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博麗霊斗~その弐~




 事実改変。たったその四文字が、通常ではあらゆる干渉を受け付けない俺の弾幕を切り伏せた。

 

「やるな……」


 俺は驚愕した。そして、力に尊敬も抱いた。

 自分が自身にかけた強力な強化が意味をなくされる。そして、相手に掛けようとした弱体化も容赦なく斬り伏せられた。

 流石だと、彼は思う。それでこそ、自分が年若く未熟だった頃から、反則と呼ばれ続けていた男だと。


「天龍『インドラ』」


「紅夜『乱舞』」


 言葉とともに、生み出された霊力で編まれた無数の雷を、紅の斬撃がかき消した。

 そして、首元におまけとでも言うように生み出された斬撃をギリギリで回避した。


「紅夜『一刃百花』」


「『炎界』」


 相手の斬撃を相殺する目的で俺は炎球を放った。

 星おも飲み込む巨大な炎球を前に、相対する男は迷いなく、その腕から生えた刀を振る。

 瞬間、俺は自分の右の眼球を容赦なく斬り潰した斬撃に後退する。

 目前の炎球は、全く侵されすらしていなかった。


「界避『異世』」


 その言葉が聞こえると同時に、俺は背後へと飛び退く。

 だが、それで防げないことも知っている。だからこそ、あらゆる束縛から逃れる、博麗の能力を使用して、自身を曖昧にして回避する。

 そうして、不確定となった己の体を、実体の斬撃が幾筋も切り裂いた。

 目前の炎球、あの中にあの男がいるはずはない。そう考えて、気配を探る。そして、見つけた先へと唱えた。


「魔符『天魔神創の終』」


 巨大な星を、その相手へと打ち出す。

 銀河いくつでは足りない巨大な星。その相手の顔を覆い隠すように、その星は向かっていった。

 だが、それの向こうで、俺は男が笑っていたのを見た。


「紅夜『落涙』」


 頭上から、紅の流星が落ちてきた。

 曖昧になった俺を貫くために、己も曖昧にした刀剣の流星が。

 俺はアイギスの盾を構えて、攻撃を防ぎ、手に持った剣を振るう。

 しかし、振るう頃には男はもう、実体化していて、己の攻撃は通り過ぎていった。


「このっ」


 俺は振り下ろした剣を翻し、実体となってもう一度攻撃する。

 それを刀で受け止めて、目の前の男は満面の笑みを作っていた。


「やあ、どうした少年」


 その口調は随分と懐かしい。

 いつの話だ。知っているぞ、どうせ一緒に戦ってきたあの次元妖怪にも同じような趣向を行ったのだろう。

 そう考えて、懐かしさとともに、嬉しさが湧き上がってくる。

 もっと、もっと、戦おう! もっと、もっと、楽しく!


「希望『妖神尾王』」


 俺はそう唱え、盾を放棄して、吹き飛んでいったもう一方の剣、龍神王武を呼び出す。

 そのまま、格闘戦へと、持ち込んだ。



      ****



 近接戦闘、遠距離戦闘、そこに対して、俺が彼ほどの技術を持っていないのは百も承知の上だ。

 そう、だから、ここで押されているのも、承知の上だったのだ。


 受け止めた剣撃の影から飛び出した『斬脚』と呼ばれる切断能力を持つ蹴りを事実改変で回避し、そのまま目前から消え失せ、背後に出現した彼の上段を受け止めて、正面からの付きを素直に受けて、唱える。


「地球紀『生命の木』」


 開いた口から生命の系譜を伸ばした。彼が飛び退ろうとしたところを、にっこり笑ってこう唱える。


「悠久『終わりなき始まり』」


 時間の引き伸ばしにより、彼の動きが止まった。普段は喰らわないであろうコレを、俺を刺し貫いて拘束した状態ではなったのだ。

 彼の顔面めがけて光る木が延び、貫く。そして、その貫いた顔面の中から更に光の幹を出現させる。

 剣を引き抜き、距離を取って、引き伸ばした時間を戻すと同時に彼の顔面が弾けた。


 だが、弾けたと思った次の瞬間には、その顔は無傷に戻っていた。

 それを目視した次の瞬間には背後から殺気が来る。

 俺は背中から紅夜を生み出して、自分の急所に来た居合い斬りを受け止めた。

 『滅殺』という技術だったか、振り向きながら、俺はそう考える。

 そして、振り向いた俺の腹部に向けられた掌底を、刀で斬り裂き、それもかまわないと突き出してきた腕に、俺は吹き飛ばされていた。これは『衝撃玉砕』という内部から破壊する技か。


