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第2話 商店と猫

【1を5】 ●◎○

「あっちぃ…」



ミンミンミンミン…ジー、ジーっと蝉が最大ボリュームで、本格的に夏を盛り上げ始めた中、終業式を終えた俺と晴斗は、学校の校門で空を待っていた。



「あー…死ぬ…てか、空遅くね?」


「颯護…喋るな…今俺は、脳内だけでもアラスカにトリップしようと必死なんだ…」


「マジか…そいつは悪かった…どうぞアラスカに行ってくれ、全裸で」


「いや、なんで全裸で!?…だが、正直自信はあるぜ?」


「いやなんの自信だよそれ」


そんな話をしていると、空が駆け足でやって来た。息を切らしながら膝に手をつき、「ごめん、ごめん」と謝る。


「マジおっせぇよ! 何してたの?うんこ?」


「いや、晴斗おまえ女子にそれはあんまりだろ」


「ごめん、ちょっとお腹の調子が…」


「マジなの!?」


と、俺が驚くと


「あはははは! 嘘だよ、先生に捕まっててさ…プリント出し忘れてて、それで」


「マジかー、てかあちぃよ、さっさといこうぜ」


晴斗のその一言を皮切りに3人で歩き出す。道路側に晴斗、真ん中に空、その反対に俺、最近はいつもこの並び方だ。そのまま歩き、駐輪場を目指す。


「なあ、帰り"わだしょー"よってこうぜ」


晴斗がそう言うと、俺と空も同意する。


「いいね、アイス食いたいは俺」


「いいよ! 私"ファン・ペルシー"に会いたい!」


"わだしょー"ってのは、俺達の地元にある『和田商店』の略称で、物の値段は足元を見たようなコンビニ価格なのだが、唯一溜まり場の近くにある商店で、おっとりとしたおばあちゃんと猫の一人と一匹で某有名スーパーや、コンビニに負けないように絶賛奮闘営業中のお店である。ちなみに、うちの地元のじいさんやばあさんは大概がここで買い物を済ませる。そんで、そこの猫の名前が"ファン・ペルシー"なのだ。なんでオランダ系の名前やねんって思って、過去に一度聞いたら、なんでもおばあちゃんの孫がサッカーが好きらしく、昔好きだった選手の名前らしい。


そんな事を話し合いながら、駐輪場へ到着する。そして俺は自転車を出そうとする、のだが…


「おい空、おまえ何ナチュラルに俺の後ろに乗ろうとしてんだよ」


「え…?ここ私の席じゃないの?」


「おまえの席なんてねぇからっ!」


「おいおい、颯護そいつは酷いんじゃねぇか?」


「いや、うんことか言うやつに言われたくないんですが…」


「そうだよ、颯護! 私達、友達でしょ?!…あ!じゃあわかった!乗せてくれたら後で肩もんであげる!」


俺は少し考えて


「…ったく…仕方ねぇな…」


「颯護ちょろいなー」


「やったね!」


「なんかムカつくっ!でも途中からな、みつかるとダルいし」


そんなこんなで、いつも通り俺は息をきらせて自転車をこぐ…蝉は相変わらず騒がしく、途中畑仕事をしているおじさんがタオルで汗をぬぐったのを見た。空が後ろで


「あの人も大変そうだねぇ」


なんて呑気な話をする。俺は


「そうだな、でもあの人たちがいるから飯が食えるんだなぁ…」


と言うと、空は「なにそれ、おじいさんっぽい」と言って笑った。隣を走る晴斗も「なんだっけ?なんとか"みつを"っぽい」と言って、「それだ!」と三人で笑う。


俺たちの笑い声は蝉の声にとけて、ゆっくりと…夏の空に消えていった――。



それから、わだしょーこと和田商店に到着する。立て付けの悪い木わくの扉を開くと、リンリンと鈴をならし一匹の猫がやって来る。


「あんあー!」


ファン・ペルシーだ。ここの猫は「にゃん」とは鳴かない、独特の鳴き方をする猫で、「あんあー」だとか「あんあん」だとか言ったような鳴き方をする。ファン・ペルシーは、出てくるなり、俺たちの足に順番にスリスリと顔を擦り付けて、一度レジの前に座るおばあさんのところへ戻る。


