表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/3

第一章「どこにでもある異世界転移」


第一幕


 万里小路(までのこうじ)次郎三郎(じろうさぶろう)景実(かげざね)が闘技場でミノタウロスを打ち倒すより18時間前、景実は泥の様なまどろみの中にいた。


(…れ…? …きないわよ……ちゃんと……)

(……丈夫です……を……けば)


 グリっ! 鉄の火箸(ひばし)をねじ込まれた様に(すさ)まじい痛みが、胯座(またぐら)から発し背骨を(つらぬ)いて脳を突き抜ける。


「い……っ…ぎあぁああああ!!」

 目を見開いてエビの様に()ね上がった景実の視界に、己の股間を()みにじる足が見えた。


「ほら、起きましたよお嬢様。やはりこの手に限りますね」

「ち、ちょっとエンニ! そ、それはあんまりじゃない、そこってその……超イタいっていうか、見てるこっちが……」

 銀髪の少女が、もじもじと己の股間を押さえながら、辛そうな表情で身を(よじ)る。

「大丈夫です、ただの突発性(とっぱつせい)おキャン(タマ)痛い痛い症候群(しょうこうぐん)ですので、数分もすれば何事もなかった様に回復しますので」

 そう言いながら、景実の股間を踏みにじっていたメイド服の女性が足を外した。


「……はっ…はぁ…… な、なに?」

 胃が裏返る様な激痛の後に続く嘔吐感(おうとかん)さえ(ただ)う継続的な鈍痛(どんつう)。女性に決しては分からないその痛み、突発性おキャン魂痛い痛い症候群により強制的に覚醒(かくせい)させられた景実はあたりを見回す。

 状況が(つか)めない。自分は眠っていたのか、あるいは気を失っていたのだろうか?

 目の前には二人の女性、自分の股間を踏みつけた女は二十台半ばに見えた。やや冷たい眼差(まなざ)しと、黒髪のボブヘアの落ち着いた雰囲気(ふんいき)の女性。それだけみれば美人秘書か、出来る管理職の女性と言えなくもない。

 片眼鏡(モノクル)にメイド服という秋葉スタイルでなければ、の話だが。


「えっと……大丈夫かしら貴方(あなた)? 生きてる? っていうか、ちゃんと生き返ってるわよね?」

 心配そうな表情でこちらを(のぞ)き込む顔に、美しい銀髪が流れる。年の頃は15~16か、翡翠(ひすい)色の大きな瞳が目と鼻の先に迫り、ドクンと心臓が大きく跳ねる。

 芸能人かなにかと思うほど整った顔立ちの美少女が眼前に迫り、鼻にかかる吐息が花の様に香った。

 思わずゴクリと(のど)が鳴る。


「お嬢様、そんなばっちい存在に不用意に近づいてはなりません。変な病気にかかったら、この私、エンニは旦那様と奥様に顔向けできません」

「――あぎゃっ!」

 メイドは丁寧(ていねい)な言葉とは裏腹(うらはら)に、奇妙(きみょう)な形に()い上げられたお嬢様のサイドテールを無造作(むぞうさ)に引っ張り、俺と少女の距離を離す。

「い、痛いわねエンニ、急に何するのよ! ヘアスタイルが乱れたら直すの大変なのよ!」

「お嬢様の髪を結い上げるのは私ですので、大変なのは私ですが?」

「そういう事言ってるんじゃないの! そもそも病気になんかなるわけないでしょ、有機生命体(ゆうきせいめいたい)のウイルスが、私たちに影響(えいきょう)(およ)ぼすとか()()ないから!」


 有機生命体……生物って事だよなと、俺は茫然(ぼうぜん)としながらやりとりを見つめる。

「それはそうですが、お嬢様の可愛らしいお顔が、その様な下等生物の眼前に(せま)るという事自体、由々(ゆゆ)しき問題かと思われますので」

「あ、あらそう……?」

 可愛らしいと言われ素直に照れてはにかむ少女は、確かに可愛らしかった。

「それはもう。あまりに可愛らしくて、今後一生お嬢様の飲食は、この私が口移しで給仕(きゅうじ)させて頂こうと今決定したくらいです」

「しないわよっ!」


「な、なんなんだよお前ら! その唐突(とうとつ)なゆり展開は何のサービスだよ! 確かに嫌いじゃない、嫌いじゃないけどおかしーだろ! そもそも、ここは一体どこだ? 何で俺はこんなとこに居るんだよ!」

