スキルとレベルとバカ
「……なんだこれは?」
以前の俺のステータスとは明らかに変わっていた。
「アビリティアンダーが不良品だったんじゃないでやんすか?はい、これ新しい方でやんす」
「あぁ、ありがとう」
早速タヌから受け取ったアビリティアンダーで俺のステータスを鑑定する。
☆……………………………………………………☆
ツルギ……Lv1/??? 種族……人間/スライム
HP 105
MP 36
筋力 31
防御力 23
素早さ 20
知恵 500
運 25
スキル 『人格入れ替え』(消費MP3)
☆……………………………………………………☆
しかし、結果は同じだった。
「ふむ、こうなるとやはり原因は1つしかないな」
(やっぱりボク?)
「ああ、そうなるな。断定してもいいだろう」
メロが俺の体と融合したことによって俺のステータスが書き変わってしまったようだ。
(因みに変わったのはどういうところなの?)
「種族にメロの情報が追加されてる。あとは???になっているレベル上限と『人格入れ換え』というスキルもだな」
(これは?)
「見たところ俺とお前の人格を入れ換えるスキルだろうな。まあ、ぶっちゃけ俺からすると使いどころがないスキルだがな。それより問題なのは───」
「?ツルギ、問題って何かあるの?」
「もちろんだ」
レミが不思議そうに聞いてくる。まあレミにとっては問題にはならないだろうが俺にとっては大問題だ。
(人格を…入れ換える?)
因みにその問題ってのはこのバカのことだ。
「おい、間違ってもスキルを使おうと思うなよ?MP消費しちまうし、それに」
(スキル発動!『人格入れ換え』!)
「言ったそばからこれかよバカが!!」
目の前が暗くなる。まるで激しい立ち眩みのように平衡感覚を失う。そして目を開けると
(こんのあほうが……)
「おお!ボクが体を動かせるようになってる!」
(あれほど止めろと言っただろうが!まあいい、すぐに体を返してもらう。『人格入れ換え』)
またしても目の前が暗くなり、目を開けると俺の体になっていた。
「これでよし、と。おいメロ。お前がスキルを使おうが俺も使えば戻れるんだよ。これに懲りたらもうやめとけ」
(ふふふ、ツルギ、甘いね。ツルギが入れ換えられるってことはボクももう一回入れ換えればいいのさ!『人格入れ換え』!)
目の前が暗くなる。
「ふはははは!!ボクの体だぁぁ!!」
(こんのバカが……!いいだろう、そっちがその気ならやってやる!『人格入れ換え』!)
また目の前が暗くなる。
「ざまーみろバカが!この体は俺のものだ!」
(なにおう!またまた『人格入れ換え』!)
暗くなる。
(んだと!?こっちだって『人格入れ換え』!)
暗くなる。
(なにぃ!?『人格入れ換え!』)
暗くなる。
(『人格入れ換え』!)
暗くなる。
(『人格入れ換え』!!)
こうして俺とメロの人格の取り合い合戦は続いた。
★
5分後。
「(ギャアァァァ!!頭が、頭があぁぁぁ!!)」
「あんた達バカすぎない……?」
俺達は魔力切れによる頭痛で苦しんでいた。
「くっ、消費MP3だから油断していた……」
(魔力って切れたらこんなに頭が痛くなるのか。知らなかったよ)
「まあ、お前が最初にスキルを使わなければ済んだ話なんだがな」
(まあ、ツルギがスキルで戻さなければ済んだ話なんだけどね)
「なんだと!?」
(やるか!?)
「(『人格入れ換え』!)」
「(ギャアァァァ!!頭が、頭がぁぁ!!)」
「バカすぎて死ぬんじゃないかしら二人とも」
「ご主人様は何をやってるんでやんすか……?」
二人にとても残念な目で見られていた。全部悪いのは全部メロのせいなのにこれではとばっちりだ。
(全部悪いのはツルギなのにこれじゃとばっちりだよ……)
「あぁ!?悪いのはてめぇだろうが!!」
(なんだと!?やるか!?)
「学習しなさいよあんた達!」
「ご主人様は何に対してキレてるんでやんすか……?」
若干一人状況を把握できていないやつがいた。
「取り合えずこの争いは止めよう。あまりにも不毛すぎる」
(そうだね、一旦落ち着こう)
「ところでこのスキルはご主人様とメロくんの人格を入れ換えるってことでやんすよね?でも、これでメロくんとお話しできるから嬉しいでやんす!」
(ボクも嬉しいよタヌ!)
「俺にはなんの利益も無いがな」
結局メロと俺の体が簡単に入れ換えられるようになっただけだ。メロや他のやつにはいいことかもしれないが俺にはリスクしかない。
「それよりも気になってたんだけど、そのステータスの知恵の所、500って凄い高いわね。他のと比べて抜きん出てるわよ」
「まあ、ガキの頃にレベルのこともあって他のやつより体が弱くてな。体のことで煽ってくるやつがいて死ぬほどムカついたから勉強だけは必死でやって、テストでそいつをボコボコにしてやった」
「ふーん。小さいときから凄い負けず嫌いね」
(因みにその知恵500ってのは例えるとどのくらいなの?)
