龍崎神斗~その3~
甘味処アリスさんとのコラボは終了です。
ありがとうございました。
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第二ラウンドからしばらく、戦闘が始まって三十分。神姫が能力を意図的に使わなくなって五分が経過していた。
自らを遥かに凌駕する龍崎の攻撃を、神姫は自らの体術と術式だけで五分を乗り切っていた。
「本当……化け物かあんた」
龍崎は防がれることに、少々の苛つきが来ていた。
そんな苦々しい顔の竜崎に神姫は微笑する。
「ちがいます。私は兄さんのお嫁さんです」
「そうだったな」
龍崎はここまでの戦闘を思い返す。
彼がこうも手こずったのには二つ理由がある。
一つ目、二つ有る能力が発動できない、もとい、しなかったこと。
彼の能力は二つ有る。力を操る能力と無に変換する能力。
力を操る、神姫の推理がほぼドンピシャだったその能力は、神姫が彼を直接攻撃しなかったがゆえに発動の機会を逃していた。重力などを操作することも考えた龍崎だったが、相手が神姫であり、それをも利用されそうという形のない不安に、発動できていなかった。
そして無に変換する能力。霊力や妖力などを消滅させ、術式を封印する事が可能な能力。しかし、神姫には神姫の力が有る。彼の夫にも備わっている自身に対するあらゆる干渉を無効化する能力の付随効果が、彼女の霊力を消滅するのを防ぎ、結界をはることを可能にしていた。
防御ができればこっちのものと、神姫は耐え切っていた。
「じゃあ、こっからは殺す気でやるよ」
「あら、今までそうじゃなかったんですか?」
悔しそうに神姫を睨んだ龍崎に、彼女は微笑で返す。
しかし、能力を使っていないただの少女である神姫は、此処から先は能力を使わずに要られる事はできないと悟っていた。
龍崎が本気で放つスペルに能力を使わず対処はできない。それをわかっているから、彼女は短期決戦を心に決めた。上手く、龍崎が自分の思うどおりのスペルを放ってくれることを祈って。
「らぁ!!」
叫び声とともに竜崎が跳ぶ。
身をかがめて、神姫を下側から攻撃する。
神姫は振られた剣を両手で受け止め、そのまま空中へ投げ出される。
その空中にいる神姫の両腕、防いだ状態のままの腕を、龍崎は蹴りあげた。
「ぐうっ」
うめきを上げながら神姫は上空へと飛び上がる。一気に上空へと飛ばされた彼女に向けて、龍崎は唱えた。
「『スーパーノヴァ』」
唱えられたと同時に、神姫の目前に星を模した球体が現れる。
次の瞬間に起こることを予想して、神姫は慌ててスペルを唱えた。
「食欲『捕食者』」
神姫の右手が獣に変わる。それが球体を飲み干した。
次の瞬間、獣の口から光が漏れだし、一気に神姫の腕が弾けた。
衝撃でまたも吹き飛ばされる神姫、彼女が衝撃から覚めて、耐性を立て直した時には、彼女の前にはすでに新しい星が生まれていた。
「やばっ」
神姫は思わず声を上げた。二度目も爆発に神姫は直撃した。
爆発の光で、見えなくなっていた周囲が晴れてくる。
何もいないように見える周囲、されども龍崎はまだ終わっていなはずだと警戒をしていた。
そして、その警戒は正解だった。
突如として空間を割れたかと思えば、神姫が現れ宣言した。
「地球紀『生命の木』」
神姫の掌から幹が伸びる。それは命の系譜、地球に存在する物達のその分かれ道。
展開される枝は刺さったものの全てを吸収し枯らし尽くす。
竜崎は枝に当たらないように一気に後退した。そして、空間の穴を閉じる神姫に舌を打った。
先ほど龍崎が撃ったスーパーノヴァは追尾性、しかも竜崎自身が操っている。
爆炎に飲まれて、空間の穴が見えず、神姫が用意した別空間にノヴァを隔離されたのだった。
後退した先で、展開の終わった生命の木を見ながら竜崎はもう一度宣言する。
「天龍『インドラ』」
その声とともに、上空から光が降り注いだ。