 目の前で(なぞ)小芝居(こしばい)()り広げられている間に、朦朧(もうろう)としていた意識が落ち着きを取り戻し、俺は自分の置かれた状況に対する疑問を口にしながら辺りを見回す。


 二十畳(にじゅうじょう)以上はある広大なリビング。見た事のない内装や調度品(ちょうどひん)華美(かび)が過ぎず落ち着きを(ともな)っており、素人目にもセレブリティ指数が限界突破しているのが明らかであった。

 16年生きてきて初めて目にする上流階級の世界が垣間(かいま)見え、ますます状況が分からなくなる。


「下等な有機生命体の分際で、誰を相手にお前などという口を聞いているのですか?」

 メイドの目が針の様な(するど)さで景実を射抜(いぬ)く。美人メイドの冷えた眼差(まなざ)しといえば、界隈(かいわい)でいえばご褒美(ほうび)でしかないが、実際射抜かれればどうであろうか?

 ピチュンと軽い音を立てて、(ほお)(そば)を何かか通り抜け、髪の()げた(にお)いが立ち込める。

「……え?」

「ちょ、ちょっと止めなさいエンニ、勝手にビーム撃たないでよ! せっかく回したガチャの景品なのよ! コレが何者か分かるまで、勝手に処分(しょぶん)しようとしないでよね!」


 ガチャとかビームとか処分とか、色々と理解しがたい言葉が()()うが、今メイドが向けた殺気は間違いなく本物だった。

 恐る恐る肩越(かたご)しに視線で振り返ると、大理石の床の上に十円玉サイズの()(あと)があり、うっすらと白い煙が立ち(のぼ)っていた。

 こいつはヤバい。前にヒグマから逃げ回った時と同じ……それ以上にヤバい量の冷や汗が流れ、警鐘(けいしょう)を鳴らす。それなりに心得(こころえ)のある俺は、このメイドが危険(きわ)まりない暴力の権化(ごんげ)畜生(ちくしょう)メイドだと理解してしまった。


「ほら、貴方もビビってないでリラックス、リラックス。私の言葉分かってるでしょ? さっき貴方の口にした言葉って私たちと同じだったし、地球人なんでしょ?」

 まるで要領(ようりょう)を得ないお嬢様の言葉だったが、言語自体は理解できる。出来るというか普通に日本語であり、どう考えてもネイティブの発音としか思ない。


「に、日本人……なのか? 何か外人っぽいけど……ハーフとか?」

「ニホンジン……何かどっかで聞いた(ひび)きね、何だっけ?」

「地球人の種族の一つです。まぁ、種族と言う程の個体差はないですが、地域によって言語や習慣に多少の差異(さい)が認められるとデータにあります。おそらくはこの個体の使用言語と我々の言語が同等、あるいは酷似(こくじ)しているのでしょう」

「じゃあやっぱり地球人なのね! やったわよエンニ、当たりも当たり、大当たりよ!」

 完全に日本語を(しゃべ)っておきながら、何を言っているのだろうか? 先日アメリカか何かに移住してきた金持ちか何かなのか?


「だから何なんだよ! さっきから訳の分からない事ばっか……」

 起き上がろうと体勢を変えた俺の視界にあり得ないものが(うつ)る。今のいままで俺は自分がどんな格好(かっこう)をしているか認識(にんしき)していなかった、色々ありすぎて気にかけてなかったのだが、俺は普通に考えればあり得ない格好をしていた。


「す――スク水じゃねぇかっ!!!」

 そう、白いスクール水着だ。いや、正確には限りなく旧型のスクール水着に酷似(こくじ)した、白い衣装(いしょう)というべきであろうが。

 正直着心地(きごこち)は悪くない。特に股間なんかはジャストフィットしすぎで圧迫(あっぱく)されているにも関わらず、何も身に着けていない様に軽く優しい肌触り。まるで素肌の様な着心地は新感覚としか言えなかった。


