大丈優一~その5~
はい。コレにて八雲さんとのコラボ修了です。
あー書いた。めっちゃ書いた。
私はコレで満足だ……。
「俺の全力。お前に見せるよ」
そう零が言った時、飛び上がりたいほどの衝撃と歓喜が渦巻いた。
今まで追いかけるばかりだったその背中は、ついに自分に目を向けたのだ。
だが、俺はそれを表に出すまいと我慢した。まだ、早い。
本当に喜ぶのは、それを顔に出すのは、この男の全力と戦えてからだ。
「見せてくれ。お前の全力を、俺も見たい」
「わかった」
俺の声に応えて、零は宣言する。
「融合『刀剣世界の英雄』」
それに応えるように、零の持っていた刀、紅夜が液体状に解け、吸い込まれるように零の肌に入っていった。それに合わせるように零の体には紅い道が通っていく。
「その剣も、さっき手に入れた確率能力と同じものだったんだな」
零が体から放つ力が増したのを感じて、俺は告げた。
「ああ、とある世界で手に入れた、因果を叩き斬る世界の最終兵器の一つだ」
零は頷きながら腕を振る。その手にはいつの間にか黒い刀が握られていて、それの軌跡に合わせるように、今までの戦闘で崩壊していった宇宙が元通りになっていった。
「宇宙がないという事実を斬った」
「ああ、今まで当たらなかったりしたのもそれだったのか。それで、まだ終わりじゃないだろう?」
俺は問う。もちろんと、零は答えた。
「だが、後一つだけやることがある」
零はそう言って、俺に手を向けた。
「お前がまだ、受け入れきれていない力があるという事実を斬る」
そう言われると同時に、俺の中で力が溢れた。
溢れたものは、俺から漏れ出て、俺の体を包んでいく。
「少年、それがお前がお前として、行き着く先だ」
そう、零は断言する。
俺は自分からあふれる力の正体を感じて頷いた。
これは幻想郷なのだ。俺が守ってきた幻想郷の全てだ。それらがいま、全て自分の中にあった。
「ああ、これが、俺の守ってきたものだったのか」
俺は自分の内にあるものを感じて、そう呟いた。
そして、あふれるように、俺の目からは涙がこぼれた。
溢れる理由はわかっている。自分の守ってきた全てが自分にあるのだ。その全てが自分へと手を差し伸べてくれているのだ。その全てが自分を受け入れてくれているのだ。
あふれる感情に流されるまま、俺は涙を流した。
その俺を、零は静かな目で見つめ続けていた。
少し、時間がたった。優一はもう涙を止めていた。
優一の姿は、今までの終世からうって変わり、翼も何もない変色した瞳もない。
紛れもない、大丈優一という人間だった青年のそのものの姿だった。
零と優一はお互いを見つめる。
「約束だ。みせよう少年」
零の言葉に優一が頷く。
零は静かに唱えた。
「自己『己の意』」
零の体を覆っていた紅の道が、全て消え去った。その姿は普段の零と変わらない。
何を纏っているわけでもない。その姿はただただ、人間だった。
「コレが俺だ」
零の目は、優一をまっすぐに捉えた。
優一は、自身のうちに渦巻く無限の力を感じながら目前の男の目を見つめ返した。
「そうか、行き着くと、誰しもそうなるのかもしれないな」
「そうだな。そして、拮抗していることも、感じているはずだ。
お互いにこの先にもうスペルと名付けられるものを作れるか不明だ」
「そうだな。俺も今の自分からあふれるものに名前も形も見つけられない」
二人は静かな気持ちで語り合っていた。
そして、優一は泉を構える。零は刀を構える。
合図は要らない。
剣で、刀で、互いの体を斬ることは叶はなかった。
剣撃が、交差する。拮抗した実力の中、届いた刃はお互いの体に触れて吹き飛んでいった。
吹き飛んだ刃につられ、二人は後ずさった。そして、互いのことを見つめて、二人は武器を捨てて走りだす。
「れいいいいい!」
「ゆういちいいい!」
お互いの攻撃がお互いの頬を殴り飛ばした。