光は雨のように地上を多い、地面をえぐって神姫をかき消そうとする。
しかし、それにも神姫は慌てなかった。地面に光が到達する直前、生命の木が変化した。
光り輝く枝と幹が球状に圧縮される。それはそのまま破裂し、周囲にエネルギーを振りまいた。
「なっ」
龍崎は両手を交差して衝撃を防ごうとする。にも関わらず、それは龍崎を容易く押し流した。
降り注いでいた光はそのまま掻き消され、周囲はえぐられた大地と、無傷のままの神姫がいた。
「自爆技じゃないのかよ」
周囲全体への自爆技だと思っていた龍崎が悪態をつく。
それを可笑しそうに神姫は笑った。
「自爆技じゃないですよ。私を避けるように作ってます」
そりゃそうだと龍崎はため息を付いた。
そして、じゃあ、次だと宣言する。
「禍龍『ヴリトラ』」
声とともに、世界は暗転した。いや、世界は覆われた。
「なっ、これは!?」
神姫が周囲を見渡す。周囲の黒、これは全て弾幕だった。
それは、フィールドとなっている星を埋め着くほどの、黒い弾幕。
「収縮」
龍崎の声とともに黒が縮んでいく。
神姫は見えない中で、厄介なと悪態をつきながら宣言する。
「終焉『星の終わり』」
それとともに、地面が弾けた。
『星の終わり』その場で超新星爆発並みの強烈なエネルギーの奔流を生み出す技。
その一撃で、神姫は周囲に有る弾幕もろとも全てを消し去るつもりだった。
黒い弾幕が消し飛ばされていく、周囲の星も、何もかもが、彼女の一撃だけで消し飛んでいく。
ただ、それだが全て消し飛んだ後でも、龍崎はそこに立っていた。
「ああ、私なんかより貴方のほうが化け物じゃないですか」
神姫は光るマントと鎧、そして盾を新たに身につけた竜崎を見て呟いた。
それを聞いて、龍崎は冗談だと首を振る。
「盾だけじゃ範囲が合わないし、鎧だけじゃ吹き飛ばされてた。合わせてやっとってところだ」
そのまま龍崎は身につけた鎧を宣言する。
「麒陣『全方獣王陣』」
それは四神全てを束ねる神の鎧。あらゆるものを弾き返す無敵の鎧。
そして、その手に持つは英雄の盾、トロイアの英雄アキレウスの名を冠する無効の盾。
竜崎は衝撃を盾で無効化し、その熱量を鎧で防いだ。
彼は、微笑む、そして、宣言する。
「『ラグナロク』」
それは運命の物語の名前。神々が魔軍と相討った、混沌を呼ぶ物語。
その名の通りに、この空間に、星も消え去った空間に、混沌がやってきた。
剣が槍が鎖が大鎚が鎌が銃が炎が水が岩が星が全てが何もかもが、神姫に向かった。
「潰れろ」
龍崎は精一杯の殺気を込めてそう言い放った。
全てに飲まれる瞬間の神姫の驚愕するの顔を見ながら。
飲まれたあとの瓦礫、小さな小惑星のようになったその固まりに龍崎は降り立った。
そして、そこから感じた気配に舌を打つ。
「アンタ誰かの嫁さんじゃなくて化け物だよ。絶対」
「そうですか、まぁ私も、この状況では言い訳できないです」
そう言いながら神姫は現れた。半透明のこの世の理の全てから逃れた曖昧を纏って。
「界避『異世』本当に、セーフティとして優秀な技です」
降り立つ神姫は色が戻るのを見ながらそう呟いた。
両者が相対する。片方は能力の限界にもう片方は打てる技の数の限界に焦りを感じていた。
そして、両者は同時に唱えた。
「『メテオ』」
「極星『終焉の隕石』」
二人の背後に隕石が現れた。地球の一つの時代を終わらせた終焉の星と、それを越える、銀河を超える龍の星。
ちっぽけな星と巨大な星は、相対する二人を挟んで、進む。
そして、当然のごとく、巨大な銀河が、打ち勝つ。
龍崎は思わず微笑を浮かべる。
が、すぐにそれは凍りついた。
「必然『そこにある勝利』」
神姫の宣言と、その笑顔が見えたがゆえに。
飲み込まれて数秒、嫌な予感で固まった龍崎の鎧が内側から、弾けた。
「あっぐあああああ!!」
突如として現れた傷と痛みに龍崎が叫ぶ。
「何が起こった!?」
突然受けた最初のダメージに龍崎はふらつきながら叫ぶ。
