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始まる物語

「これは完璧に困った⋯⋯」


 スライムと俺の体が一つになってしまった。そして俺の手にはスライムの形をした青色の紋章が浮かんでいる。


「どーにかして取り出さないと、ひょっとして俺、中から侵食とかされて死ぬんじゃ⋯⋯?」


 ヤバイ、めちゃくちゃ焦ってきた。

 明日の新聞に、「怪奇!スライムに殺された男!」とかいう見出しで新聞には絶対に載りたくない。


(大丈夫!死なないよ!⋯⋯たぶん)

「んあ?」


 さっき聞こえてたのと同じ声だ。たしか、さっきは「待った」だとか「ストップ」とかうるさかったな。


「おい、お前は誰だ。どこから話しかけてる?というかたぶんってなんだたぶんって」


(たぶんはたぶんだよ。まあ僕自信は君を害する気は無いよ!というか害する方法が分かんない!)


「は?何を言ってるんだお前は?」


 意味が分からない。コイツが俺を害するかなんて聞いてないし、まずどこから話しかけられてるのか分からない。

 なんだろう、まるで脳内に直接話しかけられてるような⋯⋯


「⋯⋯ん?頭の中に直接⋯⋯?」


 脳内に直接話しかけるなんて事は人間にはできない。上位のモンスターならできるかもしれないが、今こんな所にいるはずも無い。自分は害を与えないというアピール。そして、さっき俺の体と融合したスライム⋯⋯。

 今、俺の中に一つの答えが浮かんだ。


 はは⋯⋯まさか、まさか、な⋯⋯?


「一応⋯⋯念のためにもう一度聞くが、お前は誰だ?」


(ボク?ボクはスライムだよ!)


「マジかよ!?」


 予想が的中してしまった。

 俺の答えはこうだ。スライムと俺が完全に融合してしまって、そのスライムは俺の中で生きている。そしてそのスライムが俺の頭の中に直接話しかけている、だ。

 いや、もしかしたら、とは思ったが、当たってほしくは無かったな⋯⋯


「いや、でもそんなことあり得るのか⋯⋯?モンスターに強化合成用モンスターが融合なら分かるが、人間と強化合成用モンスターが融合など聞いたことないぞ⋯⋯?」


 俺は深く考え込んだ。今までの知識をフルに生かし、人間と強化合成用モンスターの融合について⋯⋯。


(ねぇ、お腹空いた)


 考えていた事が全て消し飛んだ。チクショウ。


(君はお腹空いてないの?)

「あ?あー、そういえばそんな気もするな。ってん?」


 こいつは今、腹が減ったと言った。同じく確かに俺も腹が減っている。


「もしかして感覚も共有しているのか?」


 その可能性は高い。俺は気になって、腕をつねる。


(イタタタタタタッ!何するんだ、酷いぞ!)

「あ、あぁ、すまん」


 これで証明だ。俺とスライムは感覚を共有している。俺の体をベースにして、だ。


「おい強化合成用モンスター。お前、俺の体を動かすことは出来るか?」

(ん?うーん⋯⋯できないや。と、言うより、さっきから強化合成用モンスター強化合成用モンスターって、ボクにはちゃんと名前があるんだぞ!)

「ふむ⋯⋯」


 俺の体を動かすことはできない。それはつまり(オーイ聞いてる?)体は完全に俺のもので(ボクの名前教えてあげよっか?)こいつは俺の脳内で喋ってるだけ(あのねー、ボクの名前はねー)うるせぇなコイツ。


「分かった分かった、聞いてやろう。お前の名前は?」

(なんでそんなに上から目線なんだよ⋯⋯。ボクの名前はメロ。君は?)

「俺はツルギ。略して神とでも呼んでくれ。よろしくな強化合成用モンスター」

(いやどうやって略しても神にはならないしまずなんで神って呼ばなきゃいけないのか分からないし、まずボクの名前の話聞いてた!?)

「おお、ナイスツッコミ」

(おお、ナイスツッコミ、じゃないよ全く⋯⋯。⋯⋯君ってちょっと自意識過剰だよね)

「ん?そうか?照れるなぁ」

(褒めてないし⋯⋯)


 まあ、別に俺は自分を自意識過剰と思ったことは無い。自分が周りより優れていると自覚しているだけだ。


(絶対一人身だコイツ⋯⋯)

「おい、心の声が漏れてるぞ」

(イダダダダダ!)


 俺は自分の腕をつねる。俺も痛いし、これでおあいこだ。

 さて⋯⋯。


「とりあえずコイツを取り出す方法を見付けないとだな。よし、帰るか」

(ちょ、ちょっとストップ!)

「ん?なんだ?」

(帰る前に、この里の皆にお別れをしてから帰りたい)

「面倒臭いから却下」

(即答!?もうちょっと考えてよ!)


 嫌なもんは嫌だ。早く帰りたいしな。そもそも他のスライムと会って何になるっていうんだ。


(いいから里の皆と会わせて。さもなくば⋯⋯)

「ほう、俺を脅す気か。いいだろう。さもなくば?」

(歩くときも座るときも寝るときもずっと大声で叫び続けてやる!)

「ふん、そんなもん何になるって――――」


(アアアアアアアアアアアア!!!!!)

「うおおおおおぉぉ!?」


 うるせえぇ!まるで耳元で大声で叫ばれてるみたいだ!!


