第3話 バス停と川遊び
【0を3】 ●◎○
――俺達と空が出会ったのは、今年の桜がサヨナラを告げ、紫陽花が徐々に顔を出し始めた、梅雨に入ろうかと言う時期であった。
「暇だから街中へ買い物にでも行こうぜ!」 と言う話になり、俺と晴斗がバス停へと向かうと、誰もいない待合所で探し物をしている女の子を見かけた。
はじめは、遠目に見ているだけだったが、なかなか見つかりそうにないので、俺はバスがくるまで手伝おうと、声をかけたのがきっかけだった――。
「あの、なんか探し物ですか?」
「へ?え!?えっ?!…あ、…ええと…私…の事…?」
急に話しかけられた女の子は、驚き、あたふたと跳ねて、目を丸くし、本当にビックリした様子だった。
その様子を見ていた晴斗が
「おい颯護、何急にナンパとかしてんだよ、ビックリしてるじゃんか」
「ちっ! ちげぇからっ! 俺の行動のどことったらナンパになったんだよ!」
「年頃の男が年頃の女に声かけた辺り…かな?」
「いや、もうそれ話しかけたらダメなヤツじゃねぇか!男女で会話したら全部ナンパって事じゃねぇか!」
「そう…だと、したら?」
「そうだとしても、どうもしねぇよっ!!てか普通だろ!困ってそうなんだから!」
「お巡りさん! こいついたいけな女の子をたぶらかそう…と…」
二人でふざけながら話をしていたら、晴斗がふと…女の子の方を見て、驚いたような顔をし、俺を呼ぶ…
「そ…颯護さん…?」
「は?なんだよ?」
俺もつられてそっちに視線を向ける。すると、ポロり…ポロり…と女の子の頬を涙が流れていて…
「え!?な、泣いてるっ!!?」
予想外の光景に俺と晴斗は慌てる
「ばっ!ばかっ!颯護、おまえナンパとかするから!」
「え!?俺!?俺悪いのっ!?えっ、えっとご、ごめん!ごめんね?急に話しかけたりしたから?と、とにかくごめん!!」
すると、女の子はハッと我にかえったようなそぶりを見せて、指で涙を拾いながら
「ちがっ、ちがくてっ!あの、目にゴミがっ!ゴミが入っただけで!すみません!」
と謝る。俺は「大丈夫?」とハンカチを渡して、「すみません」と女の子がそれを受け取った。そして
「本当、すみません。なんかまぎわら…まぎららし…まぎなら?まぎ…」
「まぎらわしい?」
と俺が聞くと「あ、そ、そうです!」と女の子が言って、それを聞いた晴斗が
「どんだけ"まぎらわしい"でてこねぇんだよ」
とツッコミ、3人で「確かに!」と笑った。その時見た、初めての女の子の笑顔は…穏やかで、何処か暖かくなるような、そんな素敵な笑顔だった。
それから、3人で探し物をする。どうやら、イルカのマスコットのキーホルダーを落としたようなのだが、なかなか見つからない。
捜索から少しすると、バスが来てしまう。
だが、俺と晴斗は買い物をやめ、探し物を手伝うことにする。
「いや、悪いからっ!大丈夫ですよ!」
そう言う女の子に、
「男が一度決めたことを、そうやすやすとやめられるかよ」
と晴斗が言う。
「いやまぁ、買い物と言う決め事は速攻でやめたんですがね」
と俺が言うと、
「うぉおいっ?!俺のかっこいいとこ台無しっ!」
「安心しろ、おまえは今のままで充分イケメンだよ」
「だっろぉ~?」
両手を銃みたいにして俺を指し、ウインクをする晴斗。それを見て女の子は笑う。正直、逆に気を使われるとやりづらいし、それに急ぐ買い物があったわけではない。これで良かったのだ。
それから、一時間くらいはバス停の近くを探しただろうか…?俺達はさすがに、もうここにはないだろうと言う話になり、待合所を離れ、彼女がたどったと言う道を引き返しながら探してみる事にする。
彼女のたどってきた道は、石畳の細道を抜けてバス停とは逆の方の、とうもろこし畑が続く道の方だと言うことだったので、海沿いを暫く歩き、そのまま山の方へと入る。木々の木漏れ日を受けながらその道を抜けると、まっすぐに伸びた道とその道の左右には、とうもろこし畑が広がる。
「なぁ、そんな大事なキーホルダーなのか?」
晴斗がそう聞くと、女の子は
「あ…はい、昔お母さんが買ってくれたモノで、その…もう、お母さん…いないから…」
「え?…なんか、すんません…」