 吹き飛びながら振り向いて、彼の拳に向けて俺も霊力を流した刀を振るう。

 打ち合った拳と刀。拳を込められた霊力をそのまま吹き飛ばし、その効果であった内部破壊を打ち止めにする。そして、さっきから消えていた片方の剣が上空から降ってきたのを、肩から生み出した刀で弾いた。

 攻撃を防ぐ、防ぐ、反撃する。さっきから相手の攻撃への対応ばかりになっている。

 あまりに近づかれれば、やはり俺の不利は当然だった。

 だが、それで負けていれば俺は此処にに立っていないと言いたいところだ。


「はあああああああ!!」


「擬似『物真似師』」


 本来は道具を使っている人物の技術を習得する技だが……今回はコレでいい、これなら。

 振り下ろされる剣を見る。『絶剣・龍爪』といったか、地球を叩き割るだけの威力を持った一撃。

 それを視界の端に見ながら、俺は彼の後方へと駆け抜けた。


 彼の驚愕の顔を見て思う。

 楽しい、と。

 そして、相対する彼も俺と同じのようで、振り向いた彼の顔は笑顔だった。


      ****


 二人はお互いに向き合った。

 幻想の勇者は先程の目の前で起こったことを反芻していた。

 彼の目に映ったあれは、いつぞやで見た彼の弟子の不思議歩法そのものだった。

 一足で5キロを抜けるあれならば、先程の芸当も合点がいく。


「他者の技法を習得する……能力か」


「そのとおりだよ。全部使いこなせてるわけじゃないから、使えるものだけだがな」


 それでも十分だろうと幻想の勇者は考えていた。

 技術がないのが、それを扱いこなせないのがこの男の欠点だったのにと。

 だが、男の方もそう思われるのを承知だったからこそ使ったのだ。

 少年、もっと力を出さないと、やられてしまうぞと。圧力をかけるために。

 そして、その思惑通りに、勇者は唱えた。


「希望『幻想の勇者』」


 自らの異名を冠する文言は、その言葉を唱えられると、大きな音は出なかったにも関わらず、空気は大きく震えた。

 同時に、勇者の体から、さらに光の翼が、伸びる。そして、二本の剣はどこかへと吸い込まれていき、一冊の本と、七つの球体が、出現する。


 その本を見て、男はしたり顔で言った。


「ははぁ、つまるところそれが『未来日記』ってやつだな?」


「ご名答、そして…」


 球体が浮遊して、挨拶とでも言うように、砲撃を放った。

 それを縦に切り裂いて、男は頷く。


「『陰陽玉』と。随分と豪華な装備だね」


「そうだな。じゃあ、ちょっと味わっていけよ」


 そう言って、勇者は攻撃を開始した。




 此処までは、前座だった。

 周囲の銀河は破壊すれども、宇宙の壁も壊さない。

 いつものじゃれ合いだ。

 だが、今の二人はそんなじゃれ合いではなかった。

 砲撃が舞う。斬撃が踊る。

 全てが通常であれば一撃必殺の威力を伴って、相手のついでというように宇宙を破壊していく。


 狙うはお互いの隙、それを作るためにとにかく自身の渾身を込めて二人はお互いの武器を使用する。

 勇者は自分が持つ未来日記へと目を向けた。変わるはずがないと言われていた描かれた未来はこの瞬間も書き換わり、目で追えぬ速度で切り替わる。

 彼は思った、やはり描かれた未来などあてにならないと。掴むのは、己の手によるのだと。

 そして、その未来を掴むために、唱えた。


「光『王の意思』」


 球体が彼の周囲を回転する。光の輪となったそれから、光る波動が、周囲に放たれた。

 相対する男はそれを見て、目を細め唱える。


「確率『定める未来』」


 光の輪が、男の目前で止まった。

 勇者はそれを見て、更にその波動に霊力を込める。


「あああああああああ!!」


 たまたま偶然の定められた未来。それを、変えようと勇者は吼える。

 その声に呼応するように波動は、定まった未来を侵していき、壁を砕いた。


 割れる音がすると同時に、男の視界を光が覆う。

 覆われた視界の中で男は唱えた。


「紅夜『事象反転』」


