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第1話 自転車とじゃんけん



【3を2】 ●◎○




――見渡す限りの原っぱに、石造りの鳥居が一つ。



夏草は風にそよぎ、大きな緑の波をつくっている。



"見えないが"、きっと…この鳥居の向こうに彼女は()る…。



――お(やしろ)の中、深く眠る…私の体が一つ。



凛とした木々の木漏れ日に揺られて、ひっそりと呼吸をしている。



"見えないが"、石造りの鳥居の向こうには、きっと彼が()る。




――俺が、この先に手を伸ばせば…届くだろうか?


――私が、その先に手を伸ばせば…届くだろうか?



神様と言うヤツはいじわるで…でも、それでも…



もう一度、彼女に会いたいと…


もう一度、彼に触れたいと…




俺は…


私は…




『強く…強く、願った。』










挿絵(By みてみん)






○◎●◎○



やたらとデカい入道雲の下、ワシャワシャと鳴く蝉の声、焼けつくような暑さと、新緑の香り…高校最後の夏休みを直前に控えた俺達3人は、田んぼに挟まれた細道を、ダルそうに自転車をこぎながら帰っていた。



「なあ、今日のロードショーなんだっけ?」


今、話しかけてきたこいつ。明るめの髪を上手に遊ばせ、いかにもアイドルとかにいそうな男、こいつは俺の幼馴染みで、名前は 朝井(あさい) 晴斗(はると) 田舎のおしゃれ番長だ。




「はぁ?…はぁ…はぁ…えっと…たぶん…ジブリ…?」



この息を切らせて、自分のチャリの後ろに女の子を乗せながら(不本意)一生懸命自転車をこいでいる(ナイスガイ)、これが俺。黒瀧(くろたき) 颯護(そうご)、 そんで…



「ジブリ良いよね! 夏っ! て感じしない?」



人のチャリの後ろに乗り、ジブリをガッツリとリスペクトしている、ゆるふわウェーブな茶髪女、こいつが霞野(かすみの) (そら)、最近隣のクラスに転校してきた女子だ。


「あぁ~確かに…でも、俺は三ツ矢のサイダーのCMの方が夏感を感じられる気が…っする…っ!」


ちょっとした坂道に差し掛かり、俺は力みながら自転車をこいで、そう答えると晴斗は、



「なんだよ、夏感って…! ウケる、てか…それならカルピスの方が…って、去年も似たような会話したような気ぃしね?」


「はぁ…はぁ…たぶんしたな、しかも夏な…!」


「そうだっけ?私覚えてないや」


「「いや、おまえは去年いなかったから!!」だろっ!!」


「あっはっはっはっはっ!」


俺と晴斗のダブルツッコミに空が楽しそうに笑う。


「ってかもう1㎞越えただろっ! ジャンケンしようぜ、ジャンケン! 俺もう疲れたんだけどっ!」


「なんだ颯護だらしねぇな」


「そうだそうだ! 晴斗もっといってやれっ!」


キーッ…と、自転車を止めて俺は抗議する。


「いや、マジ疲れたそれにもともと、1kmって話だっただろっ!」


俺達は、学校の帰り道に"自転車ジャンケン"と言うのを行って帰ることがある。これは俺と晴斗だけの時はなかったのだが、空が転校してきて、一緒に帰るようになってから自然と始まった遊び?と言うか…なんと言うか…


まあ、要は自転車が二台しかないので、ジャンケンをして一番に勝ち抜けた奴が人の後ろに乗る事ができ、そして2番目に勝ち抜けた奴は一人でもう一台に乗れる。3番手の負け犬は一番に勝ち抜けた人を後ろに乗せてこぐ、といったものなのだが、何故か俺はこれに負けることが多い…。



