薬草採取
無事に魔物を倒した4人は、お互いに怪我がないかを確認する。
いつもは5~6匹の魔物に襲われて、小さな傷は当たり前だった。
「よかった。みんな怪我が1つもないですね。いつもならこうはいきません」
「魔物の数が減ると、すごいラクになるんだな。あたいは攻撃が苦手だから、数を減らすのは無理だけど」
「私も1匹なら避けられる」
「2匹だけだとゆっくり狙えるね。いつもは慌てちゃうんだけど」
10匹以上の魔物を蹴り殺したり、銃で脳天を撃ち抜いたりした樹は、4人に尊敬の眼差しを向けられていた。
「すごい腕力でしたね。イツキさんのおかげで怪我しなくてすみました」
特にリーダーのティナは大喜びだ。いつもより樹に近い位置ではしゃいでいる。
彼女はリーダーとしての重責でいっぱいいっぱいだった。しかし、樹のおかげで仲間が傷付かなくて済んだので、改めて樹を尊敬した。
自分で簡単に倒してしまえるのに、自分たちのために、自分たちがギリギリ無傷で倒せるだろう数を残してくれた。
彼女はそのことに、後輩をしっかり指導するベテラン冒険者の凄さを感じたのだ。実際には樹のほうが後輩だが。
冒険者は、基本的に後輩を親切に指導したりはしないので、樹のように面倒見のいい冒険者を初めて見た。
だからこそ、自分たちを導いてくれようとする樹に、尊敬とほのかな恋心を抱いた。
その結果、彼女の距離は縮まり、樹に密着しそうになっていた。
「ティナ、ダンナに近付きすぎじゃないか?」
「そんなことはありません! お礼を言うのに目を見て言わないのは失礼だからです!」
アビーの疑いの視線に、ティナは胸を張って答えた。
彼女は20歳だが、恋愛経験はないので、距離感が掴めないのだった。まるで子供のように落ち着きがない。
「イツキさん。もっといろいろ指導して下さいね?」
「わかったわかった。まずは落ち着け。ここはまだ危ない森だぞ」
樹に嗜められたティナは、素直に反省して樹から離れた。そして武器を抜くと警戒を始める。
「今度は張り切りすぎだ。疲れるだけだぞ。警戒はアイラがしてるだろう。気を抜かなければいいさ。無駄な体力は使うなよ」
いきなり落ち着きを失ったリーダーに、呆れたような視線を向ける3人。
その目は抜け駆けするなという思いが込められていた。
素直に聞いたティナは、少しだけ落ち着きを取り戻した。
そして森の奥に入っていく。道中の魔物は樹が数を減らし、ティナたちが倒す。
樹はピンチになると、すかさず銃で足や手を撃って助ける。
「まだ3匹だと、ちょっと危なくなるね。私の魔法がイツキさんみたいに速いといいんだけど」
「もう少し戦い方を考えましょう」
一戦一戦、反省をして直していく。
そうしているうちに、薬草の群生地を見つけた4人は、レベルが上がっていた。
「こんなに早くレベルアップするなんてな。ダンナのおかげだ」
レベルが1上がるだけでも、身体能力がかなり上がるのだ。
魔物3匹相手にしても、危なげなく倒せるようになった。
おまけに薬草の群生地も見つけ、普段の10倍以上の稼ぎになるだろう。
「これでしばらくは宿に泊まれる~」
「早く摘もう。全部はダメだけど……」
先の不安がなくなったからか、年少組もはしゃいでいる。
さすがに年長組は周囲を警戒しているが。水場なので動物や魔物も集まりやすいのだ。
「オレが警戒しておくから、4人は薬草を摘むといい。オレは薬草いらないから」
そもそも樹は薬草を知らない。
だが、そんなことは知らない4人は、ますます感激した。
ベテランだって薬草の群生地を見つけたら飛び付くのに、イツキさんは私たちのために譲ってくれた。などと勘違いしていた。
魔物が近付くたびに樹が撃ち殺す。
4人は安心して薬草採取に勤しんだ。