口の中を切った二人が、口からでた血を吐き出す。
無言で、二人は殴り合った。
ひたすらに、ひたすらに、ひたすらに、ただ殴り合う。
二人の間に、言葉なんていらなかった。
二人の拳は、お互いの体を砕いた。
殴り合いの末に、近接戦での分がある優一が押し始める。
だが、零が膝をついたときには、優一も限界ギリギリであり、足を引きずり、片腕は骨が砕けて力が入らないでいた。
人生の内、追いかけ続けた相手の顔を見て、隣に並んだ相手の顔を見て、優一は走り出す。
渾身の一撃を、全身全霊の一撃を叩き込もうと、優一は右手を振り上げる。
「くらええええええええ!」
優一の声が、響く。
その拳が零の顔に届く、そのギリギリで、優一の拳が消え去った。
「なっ!?」
優一が、目を見開く、その瞳の先で、零はその身から二つのものを湧き出させていた。
それは、色彩と根源、二つの世界に根ざすものの欠片。その欠片の力で、優一の根源は中和されていた。
「おらあああああああ!!!」
消え去った拳の軌跡をなぞるように、零が雄叫びと共に拳を振る。
優一の頬に打ち当てられた拳からは倒れた。
立ち上がることの出来ない優一は仰向けになって、零を見る。
その優一の顔を、零が見下ろしていた。
「優一」
零は声をかけるその呼び方はいつの間にか戻っていた。
優一は応える。
「満足だ。ここまでやれて、お前の全力が見れて、満足だ」
その言葉に、零は頷いた。
「そうか。良かったよ」
「ただ……」
優一は、だが、それでも言葉を濁した。
最後の不安がまだ残っていた。元々、この戦いはそのために始めたはずだったのだから。
「ああ、そうだな」
零はわかっていると頷いた。
それに、今度こそ満足して、優一は目を閉じる。
「最後は頼んだ。俺を、なんとか、してくれよ…」
「任せておけ」
その答えを聞いて、優一は意識を手放した。
****
優一が、眠ると同時、俺はあいつの中で膨れがるそれを見ていた。
妖しく灯るそれは、妖怪というものの底にある力。
次元妖怪である優一が、根源を開放したならば、妖怪という彼に混じったものも大きくなるのは当然だった。
その力は、黒い渦となり、英雄然とした優一の無限の守護の力を覆っていく。
残ったのは、先程までの英雄としての力の残らない、一匹の妖怪だった。
「ふむ、優一でないお前には、興味はないよ。優一がどうしても行き着いてしまう未来の姿よ。俺の役目はお前のトドメだけだからね」
俺はそう告げながら、目の前の妖怪など無視して、右手を見る。
先程優一の最後の攻撃を消し去った反動が残っている。
零にするという己の根源の力それによって世界の根へと道を開き、事実改変で根源と色彩の力を引き出し、確率能力でそれを操る。代償は自己の方向性。自分を薄める代わりにそれだけの力を操ることを可能にする。と言うかこれなかったら負けていたなぁ俺。
さすが優一と言ったところか。確率能力も事実改変も、俺が元々持っていた力じゃない。それがなければ最後の一撃でやられていたのだ。
「体術の訓練真面目に考えてみるかなぁ」
行使は姫ちゃんが良いだろうか……国下もありだが。
どうするかな……と、悩んでいる俺の前に、妖怪の腕が迫っていた。
「邪魔だ」
その、先程までの技も、何もないその腕を軽くあしらって、俺は妖怪の腹部を蹴り上げた。
吹き飛んだ妖怪が、転がった先で俺を睨んだ。
「優一の技術の欠片も引き出せない、意思もない。ただ暴れるだけの災厄が、優一の気配させながら俺を睨むんじゃねえよ」
俺に向けて飛んでくる妖怪を見据えて俺はそう毒づいた。
そして、その首を掴んで叩き落とし、言い放つ。
「その男は、意思のないお前などに与えてやるにはもったいない男なんだからな」
そして、その言葉のまま、右手を振り上げた。
「トドメだ。次元妖怪。長い生に訪れる災厄の、その終わりを保証しよう」
