幻真~その壱~
今回は狼天狗さんとこのキャラとのお話ですよろしくお願いいたします。
「うんうん、ロマンチックって大事だね」
世界の外側で外部存在はそう頷いた。
それを見ながら、先ほど帰ってきた男が口をとがらせながら呟いた。
「最初に落ちた時と最後に嵌った時、能力が使えなかったのも、飛べなかったのも、お前だろ」
「あ、バレた? そのほうが面白そうだったし」
舌打ちをした男はもういいと呆れたように自分の居た世界へと帰っていく。
帰り際に一言聞く。
「そろそろとんでもないのが来そうな見えたが、気のせいか?」
「うーん次の次じゃないかな、あの世界が潰れそうだ」
外部存在はギシギシと赤黒い力に飲まれていく世界を見ながら言った。
「一応、仕掛けては置いた」
「そう、あの子がいるなら必要ないと思うけどね。未来を見なかったの?」
「見たさ。でも、確率は低かった。だから上げるために細工する」
「彼女のいるところに落ちるんだし、いらないと思うけどね」
外部存在は全部知っているかのように語り出す。
それを男は自分の見たものから信じられないと口にだす。
「お前はノリと気分で言ってそうだからな」
「そうだね。でも、今回ばかりは本当だよ。彼女は主人公でヒロインなんだから」
その意味の分からない設定は何だと男はため息を付いた。
「知らない? 主人公補正とヒロイン補正だよ。世界の作ったシステムの一つ」
「悪役は絶対倒されるとかそういうのか」
ご名答と外部存在は笑った。
「わかってるんじゃないか、なら、心配いらないよ」
「そうだといいけどな」
「今回はねー。またバトルが見たい気分なんだよー」
「勝手にしな」
そう言って男は次元を通って帰っていく。
それを見送って、外部存在は指をすべらせる。
「さて、龍使いさん一名ごあんなーい」
外部存在はそんな声とともに一つの世界から道を繋いだ。
****
先生、今度はどんな面倒事ですか!!
俺はそう叫びたかった。真夜中である時間を考慮して踏みとどまったが、本当にそうしたかった。
愛しい妻はもう寝室へ移動した後、ここから空が白むまでしっぽりやろうとしていたところでこの仕打。
あの人以外にこんな鬼畜の所業をするやつなんて考えたくない。
「名前は?」
俺は眉間にしわが寄るのを感じながらも、できるだけ優しく目の前の少年に聞いた。
「あ、幻真です」
目の前の少年は俺の不機嫌を感じてか正座のまま少々縮こまっているように見えた。
正座で俺の前に座るのは出てきた時に盛大に頭突きをかましてしまったからだろう。
それはいいのだ。特に痛くもなかったし、でも、それもあって俺は少々不機嫌になっていたのだった。
俺は少し深呼吸をして、できるだけイライラを抑えてから口を開く。
「そうか、俺は天という。神谷、っていうやつ、知ってる?」
「は、はい。何度か会った気がします……」
やっぱり先生の差金か……しかも何も知らせてないタイプ。
そして、目の前の少年は師匠家族と面識あり、もうこれは決まったようなものだろう。
「ここ、どこかわかる?」
「妖怪の山……頂上ですかね? 窓からの眺めが良いですし」
「正解だよ。此処は妖怪の山の頂上だ。君は神谷の世界の幻想郷に来た」
幻真くんは唖然として僕の顔を見た。そして、まっすぐ見返す僕に嘘でないと分かってどうしようと言って俯いた。
こんな時、こんな面倒はいつものこと、終わらせ方もわかってる。
師匠のことだ。こう言うだろう『天、そいつとバトれ。負けたらデコピンだ』
きっといい笑顔なのだろう。そして、俺は必死に逃げた後でそれを受けるんだと思う。
デコピンは勘弁願いたい、首がもげる気しかしない。
「幻真くん、残念なお知らせが二つ有る」
「ナンデショウ?」
幻真くんは俺の此の重苦しい気分に釣られたのか片言になりながら聞いてくれた。
「一つ目、夜中にすまないが君とバトルしないといけないかもしれない」
「え、あ、はい」
「二つ目、俺には君を帰してあげられる手段がない」
「えっ、それって……俺このまま此処で永住ってことですか!?」
幻真くんは慌てた様に言った。だが、俺はそれを制して安心してとなだめる。
「いや、知り合いにそっち専門がいる。だが、此の時間がいけない」
今行ったら激怒必死だろうからね。と、俺は付け加えた。
「それもそうですよね。で、バトル……しないといけないんですか?」
「ああ、それなんだけど……一応聞いてみるよ」
そう言って、俺は風に乗せて先生の家へと通信札を発動する。
「先生」
『ん? 天か、どうした?』
「家に別世界の人送りました?」
『ああ、送ったぞ。何時も通り適当に見てるからさっさと戦れ』
「あ、はい」
『気をつけろよ』
その言葉に、俺は唖然とした。
先生が、俺の心配をするなんて!