「あー、まあ国内でも500越えてるやつはそうそういないんじゃないか?」
(え、それってそうとう凄いんじゃないの?)
「だからお前らと俺とは格が違うんだよ格が。この俺に恐れ戦くがいい」
「そのわりにはさっきバカなことしてたけどね」
それは忘れて欲しいところだ。
「さて、それに関しちゃもういいだろ。名前は置いとくとして、問題なのはレベルだ」
「レベル上限が???になってるでやんすね」
これは一体どういうことなのだろうか。レベル上限が???ということは、レベルの上限が上がったということか?いや、しかしそんなことがあるのだろうか?いや、まずメロと融合したのがイレギュラーだからあり得なくは無い話だ。
「ふむ、物は試しだ」
(ん?何か思い付いたの?)
「ああ、レベル上限が???ということは、レベルの上限が解放されている可能性があるということだ。なら、レベルを上げて試す」
「なるほど、それて分かるってわけでやんすね」
「まあな。取り合えず行くか。強化合成してレベルを上げるか実践経験をして経験値を積むかだが……」
(言っとくけどレミを合成しようとしたら即人格入れ換えするからね)
「チッ」
(舌打ち!?当たり前だよね!?)
「改めてのツルギに若干恐怖を感じるわね……」
「まあ冗談だ。ここの近くに訓練場がある。得られる経験値は少ないが仕方ない。そこへ行く」
(冗談って言うわりに結構目がマジだったけどね)
「気のせいだ、行くぞ」
というわけで訓練場に俺達は向かうことになった。
「やっぱりご主人様が独り言を言ってるバカにしか見えないでやんす……」
その事に関してはしっかり対処するすべを考えておくべきだと思った。というかバカってなんだバカって。
★
「ここが訓練場だ」
「(おおー)」
中ではファイターである剣士や格闘家、魔法使い等がそれぞれの特訓をしていた。テイマーはどうやらいないようだ。
「よぉツルギィ。お前、レベル上げられないのに何しに来たんだぁ?」
「……よおデコラ。久しぶりだな」
ニタニタと嫌らしい笑みを浮かべながら声中肉中背の男、デコラが声をかけてきた。
「おいおい、ここは俺達延びしろたっぷりの奴らが自分を成長させるために来てるんだぜ?なぁんでお前がこんなところにいるんだ?そこのチビッこいのを強くしようってかぁ?そうか、お前レベル1だからそんなのに頼らなきゃいけねぇのか!こりゃあ傑作だ!」
ぎゃはははは、と言いながらタヌのことを指差す。タヌは今は変身を解いて化け狸本来の姿に戻っていた。
「……ご主人様、オイラあの人嫌いでやんす」
「あぁ、分かってる。見てろ」
「あぁん?なんか文句でもあんのか?このレベル1のゴミクズ野郎が!」
「……確かに俺はレベル1だ。でもな、そのゴミクズ野郎呼ばわりしているやつにテストで負けてピーピー泣いていたのはどこのどいつだったかな?」
「そ、そんなことはもう関係ないだろ!」
(あ、さっき話してたのってこいつの事だったんだ)
「みたいね」
「因みに、あの時、賭けた罰ゲーム……負けた方が勝った方の言うことを聞くってルールだったよな?」
ビクッ、とデコラの体が震える。
「お、おいあの事は……」
「確かあの時、お前は女装してにゃんにゃん言いながら写真取られてたっけなぁ!あの時の写真集は何処に閉まったっけなぁ!!」
大声で叫ぶ。周りから、「え、あいつ女装癖あんの?」「キモ……」という声がひそひそと聞こえてくる。
「チ、チキショウ、覚えてろよっ!!」
「おう、二度と帰ってくんなよ」
ちょっとばかし目尻に涙を浮かべながらデコラは訓練場から飛び出していった。
「ご主人様、流石でやんす!」
「だろ?もっと褒めてくれていいぞ」
(かなりえげつないこと言ってたけどね)
「あのデコラってやつが女装してにゃんにゃんって……身の毛もよだつわね」
「俺は煽られたら二倍にして返すたちだからな」
「ドヤ顔で言うことじゃないわよそれ……」
「さあ、余計な邪魔が入ったが、まずは経験値稼ぎだ」
もしもだがここで俺のレベルが上がるのであれば……夢が膨らむ。今からでもワクワクする。疼いてきた。やる気が出てきた。
「全ては俺を煽った奴らにやり返すために!!」
(いや頑張る理由そこだったっけ?)
俺は全力で経験値稼ぎに取り組むことを誓った。
面白いと思ってくれたらブックマーク、ポイント評価よろしくお願いします!