腹痛に効く薬などは需要が高い。なぜなら水などでお腹を壊す者が多いからだ。
樹は無料の水ではなく、料金を払って煮沸した水を飲んでいる。
「ポーション用の薬草もあります。これは高いので頑張って摘みましょう」
「こっちは頭痛の薬草だ!」
頭痛持ちも多いので、そこそこ高く売れる。頭痛がつらいのは地球人も異世界人も変わらない。
4人は目を輝かせて採取を続けた。よほどカツカツの生活だったのだろう。
「これくらいでやめておきましょう」
半分以上残して、ティナが告げる。
「そうだな。また来れた時のために、これ以上は採取しないほうがいい」
アビーは背伸びしたりして体を解しながら、ティナに賛成する。
「ずっと腰を曲げてたから痛いよ~」
「揉んであげる」
「ありがとう! アイラ」
エイダはアイラに腰を揉んで貰い、ほへ~っとした顔で寛いでいる。
「けっこう採ったけど、税金でそこそこ持っていかれるから、3週間分の生活費くらいにしかならないのよね……はぁ~」
「贅沢はできないな~」
「でもでも、3週間は心配しなくてすむんだよ? それでいいよ」
1番年下だが、エイダの経済観念はしっかりしている。もともと贅沢などしたことがない子たちだ。あまり残念そうではない。
「この国は少し税金が高い」
「そうだけど、私たちに他国に行くような実力はないのだから、我慢するしかないわ」
貧乏冒険者は、とことん哀しいものである。
樹は城を出る時に、宝物庫を破るかどうか迷ったのだが、税金に手をつけると民間人が困りそうだったので、やめたのだ。
奪っていたら、必死に税金を納めている4人に顔向けしづらかったところだ。
「ねえねえイツキさん。明日はどうするの?」
「しばらくは4人の護衛をするから、その間に強くなるといい」
「いいの!? やった~!」
エイダが樹の腕に抱き付いて、他の3人が不機嫌になる。
「ありがとうございます、イツキさん。エイダ、はしたないですよ」
ティナの静かな怒りを感じてか、ビクッとなって離れた。
樹は残念そうにしていたが、妙な迫力があったので何も言わない。
せっかくなので、他の群生地も探してみることにした樹たちは、周辺を探ってみた。
すると、条件がいい場所だったのか、規模は小さいものの、群生地をいくつか見つけた。
「けっこういっぱいあったね?」
「そうだね。ここまでこれるなら、お金の心配は少しなくなる」
「ダンナがいてくれる間に、レベル上げを頑張ろうな!」
「そうね。レベル8くらいなら、気を付ければ来れると思うわ」
希望が出てきたようだ。4人の顔は明るい。
しかし現在の4人のレベルは、3~4である。普通なら1年以上は必要だ。
今回は樹のサポートがあるので、大量の魔物と戦えるはずだから、1ヵ月くらいで済むだろう。
「報酬はイツキさんが7割でいいですか?」
「オレは自分が倒した魔物の魔石だけで構わないよ。どうせ魔物はいっぱい倒すしな」
樹自身もレベル上げになる。特に女性の匂いに寄ってくるオークなら、そこそこ金と経験値を稼げるので、樹にもメリットがある。
「美人たちのいい香りに誘われた、哀れなオークが目に浮かぶよ。男はみんな誘われそうだが」
「そ、そうですか? 美人だなんて」
ティナは赤くなって、少しずつ樹に近付こうとしたが、アビーに肩を掴まれた。
「いい匂いするかな~? 私たちお風呂にも入れないのに」
エイダは自分の体を嗅いで、不思議そうだ。
「ん~? ちょっと汗くさい」
「アイラ! 女の子にくさいなんて言わないで!」
エイダが拗ねたので、樹が慰める。美少女の匂いはいつでもいい匂い。かなり変態っぽい慰め方だが、樹に好意的な4人は喜んだ。
しかし、街に戻ったティナたちは、念入りに体を清めた。やはり気になるのだった。