「明日は天変地異でも起こるのか?」
『なにか言ったか?』
「いえなにも」
先生がこんなことを言い出すなんて想像もしなかった。
誰か別人でも入ってるんじゃないかと思うほどだ。
「勝手に始めますね」
『おう、そうしな。闘技場は開けてあるから』
そういう先生の声にあわせて俺の隣には見慣れた空間の穴が空く。
これは先生の作った別世界につながっている。生き物のいない別世界。
おれは通信を切って、まだ正座をしたままの幻真くんの方を向いた。
「と、いうわけだ。すまないが一戦付き合ってくれ」
「あ、はい」
そうして、俺は幻真くんを動かして、闘技場へと移動したのだった。
移動した先、よく見慣れた夜の空。違うといえば他の生物を感じないというくらいだ。
俺の目の前に降り立った幻真くんに、俺は一応の確認と思って聞いてみる。
「幻真くん、別に戦うのはいいんだよね?」
「はい」
「じゃあ次、幻真くんは能力や魔術以外の腕は?」
「えっと、霊夢や妖夢当たりとなら……」
そこまで聞いて、俺は頷いた。
俺とかなり相性が良い。と言うか良すぎる。致命的だ。
俺が能力を使ってしまったらバトルどころの話じゃない状況になってしまう。
これは、仕方ない。年長者の勤めでもある。後続は、育てなければ。
「幻真くん」
「はい」
「今回の俺の縛りとして、俺は能力と魔術を一切使わない」
「はい……え?」
幻真くんは耳を疑うように眉をひそめた。
当然の反応だ。俺が言ったのは自分から武器を使わないといったも同然なのだから。
だから、俺は誤解を生まないようにすぐに続ける。
「舐めてるわけじゃない。でも、能力的にそうしないと一方的になる。それではいけない。
君はまだ若い。できれば色々経験させてあげたい。だから、俺は能力と魔術を使わない。
体術と妖力弾とこの弓、そして、翼を変化させた矢だけで勝負する」
俺は収納用の呪符から一本の弓を取り出す。
その上で、それでもいいかと幻真くんに声をかけた。
「いいですよ」
答えは短く簡潔だった。目はまっすぐ俺を見据えていて、俺は思わず微笑んだ。
先生に挑む俺達にそっくりに見えたから。
だから、俺はそんな見ず知らずの相手にそんな目ができる少年をたたえて、勝負をする。
「ルールは簡単。俺は君を倒したら勝ち、君は俺を倒すか、能力を使わせたら勝ち」
準備はいいかな?
俺は目前の少年に問う。
少年は、どこからか一本の剣を取り出し構えた。
ああ、その力、どれほどのものか……楽しみにしてみよう。
いつでもいいというようなその目に、俺は遠慮なく第一歩を踏み出した。