プロローグ
おおぉぉぉぉぉぉおおおい!!!
全世界のゲームユーザーに告ぐっっっ!!!!
お前らはあぁぁぁぁぁぁあ!!!!
今まで一度でも!!!!!
強化される側のモンスターの気持ちを考えた事はあるかあぁぁぁあああ!!!!!!!!!??
★
「お、やっと強化合成用モンスターのダンジョンが解放されたか」
「そうみたいでやんすね」
「よっしゃ、じゃあ行ってくるわ。タヌはここで待ってろ」
「了解でやんす!」
タヌは、俺の使役している化けダヌキと呼ばれるモンスターだ。仲間になったのは最近のことで、これからタヌの為に『強化合成用モンスター』を確保しに行く。
この世界では、人間とモンスターが共存している。
手足が器用で家事を手伝ってくれるモンスターや、風を操り掃除をするモンスター。強い個体では天候を操って人間に益をもたらしてくれるモンスターもいる。そして代わりに人間は、食糧や安全な生活環境を与える。
その方が争う事も無く、共存共栄ができるということだ。
しかし、人間と共存をしないモンスターもいる。
まず、人間とコミュニケーションを取れるほどの知能が無いモンスターや、知能があったとしても、安定した衣食住を自分で整えられるモンスター。他には、古代から生きていて、人間と争っていた時代の『ドラゴン』や『巨人族』。
そして、知能はあるが、モンスターのレベル上げの為に共存させない『強化合成用モンスター』。
先ほど、ほとんどのモンスターが自ら望んで人間と共存しているように言ったが、それは違う。虫型モンスターや魚類系モンスターは言葉が通じないし、獣系のモンスターは「化け~」と付いたモンスター以外は人の言葉を喋ることはできない。
タヌが俺と会話できているのは、『化けダヌキ』というモンスターで、人間の姿に化けているからだ。⋯⋯まぁ、タヌは人に化けるのが下手で、耳や尻尾はそのままだが。
そして、『強化合成用モンスター』は、喋ることはできないものの、知能はそこそこあると言われていて、人間と共存も可能だと思われる。
しかし、人間にとって『強化合成用モンスター』は回復薬や武具などと同じ、道具として扱われている。そのため、共存は禁止され、『強化合成用モンスター』の巣はダンジョンとして管理され、数をある程度増やしたら繁殖用のオスとメス以外は狩りつくされる。
それがやっと繁殖が終わって数が増えたのでダンジョンが解放されたというわけだ。
「やっと着いたか」
かなり荒れた荒野。ここに今回の俺の目的、強化合成用モンスター、『スライム』がいるダンジョンだ。
スライムは強化合成用モンスターの中でも強化値がもっとも低いが、一番弱く狩りやすいモンスターだ。
普通は自分のモンスターを連れてもっと強く強化値の高い強化合成用モンスターを狩りに行くのが普通だ。
因みに今回、タヌを連れてきてないのには理由がある。
「あったあった、これがスライムの仕掛ける罠か」
そこには小さな落とし穴があった。ただそれだけ。上に何かを被せてもない。まるで小学生がイタズラで作ったような落とし穴だ。
⋯⋯しかし、タヌなら引っ掛かりかねない。それで時間を取られるのも嫌なので、今回タヌは置いてきた。
「ま、流石にタヌでもこれには引っ掛からないかもな」
ひょいと落とし穴を飛び越える。
ズボッ
「⋯⋯⋯⋯」
落とし穴の先に、巧妙に隠された落とし穴があった。
すると、
ぴょーんぴょーん、ぷるぷるぷる!
そして、落とし穴にかかった俺に向かって、「やーいやーい引っ掛かったー!」とでも言いたげな(言葉は分からんから確証は無い)スライムが跳ね回っていた。
「⋯⋯ほう。スライム風情の落とし穴にこの俺が引っ掛かってしまうとはな⋯⋯」
ぴょーんぴょーん!ぷるぷるぷるぷるぴょーんぴょーん!!
「しかしまぁ、見事だ。人間のしかも俺をこんな罠にはめて、やるじゃないか」
ぷるぷる、ぷるぷる、ぷるぷるぷるぴょーんぴょーんぷるぴょーん!!
「だが、俺はこんな事では怒ったりはしない。なんせ、俺は寛大な男、だからな⋯⋯」
ぷーるぷるぷるぷるぷるぴょーんぴょーん!
「そう、俺は寛大な⋯⋯」
ぷるぷる?ぷるぷる?ぷるぷる?ぴょーんぴょーん!
ブチッ
「てめぇそこを動くな!!今すぐとっちめてタヌの餌にしてやる!!」
☆
「はぁ、はぁ⋯⋯あいつ、どこ行きやがった⋯⋯!」
さっきのスライムは俺が落とし穴から抜け出すのに苦労しているのをじっくり見て堪能してから逃げていった。
あいつだけは逃がさん。
「しかし見つからないな⋯⋯仕方ない、他のを先に狙うか」
あいつを今捕らえられないのは癪だが、今日の目的は強化合成用モンスターを集めることだ。
スライムは、攻撃手段を持たない。いつもぷるぷると震えているだけだ。その気になればいくらでも集めることが出来る。
「お、あれにするか」
ちょうど、2匹のスライムがいた。
「じゃ、ちょっくら拝借するぞっと」
2匹に手を伸ばしたその時。
ズザッ
ぷるぷる!
1匹のスライムが間を割って入ってきた。
⋯⋯なんとなくだが、さっき俺をからかったスライムのように思えた。
「おい、邪魔だ。それともお前が先に捕まるか?」
⋯⋯ぷる
割り込んできたスライムが少し震えた。
すると、他の2匹が逃げていった。
そしてこいつは1匹でとどまっている。
⋯⋯マジか。
「お前、自分を囮に今の2匹を逃がしたのか?」
⋯⋯
スライムは何も喋らない。まあ元々喋らないから、震えないという表現が正しいだろう。
「お前、いいやつなんだな」
⋯⋯
さっきの逃げた2匹は捕まえないでおこう。ひょっとしたらこいつの大事な仲間かも知れないしな。
「だが、お前は別だ。俺をからかった罪があるし、お前も覚悟の上でここに残ったんだろ?すまんが、これも弱肉強食だ」
スライムを拾い、スライムを入れるための大袋にを入れようとした、その時。
ぷるぷる
「ん?」
ぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷる!
「ん?なんだこの震えは」
素早く震えている。この震え、どこかで見たような⋯⋯
「うおおおおおおおっ!?」
スライムを掴んだ手が熱い。それだけなら離せばいいのだが、そのスライムは俺の手と少し融合していた。
「ちょ、離れやがれえぇぇぇぇ!!」
ぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷる!
腕を振ろうが回そうがどうやっても離れない。
⋯⋯仕方ない、こうなったらナイフで切るしかねぇ!
ナイフをスライムに刺そうとした、その時。
(ちょ、ちょっと待った!)
「⋯⋯あ?」
思わず手を止める。なんか聞こえたような⋯⋯気のせいか。そんなことより今はこいつを早く引き剥がすことが先決だ。
(ちょ、ストップ!ストーーーーップ!!)
「なんだ?誰かいるのか?」
周りを見渡すが誰もいない。なんだ?意味が分からん。
「うお、あっちちちちちちち!!」
なんだ!?急に手が熱くなったぞ!?
そうして熱さが続くこと数秒。
そして、収まった後に残ったのは、
「え、まさか⋯⋯完全に融合しちまったのか?」
どうやらスライムと一緒になった俺と、俺の手に刻まれた謎の紋章だけだった。