「な……何よいきなり? スクミズ……何の水なの?」

「……その言葉はデータにありません」

「いやいやいやいや、スクール水着だろコレ! しかも女物の、な、な、何なんだよホント! 何が悲しくて男の俺が、白スクなんか着てんだよ! しかもアニメかコスプレでしか見ないような昭和のやつじゃねーか!」

 きょとんとした顔でお嬢様が俺を見つめる。正直悪くない、悪くない感覚だが、これはこれでマズい、主に股間方面が色々とマズくなってしまう可能性があり、俺は一気呵成(いっきかせい)にまくしたてる。


「確かにある種の(あこが)れがないわけでもないけど、俺は男の()が務まる様なナリはしてねーし、憧れは憧れのままで終わらせる方がいいって事もあるって学べよ、学んでくれよ!」

 自分でも何を言っているか分からない事をわめきながら、お嬢様へと視線を向ける。そして気づく。


 軍服とも学生服ともいえる黒いロングコートの前を全開にして羽織ったお嬢様は、その下に自分と同様の白スクを身に着けていた。

 いや、そこまでならまだいい、美少女が白の旧スクを身に着けるなどという事は、通常なら料金が発生してしかるべき状況であり、それだけならご褒美中のご褒美に過ぎないのだから。

 ―――お嬢様の股間に見慣れたふくらみが、なければ。

挿絵(By みてみん)

「お、おま、おま……おと……こ? いや……娘……三次元男の娘かよっ!?」


「ちょっと、いきなり大きな声ださないでよ、さっきから貴方情緒(じょうちょ)不安定すぎない? 蘇生(そせい)がうまくいかなかったのかな?」

「いえ、お嬢様、おそらく現状認識(げんじょうにんしき)が出来ていない事による混乱(こんらん)かと思われます。話を円滑(えんかつ)に進める為、現状をストレートに伝えるのが吉かと思われます」

「そ、そう? そういえば確かにそうね。私とした事が(うれ)しさのあまり、コイツに現状説明するのを忘れてたわ」

 オッホンと胸を張るお嬢様。胸は(うす)いが……確かにある。女性ホルモンってやつか、相当気合の入った男の娘だが分からいでもない。

 ここまで可愛ければ普通に男をやっているのは人類にとっての損失(そんしつ)かも知れないから、もはやナニがあるとかないとかは些末(さまつ)な問題だとすら思えてきた。


「いや違う、しっかりしろ俺! そんな事より俺の服は!? っつーか脱ぐぞこんなもん!」

 ピチュン!

 服を脱ぎ捨て様と肩に手を掛けた瞬間、メイドのモノクルが光を放ち俺の股間の2センチ前に穴が開く。

「ちょっとエンニ、ソファ焦げちゃうじゃない!」

「今のは水圧式だから問題ありません」

「あ、あらそう。なら安全ね」

挿絵(By みてみん)

 いや安全じゃないだろ! って言うか、ソファに穴は開いてるんだが大丈夫かこのお嬢様と叫びたい気持ちをぐっと(こら)え、こわごわと何かまずい事をしましたかと、視線で狂気のメイドにお(うかが)いを立てる。


「お嬢様の前に(けが)らわしい下等有機生命体のク()チンを(さら)そうとは、家畜の分際(ぶんざい)随分(ずいぶん)と思い上がった行動ですね」

 正直何も理解できないが、とりあえずスク水を脱ぐのは止めておこう。滅多(めった)に着れる物でもないし着心地いいしな、何事も経験だ。

「って言うか、ビーム撃っちゃダメって言ったでしょ!」

「ウォータージェットはビームではありません、お嬢様」

「そういう屁理屈(へりくつ)言ってるんじゃないの、バカ!」

 ポカポカとメイドを殴るお嬢様は可愛らしいが、(うらや)ましかろうという表情でこちらを見るメイドの様子から、その抗議(こうぎ)は多分ご褒美にしかなっていないと思う。

