表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/22

ヒルガオ―『やさしい愛』

 何度か行ったはずなのに、なんだか新鮮で落ち着かない。

 何でかは分かってる。繋いだ手のぬくもりも、隣のボーイッシュな声も、邑先生の、……私の恋人のものだから。

 

「邑さんは、ここ来た事あるんですか?」

「いや、初めてだ、……滅多に、遊びになんて行かなかったからな」

「そうなんですね、……今日は、いっぱい楽しんでくださいね?」

「ああ、そのつもりだ」


 そうやって笑う声。二人でいるときは、よくそうやって笑顔でいてくれるようになった。最近、二人きりになる時間が多かったからかもしれないけど、それを差し引いても、邑先生の表情はお付き合いをする前よりもずっと柔らかくなった。

 私の気持ち、信じてくれたからなのかな。冷え切っていた心を、温められたからなのかな。それは分からないけど、ゆっくりと心を開いてくれるのは、それだけで嬉しい。


「開いたばかりだと、やっぱり人少ないですね」

「そうだな、そのほうが気が楽だ、……智恵とはぐれないで済むしな」

「もう、邑さんとは離れないのに、手だって繋いでるし」


 そういう意味じゃないことは分かってるけど、口をついて出た言葉に、思わず頬が熱くなる。暗いから、気づかれてないよね、

 

「……わかってる、でも、二人でいるほうが、嬉しいから」

「それは、私も、です……っ」


 不意を衝くような言葉、どうしてこんな簡単に、私の心を揺さぶってくるんだろう。いくら邑先生が器用だって言っても、これが『初恋』のはずなのに。

 ぽんぽん、って撫でてくれる手に、きゅんって心臓が跳ねる。私の心の中、全部知られちゃってるんじゃないかって思うくらいに、簡単に私をドキドキさせてくる。……でも、そんなとこも大好きで、離れられなくなる。


「じゃあ一通り回るか、今ならすぐ見れるだろ?」

「そうですね、行きましょうか」


 そうやって二人で周ってる間、水槽の中になんて全然意識が向かなかった。

 今、どんな顔してるのかな。照り返しで微かに見える顔は、いつもと同じポーカーフェイスじゃなくて、けっこう表情がころころ変わっている。私にしかわからないくらい、微かにだけど。

 

「どう、ですか?」


 思わず訊いてしまう言葉。何をとか、言えるわけがなかった。

 私と一緒にいて、どうですか、……なんて。


「すっごくきれいだな、普段食べてるのが、あんなに泳いでるなんて知らなかった」

「ふふ、そうですね」


 よかった、けど、ちょっと寂しくなる。……隠された意味に、気づいてくれないのは。


「……でも、智恵とじゃないと、こんなに楽しいなんてなかった」

「本当ですか? でも、私も……邑さんとじゃなきゃ、嫌、です……」


 そんな心にまで気づいてくれて、その答えも、言ってくれるなんて。

 恥ずかしいよ、でも、それの何倍も、嬉しい。

 ぎゅっと握りしめてくれる手も、ほっぺたが、ちょっと赤くなってるのも。

 邑先生、私のこと、愛してくれてるんだ。

 それだけで、ぽうっと、胸の奥があったかくなる気がする。 


眼鏡の日(10/1)に間に合わなかったマンです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