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第5話 ラーメンと恋心

【6を1】 ●◎○

「お冷やになりま~す」


コトン…と、目の前に冷えた水がおかれる。俺は今日、晴斗のバイト先であるラーメン屋に晩飯を食いに来ていた。


「ねぇねぇ、晴斗、(うち)の弟の浮いた話しとかないの?」


「浮いた話っすか?」


「いや、ねぇよそんなもん!それに唐突すぎるだろ!仕事中なんだからあんま絡むなよ!」


「うっさいわね、アンタには聞いてないのっ!ご飯おごってあげないわよ?」


「ぐぬぬ…」


「で、どうなのよ?晴斗!」


この、人の友人が仕事中にもかかわらず、空気を読まずに下世話な質問をし、ニヤニヤと笑う女。俺の姉、黒滝(くろたき) 菜々(ななか) その人である。


「そっすね~…まあ、たぶん本人は気づいてないだけで割りと気になってる。みたいな子なら心当たりがあるんスけどねぇ…」


「え?!本当に?!だれだれ!」


「いや、聞いてどうすんだよ、それに名前言われたところで、誰かわかんないだろうが…っつか、そんなんいねぇし」


「なんだおまえ、やっぱ気づいてねぇのか?」


「は?どういう事だよ」



すると、晴斗はまるでなんでもないことを言うようにサラリと、






「おまえ、"空"の事、好きだろ?」









「ん…?え"…?は?…ハァッ!?はぁあッッ?!いや、は?そそそそそそ、そんなわけねぇだろっ!!意味わかんねぇしっ?!ハァッ!?」


「颯護、おまえリアクションでかすぎるだろ…」




晴斗にそんなことを言われながら、俺が慌てていると、姉がめちゃくちゃ食い付く。



「え!?だれだれだれだれっ!?空ちゃん!?」


「いや、ちょっ!バカ姉貴、うるさいっ!」


「なんだと貧乏人!アンタこの間お母さんの高い服にカルピスこぼしたの言うからねっ!」


(このやろおおおおっ!何故姉と言う生き物はこうも理不尽なんだっ!?しかもそれ今関係ないだろっ!)


そんなやり取りをしていると、


「おう、晴斗あがったぞ」


と、厨房から渋めの声がして


「うすっ!いまいきまーす!」


と、晴斗は返事をし、一度注文した物を取りにいく。それから、


「お待たせしましたー!豚骨と梅塩でーす」


ごとん、とラーメンが目の前に置かれ、俺は手に取っていた、知らない漫画をよけて、箸を取る。この時、無意識に姉の分の箸もとって渡す辺り、悔しいが…俺は弟なのだと、立場的に弱者だと、一瞬感じたりもする。



「ごゆっくりどうぞ~」


「晴斗ありがとね、あと、今度詳しく聞かせて」


「うっす」


「いや、いいから! マジで晴斗覚えとけよ!」


「颯護…俺は常に、強い者の味方だ…わすれたのか?」


「くそがっ!」


「いいから、あんた早く食べなさいっ!」





○◎●◎○





その帰り、姉は車の運転をしながら、案の定、空について聞いてくる。


「ね、どんな子なのよ?その子」


「ん~?…」


俺は車窓に流れる景色を見ながら答える。


「…ちょっと変だけど、明るくて優しい…よく笑うヤツ…かな…?」


「で、可愛いの?」


「…まあ…」


「なによ、煮えきらないわねぇ!」


「うるっさいなぁ、可愛いよ!可愛いッ!」


「で、…好きなの?」



ああ…、見なくても分かる…。今、姉はニヤニヤとしている。正直この人に、いじられるのはあまり気に入らない…だが、実際どうだろう?俺は…空が好きなのか…?改めて空の事を考え直すと、アイツの笑った顔ばかりが思い出される。




初めて出会った時の暖かく柔らかな笑顔


遊びなんかで勝ったときに見せる、ちょっと腹の立つにやり、とした笑顔


困った時によく見る、ばつの悪そうな…そんな笑顔


そして、キーホルダー渡した時の泣きそうな…どこか儚い、あの笑顔…




「どうだろう…でも、たぶん…アイツの笑顔は好き…かな?」




とつぶやいて、ハッとする。そして姉の方を向くと…口元を片手でおさえ…



「…ップ!…クククッ…!…アイツの笑顔は…好き…かな?…っぶふっ!あっはっはっはっ!なにそれ、カッコいい!あっはっはっはっ!」


俺は恥ずかしくなり、顔を赤くして、


「~ッ!? うるせぇ!くそ姉貴っ!!彼氏に降られろっ!!」


「ふーられーませーんよー♪ あっはっはっはっ!…はぁ~、いや~我が弟ながら、青春してるんだねぇ~…良きかな、良きかな」




そう言うと、姉は真面目な顔で、こう続けた。




「がんばんなさいよ、今の時間なんて本当に、あっという間なんだから」




俺は…小さく呟くように




「わかってるよ…」




と、そう返した。





○◎●◎○




そして翌日、俺は朝から溜まり場ではなく、バス停に立っていた。実話、昨日の昼間に、明日は晴斗が親父さんの手伝いで外せないと言う話になり、その時、例の魚を食べに来ていた空が


『じゃあ、私、颯護ん家行ってみたい!』


と言い出したのだ。


「うちなんか来ても…なんもねぇんだけどなぁ…」


と、呟きながら、足元に転がる石ころを軽く蹴って、その方角を見ると、とうもろこし畑の方の道からパタパタと空が駆けてくる。


「あ、空…え?…アイツ、バス…なんじゃ…?あれ?」


すると、息をきらせながらバス停に来た空は


「ご、ごめんね~?はぁ…はぁ…」


と、終業式の時みたいに、両ひざに手をついて息を整える。俺は昨日の事もあり空を意識してしまう。その時なんとなく空を見ると、着ている服の襟から胸元が少し見えて、


「あ…!」


俺はさらに、恥ずかしくなり、慌てて視線をそらした。


「へ?…どうしたの?」


「べ…別になんでもねぇよ!」


「えー?なんか怪しい…」



そう言いいながら、俺を覗きこむようにした後、空はこっちの気なんて知るよしもなく、ニッと笑って急に俺の手をとり、


「行こっ!」


と言って駆け出した。



「お、おい!空!休憩しなくて大丈夫なのか?」


「へっへっへ! 誰にいっているのだ君は、休憩なんてもうおしまい!」


「お、おい!急に走んなって!… つかおまえ、俺ん家知らねぇだろうが!」


「でもこっちでしょ~?♪」



手を引かれながら見た大空は何処までも蒼く、深く…、電信柱に絡んだ朝顔は、まるで駆け抜ける俺達を見送るように、斜めに3つならんで、二人の作った小さな風に揺れていた――。







「ただいまー」


「おじゃましまーす」


母親が居間から出てくる。


空はぬいぐるみを使って録音をはじめる




――『私の名前は霞野 空です。今日は颯護のお家に遊びに来ました――。』



次回

『ぬいぐるみと迎え火』


またみてね❗(o・ω・o)きゅぴーん✨

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