 気を取り直す為、オホンと仰々(ぎょうぎょう)しく(せき)ばらいをして、お嬢様は男とは思えない可愛らしい声で俺に()げた。


「とにかく貴方は死んだの! ……多分。ポータルが開いて貴方が出てきたって事はそういう事だからね」

 ある種よく聞く展開だ、主に漫画やアニメやラノベの話だが。

 だが、実際に口にされると間の抜けた声で、間の抜けた返事しかできないものだった。

「……しん…だ? 俺が? 何で?」

「何でって私に言われても…… そ、そうよ、何か思い出さない? って言うか、死ぬ直前の事覚えてないの?」

 お嬢様の言葉を反芻(はんすう)する、そして徐々(じょじょ)に思い出す。自分が確かに死んだのかも知れないという事を、少なくとも死の間際(まぎわ)にあった事を。


「き…のこ」

 そう、俺は山での修行中……第八回夏休み忍びサバイバル訓練の途中(とちゅう)、空腹に()えかねてキノコを口にした。口にしたものはシメジに似たキノコであり、ホンシメジかウラベニホテイシメジか何かだと思い口に入れたのだ。

 最悪間違っても多分クサウラベニタケだろうし、(ひど)症状(しょうじょう)にはなるが死ぬ様なものではない。よほど運が悪ければ死に至る事もあるが、そんなに運の悪い奴なら道を歩いてても車に()かれて死ぬだろうし、何も食わなければ今すぐ餓死(がし)する。

 仮に毒に(あた)って死んだとしても『(よわい)十六ともなれば、戦国の世なら元服(げんぷく)して当然の年齢。今回からの山籠(やまご)もりはお前一人で成し()げてみせよ!』なんて言い出した親父が悪い。そう思って、やけくそになって口にしてしまったのだ。

 結果二時間ほど()った頃には激しい発汗と嘔吐(おうと)に襲われ、下痢便(げりべん)()き散らし(もだ)え苦しみながら意識を失ったのだった。

 最後に見た星空は綺麗(きれい)だった。


「……そうか、アレやっぱり毒キノコだったんだ」


「なるほど。毒物による中毒死だとは思いましたが、キノコでしたか。食用に(あたい)するかどうかも分からず口に入れるとは、生物としての危機感地能力がよほど低いと言わざるを得ません」

「う、うるせーよ! クサウラベニタケは名人泣かせって言うくらい判別が難しいキノコで、プロだって間違う事が多いんだ!」

「プロなのに間違ったの?」

 きょとんとした顔で見つめるお嬢様と目が合い、反射的に視線を()らす。

「……いや、俺は素人だけど」

(あき)れ返りますね。素人なのにプロでも誤認(ごにん)しやすいキノコを口にして死亡するとは。そんな事だから下痢便まみれになりながら、脱水症状(しょうじょう)を起こして無様(ぶざま)に死に(さら)す事になるのです」

「――っな」

「あとゲロまみれでもありました。何やら衣服に思うところがあるようですが、吐瀉物(としゃぶつ)汚物塗(おぶつまみ)れのス〇トロ雑巾(ぞうきん)にくるまれた豚を、お嬢様の部屋に運び入れる事は差し支えましたので、こちらで相応(そうおう)の衣服に変えさせて頂いたのですよ」

「それで着せるのが白スクかよ、俺は男だぞ!」

 って言うか、スカ〇ロ雑巾って女が口にしていい言葉じゃないだろう。そう思いながらお嬢様に視線を送ると、真っ赤な顔であらぬ方向を見つめていた。

 なるほど……少なくとも耳年増(みみどしま)ではありそうだ。


「……男ってアレよね、(おす)って事よね?」

「他にどう見えるんだよ、どうみても男だろ……俺をひん()いて、ちんこついてんの見たんじゃないのか?」

 気を取り直して話しかけるお嬢様に対し、つい口がすべる。

 相手が男の娘だと分かっていても、このお嬢様のリアクションを見ると、つい余計(よけい)な一言を追加してしまうのは仕方ないと思う。現に畜生メイドが『やりますね』と言わんばかりの微笑(ほほえ)みを浮かべてセクハラ発言をスルーしてくれている事からも、俺は、俺たちは正しいといえた。


