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幻真~その参~

今回で狼天狗さんとのコラボ終了です。ありがとうございました。


次回はシルクさんとのコラボです。よろしくお願いいたします。

 少年の赤い目は、先生の時たま見せてくれる剣の力の色に似ている。

 でも、その二つは違っていて、いま目前にあるそれは、いつもの俺を遠くから見る雲の目ではなく、刺すような挑戦者の目をしていた。

 ああ、少年。その瞳はどんな力だ。力を上げるのか、それとも速度か、はたまた両方か。

 どちらでも構わない。それに俺は真面目に応えよう。

 神谷一門の力、その片鱗を見せてやる。




 赤い瞳、力と速度を引き上げる力。

 それを発動した俺をみて、目の前の男は目を細めた。

 その目は俺を見ているようで、その向こうにいる誰かを見ているように見えた。

 少しだけ、その目に不満を覚える自分がいた。自分を見ていない、対戦相手を見ていないその目が少しいやだ。

 だから、それを強制的に向けさせる。

 一歩踏み出す。そのまま唱えた。




「斬符『二刀流回炎斬』」


 一気に加速した幻真をそらは見た。

 そのまま、遠くを見ていた意識を引き戻し、繰り出された炎の斬撃を飛び上がり避けた。

 が、それで終わる攻撃ではない、これは二刀の技。もう一本の刀が幻真の脇から出現し、それもまた炎をまとって、空中の天へと向かう。

 それに、天は大きく翼を羽ばたかせた。

 加速した天がいた場所を炎の刀が空を切る。

 空中の天はそのまま幻真へと矢を放った。


「暗黒龍壱乃符『呉散暗黒龍』」


 その矢を斬り払いながら、幻真は唱える。

 瞬間、彼を取り巻いていた龍の内、黒い龍が飛び出した。

 それは矢の様に天へと向かい、その途中で五つへと別れて彼を囲む。

 そのまま、幻真は続けて唱えた。


「炎龍参乃符『参方龍』」


 唱えられたそれを、待っていたかのように赤い龍が飛び出した。

 それは空中で三匹に分裂し、黒い龍の囲いを埋めるように天へと向かう。


「水龍壱乃符『水々青々龍水流』」


 幻真はさらに唱えた。

 蒼き龍が咆哮とともに飛翔する。それは青い水の弾幕を伴い、天を囲んで逃がさない。

 それは火と水と闇の三つの包囲。そして、その檻にめがけて、止めを唱えた。


「雷龍弐乃符『雷龍渾身一発』」


 その声に残った光る龍が弾けた。音を超え、光に近づき、雷となって天を刺す。

 それを、天は不敵と余裕と嬉しさの笑みで、迎えた。


「惜しい。だが、もう一歩」


 水泡が弾けるような音と共に、目の前で当たるはずだったその一連の龍たちが弾けた。

 弾けた理由は簡単。ただ単に、天の速度に力負けした。


「俺の最高速の三分の一では、俺を押し返せないんだな。これが」


 幻真の背後で天はそう言った。

 幻真はそれに向けて剣を振る。それを、天は素手で掴んで微笑んだ。


「さあ、少年。三回目だと言っていいのかな?」


 余裕の笑み、それに、幻真は同じほほ笑みで返した。


「いや、今度こそですよ」


 その声に、天は飛びのいた。

 それを塞ぐように、結界が出現する。

 球体の雷の結界、それは幻真と天をそのまま隔離する。


「防符『雷電結界』」


「おっと、結界割れるってこと忘れてないか?」


 天は幻真に向けて矢を放った。

 先ほどの結界で結界が割れることはわかっている。

 幻真に迎撃する他無い。そう、外側に何かない限りは。

 そして、幻真は避けた。

 結界が破れる。そしてそこには、四匹の龍が居た。


 先程とは比べ物にならないほどに大きくなった四匹。

 ラストスペル。弾幕ごっこにおいての最終手段として使われるその一枚、それの四連続。


「終符『龍獣怒楽炎神狂』終符『幻闇龍真泊』終符『雷魔終縁金』終符『真水龍紺気焰残』」


 そしてのそのまま、弓を構えた天の腕を掴み拘束する。


「よくやったよ少年。だが……!」


 その顔に天は笑顔で返す。そして、腕を振り切ろうと力を込める。

 瞬間、幻真はさらにもう一つの力を開放した。

 それは黄の瞳、その力で更に幻真は拘束の力を強めた。

 そこで初めて、天の笑顔が崩れた。


「奥の手……」


「決定的瞬間までとっとくもんでしょう?」


 崩れた笑顔に、幻真はしてやったりと嬉しそう言った。





 龍が二人を中心に渦を巻く、龍が龍達は極大の力を伴って中心へと、雪崩れ込み。






 それは弾けた。


「は?」


 幻真は起こったことが理解できずに口を開けた。

 それを微笑ましいと笑い、天は言う。


「君の勝ちだよ。少年。能力を使わされたからね」


「どういうことですか?」


 それの意味がまだわからないと幻真は首を傾げた。そして、そこで気づく。自分にかけた黄の瞳が消えている。そこで気づいた。

 それに天は笑う。


「気づいたか、俺の力は不可思議を否定する力。あらゆる術も能力も発動しなければ意味はなく、発動したものも消えてしまえばそれまでだ」


 相性はすこぶる悪いぞって言ったろう? そう言って天はウィンクした。

 それに幻真はため息を付きながら頷いた。


「そうですね、最初のスペルから、本当なら発動しなかったってことでしょう?」


「その通りだ」


 得意気に笑う天に幻真はため息を付いた。


「井戸の外、しかと見ましたよ」


「そりゃあ良かった」


