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逆さ虹の森

作者: 柚木アキラ

昔々の話です。

ある森に、それはそれは立派な虹が架かりました。

ところがその虹は逆さまで、森に住む動物達はこの森を

『逆さ虹の森』と呼んでいました。


これは、その森に住む動物達の物語です。


さてさて……

ここにはとても怖がりのクマくんが住んでいました。

友達が欲しくて欲しくてたまらないのに、怖くて

誰にも声をかけれず、いつも住処の洞穴に隠れるように住んでいました。


ある日の事。

クマくんは、美しい声で目覚めました。


『ドングリ池にドングリ投げたら〜アッと言う間に願いが叶う〜ルルララリラ〜』

美しい歌声と、不思議な歌詞に惹かれてクマくんは洞穴からソッと顔を覗かせました。


洞穴のすぐ側に立っている、かしの木の枝で歌っていたのはコマドリさん。

クマくんは勇気を振り絞ってコマドリさんに声をかけました。

「あの……今のホント?」


歌を突然中断させられたコマドリさんは、怪訝そうな顔で答えた。

「ホントもホント!わたし、このところのどの調子が悪くて、

ずっと歌えなかったのに、ドングリ池にお願いに行ったらこの通り!」

コマドリさんは自慢げに続きを歌い始めました。


「へー……そりゃスゴイや。ボクも行ってみようかな……」

クマくんが言いました。


「あら、何か願いがあるなら是非行ってみるといいわよ!あの逆さ虹を目印にするといいわ」

コマドリさんは、そう言うと美しい声で歌いながら去って行きました。


クマくんは、さっきよりもっとたくさん勇気を出して、洞穴から這い出し、

せっせとドングリを拾い集めました。

それを葉っぱのポーチに大事にしまい、ななめ掛けに背負うと、

ドングリ池を目指して出発しました。


***


クマくんが逆さ虹の方角へ向かって歩いて行くと、ヘビくんがとぐろを巻いて、

獲物を締め上げているところに出くわしました。


締め上げられていたのは、リスくんでした。

目を白黒させて、今にも死んでしまいそうです。


クマくんはビックリして

「やめて、ヘビくん!!!」

と叫びました。

自分でもビックリするような大きな声で。


その声に驚いて、ヘビくんは力を緩めました。

声の方を見ると、自分より何倍も大きなクマくんが立っていました。


ヘビくんは恐々言いました。

「さ、先にチョッカイかけて来たのはソイツなんだ。お、おれは悪くない……」


不思議そうにしているクマくんに、ヘビくんは続けて言いました。

「おれが気持ちよく昼寝してたらコイツが、尻尾を……

大事な尻尾を結んじまったんだ!もう、痛くて痛くて……」


そう言いながら、ヘビくんは尻尾をフリフリしてクマくんにアピールしました。


「それは痛かったね……かわいそうに……僕がそれ解いてあげるよ。

でも、噛み付いたりしないでね」

クマくんは恐る恐るヘビくんに近づきます。


「助かるよ。噛み付いたりするもんか。そっちこそ おれを食うなよ」

ヘビくんもビクビクしながらクマくんに尻尾を委ねました。


無事尻尾を解いてもらったヘビくんは、

「ほー……痛かった……ありがとう!」

と、クマくんにお礼を言いました。


クマくんは恥ずかしいような、それでいてとても嬉しいような、

生まれて初めて味わう感覚で思わず下を向きました。


下を向いて大変な事に気がつきました。

「ドングリ……僕の大事なドングリがない……」


ふと見ると、リスくんがクマくんのポーチからくすねたドングリを、

モリモリ食べているのが見えます。


「アイツ!やっぱ食っちまえばよかった!!!」

ヘビくんは猛烈に怒っています。


「ドングリなら、また拾えばいいさ。だからリスくんを食べないで」

クマくんは言いました。


「分かったよ。おれも手伝ってやりたいんだけどな、

生憎役にたてそうもないからさ……悪いな」

ヘビくんはバツが悪そうに、そう言いました。


クマくんは少しだけ微笑んでドングリを拾い始めました。


そこへキツネさんがやって来ました。

「あら!珍しい。みなさんお揃いで何してるのかしら?

