迷いの森番外編~微睡みの中で生きる私と音の世界に生きる僕~
Twitterの呟きの一部分をネタにしてます。
穏やかな日差しが私達の柔肌を照らし、緩やか風が髪をサラリと背中に流す。
隣の彼女がイヤホンを片耳に付けて微睡んでいる。
もう片方は私の耳に付いている。
私達の眠りを誘う様に、緩やかに落ち着く音楽が流れる。
私達は学校の屋上で、ただただ緩やかな時間を穏やかに過ごしていた。
視界の端に紋白蝶が見えた。
あれ、そう言えば……と微睡みの中で私達はあの時を思い出す。
暖かい風が桜の花弁と共にふわりと教室に舞い込む。
『君のソレは他人から見ればある種、病気の様な物だよ』
どこかでそう言って、私に手を差し伸べようとしてくれていた人が居た気がする……この言葉は誰の物だったかな。
教室の隅でぼんやりと……私にその言葉を送った相手の事を微睡みと共に考える。
ここ最近ずっとこうだ。
別に常に睡眠欲求が絶えない訳では無い。
確かに、周りから見たら私はぼぅっとしてるか、寝てるかなんだろうけど……。
それでも私は思考を巡らせているし、何かは考えている。
そしていつも……周りの人間と状況が私を置いて行く。
そんな私の思考の在り方に最初に気付いたのは彼女――和音だった。
「まるで君だけが時間に置いて行かれてるみたいだね」
私に笑いかける彼女は、置いて行かれた私に必死に腕を延ばして差し伸べている様な、救い上げようとでもしているかの様な……そんな弱々しい物だった。
私にとって彼女は不思議な考え方をしていると思うけど、きっと彼女はそんな私を見透かした上で私に声をかけたのだろうな。
そう思ったら私も彼女に興味を持った。
それからと言うもの、私と彼女の関係は特殊な物になった。
彼女は私を見透かし、私は彼女に興味を持つ。
友人や親友とも恋人とも言えない……特殊で曖昧な、そんな関係だ。
……彼女にとって私との関係がどのような物か興味があるが、今はこの曖昧な関係で良いと思う。
きっとその内、彼女が私達の関係がどのような物なのか教えてくれる事だろうから。
「葵は随分不思議な世界に生きてるね
でも、やっぱり葵は普通の人間だ」
それは、私にとって「普通の人間」であると認められた様な感覚を抱かせるには充分な言葉で……それでいてどこか強く否定したい気分にもさせられて、胸がチクリと痛んだ。
おかげで私の心境は複雑だった。
嬉しいのに……嬉しい筈なのに、何故か少し悔しい。
そう思ったのはあの時が最初で最後だった。
――――――
いつも通りのある日、僕は教室でヘッドホンを付けて周りの音を、声を全て掻き消していた。
眠る為の緩やかな音楽ではなく、周りの音を完全に断ち切る為の音楽を耳に流して。
そして耳を塞ぐと必然的に目を使う。
おかげで最近の僕は目が疲れやすい。
そして視界の端に集団の中でポツンと……まるで沢山の時間や周囲の状況、人の関心や場所にすら……ありとあらゆる物事に取り残されたかの様に、置いていかれてしまった様に下を向く彼女――葵を見付けた。
最初は馴染めないだけなのだろうと思っていた。
しかし彼女はそれだけでは無かった。
彼女はいつも誰とも目を合わせず、焦点も合わず……そして口を開かなかった。
そして微かにとはいえ、彼女の声を聞いた事があるのは担任ぐらいのものだった。
本当に生きているのか……と疑いたくなる程に表情も固く、人間味が薄かった。
人形なのではないかと、疑った時もあった。
何故今まで僕は彼女の存在に気付かなかったんだろう。
きっと彼女の様な存在は目立つ筈なのに……。
そう思いつつ、僕は彼女に声をかける。
「まるで君だけが時間に置いて行かれてるみたいだね」
彼女は僕の前でも終始口を開かなかった。
こんな経験は初めてではあるけど、彼女の顔や行動はよく見ていると雄弁に語ってくれる。
だから僕は少しずつ彼女の意思を汲み取る様になった。
周りから見ても僕らは特殊な関係だ。
いつもぼぅっとしている彼女に僕が一方的に声をかけている様な物なんだから。
たまに目が合ったと思ったら、彼女はすぐに逸らす。
誰とも目を合わせない彼女にとって、どうやら僕は目を合わせるだけの価値があるらしい。
彼女が人に興味を持っているのは良い傾向なんだと思う。
そして最近、彼女は僕と話していると時々微笑む様になった。
気が付くといつも無表情に戻っているからきっと無意識なんだろうけど……その瞬間だけは僕の為に微笑んでくれているのだと、そう思ったら嬉しくて、でも少し恥ずかしくて……
そしてそんな彼女の幸せそうな、そんな表情は周りが一気に色付く様な、キラキラと輝いて見える様だった。
そしていつしか僕にとって、彼女の微笑みは特別で大切な物になっていた。
――――――
あの時の私は多分、悔しかったんだと思う。
和音に「普通」だと言われて、私にそう言った和音自身が私にとっては「普通」ではなかったから。
あの時の私にとっての和音は「物好き」だった。
そしてそんな和音に興味を持ったが故に、和音の「普通」と言う言葉が、私と和音の関係が対等では無いと言われている気がしてしまった。
私はその時の悔しさを後から知った。
きっとその時に知っていてもどうする事も出来なかっただろうけれど……。
それでも今はきっと和音と対等になっていると確信を持てる。
だって私の中での今の和音はきっと私と同じ「普通」の人間だからだ。
それに、前に一度勇気を振り絞ってこの事を言うと和音は声を上げて笑った後でこう言ったんだ。
「なんだ、葵も僕と同じ事思っててくれたんだね」
その言葉と共に知った。
私だけじゃなくて、和音も不安だったのだと。
そして私達は親友になった。
「ふふ、ありがとう」
――――――
美しい夜空と、ゆっくり回りながら輝く星々。
そして時々、思い出した様に星が瞬きと共に降る。
黄色と白が混ざった様なクリーム色に輝く三日月。
暖かな風は微睡みを誘い、湖面を緩やかに揺らし、静かに風の足跡を付けます。
森の奥にある湖を囲う様に広がる森と湖の上に寝転がり、熊のぬいぐるみを両腕で抱きしめて夢を見る銀髪の少女、ミルフィリア。
フワリ……
柔らかな風と共に薄い色合いの桜が湖を彩り、風や桜の花弁と戯れる様に湖の上や少女の近くを飛ぶ淡く輝く青い蝶。
いつもより蝶の数が増えているのはきっと夢のせいかもしれません。
「わぁ、久しぶりに綺麗な青空の夢を見たかもしれないなぁ」
少女は懐かしむ様に瞳を細め、楽しげに微笑んで夜空を見上げました。
「楽しかったよ、ありがとう」
少女の声はきっと夢の中の二人に届いた事でしょう。
だって、夢の中の彼女達は幸せそうだったのだから。
王道物じゃない上に悲しみが薄いハッピーエンドなんて初めて書いた……((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル