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幻真~その弐~

前回に引き続き狼天狗さんとこの幻真くんとのお話です。

よろしくお願いいたします。


 俺に挑戦しようとする少年を見た時、ああ、先生もこんな気分だったのかもしれないと思った。

 氷河期よりも昔、月人が地上にいたあの頃に、毎日のように挑戦しては負け続け、それでも楽しかったあの頃。

 俺達と戦って不敵に笑い、俺達を負かして楽しそうに笑ったあの人は挑戦され、根性だけで向かってくる俺達に今感じているような期待を寄せてくれていたのかもしれない。

 ああ、少年。なんだか、さっきの頭への一撃なんて忘れるくらいいい気分だ。

 ありがとう。お礼に、手加減はしても、手抜きはしないようにするよ。

 思わず笑みがこぼれた。

 はじめよう、少年。君はどんな戦い方をするんだい?



 虹色の翼。鳳凰にも似たその天狗を、俺はひと目で天狗の頂点にいるものだと理解した。

 近くにいるだけで感じる力は、普段目にする紫さんや幽々子さんに感じる雰囲気による圧だけでなく、ただ純粋な、そこに強大なものが有るという、存在感による威圧。

 目の前で普通に、息子の友達が来たかのような態度で話している。それだけなのに、体の底からくる畏れが止まらない。

 世界は広いなんて誰が言ったのか。その意味を今まさに体験しているように思えた。

 だから、ここで挑戦できるというのは、つまるところ井戸の外を見るということなのだろう。

 さっきも言われたようにこれからの人生で経験できる中の大きな一つ。

 なら、それに感謝して、真面目に、本気で、全力で、出しきって、目前のあの天狗に向かう。

 そう、決意して俺は剣を構えた。





 幻真の目が驚きに開かれる。

瞬きをしたわけでもなく、集中してみていたはずのその相手が突如として自分の懐に出現した故に。それも、空気の壁を超えた音など一つも出さずに。


「よっと」


 そらから放たれた軽い正拳を、幻真は後ろに飛ぶようにして衝撃を逃がした。

 殺しきれなかった分の勢いが、彼の腹部に鈍痛となって襲う。

 頭のなかで、幻真は近接戦での不利を理解した。

 軽く打った正拳が一撃級、そんな物を喰らえば堪ったものではない。

 幻真は弓に気をつけながらの遠距離攻撃へとシフトすることにした。

 後ろに飛んだそのまま、スペルを宣言する。


「炎符『勾玉炎弾』」


 その声とともに生成されたのは複数の炎の勾玉。野球ボールほどの炎弾はそのまま天へと牽制に放たれた。

 天はその勾玉を見据え、そして弓を構えた。手にしていたのは自分の羽。それをそのまま矢へと変化させ、幻真を見つめて笑う。


「少年。その弾、当たったら破裂するだろう?」


 その声と同時に、勾玉がほぼ同時に全て破裂した。


「な!?」


 爆発した勾玉の火を壁にしながら幻真が驚きの声を上げる。

 当然だ。飛んでくる野球ボールを弓で狙い撃つなんて芸当をやってのけたのだから。

 そして、その上げた声に反応するように炎の向こう側から、幻真の肩へと矢が飛ぶ。

 慌ててそれを斬り払い、ついでのように牽制に霊力弾を撃つ。


「遅いぞ、少年」


 が、その時にはもう幻真の横には天が居た。

 矢を番えずに弓を幻真の頭に向けている。


「今のような練習戦でない実戦なら、死んでいるところだ」


「……」


 幻真は無言のまま天を見る。

 それに、天は笑いながら距離を放した。


「もう一度だ少年。さっきので俺の得意分野は分かっただろう?

