表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

キメライウ

作者: クォート

僕はライ。降魔(ごうま) 雷。

至って普通「だった」中学生だ。

雨が突然降ってくるように、その瞬間は訪れた。


それは、夢の中。明晰夢だった。

青い空、白い砂漠の景色の中で、声が聞こえる。

「やあ、ライ。」

その声は、どこからともなく聞こえてくる。

「誰...?」

「私の名前は無いわ。」

名前のない者の声。

性別は女性らしい。

「じ、じゃあなんて呼べばいいかな?」

「ライに決めてほしいな。」

人の名前を、決める。

初めての経験だった。

まあ夢だし、そんなに大切な事じゃないだろう。

「じゃあ、音の雨で音雨(ネウ)、とかどうかな」

「ネウ、それが私の名前。」

ネウは嬉しそうだった。


気づけば朝だった。

夢の内容は起きても鮮明に覚えていた。

「ライ、おはよう」

「え...?」

てっきり夢の中だけだと思っていた。

彼女の声が聴けるのは。

「今日から私はあなたと一緒よ、ライ」

混乱でしかなかった。


それから毎日をネウと共に過ごすことになる。

正直毎日ネウに観察されている感覚はとても心地のいいものではなかったし嫌だった。出来ることならすぐにでも離れたかったほどである。


ネウと出会った日から少し経って。

僕は怪我をして病院で寝ていた。

医者によると少し血が足りないらしく、輸血をすることになった。

そこで分かったのだ。

僕、ライは血液キメラだったということが。

血液キメラとは、簡単に言うと二つ血液型がある人のことである。

双子に多いとのことだが、僕は一人っ子だ。

つまり、僕の双子は産まれる前に母体内で死んだ、ということになる。


「双子、会いたかったなぁ...」

僕は病院の天井を見て呟いた。


「あら、双子ならここにいるじゃない。」

「...え?」


いやまさか、そんなことー


「私は降魔 音雨、ライの双子よ?」


僕は言葉を失った。


「君は本当に珍しいよ。まさか脳までキメラなんてね。」

医者は嬉しそうに言う。ちょっと怖い。

脳の「考える」を司る機関、大脳の端がキメラらしい。

大きい方は僕ライの、そして端の方はネウのだ。


脳内といえど双子がいることは僕にとっても嬉しかったし、ネウのおかげで明晰夢を毎日見れたし、そのたびにたくさん話した。


怪我も治って、僕は無事に退院した。


中学三年の冬の終わり。

待ちに待った高校受験だ。

いつもテストではネウに手伝ってもらうのだが、今回だけは自分の力で解かせてくれとネウにお願いした。

「頑張ってね、ライ!」

「うん!」

「ライなら絶対受かるよ!」

僕は受験会場に向かった。



1週間後の会場。

幕が引かれる。

結果は合格だった。

嬉しかったし、何よりネウの助けを借りずに自分だけでできた。ネウにも褒められた。


高校生活が始まった。

毎日が幸せだった。ネウは僕には不可欠な存在になっていた。僕はネウのために血を流した。息をした。

味覚も嗅覚も脳で受け取られ、ネウと共有された。

感情も同様だった。

ネウの感情も僕に伝わってきていた。

黒い雨雲が立ち込めるごとく、僕の心に、いやネウの心に、何かが突っかかっていた。


でも、そんなある日。

いつものように明晰夢を見た。が、様子が違う。空が赤い。ネウが泣いている。

「どうしたの!?」

と慌てて駆け寄ると、

「痛い、痛いよ...」

と言って苦しんだ。

そのうちネウの体が糸のようにほどけて、無くなっていった。

ネウはいなくなり、声も聞こえなくなった。目の前にネウがいて、苦しんでいたというのに、僕は何も出来なかった。

ショックで叫ぶことも泣くことも出来ないまま、僕はその場にへたりこむ。

あとはただひたすらに空が赤いだけだった。


悪夢から覚めた。反射的にネウに話しかける。

「ネウ!ネウ!」

返事はない。


ネウは、死んだ。

脳細胞は常に収縮が進み、唯一修復できない細胞の一つだ。

元々ネウだった脳細胞は消えた。

僕は泣いた。なんで、どうして。

ネウは何も悪くないのに。

僕は自分の無力さを憎んだ。

悪いのは僕だ。僕が生きていたから。僕が無力だから。


僕のせいでネウは死んだんだ。




私は所詮かりそめの存在だったのかな。

そうだったとしたなら悲しいな。

でも、私なんかどうでもいい。

神様。お願い。ライだけは、ライだけにはには生きていてほしい。

私の半身で、もう一人の私で、唯一の双子だから。


ライ。お願い。




強く。強く生きて。




~エピローグ~


僕は屋上にいた。

これから誰のために血を流せば、息をすればいいのかわからない。

僕はもう、ライじゃない。


なぜなら僕はネウで、ネウは僕だったのだから。


僕はもう「いきたかった」。


ただただそこにあった虚無へ、くだらなく身を投げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