その目の前に、神姫が飛んできた。
「結果の逆転、私が受ける傷を貴方に受けてもらいました」
「そんなバカな……」
「霊斗さんでなくてよかった。あの人は干渉を無効にする。他の手立てが必要になります。
物理攻撃は届かなくても、能力でなら手出しができる。それに賭けたら上手くいっただけです」
神姫が指を鳴らす。次の瞬間、そこには消えたはずの星が蘇っていた。
地に足をつけて二人は睨み合う。龍崎はまだ、倒れなかった。
「随分タフな人ですね」
「これでも龍神だからな」
龍崎は剣の切っ先を神姫に向ける。
「まだ動ける。手も足も欠けちゃいない、なら俺は、まだ負けない」
「いいですね。私ももう一分も能力が持たない。最後です」
神姫はそう漏らした。彼女の力は制限付き、それを超えれば動けない。
お互いにとって最後の一撃。そう確信しながら二人はもう一度相対した。
「聖剣『エクスカリバー・ゼロ』」
そう唱えて、龍崎が剣を掲げた。その声とともに剣は光輝き、周囲は暗転し、そこだけが光を放ち輝き出す。
その剣は騎士王の物語。所持するものに勝利を与える黄金の剣。
一歩踏み出す。そして、その名を呼んだ。
「エクス、カリバァァァアアア!!!」
斬撃は光の流れとなりて少女へ向かう。
全てを光に飲み込みながら、その渦は、少女を飲み込んだ。
息を荒らげながら、龍崎は前を見た。
土埃を上げる眼前を見ながら、少年は光に飲まれた少女がどうなったのかと目を開く。
そして、聞こえた声に青ざめた。
『よかったぁ、かかってくれましたぁ』
それは機械を通したような耳障りの悪い声。
土埃から現れたのは上半身のほぼ大部分を失いながらも平然と歩く神姫の姿だった。
ヒューヒューと漏れる空気を気にせず、変な方向に曲がった足も気にせず、おぞましくただ恐ろしく、彼女は龍崎へと近づいていた。
「ひっ」
龍崎はおぞましさに身を翻そうとする。
そんな彼の耳に、何かが刺さる音が聞こえた。自分の、胸部から。
「え?」
龍崎が自分の胸部を見る。そこには一本の十字架が刺さっていた。
その十字架の先は先程まで自分が握っていた剣の柄から伸びていた。
『けんをぉ、とりかえされたときぃ、さいくしましたぁ』
相手に十字架を突き刺すことでその能力を全て無効化する技。
十字架自身に実態はなく、ただのイメージであるため、防御を貫通し、ただ当たればいい。
『ふうさつ『だらくのまつろ』』
そう言いながら、神姫の体が再生していく。
そして、傷つき、彼女の能力により能力も封じられ、今はただの一般人以下の少年に、彼女は顔を近づける。
「チェックメイト」
青ざめた少年は小さく頷いた。
****
「はい、龍崎さん。これどうぞ」
「なにこれ?」
自分の世界へ帰る穴に足をかけた時に渡された包に、龍崎は首を傾げた。
「お弁当です」
「へ!? 本当に!?」
竜崎は喜んだ。女の子からお弁当をもらったのもあるが、なによりも、事あるごとに知り合いに美味しかったと自慢された神姫の料理だったから。
あれはプロだ。嫁を除けば世界一だと自慢され続けた日々を思い出しながら少年は頭を下げる。
「俺のために作ってくれるなんて……ありがとう」
そう言われて、あっと神姫はしまったと声を上げる。
「えっと……その……」
「ん? なに?」
龍崎は首を傾げる。
その龍崎に、神姫は頭を下げた。
「兄さんの余り……です。ごめんなさい」
少女は正直に頭を下げた。
そして、それを見た少年は一瞬呆然とし、呆れ、笑った。
「そりゃそうだ。旦那の方が大事だもんな!」
「ええ、そうです」
否定しないのがまたいいや、と龍崎は開き直って笑った。
そして、ひとしきり笑って、穴へと体を向けた。
「じゃあ、またね」
「ええ、また、挑戦して下さい」
そう言い合って、龍崎は穴へと消えた。
その穴を閉じながら、神姫は寺子屋の厨房へと戻っていく。
今度は今日の夕飯の事前調理をするために。