特にクマくん。じっくりあなたの顔を見たのは初めてじゃないかしら……」


ヘビくんが今までの事を全部キツネさんに話しました。

「まあ……それはお困りでしょうね。いいわ。わたしもドングリ拾い

手伝ってあげる!」


「あ、ありがとう……」

クマくんは恥ずかしそうに小声でお礼を言うと、

キツネさんと一緒にドングリを拾い始めました。


「ところでドングリを拾って、一体どうするつもりなの?」

キツネさんがクマくんに質問しました。


「これをドングリ池に投げれば願い事が叶うんだって。

コマドリさんが教えてくれたんだ」

クマくんは答えました。


「へえ……知らなかった。私も是非ご一緒したいわ」

キツネさんが言いました。


「そう言う事なら おれも!」

ヘビくんも言いました。


こっそり話を聞いていたリスくんも

『なんだか面白そうだぞ』

と心の中でワクワクしながら、

みんなの後について行く事にしました。


***


しばらく歩いて行くと、行く手を阻むように大きな木の根が

絡まり合っているの根っこ広場が見えました。


それはまるで生き物のように、みんなの方に

今にも襲いかかって来そうな様子で動いていました。


「何?あれ……」

キツネさんが言ったきり、みんなは声を失なってしまいました。

それでも、ここを通らなければ、ドングリ池にはたどり着けません。


みんなが戸惑っていると、根っこの隙間から

やっとの事で顔を出している、アライグマくんを見つけました。


「助けて!!!!」

アライグマくんは、必死の形相でこちらを見ています。


「どうしよう……」

クマくんが困ったように呟きました。


「アイツはこの森の中で、一番の乱暴者だぜ。助ける必要なんかないさ!」

ヘビくんが言いました。


その間も、アライグマくんは、無我夢中で助けを求めています。


「このままじゃ、死んじまう!頼む、助けてくれよ!!!」

アライグマくんの切ない声で、みんなの心がキュッと痛くなりました。


キツネさんが、根っこに向かって言いいました。

「どうして?どうして彼はあなたに捕まってるのかしら?

