表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/22

ドラセナ―『幸せな恋』

ドラセナは「幸福の木」とも言うみたいなのです。

 邑先生から呼ばれた、「智恵」って名前。その響きだけで、心臓が高鳴るのを止められない。

 もっと近づきたいって気持ちを、期待してしまうくらいに。これまでだって、そう思ってくれてるのは分かってたけど、私から何かしらのアプローチをしてたからで、……こうやって、邑先生が積極的に近づいてくれたのは初めて。

 もっと、恋人らしいことしたい。そんな欲望が、頭の中で見え隠れする。今だって、十分幸せなはずなのに。邑先生にまだ片思いしてたときに見ていた夢が、今更また出てくるようになる。恋人同士じゃないと、絶対できないことをしてる夢。キスの感触も、甘い言葉も優しさも知ってしまってるせいで、その夢は、前に見ていたときよりももっと本当のことみたいに思えてきて。


「んっ……、もっと教えてください、邑先生のこと」

「いいぞ、智恵ぇ……、はぁ、ぁあっ」

 唇の触れる音も、荒い息遣いも、全部本当みたいで。でも夢だとわかるのは、それを何度も見てるから。

 もっと先を知りたい、目覚ましの音でそれすらも壊されて、気分はまた重くなる。私が生徒会に入ってから初めての大きなイベントである林間&臨海学校ももうすぐに迫っていて、その重圧も重くのしかかる。


「はぁ……、嫌じゃないけど、ちょっと疲れるな……」


 夏休みだっていうのに、落ち着くこともなかなかできない、仕事が立て込んでるせいで、寮が点検で使えなくなる三日間しか実家にも帰れないし。

 姫奏先輩たちから段取りは聞いているし、会長室にあった、代々の生徒会長に受け継がれている資料にも、段取りは書かれている。でも、ちょっと自信ないや。姫奏先輩はあまりにも偉大で、あの人みたいにできるなんて、到底思えない。

 いつも通りに朝ごはんを食べて、ミーティングをして、鍵を返して、……夏休みになってから、毎日のような日々。今日もまた、用務員室に足が向かう。誰かに甘えたい気分で、その「誰か」は、私の中ではたった一人のだけ。

 ドアをノックすると、一瞬仏頂面だった邑先生が、優しい微笑を浮かべる。そんな顔を見せてくれるようになったのは、私と『恋人』になったときから。


「今日は、どうしたんだ」


 優しい声も言葉も、聞いてしまったとたんに、頭に浮かんでた衝動が、切り離せなくなる。

 頭の中、真っ白になって、気が付いたら、邑先生に思いきり抱きついていた。


「邑、先生………っ」

「お、おい、智恵……?」


 慌ててドアを閉めるバタン、という大きな音が鳴って、そのまま抱き返される。その温もりも、「智恵」と呼ぶ声も、アクセルにはなっても、ブレーキにはならない。


「ちょっとだけ、甘えさせてください」


 その雰囲気に、怯えたように邑先生が後ずさる。私を抱いてるのを忘れたのか、そのまま私も前に進んで、……邑先生の背中が、壁にぶつかる。


「別にいいぞ、……智恵だって、ずっと頑張ってたもんな」

「ありがとうございます、邑……先生」


 邑先生だって、私の距離を近づけてくれて、……もっと、私からも近づけたい。

 邑さん、そう言いたいけど、まだ心の中は躊躇してしまう。夏休みが過ぎたら、『先生と生徒』でいる時間のほうがずっと長くなってしまうから、……その前に、一回でも言えるようになりたいな。できれば、何度でも。きっと、それを自然に言えるようになったときが、お互いを愛せるようになった瞬間になるから。

 邑先生の肩に顎を乗せて、髪の香りと形のいい耳たぶを堪能する。何度でも、邑先生のことを好きになれる。それだけ、邑先生と一緒にいられる。それはもう、何事にも代えられないくらいの幸せ。


「邑先生、あったかいです」

「そうか、……智恵も、あったかいな」

「へへ……、そう、ですか……?」

「……ああ」

 

 そっか、邑先生は、人の温もりを、十何年も忘れてたんだ。

 噛みしめるような言葉に、今更のようにそれを思い出す。

 好きな人に、私の温もりでそれを思い出させた。それだけで、優越感と高揚感と幸福感が頭の中でかき混ぜられて、笑う声が、勝手に漏れてしまう。どうしようもなく、緩んだ笑みも。


「何か、おかしいか?」


 むっとしたような声に、その声は自然と止まる。言い訳なら、ちゃんと頭の中で浮かんでるけど、口に出すとなるとちょっと恥ずかしい。


「嬉しいんです、……邑先生に、私の温もりを感じてもらえて」

「……そうか」


 その声は、一気に優しいものに変わる。あんまり感情を出してくれない人だけど、お付き合いするようになってから、まだちょっとだけどわかるようになった。私と邑先生がお付き合いをする前から、私に優しくしてくれたときにくれた声と一緒だ。……私に優しくしてくれるのは、特別だったんだ。気づいたそのことに、胸の奥がまた高く鳴る。


「智恵のこと、好きになれてよかった」


 そこに、さらに追い打ちをかけるような言葉。ずるいですよ、邑先生。……そんなこと、簡単に言うなんて。


「私も、……邑先生のこと、好きになれてよかったです」

「そうか」


 その言葉はそっけなかったけど、軽く抱いてくれる手は、何よりも優しかった。


前半の流れはこれ絶対半ば強引に智恵さんがゆりちゅっちゅするやつだと思ってた

うっかりデータ飛んでなかったらそうなってた

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