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新人冒険者パーティー

 コボルトの巣に近付くと、樹の匂いを察知してコボルトの偵察部隊がやってきた。

 樹は軍刀を出して応戦する。コボルトの爪を躱しながら軍刀を振るうと、コボルトの首が飛んでいく。

 爪を斬り飛ばし、腕を斬り落とし、噴き出す血が樹を汚す。


 コボルトが一声吠えると、巣のほうで騒ぎが起こった。人間の襲撃を告げる声だったのだろう。

 偵察に来たコボルトたちを倒すと、まだ慌てているコボルトの巣に突入した。


 コボルトの巣は家などを建てるのではなく、洞穴を利用したものだ。

 洞穴から戦士と思わしきコボルトたちが出る。さすがに狩りが得意なだけあって、樹はあっという間に囲まれてしまった。


 しかし樹は慌てず、1匹ずつ相手ができるように動き回り、コボルトの陣形を崩した。ギャグキャラの謎の体力のおかげだ。

 だが、続々と出てくるコボルトに、樹も対処できなくなった。


 樹が爪で傷付けられる。コボルトは勝利を確信したのか、囲んでいた動きが止まる。

 コボルトたちの誤算だ。樹は止まらず、コボルトの首を飛ばしていった。

 コボルトたちからすれば驚きで固まるのも仕方ないだろう。今までの人間と明らかに違う。


 コボルトたちが騒ぎ出す。

 なんだこいつ、などと言っているのだ。なぜ切り裂いても動くんだ! と。

 よく分からない生き物を見たように、コボルトたちが樹から距離を取り始める。


「急に怯え出したな」


『樹の不死身っぷりに怯えたのでは?』


 ナレーションの指摘は正しい。そこそこの知能があるコボルトにとっては、樹は不可解な存在に感じるのだ。

 そしてこうも感じている。自分たちではこの人間を倒せないと。


 樹は自分に近付かなくなったコボルトたちを、機関銃で撃ち殺していく。一瞬のことだった。

 外にいたコボルトを倒したら、洞穴に入る。

 マズルフラッシュが薄暗い洞穴を照らし、浮かび上がるコボルトの死体に、樹は顔をしかめながらも、撃つ手は止まらない。


 やはり子供のコボルトを撃つのは抵抗があるらしく、つらそうな顔をしている。

 それでも、成長すれば人を殺す魔物だ。可哀想と思いながらも殺していた。


 巣の制圧が終わると、樹は黙々と討伐部位と魔石を取っていった。

 コボルトは毛皮も安く売れるのだが、さすがに持てないので諦めるようだ。


 ギルドに帰るとポーラが笑顔で迎える。急に笑顔が増したので、訝しげにしている冒険者もいた。


「あのナンパ野郎が帰ってきたら、ポーラちゃんの笑顔が営業スマイルじゃなくなったぞ」


「なんでもデートしたそうだ」


「俺も狙ってたのに……」


「ヘタレなお前じゃデートに誘うのは無理だ」


 聞こえているくせに気にも留めず、樹は真っ直ぐポーラに向かった――――かと思ったら、途中で冒険者の女の子に声を掛けた。

 ポーラの額に怒りマークが浮いているが、樹は女性冒険者の手を取り、一言口説き文句を口にしてから、何事もなくポーラに話し掛けた。


「やあポーラ。さっきぶりだけど可愛いな」


「みんなに言ってるじゃないですか!」


「オレはこういう男だからな。挨拶のようなもんだよ」


 だから本気にしないでくれ、どうせ別れることになるんだから、と思っていた。


「でも美人にしか言わないのは本当だ。誉め言葉だけは本気にしてくれていいぞ」


「はぁ~。なんか怒るだけ損な気がしてきましたから、ありがとうございますと言っておきます。でも無事でよかった……」


 何度かやり取りをしていると、隣の受付嬢が聞き耳を立てていた。


「ちょっと先輩。聞かないでくださいよ~」


 ポーラが可愛く口を尖らせる。


「ごめんなさい。それよりあなたたち、付き合ってるの?」


「イツキさんしだいですね。浮気者なので、私は何番目なんですか?」


「目の前の女の子が常に1番だ」


「すぐ目線が他に逸れちゃうんですよね?」


 すねているが、怒っているというわけではないようだ。そういう人だと割り切っているのだろう。