「分かった分かった!お別れくらいはさせてやるから静かにしてくれ!」

(⋯⋯ふぅ。男に二言は無いからね?)

「あ、あぁ。分かったよ」


 こんなもんをずっと続けられたらそのうち気が狂ってしまうだろう。

 俺はしぶしぶ他のスライムの元へ行くことにした。


 ◇


「で、メロ。次はどっちだ?」

(右だよ。そのあと真っ直ぐ行けば着くはず)


 メロの指示に従ってしばらく歩いた。

 スライムの里とやらは人間に見つからないように隠された場所にあるようで、今俺は小さな洞窟に入って歩いている。

 そして最後の分かれ道を曲がり、とうとうスライムの里にたどり着いた。


「ほう。これがスライムの里か。まさかこんなにスライムが残っていたとはな」

(まあね。さ、取り合えず長老の家に行こうか)


 長老の家に行こうとした、その時。

 

「に、人間だー!人間が来たぞー!」


 一匹のスライムが大声で叫んでいるのが聞こえ⋯⋯


「ん?ちょっと待て、なぜ俺がスライムの言葉が分かるんだ!?」


 スライムの叫ぶ言葉は明らかに人間の使う言葉ではない。しかし、俺には理解することができていた。


「まさかこれも、融合したからなのか?」


 確かになぜメロと俺が自然に会話ができるのかは不思議だった。だが、まさか俺がスライムの言葉を理解していたからだとは⋯⋯。


(ちょ、ちょっとまって、皆!ボクだよ、メロだ!分からないのか!?)

「そりゃ分からんだろ。今お前は俺の体の中にいるだけだ。だれも俺の中にメロがいるだなんて理解できんだろ」

(そ、そんな⋯⋯)

「まあ、残念だがメロ。諦めろ。その代わりと言っちゃなんだがこの場所のことは誰にも言わん。さ、帰るぞ」

(うぅ⋯⋯)


 ⋯⋯俺だってここまで来たんだ。別れの挨拶くらいさせてやりたかったさ。

 そう俺は思いながらも、踵を返して帰ろうとする。

 が、


「待って!今、メロって言った!?」


 帰ろうとした俺を、一匹のスライムが呼び止めた。普通の青くてぷよぷよとしたスライムだ。

 声色は女っぽい。なんとなく。

 ⋯⋯俺はスライムの言葉を理解できるようだが、スライムは俺の言葉は理解できるのか?

 分からない。しかし、このスライムは少なくともメロのことを知っているようだ。

 俺は他のスライムに対してコミュニケーションを取れるのか気になった。


「⋯⋯あぁ、言ったぞ。お前は逃げないのか?」

「逃げないわ!」

「何故だ?俺はお前を捕らえるかもしれないんだぞ?」

「だって⋯⋯あなたはスライムの言葉が何故か話せるし⋯⋯。地上から帰ってこないメロの事が心配なのよ!捕らえられるかもしれなくても、幼馴染みのことを知っているなら話してもらうわ!」

(レミ⋯⋯そんなに心配してたのか⋯⋯)


 どうやらこのレミというスライムはメロの幼馴染みらしい。メロのためなら捕らえられるかもしれない人間にさえ果敢に立ち向かう。

 こりゃスライムはいい嫁になるな。


「⋯⋯はっ!?何を考えているんだ!?相手はスライムだぞ!?チクショウ、これも融合した影響だっていうのか!?」


 チクショウ⋯⋯最悪だぜ⋯⋯。


「とにかく、メロについて知っていることがあるなら言いなさい!さもないと⋯⋯」

「⋯⋯なんかデジャヴだな」

(気のせいだよ)

「私が退治してやるんだから!」


「⋯⋯ほう?」

(レミ!それは無理だ!止めてくれ!)

「メロのためなら私だって頑張れるんだから!」

「いいだろう。俺にケンカを売ったことを後悔するんだな」

(ツルギもやめて!頼むから止めてくれ!)


 それは無理な相談だ。俺は売られたケンカは買う主義だ。それに強化合成用モンスターはメロのせいでまだ一匹も捕っていない。ちょうどいいじゃないか。


(止めろって)

「だからそりゃ無理だって―――ん?」



 突然、手の甲にある紋様が青く輝きだした。



(言ってるだろ!!)


 メロが叫んだ途端、目の前が真っ暗になった。

 ―――何が起こったんだ!?

 目が回る感覚。まるで目隠しをしたまま誰かに無理矢理頭を振られているかのようだ。


「いったい、何が⋯⋯?」


 目の前が明るくなった。そして目の前にはさっきと同じく一匹のスライムがいる。立っている場所もさっきと同じだ。

 同じなんだが⋯⋯


(⋯⋯はぁ!?)


 今俺は声を出していない。「いったい、何が」などとは言っていない。そして今声を出したはずなのに口は動かなかった。まるで俺の体じゃなく、他の誰かの体のように。


「それより二人とも、やめて!レミも、ツルギも、そんなことはしないでくれ!」

「⋯⋯え?ひょっとして、⋯⋯メロ?」

「⋯⋯あれ!?ボク、喋れてる!?」

(⋯⋯)


 理解した。完全に。それも最悪の事態に。


(最悪だあああぁぁぁーーーー!!)


 気付けば俺の体は、俺のものではなくメロのものになってしまっていたのだった。

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