
「あはは~。まぁ、死なない程度に頑張るね」
こうしてルチアは力強い祈り要員を手にいれたのだった。
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