「それは男の本能だから、あまり気にしても仕方ないぞ。すぐに逸れた目は戻ってくる」


「確かに私の胸に戻ってきましたね。ふふっ」


 その笑顔は、仕方ない人ですねと言っているようだった。

 樹は討伐部位と魔石を出して査定して貰い、報酬を受け取って宿に帰った。


 翌日も樹はギルドに来たが、ポーラは冒険者の応対中だったので、別の受付にオークの巣の場所を聞いて、森へ出発した。ポーラは少し寂しそうだった。


 道中の魔物を退治していると、自分の身体能力がかなり上がっていることに気付いた樹は、ステータスを確認した。


「レベルが12まで上がってるな。どうりで怪力に磨きが掛かってるわけだ」


『もっと頻繁に確認したらどうです?』


「そうは言うけど、習慣がないからな。ゲームなら頻繁に確認してるんだけど、コントローラーがないと確認するのを忘れるんだよ」


 音声認識のゲームなどやらないので、ステータスと呟くことがないのだ。


「かなり倒してるはずなのに、あまりレベルが上がらないんだな。弱い魔物だからか?」


 冒険者が生涯で倒す魔物の数など、巣を潰し続けるくらいしか、数千を超えるようなことはあまりない。

 ゲームなら数十秒で魔物と遭遇するが、大量の魔物に遭遇したら、普通の冒険者は死んでしまう。

 樹がギャグキャラだからこそ、凄まじい体力と回復力で可能としている。

 毎日のように魔物の巣を狙えば、ベテランでさえ死ぬだろう。


『樹はレベルアップが早いと思います。他の冒険者は1~2ヵ月に1上がるくらいでしょう』


「この世界で生きていくのは大変だな。ゲームと違って、宿屋に泊まっても怪我は回復しないしな。他の冒険者は毎日戦わないのかもな」


 樹がゴブリンの巣で助けた冒険者も、現在は怪我が回復するまで、荷運びの仕事など、人足(にんそく)として働いていた。


 ナレーションと話しをしながらも、オークの巣が近付いてきたら、ナレーションも黙り込んだ。意外に気が利いている。


 オークの巣まで10分といった所で、オークが大きな木を囲んでいた。


「樹齢500年とかいってそうだな。果実でも欲しがってるのか?」


 樹が上を見てみると、4人の女性冒険者が、震えながらしがみついていた。


「おっぱいという名の果実があったな。オークはあの女の子たちが目当てみたいだ」


『助けますか?』


「聞くまでもないことだろ? どのみちオークを倒しに来たんだ」


 樹はオークに近付いていく。女の子たちを驚かさないためか、銃器ではなく剣を出していた。


「危ないです! オークが見えないんですか! 逃げて!」


「助けを呼んで……」


「危ないことはやめなよ! 逃げな!」


「あの人まで死んじゃうよ~」


 樹の身を心配する冒険者たち。樹はひらひら手を振りながらオークに向かっていった。

 数十匹のオークが樹を見る。普通の冒険者なら血に飢えた目に怯んでいただろう。


 樹にしてみれば攻撃を受けても、一瞬痛いだけなので怖くはないのだ。

 恐れることなくオークに攻撃を仕掛けた。オークの棍棒も樹を叩くが、樹は何度も立ち上がって戦った。


 樹が攻撃をくらうたびに、女性冒険者から悲鳴が上がっていたが、樹が平然と立ち上がることを繰り返しているうちに、悲鳴より驚きが増したようだ。


「あの人なんて頑丈なの。戦い方はあまり上手くないけど、レベルが高いのかしら?」


 リーダーのティナは冷静な判断だが、樹のレベルはまだ低い。


「なんにしても助かった……」


 普段無口な斥候のアイラも、驚きながらも安堵していた。


「タフな男だな~。あたいも見習わないとな」


 アビーは盾役なので、樹のタフさが羨ましいのだった。


「怖かったよ~。魔法で援護しないと」


 魔法使いのエイダは、まだ16歳なだけあって、少し子供っぽいが、自分のやるべきことは弁えていた。

 樹の邪魔にならないように、残り少ない魔力を振り絞って、氷の魔法でオークの足を滑らせた。


 オークたちは20分もしないうちに、すべて倒された。あとは巣を潰すだけである。

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