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Another sight:シザンサス―『あなたと一緒に』

お待たせしました、智恵さん大好きBotと化した邑先生の時間です。

 智恵と二人で昇降口まで向かう道、ふと横を見ると、ほんのりと頬を赤く染めた顔。

 

「デート、楽しみだな」


 今度二人で遊びにいくことを、そういう風に言えないのも分かってる。恋なんて無縁のものだった私だって、それくらいの言葉くらいは分かってる。


「も、もうっ、こんなとこで言わないでくださいっ!」


 ぽんって音が鳴りそうなくらい顔を熱くして、慌ててその顔を手で隠す智恵。好意のある人にちょっかいをしかける小学生あたりの子の気持ちが、分かるような気がする。


「智恵は楽しみじゃないのか?」

「そんなこと、あるわけないじゃないですかぁ……っ」


 そんなことは分かってる、そうでもないと、智恵から私に誘うことなんてないから。……今だって、こんなに真っ赤にしてるのに、あの時電話で誘ってきたときは、本当に勇気を振り絞ったんだろうな。そんな智恵の姿を想像して、また、自然と口元が緩む。


「もう、そんなこと言ってないで帰りますよ?」

「わかったわかった、行くか」


 私だって、『恋人』らしいことには興味がある。智恵という、最愛の人を手に入れて、今まで興味がないどころか、偽りのものしかないと私の中から切り捨てたものを、今になって拾ったせいで、そういう経験値も知識も、持ち合わせなんてなかったから。

 そうやって試していく度に見せる反応で、ちょっといけない事をしてしまった気分になる。でも、智恵が私のことを『好き』でいてくれるのも、自然にわかってしまう。それだけで、モノクロの世界に、カラフルな色がつく。恋って、不思議だ。想うのも想われるのも、幸せな気持ちになるから。


「ちょっと、来てくれないか?」

「何ですか?」


 智恵の手を強めに引っ張って、それは振りほどかれずに体ごとついてくる。今まで、『邑先生』だったのが、『邑さん』になって、……それは、『先生と生徒』じゃなくて『恋人同士』でいたいってこと。……なら、私も、近づきたいってとこ、見せたいし、……してみたいことが、一つある。

 昇降口のすぐ近くの階段を左に曲がって、道なりに進む。目的の部屋の、用務員室のドアを開けて、智恵が入ったのを確認してから後ろ手で閉める。


「どうしたんですか、邑、せんせぇ……」

「智恵……キスしても、いいか?」


 壁際に詰め寄って、智恵が逃げられないように。抵抗できないくらいの力にはしてないけど、智恵も、そこから逃げようとはしなくて、ただ頬を赤く染めて。


「嫌なわけ、ないじゃないですか」


 自分から眼鏡を外して、軽く唇をすぼませる。全部預けきったように閉じた目と相まって、無防備そのものの顔は、……どうしたって抑えられないくらいかわいい。

 軽く頭を撫でると、一瞬はっと目を開けて、また安心しきったように閉じる。自分から近づけてくるとことか、ん……、と、微かに漏れる声も。


「智恵、かわいい……」


 軽く唇を乗せて、一瞬で離す。自分から誘ったのはこれが初めてだから、やり方がこれでいいかもわからない。智恵からはこんな強引にされないから、……もしかして、間違ってたりしないかな。

 頬を赤く染めたまま、こっちを見ようとしない智恵。その不安は、ちょっとだけ大きくなって。


「嫌……だったか?」

「そんなわけないです、……むしろ、嬉しいくらい」

「ふふ、……それならいい」


 よかった、伝わってたんだ。

 智恵から唇を重ねられるたびに感じる、あの甘いぬくもり。そのまま、気持ちまで伝わって、私の心すら溶かしてくくらいの。

 

「邑先生……、私のこと、好きですか?」

「当たり前だろ、バカ」


 ぽんぽん、と頭を撫でる。初めて会った時から、この感触が、癖になってるみたいだ。


「あ、そうだ……、デートのときは、つなぎじゃない服で来てくださいね?」


 いちごみたいに真っ赤になった顔で、そう言ってくる智恵。


「どうしてだ?」

「せっかく二人きりでお出かけするから、私服の邑先生も見たいなって、……いっつも、つなぎしか着てないでしょ?」

「はぁ……、わかった」


 つなぎじゃない服なんて着るの、いつぶりだっけな。今度、服でも買いにいくか。きっと、……これからも智恵とデートするだろうし、せっかくなら、いいように思われたいから。


「ふふっ、ありがとうございます」


 軽く抱かれて、その顔が近づく。相変わらず赤く染まっていて、でもその笑顔は相変わらずかわいい。


「別にいい、それくらいで」

「それが嬉しいんですよ、……それじゃあ私、そろそろ帰りますね」


 近づいた顔に期待してしまうのは、智恵も一緒みたいで。一瞬重なった唇に、はっと気づいたように智恵が顔を隠す。


「そ、それじゃあまたっ」 


 そう言って逃げるように部屋から出ていく智恵。あっという間すぎて、それに返す言葉すら言えなかった。


 全く、智恵は、かわいいんだから。

 自然と笑えるようになったのも、「愛」が偽りのものだけじゃないってことも、人の心の温もりも全部、智恵から教えてもらったのに、そんなこと想うのは、おごがましいのかもしれないけど。

 今度、服も買わなきゃな。ポケットに入れてあるスケジュール帳に、メモをつける。

 まだ知らないこと、智恵と一緒なら、楽しく過ごせるような気がした。

 




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