 砕かれた未来を、事実を捻じ曲げ違う未来へと定める。

 そして、自分も同じものを発動したという事実を作る。

 男を覆った波動が、相殺され、弾けた。


 その弾けた光を目くらましに、勇者は駆け抜けた。


「闇『王の剣』」


 手には消えた剣を持ち、それに光球を融合させ、陰陽の力と、七千世界の霊力をそこに乗せる。

 そして、斬りつける直前に、目前の男と、目があった。男の目は笑う。彼の目も笑う。

 そして、応えるように、男も唱えた。


「昇華『異能世界の英雄』」


 その声の直後、二人はお互いの武器をぶつけ合った。

 紅の刀と、輝く剣がぶつかり合う。

 二人はお互いの顔をにらみながら渾身の力で鍔迫り合った。

 そして、睨み会う二人の顔が、一瞬、黒く嗤う。

 刀と剣が、お互いの胸を背後から突き破っていた。


 睨み合っていた二人が消える。

 そして、お互いを背後から突き刺した両者はお互いの顔を見て、苦笑した。


「ああ、やっぱり。決め手になるわけないよね」


「そうだな、俺の方も同じ感想だよ」


『そうりゃあ、そうだな、当然だ』


 二人はお互いに笑いあった。そして、同時に血を吐いた。

 お互いを見合って、普段通らないダメージが蓄積しているのを確認する。


「なあ」


「あんだよ」


「これ、やり続けたら死ぬっていうか…消えるってことでいいんだよな」


「そうだな。死しても蘇生が俺達の性質だが、コレは俺達の根本にまでダメージが入ってる。やり続けたら、消えるな。文字通り」


「そうだよなぁ。死体も同時に消滅するだろうし」


 二人は、もう一度お互いの目を見た。

 男は勇者に問うた。


「悔いはあるか?」


「ない」


「やり残したことは?」


「ない」


「いま、最後にやりたいことは?」


「お前と『神谷零』と、戦いたい」


 神谷は目を閉じる。

 そして、微笑んだ。


「そうか、いいだろう。博麗霊斗。自己『己の意』」


 それは相手の言った願いに対する了承。

 そして、宣戦布告。

 霊斗は神谷の答えに歓喜の声を漏らした。


      ****


 相手が己にすべての力を向けていることに歓喜を覚えた。

 好敵手として、何度も戦ってきた。

 仲間として、何度も肩を並べてきた。

 友人として、何度も酒を一緒に飲んできた。


 そして、常にいつか最後に戦うであろう相手として、己の全てを向けてきた。

 だからこそ、次はないと決めてやってきた此処で、この力を見れたことに歓喜したのだ。

 その力に敬意を払い、そして、それを越えたいと願い、それを超えるのだと決意して唱えた。


「博麗『救世の守護者』」


 己が纏うはそれまでの全て、博麗霊斗という者の根から広げた全ての力だ。

 俺は手に何も持たないで、拳を構える。

 目前にいる相手が頷いて、俺に合わせるように、拳を構えた。




 膝をつくという感覚を久々に味わわせてくれた相手だった。

 最強と歌われて、暇つぶしに乏しくなって、最愛の人とどうしようかと悩んでいた時にかかった招集での経験だった。

 長い長い生の内、彼女以外の平和過ぎる日常は色あせて見えていた。

 色あせないものもいる、それでも、若い頃に比べて、それらは全て色がない。


 そんな中での集まりだった。

 そこには、知り合いの次元妖怪少年がいて、別世界の新しい主人公となる者がいて、黒幕がいて、そしてそこには、自分の膝を折れる相手がいたのだ。

 楽しかった。久々の強敵は自分の暇つぶしとして、新たな知り合いは飲み仲間として、褪せた世界はまた色づいた。

 だからこそ、そんな景色を見せてくれた彼に、博麗の名を持つ救世の英雄に、この力を送ることにして、俺は拳を構えた。




 二人は何もない空間の中にいた。

 向き合う。駆け出す。

 お互いが渾身の力で振り絞った拳を振るわんと、打ち付けた踏み込みの衝撃が、合図となった。

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