教えてくださらない?」


『アライグマが、わたしにうそを付いたからだ。

わたしは、うそが大嫌いなんだ』

根っこの声は地面を揺るがし、先程よりもっとウネウネしながら

風を巻き起こしました。

みんなは一生懸命、両足で踏ん張って立っていました。


「うそって、どんなうそをついたんだよ!……ついたんですか?」

ヘビくんの一瞬荒げた声は、尻つぼみになり、それでも勇気を振り絞って聞きました。


『コイツは逆さ虹を見に行きたいから、ここを通してくれと言ってきた。

だが、本当はドングリ池に行こうとしていたんだ。わたしはドングリ池を

もう長い事守ってきたんだ。何の苦労もせずにここを通ろうったって、

そうはいくものか!』


「……」

みんなは黙って考えました。

ヘビくんは、尻尾を持ってブンブン振り回された事……

キツネさんは、大好物のリンゴを横取りされた事……


いつのまにか現れたリスくんも、いつも追いかけ回されていて、

アライグマくんの存在に辟易していました。

リスくんは、

「いい気味……」と小声で言いました。


「でも……でも……」

クマくんは、そう言うと、アライグマくんを引きずり出しにかかりました。


『こらー!!!やめるんだー!!!』

根っこの声が轟き、足元がフラつきます。

それでもクマくんは諦めません。


クマくんの姿に、他のみんなも動きます。

「みんなでクマくんを引っ張りましょう!」

キツネさんが叫びました。

リスくんもしぶしぶ従います。


キツネさんの尻尾をヘビくんが、

ヘビくんの尻尾をリスくんが、

一生懸命に引っ張りました。

みんな痛い思いをして……


どうにかこうにか、アライグマくんを

根っこから引きずり出す事が出来ました。


助けられたアライグマくんは、大きな声で泣き出しました。

ヒックヒックとしゃくりあげながら言いました。

「今まで意地悪してごめんよ……

もう乱暴なことはしないから……

こんなオレを助けてくれて、本当にありがとう!」


みんなは口々に言いました。

「本当?約束してね」

「みんな君に散々な目にあわされてきたんだから!」


「本当にごめんなさい……」

アライグマくんは両手をついて謝りました。


『まったく!勝手な事をしおって‼︎ ところでお前たちは、

ここを通ってどこへ行こうとしてるんだ。まさか、ドングリ池に

行こうとしているんじゃなかろうな?』

根っこの声が再び轟きました。

みんなブルッと身震いしました。


「そうです……」

クマくんが今にも消え入りそうな声で答えました。

みんなは、驚いてクマくんの顔を覗き込みます。


「たった今、ドングリ池には行かせないって脅かされたばかりなのに……」

リスくんが言います。


「でも、それって本当の事よね?」

キツネさんが言います。


「そうだ!本当の事だ!」

ヘビくんも言います。


「お願いです。ここを通してください」

クマくんが懇願します。


『仕方があるまい。お前たちの正直さと、勇気に免じて、ここを通してやろう。

ただし、今回一度きりだぞ』

そう言うと、根っこはシュルシュルとうそみたいに縮んでいきました。


「「「「「根っこさん、ありがとう!」」」」」

みんなは声を揃えて言いました。


こうして、新しいメンバーが加わったみんなは、

怖かった根っこ広場を無事に通る事が出来ました。


***


みんながしばらく歩いて行くと、サー……ザバザバ……と水の流れる音が聞こえてきます。

みんなの目の前に、大きな川が現れました。


川にはオンボロな橋がかかっています。

今にも切れそうなロープでどうにか繋がっているその橋は、

板も所々朽ち果てている上に、

風もないのにユラユラ揺れて、とても渡れそうにありません。


でも、ドングリ池に行くためには、目の前を流れる大きな川を、

どうしても超えなければなりません。

そのためには、その橋を渡るほか道はないのです。


一難去ってまた一難。

みんなは困り果てました。


リスくんが、

「ボクは軽いから平気かも」

そう言うと、器用にロープを伝って向こう岸に渡って見せました。

「おおーーー!」

みんなリスくんの器用さに感嘆の声をあげました。


「じゃあ次はおれが」

名乗りを上げたのはヘビくんでした。

こちらもゆっくりと、でも確実にロープや板を這いながら、

向こう岸にたどり着きました。


こちら側の3匹は慌てます。


一体どうやったら無事に橋を渡れるのか……


「うーん、うーん……」

唸りながら思案していると、突然アライグマくんが


「ちょっとゴメンよ」

と言いながら、キツネさんを思いっきり向こう岸に放り投げました。


「ひえーーーーー……」

キツネさんは悲鳴を上げながら、まるでボールのように丸まって空を舞います。


みんなは、あんぐりと口を開けてキツネさんの行方を見つめます。

祈るような思いで見守ります。


キツネさんは、『にゃんパラりん』ならぬ、

『コンパラりん』と回転を決め、無事に向こうへ着地しました。


「ああー、怖かった〜」

キツネさんの足はブルブル震えています。


その様子を見ていたクマくんは、

「ボクには無理だよ……とてもみんなみたいに、出来っこないよ……」

ベソをかきながら言いました。



「大丈夫!絶対なんとかするから」

アライグマくんがニコリとしました。

そして向こう岸のヘビくんに大きな声で言いました。


「ヘビくーん!!!そっちで君の好きな物をたらふく食べてくれー!」


「へ⁇」

こんな時にアライグマくんは、一体何を言っているんでしょう。


そう言われてみると、自分が腹ペコな事に気付いたヘビくんは、

周りをキョロキョロ見回しました。


うまい具合いにりんごが落ちているのを見つけました。

上を見上げると、たくさんりんごが成っているのが見えます。

ヘビくんはスルスルと木に上ってバクバクりんごを食べました。


「へびくんまで、こんな時になにやってるのよ!」

キツネさんが怒って言いました。


「いいから。いいから」

アライグマくんは少しも慌てません。


そんなやり取りをしていると、ヘビくんのお腹がドンドン膨らんで、

太くて長い丸太のようになりました。


「ええっ!!!」

みんなビックリです。


アライグマくんが再び叫びます。

「ヘビくーん!そのまま橋の代わりになってくれないかー?」


ヘビくんは、とても驚きましたが、自分の体を尻尾の先までしみじみ見つめると、

「うん。イケそうな気がする!」


そう言って体をギューっと硬くして、尻尾を向こう岸に渡しました。

「ほーーー」

みんな驚きながら見守ります。


アライグマくんが怯えるクマくんに向かって言います。

「さあ!君が渡るんだよ」


「無理!絶対に無理!」

クマくんは泣きながら言いました。


「早くしないと、ヘビくんがへばっちまう。勇気を出すんだ!