「わ、私は見てないわよ! っていうかちんちんくらい私にだってついてるからっ!」


 ちんちんくらいわたしにだってついてるから。

 わずかに(ほお)を染め、バカにしないでよと言わんばかりに少し薄い胸を張りながら、お嬢様はそう言った。

 それは開いてはいけない扉を開きそうになるには十分な破壊力をもっていて、俺を新たな世界に(みちび)こうとギュンギュン扉をこじ開けようとしていた。

 駄目(だめ)だ景実落ち着け次郎三郎。そういうのは()いも甘いも噛分(かみわ)けたどうしようもない連中が辿(たど)り着く境地(きょうち)のはずだ。グルメが行き過ぎて猫のうんちから取り出したコーヒー豆に2万とか払う連中が行き着く果てだ。

 俺はまだ童貞(どうてい)なんだぞ? 女も知らない俺が参入(さんにゅう)していい世界じゃないんだ、落ち着くんだ万里小路次郎三郎景実!


「というか、マ〇コももってますよ」

 必死で心を落ち着ける俺に、メイドが更なる爆弾を投下した。


「――はぁぁぁあああああ!?」

 禁断の扉を開くか(いな)か、そういえば胸あんじゃん、つまり()えて残しての手術か……いやいや、豊胸(ほうきょう)手術では声までは誤魔化(ごまか)せない。つまり幼少期からの過剰(かじょう)な女性ホルモンの摂取(せっしゅ)によって(つちか)われたエリート級男の娘としか思えないという事は、実質女じゃないのだろうかとかそういうアレコレを考えている俺に対し、畜生メイドは破砕槌(はさいつい)で俺の理性の扉をぶち壊しにかかったのだ。


「あ、ありえねぇだろそんなの! 今時薄い本でもそんなには流行らねーぞ、マニアックすぎんだろっていうかフィクションすぎだろ、夢いっぱいすぎだろぉが!」

「な、なんなのコイツ、さっきから会話出来てそうで会話になってないっていうか、率直にいうと気持ち悪い!」

 すみませんお嬢様。いまやそれも若干ご褒美です。

「しょせん雌雄異体(しゆういたい)の有機生命体に過ぎませんから」

 あなたの罵倒(ばとう)には愛を感じませんのでやめて欲しいです。

「って言うか、その有機生命体ってやめろよ、お前らだってそうだろうが」

「ふぇ?」

 お嬢様が()頓狂(とんきょう)な声を上げる。不意を()かれた声まで可愛いとは、やはり本当に男ではなく……ふたなりっ娘なのか?


「一般的な有機生命体の反応です、お嬢様。知能の低い生命は自身の認識(にんしき)唯一無二(ゆいいつむに)の常識として(とら)えがちなのです」

「そ、そーなんだっ! じゃあ教えてあげるわ、私たちアウェモキロン人は……何ていえばいいんだろ?」

 お嬢様はそう言葉を(にご)すと、あわあわと視線を泳がせて、(すが)り付くように畜生メイドを見つめる。

「ヒューマノイド、あるいはアンドロイドといえば伝わるかと」

「そう、アンドロイド的なものなのよ!」

 そう自慢(じまん)げに言い放ちながら、薄い胸を張るお嬢様。どうみても可愛い。さりげにプルンと()れた胸ではない部分に目が行くが仕方ない。いや、仕方なくはない、アレは俺にもついているおぞましい物だ。落ち着け景実、まだ俺は正気のはずだ。


 冷静にお嬢様の可愛さを堪能(たんのう)し、同時にメイドはともかくお嬢様は実はポンコツなのではなかろうかと思い始めるが、今はそれどころではない。現状に理解が追い付いていない。

 確かに自分は死んだのだと思う。

 ところが何故か生き返ったらしく、気が付いたら目の前にツンしかない見た目だけは美人な畜生メイドと、美少女としか言い様のない可愛いお嬢様が居て、ありえない事にフタナリだとかいい出した挙句(あげく)、実はアンドロイドだとのたまう始末。

 常識的に考えれば夢なのであろうが、とても夢とは思えない。

 夢にしては生々しすぎるし、すでに頬をつねる以上の痛みを叩き起こされた時に感じている。実際子種が危急存亡(ききゅうそんぼう)(とき)にあったといっても差し支えなかったはず。

 となれば答えは一つ。実にバカバカしく、夢よりもっとあり得ない話ではあるが……


「俺は……異世界転移ってやつをしたのか?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