「ったくしょうがねぇなぁ…」


「本当だよ! 颯護はワガママなんだから…」


晴斗と空にぶーぶーと愚痴られるが、約束は約束だもんね。別に悪いことは言っちゃいないもんね! 俺は後ろに降りた空に言う


「いや、空、おまえマジでやってみ?マジしんどいから!」


ちなみに、空は今まで負けなしである。


「えー…私女子だから非力だし颯護の後ろでいい?」


「なんでだよっ!おまえ話聞いてた!?」


「ったく、仕方ねぇなぁ…ほら、さっさとやろうぜ、颯護、空」


晴斗がそう言って、3人でかたまり、俺の掛け声で勝負が始まる――


「さいしょっは、グー! じゃん!けんっ!!」――


「待って待って待って! ちょっと勝率あげるからっ!」

「おい、なんだよ空!」

「マジふざけんなって! 今だったら俺絶対勝てたわ!」


空は一度、両手をかさね、ぐっと捻ると重ねた手の中を覗きこむ。


「OK! 大丈夫!ごめんごめん! やろ!」


「おまえ次は絶対そんなんなしだからなっ!」


「晴斗おまえどんだけ嫌なんだよっ!ウケるわ」


「いいから! 早くっ!」


仕切り直し、もう一度…


「さいしょっは、グー!じゃんけんっ!!…ポンッ!!」


空はパー


晴斗はグー


そして、俺もグー…


「「だああああっ!」」


俺と晴斗は二人とも頭を抱える。そして空は


「わーっ! やったーっ!!やった!やった!わったしっの勝っち~♪」


とその場で跳ねてはしゃぐ。


「ガッデム! 空が1回止めなきゃ俺は勝ててた」


と晴斗。


「あーっ!マジくそッ!」


と俺も愚痴る…が、負けは負けだ。今度こそ勝つっ!


さあ、晴斗と一騎打ち。いくぜっ!!――



「さーいしょっは、グーッ!!じゃん、けん」――




○◎●◎○




10分後、息を切らしながら必死に自転車をこぐ(ナイスガイ)が一人…。俺である…。


「いや、マジでないわ…はぁ…はぁ…」



「だっはっはっは!!颯護ざまぁーっ!!」



風のごとく俺と空の隣を軽やかに駆け抜けていく晴斗。



「ほら、がんばれ! 颯護!!」


後ろの空に応援される…が、


「うっせー!くそっ! 次はぜってぇに勝つからなっ!!」


これを初めてから、俺の何度目とも知らない台詞に空が笑う。


「はっはっは!! また私が勝つもんねっ! 颯護ファイトっ!」


「くっそ!!」




そんなくだらない話をしながら俺達は溜まり場を目指す。溜まり場って言うのは、晴斗の家の近くにある畑の端にたっているプレハブ小屋なのだが、なかなかどうして、快適なお部屋となっている。冷暖房完備、テレビや冷蔵庫、電子レンジはもちろん最近はインターネットも開通させ、完全に晴斗の部屋と化している。まあ、朝井家の土地にあり、電気もろもろもそこからひいているので、一応所有者は晴斗なのだが、基本的に出入りは自由で、晴斗の家族もそれを了承してくれている。…てか、ガキの頃からだから気づいたらそうなっていた。


そんな溜まり場に到着すると、晴斗を先頭に部屋へと入る。


「ふぃーっ…あっつ…クーラークーラー…っと…」

「おじゃましまーす」

「はぁ…はぁ…疲れた…」


そして各々が定位置につく。俺は床に座りこみ、晴斗はクーラーをつけると冷蔵庫から麦茶を取り出す。空は一人がけのソファーに座る。


そして、晴斗は俺達に麦茶を渡してまわると、そのままベッドに腰を下ろした。3人で渡された麦茶をイッキに飲み干す。


「ったぁーっ!」「はーっ!」「ふぅ…」


そして、いつも通り


「マジ死ぬかと思った!! まさか二回連続で負けるとは…」


「はっはっは! 正直負けたら俺は、お前らをおいて一人で逃げる予定だった」


「え、 ひどくないっ?!颯護もなんかいってやりなよっ!」


「いや、俺も本当は逃げ出したかったから…でも空の笑顔が怖くて…」


「えー!?もう!」


パチン!と空が俺の背中を軽く叩く。と、晴斗が



「空! もうちょい強めにっ!こうっ!」


とフルスイングビンタのジェスチャーをする


「やめろ!!それ絶対痛いから!」


「あっはっはっ!」


こんな、くだらないが楽しい"今"が、俺の現実であり…日常だ。






「"わだしょー"よってこうぜ」

俺は、晴斗と学校の外で空を待っていた。


空は喜んでおばあちゃんに抱きつく。


「ドスケベなんだ~?」


だから、私は臆病な覚悟をもって、目をつむる――。



次回

『商店と猫』



みんなー、ちょっとぶり❗またみてね❗(o・ω・o)きゅぴーん✨








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