「え?あぁ…気にしないで、もう何年も昔の…」
二人のそんな会話をよそに俺は、少し先を歩く。途中、色褪せた『パチンコ、この先3km』とかかれた大きめの看板をが視界にはいる…そして、なんとなくその下を眺めると、キラリと光る何かが目に映った――。
「あ!」
俺はそこへと駆け寄る。すると、キラリとキーホルダーのチェーンが光った。そのキーホルダーは、ところどころ色の薄くなったイルカのキャラクターで、頭部分に小さなボタンがついていた。俺はそのキーホルダーを拾い上げる。
「なぁ!コレっ!ええと…君っ!」
俺の声に、話をしながら歩いていた二人がこちらを向き、足早に近寄ってくる。俺は、今拾い上げたキーホルダーを女の子に見せる。
「なぁ、コレ!そうじゃない!?」
「――っ!これ!コレです!」
「おおおお!颯護お手柄っ!」
「へっへっへ!探し物は得意だからなっ!」
キーホルダーを受け取った女の子はまじまじと眺めたあとぎゅっと両手で包み、少し泣きそうな笑顔で
「…ありがとう!」
ってそう言った。それから、海沿いのバス停まで戻り、俺達は解散する。その時、俺達は名前を教えあって…
「なぁ、霞野さ」
俺が気になった事を聞こうとすると、
「空でいいですよ、言いづらくないですか?私の名字」
「え?…そうか…?じゃあ、空も敬語じゃなくていいよ、年近いだろ、見た感じ」
「18…ですかね?」
「え?なにが?俺ら?俺らは18だよ」
と俺が答えると
「あ、じゃあたぶん同い年だ!」
「たぶんてなんだよ!ははは、ウケる」
そう言って二人で笑った。そんな話をしていると、晴斗が
「なぁ、空、さっきのイルカの頭のボタンさ、あれなんなの?」
「あ、そうそう!俺もそれ聞こうと思ってんたんだよね。ちょっと、押してみてよ」
「あぁ…あれは、ボタンを押すと、イルカのキャラクターが喋って…」
「マジ?押してみて」
空がボタンを押すと…
『また遊びに来てね~…、待ってるよ~!』
と、少しザラついた声で喋って、ピカピカと、ピンクや青に光った。と、空が
「あ…喋った…」
「え?いやおまえが喋るっつったんじゃん!」
晴斗がそう言うと、空は、「…そうだったね。ははは」と少し困ったように笑った――。
○◎●◎○
あれから2ヶ月あまり…。
学校でひょっこりと顔を出した空と再会し、「同じ学校かよ!」と、俺達は仲良くなり、ほぼ毎日つるむようになって――
「ひっひっひっ!はい!私の勝っちー♪」
「だああああっ!くそっ!!」
川の水面を石が跳ねる。1,2,3,4…5… あの時見た、空のあの暖かみのある素敵な笑顔は見る影もなく、現在は全力で石投げをし、回数が俺を上回るたびに、腹のたつ、にんまりとした笑みを浮かべたりするようになっていた。
「はい、また空の勝ちー、デデーン、颯護、タイキック~!」
と、何処かで聞いたことあるような台詞を口にしながら、ニヤニヤと口元を緩めた晴斗がこっちへやって来る。
「いやいやいやいやいや! まてまてまて! おまえのタイキックマジで痛いから!マジ嫌なんだけどっ!ちょっと、空さん!?何か言ってあげて!」
全力で助けを求める俺に、空は…
「小僧…ビビっているのか…?」
「いや、おまえ誰だよっ!!普通にビビるはっ!」
「案ずるな、さすれば道は開かれるだろう。」
「いや、だから誰だよッ!つか、何キャラ?!…あぁ~、もう!
――俺はこの茶番に乗っかることにする。
だったら撤退したい!早くっ!早く退路を開いてくれっ!!」
「断るッッ!!」
「ぇぇぇえええっ!?」
そうこうしてるうちに、晴斗に捕まり一発お見舞いされる。スパーンッ!!と言う小気味いい音と、「いってぇぇええええ!!」と言う俺の絶叫が、田舎の空に響き渡たるのだった――。
町の方向くと、鳶が山の上をぐるぐるとまわっていて――
「どうしたの?颯護なんかセンチメンタルじゃない?」
「じゃあ、俺コーラ!」
防波堤に寝転んで…
急に振り向く空の顔が近くにあって――
「颯護…変なこと聞いて良い…?」
「なんだよ、また心理テストか?」
「ははは…そんなとこ…」
――「もし、もしさ…私が死んだら…どうする…?」
次回
『釣りと夕暮れ』
またみてね❗(o・ω・o)きゅぴーん✨