 速い敵、的当てが得意な敵、その上自分より力が上なら、どう戦うか考えてみな」


 ああ、それと。おまけのように天は言う。


「使えるスペルは一枚ずつなんて、弾幕ごっこのルールは適用してないぜ」


 それに頷いて、幻真はもう一度剣を構える。

 その上で唱えた。


「防符『灼熱結界』炎砲『マグマ熱砲』」


 二つの技。通常一枚ずつのスペルカードルールにおいて存在しない形。

 燃え盛る炎が、幻真を包む。その炎の球体はそのまま一つの砲台として、火炎を放射した。

 マグマ熱砲、普段は背後がお留守になるであろうそれは、結界によってその欠点をなくし、一つの戦車のように、天を迎え撃っていた。


「弱点を消す。それはいい手だ」


 天は笑う。そのまま、大振りな火炎を躱しながら、弓を構えた。


「だが、それで俺を捉えるのは難しいぞ」


 天が消える。次の瞬間、結界の周囲三百六十度に黒い、天の矢が出現した。

 幻真は一瞬驚きながらも、矢を火炎でなぎ払う。

 しかし、その多さに火炎が対応できるはずもなく、結界まで届く矢があった。


「でも、羽が変化したものなら!」


 そう言って、幻真は結界の火炎を煌めかせる。

 それを、見て、天はほくそ笑む。


「おいおい、俺の羽が普通の羽なわけ無いだろう」


 カッ、小気味のいい音が幻真の耳に届いた。

 音の方向には、紫の矢。天の羽が変化したものに妖力を被せたもの。

 灼熱の結界の内側、根本である結界に、それは容赦なく突き刺さっていた。

 そして、それに連なるように二本の矢が突き刺さる。


「嘘だろ!?」


 驚く幻真の目の前で、灼熱の結界は一箇所から砕かれた。

 崩れていく結界から、幻真はすぐさま攻撃を中断して飛び出した。

 割れてしまっては、結界は回避するときの障害物になるからだ。

 そして、飛び出した先で、狙われることも、当然ながら承知していた。

 だから、唱えた。


「斬符『水伝斬』」


 幻真の剣を水が覆う。そのまま、周囲に牽制するように回転斬りを放った。

 水が斬撃となって周囲へ広がる。そのまま、その斬撃が有る内に、幻真は次の技を唱えた。


「炎符『熱火柱』」


 その声とともに、大きな火柱が幻真を中心に出現する。

 柱のは煌々と日色に輝く。それ周囲を天空まで燃やし尽くす。柱。

 周囲全体を無理矢理に攻撃するそれに、それでも天は笑顔だった。


「少年。知ってるかい? 火は燃えるものがあるから酸素があるから燃えるんだ」


 そう言って、彼はそのまま、柱へ突撃した。

 そして、それに合わせるように、火が柱が円形にその部分だけ弾けて消えた。

 空気の壁を押しのける。それはある一定の速度を超えれば起こること。その穴には空気はない。

 なら、そこに炎は出現しない。


 目の前に出現した天に、幻真は半ば予想していたように対応した。


「斬符『サンダースラッシュ』」


 雷撃を纏った斬撃を現れた天へと放つ。

 それを、持っていた弓で防ぎながら、天は矢を素手で投げた。

 反射的に幻真は矢を躱す。その一瞬には、天はもう弓を構えていた。


「二回目。いい感じだ少年。だが、まだ出し惜しみしてるだろう?

 せっかく龍を操れるんだから、使わなきゃ損だぜ」


 そう言いって天はしてやったり微笑む。

 話もしていないのに見ぬかれた幻真は信じられないと口を開ける。、


「言ったっけ?」


「いいや。龍の知り合いがいるから分かっただけさ。気配察知の技術だ」


 天は応用技術の最初だろう? と、指を立てる。


「出鱈目かよ」


 幻真は若干げんなりしながらもそう言う。

 それに、天は安心しろと笑った。


「俺に出来るのはそこまでだ。兄弟弟子みたいに体術バカみたいに気配で相手の次の動きを察知するほどじゃないからな」


「どんなやつだよそれ……」


 開けた口がふさがらないと、幻真は肩を落とした。

 それを励ますように、天は幻真の肩に手をおいた。


「大丈夫だよ。これから身につくさ。

 技の威力も種類も申し分ない。捉えられないなら捉えなくても当たる攻撃というのも正解だ。あと、所望するならもう少し君自身のステータスを底上げしよう。そういう技を使ってもいい。

 一回目と二回目、両方共近づかれて終わってる。近づかせないようにするのが無理なら、近づかれても大丈夫なようにするしかない」


 頑張りな。そう残して、天はもう一度距離をとった。

 幻真はその間に一度深呼吸をして目を瞑る。

 ゆっくりと目を開けた時、そこには赤い瞳があった。


「龍よ!」


 幻真は叫ぶ。それに合わせるように、彼の内側から四匹の龍が出現した。

 闇、雷、水、そして炎。四匹の龍は幻真を取り巻くように飛び回り、そのまま天へとその目を向けて威嚇する。

 天はいい感じだと。不敵に笑んだ。


「第三ラウンドだ。きばれよ少年」


 その言葉とともに、天が掻き消えた。

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