「いらっしゃい、そうちゃん、はるくん…それと…空ちゃん!」


「おおっ」


「なんと」




空だけ新入りなので、思い出したかのように名前を呼ばれる…が、実話今回はじめて名前を呼ばれたので、空は


「わーっ!おばあちゃん私の名前覚えてくれたんだっ!」


と喜びおばあちゃんに駆け寄って抱きつく。


「ふふふ、ごめんなさいね?年を取るとなかなか覚えられなくて…でも、やっと覚えたわ!」


「いいよ、いいよ!全然いい!ありがとー!」


「良かったな空」


晴斗がそう言うと、空は「うん!」と言って嬉しそうに笑った。そんなハートフルな出来事の後、俺達は商品を物色し始める


晴斗は冷蔵庫をあけて飲み物を、俺と空はアイスのケースを覗きこむ


「ねぇ颯護、アイスって何が好き?」


「は?なにが?」


「いやね、ほら、アイスってかき氷やシャーベットとかのさっぱり系か、バニラやチョコ、キャラメルみたいなミルクタイプのこってり系で好き嫌いと言うか、好みわかれるじゃん?…颯護はどっち派なんだろうって思ってさ」


唐突にされた質問に、俺は少し考えて答える


「……日によるな、バニラとか食いたいときもあれば、氷とかの方がいいときもあるし」


「そっか…」


と、空は一言言った後に、こう続けた。


「"どっちつかずを選んだあなたは、女性であればいいと言う筋金入りのドスケベです。"…だって、颯護"ドスケベ"だったんだぁ…?」


空はいたずらっぽくニヤニヤとしてこちらを覗きこむ。


「はぁっ!? ちげぇし! てか抜き打ち心理テストとかおまえ正気かっ!? 完全に普通の質問だと思ってたぞ俺!」


「策士、爆☆誕!」


どこからわいたのか、いつの間にか隣に来ていた晴斗がそんな事を言って、俺と空の後ろから肩を組む。


「うるせえよ晴斗!何が策士だ!」


「ヤバい、ドスケベがキレた! こいつは変態に進化する可能性があるゾッ!」


「あはは! 逃げろーっ!」


空と晴斗がふざけて逃げる。俺と晴斗のこう言うところはガキの頃となんも変わらない。そこに空が加わり、余計騒がしくなった感じはするけど…


一通りはしゃいだ後、晴斗はラムネを、空はチョコのかかったミルクアイスを、俺はガリガリ君(ソーダ味)を購入して、溜まり場へと向かった。



そして、いつも通り談笑した後、俺と空は晴斗に別れを告げ、溜まり場を二人で後にする。


「じゃあな晴斗」


「晴斗またね!」


「おー、明日なー」


少し薄暗くなってきた空の下、自転車を押しながら二人で歩く。俺は"空"とのこの時間が嫌いじゃない。こいつがくるまでは、一人で歩いていた寂しい道だったが、空が来たことで二人の下校道となり、晴斗と別れた後も妙な寂しさを感じずにすむ。


「あー…! 今日も楽しかったねー」


隣を歩く空が伸びをしながら言う。


「そうだな、まあ急な心理テストは焦ったけどな」


「あっはっはっは! 颯護ドスケベになっちゃったもんね!」


「ははは、うるせぇよ」


――本当に…何気無い毎日ってヤツは、それが幸せなんだって気づくのに時間がかかるもんで、その時の俺はいたずらに笑う空が、ただ…可愛いなって…そう、思っていて…。



○◎●◎○



――私と颯護はくだらない話をしながら歩く。途中、細道に入る。そこは石畳が敷かれており、左右は松の木に囲まれている。足下には石造りの行灯(あんどん)がゆっくりと光って…そこを下ると、海へと繋がる。潮風に誘われながら細道を抜けると、バス停とトタンで出来た小さな待合所があって、いつもそこで颯護と別れるのが私の1日の終わり方だ。


「空、じゃあまたな!」


ニッと笑って手を降る颯護に、私はいつも通りこう答える。


「うん、颯護! またネ!」


満足そうな顔をして走り去っていく颯護を眺め、いなくなると一人で待合所のベンチに座る。


「今日も終わっちゃうなぁ…」


足をぷらぷらとさせながら、一言呟いて、また…あの時間がくるんだ…と、少し怖くなる…。私は、水平線に消えていく夕日を眺め…臆病な覚悟をもって、目をつむる――。





「明日も…二人に会えますように…」





そう、小さく願い事を呟く…。



そして――


日が沈むと共に、私の体と意識は薄くなり


この世界から、フェードアウトするように…






――消える。






何故、日没に姿が消えるのか…何故…こんなことになったのか、私には分からない…だが、ひとつだけ…分かっていることがある…。それは――








『私はもう、すでに死んでしまっているのかもしれない。』




と、言うことだ…。








【その『夏』は、やたらとしんどくて――】





















――俺達と空がであったのは、今年の桜がさよならを告げて、紫陽花が徐々に顔を出し始めた時期だった。


「おい、颯護なに急にナンパとかしてんだよ」


「ちがっ! ちがくてっ!目にごみがッ!」




『また遊びに来てね~待ってるよ~』



次回

『バス停と川遊び』



またきてね❗(o・ω・o)きゅぴーん✨


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