振り下ろす拳は優一を覆っていた殻を霧散させた。そして、その内にあった優一の本来の顔が出現する。
俺は地面に腰を降ろして息をついた。
「あーつかれたあー」
これで、保証はつけた。いつか、この男が勇者として成長し、究極になろうと、妖怪となって成長し、究極になろうと、どちらを持って成長しようと、俺は優一を終わらせる。
優一の危惧する災厄は、起こらないという未来を証明した。
****
「ただいまー」
優一さんをぶっ殺してくると言って出ていった兄さんが、優一さんと一緒にぼろぼろになって帰ってきた。
兄さんの力の薄さと、優一さんに残る無理にこじ開けた力の残り香を感じればだいたい察しはつきました。
「おかえりなさい兄さん。随分と荒療治にしたんですね」
「いやぁつい楽しくて」
そう眉毛をハの字にして笑う兄さんはどうしようもなく可愛くて、私は膨れながらも何も言えなくなってしまう。
「国下さんが言ってた無限結界技は完成したんですか?」
そう聞いて……兄さんははっとしたように私を見た。
そして、不味いと言ったふうに口に手を当てる。
「忘れてた」
「決着付けることに熱くなりすぎです。兄さん」
「いやあ、ごめんよう」
「もう…仕方ないですね」
頭を掻く兄さんに呆れながら、私はその体に治療を施していく。
優一さんは少々傷がひどかったので私の能力の方で治療中だ。
断じて、兄さんに触れたいから優一さんを能力でやっているわけではない。断じて。
「さ、できましたよ」
「ありがとう。姫ちゃん」
治療の終わった兄さんは、自分の手のひらを開いて感覚を確かめながら私に微笑みかけた。
ああ、格好いい。
「兄さん、そしたら、ご褒美がほしいです」
「そうだね……仕方ないなぁ」
そう兄さんは私に笑いかけ、その顔が私に近づいて……えへへ。
目を開けたら二人が楽しそうにしていた。
どれくらいだったかというと、それはもう俺がいることなんぞ忘れていると確信するほどに。
「にいさーん。ほらあ~もっとなでてくださいよ~」
「しかたないな~。ほら、こっちおいで」
「兄さんに包まれてる気がします……」
「俺も、姫ちゃんがすごく近くに感じられて……」
おおう。熱い、熱いよ……声をかけづらい……。
どうしたものかと、悩む俺に、突然の助け舟は玄関から、来た。
「お父さん! 何かあったの!?」
それは、彼等の愛娘、呼白ちゃんだった。
前に見たときと変わらない小さな少女は、親二人を見て、その奥にいる俺を見て、呆れたようにため息を付き、半眼で親二人に告げた。
「優一さん困ってるけど?」
「ああ、そうだった!」
「あ、思い出しました!」
やっぱり忘れていたのか…いつもの二人のペースに俺は湧き出てくる笑いに口を抑える。
「おお、優一。目が覚めたか」
「ああ、世話になったよ。零」
「いや、あと一つあったのを思い出した」
え? 俺は何だったっけと首をかしげる。
「無限結界の奥義」
「あ」
忘れていた。二人共、途中から熱くなりすぎだったのだ。
「今からでも、良いなら、完成まで付き合うが?」
「そうだな。お願いするよ。零」
姫さんにお礼を言って、呼白ちゃんに挨拶をして、二人で笑いながら外に出る。
息をついて、零と相対し、俺は泉を構えて、唱える。
「八式奥義!」
その技の完成は夕刻頃。俺の今までできなかったその技は、一つの技となってそこに完成したのだった。
****
「じゃあな」
「ああ」
そう零と言葉をかわして、俺は扉に足をかけた。
ふと、これは今生の別れになるような、言いようのない感覚があった。
俺はもう一度、零に顔を向ける。
「なあ零」
「なんだ?」
そう首を傾げた零に、俺はサムズアップした。
「『また』な」
「おう! 『また』会おう」
そして俺は自分の世界へと帰った。
また会えるその日を、楽しみにしながら。




