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強化合成用モンスターの謎

「やったー!ボク、喋れるようになってる!!」

(その代わりに俺が喋れなくなったんだけどな⋯⋯)


 メロが何故かいきなり俺の体を乗っ取った。どうやったのかは知らないが、早く戻さなくてはならない。


「⋯⋯え?頭の中に直接⋯⋯?誰だ、どこから話しかけてるんだ!」

(お前はバカか?⋯⋯ツルギだよツルギ。今の状況をちゃんと把握しろ)


 バカなのは分かった(というかなんとなく知ってた)が、そんなことはどうでもいい。今はこの状況を打開することが先決だ。


「今の状況⋯⋯?ボクは喋れてて、ツルギが頭の中にいて、あとは⋯⋯!!!?」

(お、おいどうした!!何があったんだ!?)


 メロの様子がおかしい。俺からは見えないが目の前のミレの様子から見てもそれが分かる。


 ⋯⋯待てよ。なんで表情のないスライムの様子が俺に分かったんだ?


 それを考えるより先に、


「⋯⋯はぁっ!!はぁっ!!はぁっ!!」

(オイ、メロ!どうしたんだ!?)

「⋯⋯き、急にツルギの記憶が頭に流れ込んできて⋯⋯」

(俺の記憶?)

「そう。それで頭がクラクラしちゃって⋯⋯もう大丈夫みたい。ありがとう」

(そ、そうか。無事で何よりだ)

「それにしても心配してくれるなんて、案外良いところあるね」

(何を言ってるんだ、俺が心配しているのは俺の体だけだ)

「ちょっとでも見直したボクがバカだったよ⋯⋯」

(お、やっと自分がバカだって気付いたか。自覚するのはいいことだ)

「なんだと!」

(あ?俺に歯向かう気か?)


 バチバチと火花を散らしていると(体は1つなので目を会わせ合うのは不可能だが)、この場にいたもう一人がおずおずと声をあげた。


「何独り言言ってるの⋯⋯?ちょっと怖い」


 全くその通りだ、と思った。


 ★


「そんなことになっていたんだ⋯⋯」

「ふむ、なるほどのう⋯⋯」


 深く頷いている二人はレミと長老だ。長老はレミが怪しい者ではないと話すと、怖がること無く話を聞いてくれた。


「して、今この冒険者の体を操っているのはメロというわけじゃな?」

「うん、そうだよ」

「で、ツルギという男が戻る方法は見つかったのかのぅ?」

「まだだよ」


 うーむ⋯⋯早く体を戻すすべを見付けなくては⋯⋯。じゃないと、もしあの事に気付かれたら⋯⋯。


「あ、じゃあさ」

「ん?どうしたのレミ」

「そのまま戻らずにいたらいいんじゃない?」

(即効で気付きやがったチクショウ⋯⋯!)


 その通り。俺には元に戻る方法が分かっていない。そして、体の主導権はメロにある。つまり、俺が帰りたいと思っても、メロが俺の体を操っている間はメロの好きなようにできてしまう、ということだ。

 そして、


「⋯⋯なるほど!!レミ、ナイスアイデア!」


 こいつが俺の体を操れる状態のまま、俺の元居た町に戻るはずがない。まずい、まずいぞ⋯⋯!


「じゃあボクはこのままここで暮らしていけばいいんだね!」

「そうよ、そのままここにいなさいよ!」

「ふぉっふぉ。万事解決じゃのう」


 くっ⋯⋯話がどんどん進んでいく⋯⋯!


「それにこっちの体の方が便利そうだしね」

「そうね。細かい作業も簡単にできそうね」

「村にとっても助かるのう」


 俺の体だってのに⋯⋯!!


「それに冒険者の退治も出来そうだね!」

「確かにそうね!それなら食料を探しに地上に出るのに怯えることもないわ!」

「夢が広がるのう」


 ⋯⋯でも、このままの方がこいつらにとっては助かるんだろうな。


「それに人間の町に行って色んなことが出来そうだね」

「その色んなことって?」

「ふふふ、食料の確保だよ。さっきツルギの記憶が流れ込んできたとき、金庫の在処や武具がどれくらいで売れるかっていうのが分かったんだ。これで人間の使う『お金』もたんまりさ!」


 前言撤回しよう。こんなクズに俺の体を好きにされて堪るか。


「おお!それは素晴らしいのう!」

「良いことづくめじゃない!」

「それに、⋯⋯ププッ、駄目だ思い出したらまた笑えてきた。聞いてよ、ツルギってさ、偉そうな態度とるわりに好きな子と話そうとするととすぐに顔がゆでダコみたいに⋯」


 ブチッ(本日二回目)


「しかもその好きな女の子ってのが」


(オイ)


 突如手の甲が熱くなる。驚いたメロの視線が甲に移される。そこには赤く輝く紋様があり、そして―――


「え?え?なになに?」

(その話はすんじゃねえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええ!!!!!!!!!!)



