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アザレア―『恋の喜び』

ゆうちえのいちゃいちゃ分が足らなくて始まった星花女子1期第2弾。

 邑先生とお付き合いをすることになったのが5月のはじめくらいで、それからもう、3か月。

 でも、告白して「恋人」という関係になってからも、私と邑先生の関係は、あんまり変わってない。学校がある時期は放課後に用務員室に邑先生に会いにいくようになったけど、それくらい。キスだって、1回しかしてないし、デートにも誘えたことがない。生徒会の仕事があって、忙しかったのもあるし、それ以上にこの関係を宙ぶらりんなままにしてしまうのは、そういう約束をしようとすると、どうしても恥ずかしさが顔をのぞかせてしまう私の臆病さ。


 ……そういう「恋人」らしいこと、したくないわけじゃない。だけど、邑先生は、どうなんだろう。

 十年以上も前のことを引きずって、今まで誰のことも愛せなくて、誰の気持ちも受け付けられなかったのに。私とお付き合いしただけで、それが劇的に変わるとは思えない。

 信じさせて欲しい、その気持ち。

 私の気持ちを受け入れてくれたときに、邑先生が言った言葉。私の想いは、邑先生に信じてもらえたのだろうか。……わからない。それを聞くのも、邑先生の気持ちを壊してしまうきがして。もし、私が邑先生を傷つけたら。邑先生に、一生消えない心の傷をつけることになる。それは、邑先生が、心を閉ざしてしまうことだから。先が見えない迷路に、進むのを戸惑ってしまう。


 好きって気持ちだけが先走ってもだめだし、でもこの気持ちを隠したくない。

 邑先生、今度、一緒に遊びにいきませんか。……その一言が、どうしたって出てくれない。

 

 先輩たちとか、かおりちゃんならわかるのかな、どこまで踏み込んでいいのか。

 でも、今は誰にも聞けない。かおりちゃんはしょっちゅう水藤さんの部屋に行ってるし、先輩たちだって今度のりんりん学校の準備を手伝ってもらってるのに。……私も、文化祭とりんりん学校の準備で、実家に帰るのは寮に点検が入って使えない日くらいしかなさそうだけれど。

 

 眠れない夜に、いつも思っていたその姿。

 初めて夢見たときよりも、邑先生との距離はぐっと近づいた。でも、もっと近づきたい。

 そんなときにかかってきた電話。この着信音にしてるのは、……たった一人だけ。


「もしもし、……邑先生、ですか?」

『……ああ』


 邑先生から電話をかけてくれたのなんて、初めて。きゅん、って胸が高鳴って、ベッドに寝転がってたのを姿勢を直して正座になる。


「何か、ありましたか?」

『いや、声聞きたかっただけだ、……よかった、元気そうで』

「ありがとうございます、心配してくれて」

『私も、生徒会の仕事はしたことあるからな、……この時期、忙しいだろ?』


 邑先生が星花にいたっていうのは、前に聞いたけど、生徒会にいたんだ。意外な共通点に、また、心臓が高鳴る。邑先生とお付き合いをするようになってから、何度も感じたけど、その一つ一つが恋のかけら。


「そうですね、……先生も、元気そうでよかったです」

『まあな、……そろそろ、電話切るぞ?』


 ここを逃したらもう、ずっと言えない気がする。心臓が飛び出そうなのを飲み込んで、叫ぶように言う。


「あ、あの……邑先生っ!」

『どうした?』

「あの、臨海学校が終わったら……、私と一緒に、遊びにいきませんか!?」


 やっと癒えた、……言ってしまった。一瞬の静寂すら、私には不安でいくらでも引き延ばされていく。


『ああ、……わかった、どこがいい?』

「そ、そういうの、あんまり考えてなかったです……」

『全く、……まあいい、決まったら、また教えてくれ』

「は、はい!」


 あきれたような口調でも、その言葉には、優しさが詰まってる。撫でてくれる手の温もりを、この場にないのに感じる気がする。


『おやすみ、江川』

「おやすみなさい、邑先生」


 向こうから切られた電話が、まだ余韻を残す。

 私、ようやく、デートの約束できちゃったんだ。

 私と邑先生の距離が、近づくのを感じる度に、ドキドキと幸せで胸がいっぱいになる。


 大好きです、邑先生。

 暑くなってあんまり掛けなくなった布団を、丸めて抱き枕にする。

 抱きしめたその温もりが、邑先生のものだと想像するだけで、いつの間にか体が意識を手放していけた。


終わりは考えてないけど「気が済むまで」とでも言っておく

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