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初仕事

 無事に1泊400オーロの宿を取り、さっそく食事をするために宿を出る。

 先ほどのウェイトレスが気になっているのか、そちらのほうに歩いていった。

 しかし途中で見掛けた美女を誘い、美味しい店を教えて貰う。本当に節操がない。


「魚を生で食べる風習があるんだな」


「はい。そうですよ。200年くらい前に召喚された人が、いろんな料理を広めて。寄生虫を殺す薬も開発されました」


 刺し身を食べながら情報を聞く。召喚者はそれほど隠す必要はないと分かり、樹も肩の力を抜いた。


『お金を稼がなければならないというのに、ナンパなんてよくしますね?』


「お金が必要なんですか?」


 すでにナレーションのことはバレているので、普通に会話している。


「船に乗ろうと思ってね。でも潤いは必要だ。デートくらいしないとね」


「じゃあ自分で払いますよ?」


「格好がつかないから払わせてくれ。別にお金には困ってないし」


 何度かやり取りをして、樹が払うことに決まった。樹はホッとしている。

 それも当然だろう。自分で誘っておいて、相手に払わせるでは情けない。


「冒険者の方だと大変ですね。お金を稼ごうと思ったら、命を掛けないとあまり稼げないと言いますし」


 冒険者は装備品や宿代、他にも薬代も必要になる場合がある。

 だからこそ大きく稼ぐには、危険度の高い依頼を請けなくてはならない。


「オレに命の心配はいらないさ。不死身の男だからね。君に寂しい思いはさせないさ」


 真剣な顔をして告げる。男でもカッコいいと思うであろう表情だ。


「でも船に乗るって……」


 やはり格好がつかなかった。


「それもそうだな。結局オレは、この国では恋人を見つけるのは無理そうだ」


 素直に認めるあたり、あまり本気で口説く気はないのかもしれない。


「で、どうかな? オレと一夜限りの夢を見てみる気はない?」


 途端にだらしなくなる表情。

 美女もあははと困ったように笑っている。やはりどこまで本気か分からない男である。



 食べ終わったあとも、散歩しながらいろんな話を聞いていた。

 抜け目のないことに、さりげなく国のことを聞いたり、街の案内を頼んだり、様々な情報を手に入れた。


 夜には灯台の明かりを見ながら、いい感じに腰を抱いて歩いていた。

 美女もすっかり警戒心をなくしている。しかし強引なことはせず、家まで送ってから宿に帰った。


『あそこまで仲良くなったのに、何もしないなんて意外ですね?』


「いずれ離れることになるんだ。責任の取れないことはしないさ。男には美学が必要だ」


『自分なりのルールがあるんですね』


「これも彼女を愛するが故さ」


 女性を愛しているからこそ、厳格にルールを守っているのだろう。

 考えれば、口説きはするものの、冗談のような感じで口説いている。女性もあまり本気にはしていないはずだ。

 そもそも口説く時に欲望を前面に出しているので、失敗することを前提にしているのかもしれない。


 樹は寝転がっていたベッドから起き上がり、寝る準備を始めた。

 宿に風呂はないので、体を拭くだけだ。柔らかい木を(ほぐ)した歯ブラシで歯を磨き、顔を洗ってから眠りについた。


「う~ん……どの仕事が効率がいいか」


 依頼が張り出されているボードを眺めながら、樹は悩んでいた。

 不死身とはいえ、攻撃の効かない敵には勝ち目がないだろう。

 かといって低レベルで倒せる魔物では、たいした金額にはならない。


「素直に聞くか」


『初めからそうすればいいのに』


 ナレーションを無視して、受付嬢に尋ねに行く。

 すでに仕事に向かったのか、樹がやって来た時にいた冒険者たちはいなかった。


「すまない。初心者なんだが、お勧めの依頼を教えて欲しい。できれば君のスリーサイズも」


 朝から絶好調である。


「スリーサイズは内緒です。自信がありませんからね」


「その体のどこに不満があると言うんだ? 実に素晴らしい体だ」