 じゃ、今日はねんねだ。そう言って天は呪符を出す。

 目をつぶればそこは戦う前にいた天の部屋だった。





「客室がある。そこを使いな。明日には帰してやるよ」


「あ、はい。ありがとうございます」


 天さんに連れられてて客室へ向かうと、そこにはもうすでに布団があって、側には小さな少女がいた。


「おかえりなさい。用意できましたよ」


 少女はそう言って、笑った。十代前半くらいの小さい子なのに、母にでも言われたような抱擁感のある声だった。

 そんな少女に天が頭を掻きながら答えた。


「ごめんね待たせて」


 少女は笑っていいんですよと答えると、俺に部屋の鍵を渡してくれた。


「さて、幻真、今日は此処でお眠だ。おやすみ」


 おやすみなさい。そう答えようと思った時には天さんはもういなかった。


「え?」


 素っ頓狂な声を上げてもう一度振り返れば先ほどの少女もいなかった。

 代わりとでも言うように、虹色の羽が数枚ヒラヒラと舞っていて、先ほどの戦闘で見た瞬間移動ばりの速度で移動したことは明らかだった。

 さっきの少女と天さん、どうみたって兄妹じゃないし、待たせたとか言ってるから女中さんなわけないし、どう聞いたって恋人辺だ。

 最初のいらつきは……そういうことだったのだろう。


「おじゃましたみたいだな」


 俺は苦笑いしながらありがたく布団に入る。

 眠気はすぐにやってきて、目を閉じれば、風に包まれるような爽やかな感覚が俺を眠りに連れて行ってくれた。



    ****



「幻真? 連れて来てきてないけど」


「ええ!?」


 先生の家で、俺はその事実に口を開けた。

 しかも俺が昨日話した先生まで別人だったというのだから余計に。あの時の優しさを異様に感じたのは間違いなかったらしい。


「多分それはあいつだ。姫ちゃんの元上司、俺の上司予定のやつ」


「先生の上司!?」


 初耳の連発に俺は思わず叫んでいた。

 隣りにいた幻真くんが俺の声に引くのも構わず俺は師匠に詰め寄る。


「言いたいこと色いろあるんですが、時間を見ずに突撃してくる関係者作るのやめません? 夜に来られると困るんですよぉ」


「嫁と楽しく出来ないからか?」


「そうですよ! 昨日だってアレでどれだけ我慢したか! 先生の無茶振りならまだしも別人だったなんて最悪ですよ!」


「俺なら許すんだ」


「先生ですからね!」


 俺は吐くようにそう言って、溜息をつく。叫んだら少しはマシになった。

 気を取り直して、今日来た用件を話すことにした。


「幻真くんを家に帰えして下さい」


「ホイホイー」


 先生は軽くそう言って幻真くんを見た。


「よう、幻真、天はどうだった?」


 先生は億を見通すような笑みで幻真くんに聞く。

 悔しいとか、そういう答えを期待してのことだろうか? でも、それは期待できませんよ、先生。


「どうって……すごかった。なんか、まだ強くなれるって思えて嬉しかった」


 そう幻真くんは言った。その言葉は俺の予想していたとおりで、それが聞けて俺はなんだか嬉しかった。差を見せすぎて強くなるの諦めたとか言われたら最悪だったから。


「それは良かった。じゃ、お帰りのゲート作るよ」


 一名様ごあんなーい。そう言って師匠は指を鳴らす。

 出てきたのはよく見慣れた世界移動用の扉。

 ゆっくりと開いた向こうに見えたのは別世界の博麗神社だった。


「さ、幻真くん、これで帰れるよ」


「あ、はい。ありがとうございます」


「おいおい、言うなら俺だぜ?」


「零には言わなくてもいいだろ」


「せっかく帰してやるのに……」


「しらん!」


 そう言い合いながら幻真くんは扉へと足をかける。

 そして、向こう側へと彼が渡った瞬間、扉の向こうの風景が変わった。


「へ?」


 急に変わった目の前の光景に幻真くんが声を上げる。

 扉の向こうに出た景色は空の上。幻想郷の空の上だった。


「俺が帰してやるって言っただろ?」


 落ちていく幻真くんに師匠はそう言って笑った。


「このやろおおおおぉぉぉ!」


 そう叫びながら幻真くんは落ちていく。まぁ、彼なら大丈夫だろう、飛べるし。

 それに手を振りながら師匠は俺の方を向いた。


「で、どうだったよ?」


「伸びしろ十分ですよ。あの子はまだまだ強くなる。俺との相性はすこぶる悪いですがね」


「お前に術や発動型の能力で戦うのは最悪だからなぁ」


 俺は別だがな。そう言って師匠は笑った。

 その余裕にはあの見上げていたいつもの雰囲気があって、変わらない雰囲気に思わずつられ笑いをした。


「なんだ、何が面白かった?」


「先生って大変だと思って」


「そりゃあな。お前ら三人見るのは大変だったぞー。特にダメージ入るようになってからわな」


 ほぼ放任だった気がするんですが……とそういうのはやめておこう。



「また、戦えるといいなぁ」


「連れて来てやるよ。好きなときにな」


「本当ですか?」


 俺だぜ? そう言って先生は笑った。

 そうですね、と笑い返して、閉じた扉を見る。


「じゃあ、少年。また今度」


 消えていく扉に消えた彼の返事は当然ない。でも、それでも俺はそう言いたかった。

 期待してるぜ。次に来た時は天魔の力、見せてあげるからさ。



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