 二度目の暗転が来た。


 ☆


 夢を見ていた。幸せな夢を。

 ⋯⋯豊満な女性の胸が2つ、俺の体に乗ってる夢を。


「⋯⋯きて、起きて!」

「はっ!俺はいったい⋯⋯!?」

「よかった⋯⋯急に倒れたから心配したわ⋯⋯」

「無事でなによりじゃわい」


 俺の体の上に、スライム二匹が乗っていた。

 因みに、「お前らかよ!俺の幸せを帰せ!」という言葉を飲み込んだのは内緒だ。


(んん⋯⋯あれ?ボクの体は?)

「誰がお前の体だ⋯⋯って、俺、喋れてるな⋯⋯」

(え、まさか⋯⋯)

「そのまさかだな。体が元に戻ったようだ」

(そんなぁ⋯⋯ボクの人間の体を使った世界征服の作戦がぁ⋯⋯)

「そんなこと考えてたのか⋯⋯」

(そして世界中の可愛い子達とのウハウハ生活がぁ⋯⋯)

「そんなことも考えてたのかよ⋯⋯」


 というか、そのウハウハ生活は俺の体でやるつもりだろうか?

 人間(俺)がスライムに囲まれながらウハウハしてる姿はかなりシュールな気がする。


(それにしても、ツルギが、好きな子に対してこんなにウブだったなんてね⋯⋯ププッ)

「てめぇまだその話するか、コノヤロウ」

(いででででっ!つねんないでよバカ!)

「自業自得だ」


 紋章のある手の甲をつねってみた。俺の手も痛いが、それ以上にメロの方が痛かったりするのだろうか?この体になってから分からないことが多い。また色々調べてみようと思う。


「戻っちゃったのね⋯⋯」

「残念じゃのう」


 見ると、スライム2匹が落ち込んだ様子でしょんぼりしていた。


「まあ、そういうわけだ。別れの挨拶というわけじゃないが、十分喋っただろう。帰るぞ」

(えぇ!?)


 スライム2匹よりメロの方が先に抗議の声をあげた。


「なんだ?まだ何か言いたいことがあるのか?」

(あるに決まってるよ!まだたくさん!)

「ほう、伝えてやろうか?」

(それは⋯⋯)

「言えないか?」

(うん⋯⋯)


 俺はレミや長老に聞こえないように少し小さめに話した。


「だいたい予想はついてるが、レミのことだろう?」

(なんでそれを!?)

「言わなかったが、さっき俺にもお前の記憶が流れ込んできた。それでまる分かりだ」

(くっ⋯⋯言わないでよ、絶対に!)

「おう、当たり前だろ?(ニッコリ)」

(いや、そんな爽やかスマイルで言われても全然信用できないからね!?)

「安心しろ、もし俺が言ったらうさぎ飛びで町を一周してやろう」

(そこまで言うなら信用するけど⋯⋯)


 メロが少し安心した様子で言う。

 こいつはレミのことが好きなのだ。それを俺がレミに対してバラされないか心配している。 

 安心してほしい。俺はそんな野暮なことをするような男じゃない。


「おいレミ。メロはお前の事が好きで好きでたまらないらしいぞ」

(普通に言ったあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!???)


 ―――――相手がこいつ(メロ)じゃなかったら話だが。


(おいおいおい何普通に言ってるんだよ!!バカなの!?死ぬの!?)

「黙れ!俺の秘密を少しでもバラした罪は重いんだよ!!そのままフラれて死んでしまえ!俺の体から離れた後で!」


 というか、俺の記憶を知っててホントに俺が言わないと思ったんだろうか⋯⋯?性格まで分かるわけじゃないのか?

 あと、もちろんうさぎ飛びはしない。

 こうして俺が考え込んでいると、


「あの⋯⋯」


 恥ずかしそうにうつむいたレミが所在なさげに立っていた。


 ⋯⋯というか、恥ずかしそうとかうつむいてるとか、よく分かったな俺。すると、


「分かんないっ!」


 と言ったっきり、ダッシュでどこかへ行ってしまった。俺と長老を残して。いや、正しくは、



(⋯⋯)



 さっきから青ざめた様子のメロを残して。


 ★


「じゃ、俺はもう行くぞ」

「仕方ないのう」


 あれからしばらく待ったが、レミは戻ってこなかった。メロも何も言わないし、帰ることにした。


「メロ、大変じゃろうが頑張ってのう。たまには帰ってこいのぅ」

(⋯⋯うん、ありがとう長老)

「ありがとう長老、だってよ」

「元気での」

「おう」


 別れを済ませて村の入り口まで戻ってきた。少し振り返り、見渡す。


「これがスライムの、強化合成用モンスターの暮らしか。隠れて暮らすってのも大変なんだな」

(⋯⋯)

「じゃ、行くか」


 そうして村を出ようとすると、


「まって!」

「レミか、どうした?」


 レミが戻ってきた。そして――――


「私も連れていって!」


「⋯⋯え?」

(⋯⋯ええ?)


 何故かレミも連れていくことになった。

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