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Another sight:イチゴ―『甘い香り』

まーた邑先生視点をぶっこんでしまうのか

「失礼しました、……また、遊びに来てもいいですか?」

「ああ、いつでも来い」


 自然と、頬が緩む。こんなに笑えたの、智恵に出会う前にはほとんどなかったのに。


「それじゃあ、また来ますね?」


 花が咲くような笑顔でそう言い残して、扉を閉める。それなのに、二人で抱き合った壁際から、まだ動けないままでいる。まだ、智恵の温もりが近くにあったときのこと、頭に焼き付いて離れてくれないから。

 「甘えさせてほしい」という切なげに聞こえた言葉も、抱き合った体の温もりも、

 私のこと、好きになれてよかったなんていう甘い言葉も。

 いつも通りに「邑先生」と言いかけた智恵が、ちょっとためらってたのも、きっと、もっと近づきたかったんだろうなって、かわいく思える。


 でも、……一番頭に残って離れないのは、そんなことではなくて。智恵が抱きついた途端に感じた、髪からか肌からか感じた、甘い香り。

 ずっとずっと、甘いものなんて嫌いだったはずだったのに。今はその甘さを求めてしまう。……きっとこれが、智恵が教えてくれた、『恋』って気持ちなんだろうな。……こんなに誰かを想うなんて、初めてだから。優しさも、真っ直ぐな気持ちも、ずっとずっと忘れてた、肌から伝わる温もりも。

 

 智恵のこと、好きになれてよかった。


 さっき言った言葉は、紛れもない本当の気持ち。もしも、出会えてなかったら、……きっと私は、もうこれからも、誰も愛せなかった。一生、何かに怯えて、誰かの温もりを求めながら拒絶して。

 だからきっと、智恵は私にとっての『救い』で、『運命の人』で、一番大切にしたい『恋人』。

 もう少しでも、近づきたい、その温もりを、傍で感じられるくらいに。


 ……もうちょっとだけ、居てくれればよかったのに。話したいことは、何故か智恵の前だと頭から抜け落ちてしまう。その優しさと笑顔に、頭がいっぱいになって、蕩けてしまうから。

 電話のボタンを叩いて、智恵の番号を呼び出す。いつも電話に出られないとき以外はコール音が三回も鳴らない間に出てくれるけど、……今回は、出てくれた。


『もしもし、邑先生……?』

「智恵、ちょっと言い忘れたことがあってな」

『な、……何ですか!?』

「そういえば、そろそろどこ行くか決めたか?臨海学校、もうすぐだろ?」


 あの時、一緒に遊びたいって言われたの、……『デート』って言うのが、恥ずかしかったのは分かる。……そんなとこもかわいい、なんて思ってしまう私も、きっと智恵と一緒で恋の虜になっている。


『あ、そうですね……、隣の市の水族館で、面白そうな企画やってて、そこ行きません?』

「そうか、ならそこにするか」


 電話越しなのに、智恵の顔がぱあぁっと明るくなるのが分かる。お互いの言葉でいちいち舞い上がってしまうのも、お互いにお互いを想いあっているから。きっと智恵は、そんなこと分かってるんだろうな。


「その前に、臨海学校の指揮、頑張れよ」

『はいっ、頑張りますね?』

「……ふふ、それじゃあな、智恵」

『そうですね、……大好きです、邑先生』


 その一言で、電話が切れた。……全く、最後にかわいいこと言って。

 胸の中が、くすぐったくて甘くなる。その感触すら、好きになれるくらい。

そういえばどっかで「愛情を求めてると自然と甘い物が欲しくなる」っていうのを聞いた気がします


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