 女性の理想の体形と、男性の理想の体形は違うだけだろう。


「ありがとうございます。お世辞でも嬉しいですね。でも、お尻大きいし、脚も太いですから……」


「それがいいんじゃないか。男は女性の柔らかさに夢中になるのさ。オレも君に夢中だ」


『仕事を忘れるくらいですからね』


 受付嬢は、いきなり聞こえたナレーションの声に驚くが、魔法のある世界なので、テレパシーか何かだと思っていた。


「ありがとうございます。それじゃお仲間さんに怒られないうちに、お勧めの依頼を教えて差し上げます!」


 受付嬢は書類を確認して、幾つかの依頼を樹に見せた。


「この2つは安全で、依頼料が平均以上です。こっちは初心者でも倒せる魔物で、そこそこ値段も高いです。あと常時討伐依頼もありますから、依頼のついでに倒すとお金になりますよ」


 金持ちの犬の散歩などが、安全な仕事として紹介された。

 初心者でも倒せる魔物は、暴れウサギという魔物で、動物のウサギより狂暴だが、ウサギとそれほど変わらない強さの魔物だった。肉と毛皮と魔石が売れる。


「この常時討伐依頼の魔物は、繁殖力が高い魔物ですので、見掛けたらなるべく倒してくださいね。1度に100匹以上倒すと、巣を潰したと判断されて、追加報酬があります」


 ゴブリンだと100匹以上で金貨1枚、10万オーロの追加報酬がある。

 討伐報酬が1匹100オーロなので、それと合わせるとかなりの額だ。

 証明部位は右耳だ。1日で腐るので、コツコツ貯めるようなことはできない。


 コボルトも金貨1枚、オークは金貨2枚の追加報酬がある。

 コボルトは毛皮と爪と魔石、オークは肉と魔石も売れるので、ゴブリンよりは実入りがいい。


「とりあえずレベルも上げたいから、ゴブリン退治をするかな」


「武器もないのにですか? 危ないです」


 いまの樹は、兵士から奪った剣が折れてしまったので、丸腰だった。


「武器ならあるけど、オレは素手でも強いよ」


 ギャグキャラの謎の怪力があるので、確かに素手でもゴブリン退治ができるだろう。


「ほんとに危ないことはしないでくださいね?」


 冒険者に危ないことはするなと言っても、そもそも冒険者は危険な仕事だ。充分に稼ぐには戦いは避けられない。

 アルバイト程度の収入ならば、街の中で普通の仕事をすればいいし、普通の仕事を冒険者に頼むのは、単発の仕事くらいだ。


「君とデートするためにも、無事で帰って来るよ」


 受付嬢の心配を軽く躱しながら、樹は冒険者ギルドを出ていった。

 他の冒険者に出遅れてしまったので急いで歩いているが、美女や美少女を見つけると声を掛けてしまう樹。その度にナレーションに叱られてしまい、失敗する。


 さすがに懲りたのか、さっさと街を出てゴブリンを探し回った。

 森にいっぱい生息しているが、受付嬢も常識をわざわざ教えない。

 そして樹は聞き忘れていたので、草原を捜していた。


「ゴブリンの巣なんかないな。暴れウサギって魔物だけで」


 襲い掛かる暴れウサギを蹴り飛ばして、首の骨を折っていく。

 樹は剥ぎ取りなどできないので、血抜きすらしないで持っていく。これでは肉が駄目になるだろう。


 背中のリュックがいっぱいになったので、街に帰ることにした。

 その帰り道で、暴れウサギを囲んでいるゴブリンに出会った。食料を求めて森から出てきたゴブリンだろう。


「ようやくゴブリンだけど、100匹もいないな。1、2、3……17匹か」


『いきなり数が多いですけど』


「不死身のオレには関係ない。ダメージを受けても痛いで済む」


 樹は背中のリュックを下ろして、ゴブリンに攻撃を仕掛けた。

 ゴブリンもとっくに気付いていて、樹を獲物に変更した。ウサギよりも人間のほうが、食べる所が多いからだろう。


 ゴブリンの粗末な武器が、樹に振るわれた。それを持ち前の運動神経で回避し、回し蹴りをくらわした。

 樹の怪力で首を蹴られたゴブリンは、一撃で死亡した。

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