オレがこっちでヘビくんの尻尾を持ってるから」


その様子を見て、反対側のキツネさんとリスくんが、

ヘビくんの頭の辺りを持って構えます。


ヘビくんは体をフルフルさせて頑張っています。


クマくんは拳で涙を拭いました。


恐る恐る、ヘビくんの体に足を乗せます。


「うっっ!!!」

苦痛でヘビくんが声をあげました。


クマくんは、慌てて足を引っ込めました。


「大丈夫!クマくん、早く渡って!」

フルフルしながらヘビくんが言いました。


クマくんは、アライグマくんの顔を見つめました。

アライグマくんは、黙って頷きました。


向こう側のキツネさんとリスくんも頷きます。


クマくんは、勇気を振り絞ってもう一度ヘビくんの体に足を乗せます。

ヘビくんは今までよりギュッと力を入れてクマくんを支えます。



「ごめんね……ボク、重いから……」

クマくんは爪先でそっとヘビくんの体を渡りながらポロポロ涙を流しました。


「クマくん、ヘビくん、頑張って!」

みんなでクマくんを励まします。


クマくんは「フー……フー……」

と息を吐きながら、どうにか向こう岸に辿り着きました。


クマくんが無事に渡り終えたのを見届けると、アライグマくんは、

ドボン!と川に飛び込み、みんなの方に泳いで来ました。

川の流れに飲み込まれそうになりながら、アライグマくんは必死に水をかきました。


命からがらみんなの元に辿り着いたアライグマくんを、

岸の上からみんなが引き上げました。


「良かった。良かった……」

お互いの無事をみんなが喜びました。


ひとしきり、大騒ぎしたあと、ふと後ろを見ると、

森の一画に光が注いでいる場所に気付きました。

ちょうど逆さ虹の下あたりです。


みんなその光に導かれるように、歩きだしました。

少し行くと、目の前が急にパッと開けました。


そこには光に照らされ、キラキラ輝く、大きなドングリ池が広がっていました。


不思議なことに、その水面は虹色をしていて、

池の周りには、見た事のない綺麗な花が咲き誇っています。


「ああ……やっと……やっと着いた……」

クマくんがまた泣き出しました。


「こんなに大きな池、どうして今まで気づかなかったんだろうな」

ヘビくんが言いました。


「きっと、みんなで力を合わせて来たから見られたのよ」

キツネさんが言いました。


「すごいねー……とっても綺麗……」

リスくんがウットリ言いました。


「こりゃー驚いた……本当にあったんだ……」

アライグマくんも池を見つめて固まっています。



みんな願い事をしようと池の淵に近付きました。

ところが、思うように願いが出てきません。


それぞれ願いがあったはずなのに、今はとっても満たされた気持ちでした。

そこでキツネさんが、クマくんに聞きました。

「あなたの願い事って何だったの?」


「そうだよ。お前が一番に言い出したんじゃん!」

ヘビくんも言いました。


クマくんは少しの間俯いて、大きな声でドングリを池に投げながら

言いました。

「ボ、ボクは最高の友達が欲しいー!」


チャポン……


ドングリは水面に波紋を広げながら、虹色の池をゆらゆら揺らしながら、

ゆっくりと沈んでいきました。

すると水面が突然、金色に輝き、みんなの顔を照らしました。


あまりの眩しさに、みんな顔を覆ったり、地面に伏せたりしました。


やがて光は再び水面に吸い込まれていきました。

静まり返った池を見つめながら、ヘビくんがポツンと言いました。


「おれは君の友達だと思ってるけど……」

クマくんはヘビくんの顔をじっと見つめました。


「誰かさんに尻尾を結ばれてるとこを助けてくれたじゃん!」

ヘビくんが言いました。


リスくんは困ったように、そっぽを向いています。


「それならオレもだぜ!根っこ広場で苦しんでた時、一番に助けてくれたのは

クマくんだったよな!」

アライグマくんも言いました。


「あーら、そんなら私もよ。クマくんから勇気をもらったわ。

素敵な友達だと思ってるわ」

キツネさんが言いました。


「えっと……もうイタズラしないからさ……だから、

だから仲間に入れてよ」

リスくんはモジモジしながら言いました。


「い、いいの?こんなボクなのに?

友達になってくれるの?」

クマくんはポロポロ泣きながら言いました。


「「「「もちろん」」」」

みんな声を揃えて言いました。


『友達っていいな〜ルルララリラ〜』

いつの間にかやって来たコマドリさんが、

嬉しそうにみんなの頭上を飛びながら歌っています。


頑張って頑張って勇気を出して、ドングリ池に来たおかげで、

ひとりぼっちだったクマくんには、最高の友達ができました。

それも一度にたくさん……


みんなでコマドリさんの真似をして歌います。

楽しくて暖かな気持ちでいっぱいです。


見上げた真っ青な空には、逆さ虹がにっこりと笑っていました。



ーーおしまいーー










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