第1話 言えない気持ち
1話のブーン系版は少々お待ちください
「なんて事があったのは、はっきりと覚えてるんですけど」
「んー?それがどうしたんだい?」
アイスをくわえた先輩が、気だるげに
漫画読みながら返事をしてくるので
これ以上ない真っ当な疑問を投げかける
「なんでおれの家に住み着いてるんですか?」
~~~~~
「痛い痛い!もうちょっと優しく消毒してくれよ!」
「はい!!」
「濡れて寒いから君のジャージを貸してくれ!」
「は、はい!」
「明日から君の家に来るからな!」
「えっ、は、はい!」
「足が痛いから今日は泊まるからな!」
「!?」
「泊まるか、ら、な!!返事は!!!」
「は、はいーーー!」
「呼吸器官は!」
「肺!」
「燃えたら!」
「灰!」
「最高に!!!」
「ハイってやつだ!!」
「ぼくと付き合え!!」
「そ、それは…… 」
「なんでだよ!」
~~~~~
「あの時の流れでいろいろ良いって言いましたけど、ちょっと図々しさを感じます」
「住み着いてはないよ、失礼だな、ふんっ」
「こんなおっきい家に一人暮らしなんだから、これくらい良いだろ、けち!」
プリプリと返してくる
……というか、怒るところそこですか?
「す、すみません」
「というか、ぼくが居たら迷惑なのかい?」
「いえ、それは嬉しいというか」
ごにょごにょと口ごもってしまい、素直になれない
「夏休みの初め、もとい会った日から毎日来てる上に、ここ数日はお泊りしてますよね??」
「しかもうちの両親が長期出張で居ないからって、ほぼ我が家のように扱ってますよね」
「…… 」
「あのー……先輩?」
枝毛を探してるけど、そんなにどうでもいい話なんでしょうか
「んー、あぁ」
「細かい事を気にするやつだなぁ」
ポンっと手を打って
「あ、そうだ。まだぼくの告白の返事をもらってないよ」
「その、友達からでお願いしますって言いましたよ」
「あああああああああああ!!聞こえないぁああああああ!!」
先輩が必死におれの声を消しにくるが
元々大声を出さない方なのか、本人の頑張りよりずっと小さく聞こえる
「ま、まぁ、この話は置いておこう」
「そうですね」ニコニコ
「な、なにそんな顔してるんだい?」
「いえ」ニコニコ
はぐらかしに失敗するし、言わなくていい事言わせて墓穴掘るし、なんか残念な人ですね、先輩
「そ、その、小さい子を見る親みたいな、慈愛に溢れた顔をやめてくれよ!」
「…… 」ニコニコ
「やーめーろー!」
……なんだか楽しくなってきたけど
「というわけで、今日という今日はお帰り願えますか?」
さすがにいろいろとまずいし
「き、君はそんなにぼくを追い出したいのかい!」
「毎食作ってあげてるし、お掃除もしてるし、宿題の手伝いも、朝も起こしてあげてるし、遊び相手にもなってるし、お掃除までしてるんだぞ!?」
焦ってわちゃわちゃしすぎですよ
掃除二回言ってるし
「確かに先輩が作ってくれるご飯美味しいです。掃除もすごく綺麗にしてくれるし、教え方も上手です。」
「何より…遊んでくれる人がいて嬉しいですし」
だんだんと小声になってしまう
「何より?なんだって」
「なんでもないです!でも居過ぎですよ、ご家族も心配されてると思いますし」
「とりあえず一旦帰りましょう」
「んー、家族なら心配ないよ」
「どうしてなんです?」
「それはだね」
突然、先輩が下を向いて
ぷぇくち!
小さなくしゃみをする
「あれ、先輩、風邪ですか?」
「クーラーをガンガンつけてるのに、アイスたくさん食べるからですよ」
「ん、そうだ」
先輩がニヤッとして、首元に手を当てる
「あ〜熱があるな」
「体温計持ってきますね」
よっこいしょっと
「待て!これは、計らなくてもわかる!高熱だ!」
「いやいや、さっきまで元気でしたし」
「高熱だと言ってるだろ!」
「あ、はい」
「これはもう泊まるしかないな」
そう来たかぁ
「はぁ、わかりましたよ先輩、今日までですからね」
「あはは、嬉しいよ、ありがとう」
そう笑った先輩は……
「ん?君、本当に顔が赤いぞ、熱でもあるんじゃないか?」
「いえ!なんでもありません!」
「んー??」
純粋に、かわいいなって
その日の深夜、先輩が寝ている部屋から明かりが漏れていた
そっと覗いてみると今日も先輩は電気を点けっぱなしで寝ている
電気をそっと消し、月明かりを頼りに先輩の顔を覗き込む
長年使われているのか、ボロボロになっているぬいぐるみを今日も抱いていた
青白い光に肌はうっすらと照らされて、幻想的でもあり
艶のある髪はわずかな光を反射して、所々白銀色に光っている
「むにゃ……楽しいなぁ」
何の夢見てるんでしょうか
「おれも、この生活……」
結局押し切られてるけど、嫌じゃない自分がそこにいる
「なんだかんだ楽しいですよ」
「でも」
窓の外では月が優しく光っていたが
それを遮るように雲が何度も月を隠し、部屋は徐々に暗くなっていく
「どうしておれなんかに」
「……どうして、こんなに優しくしてくれるんですか?」
先輩…
ふと、にじんだ先輩の顔が少しばかり悲しそうに見えた
ごめんなさい
起こしちゃ、いけないですね
「……おやすみなさい」
しばらく先輩の顔を見つめた後、そっと部屋を出る
ガチャ………パタン……
「それはね、君が優しいからだよ」
小さく呟き、シミが所々ある天井を眺め
家から持ってきたぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる
…ドアを閉めて君は今日も出て行く
仕方ないけど
君はまだ、ぼくに心を閉ざしているんだね
君が出て行く少し前に、僕は目を覚ましてしまった
いつも優しくて、周りに心配をかけたくない君は
こうやって聞かれたくは無かっただろうなぁ
ごめんね
そりゃ戸惑うよね
急にこんな風に告白されても驚くに決まってるよ
けど、理由を今は言えないんだ
多分これはずるいことだから
君は優しいからね
もし、これを言ったらきっと受け入れてくれる
そして、それは君に無理をさせるはず
だから、ぼく自身を好きになってくれるまでは言えないんだ
やっぱり、今日も君は
結局のところぼくを追い出さなかった
「……迷惑なのかな?」
君の少し困った顔が浮かんでくる。
迷惑だよね……
でも、ぼくはね
君が
「好きなんだ」
どうしても、このわがままだけは通したい
だから、だからね
ぼくが、この告白に失敗していたとしても
もう少しだけ、これに付き合ってくれないかな?
少しでも長く、夢の中へ
「おやすみ」
ぼく、頑張るから
分厚い雲の隙間から
月は輝きを増していく
ゲーマーズ読んだけど面白いですね~
葵せきな先生の作品は見かけ、ほのぼのゆるゆるなのに、キャラに芯があるところが良いです。
加えて最初から最後まで全く同じキャラでもない、なんというか、成長をしていって、終盤になるほどいいキャラになっていくのが特に見どころだと思います。
あんな風に書きたいな~