大丈優一~その4~
踏み込んだ二人の剣撃は、それぞれに特徴がある。
優一の攻撃は次元能力と生命力を持つ剣である泉を利用した、多方向からの不規則斬撃。その斬撃は防御しようと回避しようと、斬撃自身がそれを察知しそれを次元能力を使用しすり抜けて対象を襲う。
対する零の攻撃は刀がもつ事象改変能力を使用した複数斬撃。その攻撃は成功した防御を成功しなかったものへと、失敗した攻撃を成功したものへと改変して対象を刻む。
お互いの攻撃が、それぞれの力を利用した回避不能の絶対攻撃。
宣言をする二人は喜々として、その攻撃を打ち合った。
自分と相手の位置を全く逆の位置へと入れ替えて、二人は止まる。
技は、遅れて発動した。
先に発生するのは優一の斬撃。
零の周囲へと、妖力を乗せた斬撃が次元能力を介して斬撃だけとなって襲い来る。
だが、その斬撃は零に届く前に掻き消えた。それは事象改変による防御。
それに続くように零の攻撃が発生する。
優一へと振られた斬撃は、零の元々の能力により複数ある空間を超える斬撃として、優一へと放たれた。
その攻撃は事象改変によりかならず当たるその斬撃を、優一はわざと受けた。
斬撃の当たった優一の体、それは協力な斬撃により複数に分断……されなかった。
薄皮一枚だけ斬られた優一は、自らを襲ったその斬撃を、自分にヒットした瞬間に別空間に移動させることで回避した。
二人は驚かない。お互いにできることは大まかに把握している。相手がどう回避するかなんてお見通しだ。
だから、回避された後の攻撃も当然に用意している。
零の周囲には移動された自分の斬撃が、優一の周囲には掻き消えた自分の斬撃が、お互いが放った攻撃がお互いに返されていた。
しかし、自分の攻撃を食らう二人ではない。お互いの攻撃は、二人が振り返りもう一度目を合わせたときにはすでに掻き消えていた。
「小細工の読み合いだと決定打にならないな」
「そうだな、お互いに手の合わせすぎ、共闘のしすぎってとこだな」
二人は納得して頷き合う。
二人であれば、返した攻撃が消えた直後には、相手の周囲にもう一度斬撃を加えることも、結界を展開して空間圧縮に掛けることも、次元の狭間に相手を叩き落とすことだってできた。
だが、そんな手の内も彼等はお互いに知っている。何が来ようと対応できるカードも持っている。
どれだけ知られようと常に裏を掛けるとすれば、零の嫁や養娘の二人そして永琳や尾都といった一部の例外のみだろう。
「小細工は意味がない勝負なら、勝敗は純粋な力と技術による」
「よって、俺達は互いの持てる能力と力でもって、攻撃し防ぎ躱すことだけを行うこと」
『ただひたすらに打ち合って、ただひたすらに防ぎ合い』
二人はお互いにルールを確認しながら、もう一度、剣を構える。
『最後に立ってた方が勝ち』
合図など、そこには存在しなかった。
構えた二人は自らの後ろに展開したお互いの強力無比な武力でもって、最初の戦争を開始した。
星が、銀河が、強大な攻撃の余波に屠られ、消滅していく。
人二人の攻撃は、お互いの立っていた星なんてものの数秒で消滅させ、無重力の空間で打ち合いは、周囲の星々、それも数光年は離れている星まで巻き込んでその作られた世界に影響を与えていた。
「六結界『六重無限弾幕』」
「空震『鼓動する宇宙』」
五行魔術に光属性も含めた弾幕が宇宙を入り乱れる。瞬間移動まがいの移動を行える二人に実質標準なんてものは無駄の一言。周囲への回避不能の全体攻撃が基本なのだ。
零の対応により、空間が歪み、その場に散らばっていた弾幕のエネルギーを宇宙の一箇所にまとめ上げ、それはそのまま消滅した。
すぐさま、零は反撃を返す。
「乱反射『光の海』」
「六式『光結界』」
零から放たれた無数の光線が、空間のあちこちでねじ曲がり宇宙を埋め尽くしていく。
その海の如き光の中で、優一は結界を張り、その光を減衰することで耐えた。
普段彼等が手合わせする幻想郷の上など彼等にとっては足元のおぼつかないところで戦っているようなもの。
そう、今の彼等はそれら全てを取り除いた状態にある。
「八色奥義『エターナル・ブレード』」
「紅夜『なかったはずの事実』」
優一の八結界それらすべてを纏った優一の泉が、普段の十キロの範囲を大きく通り越す剣となって、宇宙を切り裂いた。
それは、宇宙の端を切り裂いて、その向こう側の人が知らない場所への口を開く。
だが、それだけの攻撃の中を、零は無傷で立っていた。攻撃は自身に当たったという事実を切り裂き、当たらなかった事実を作り出した。
「始原『原初の光』」
「八式『無限結界』」
優一の目の前で、零は指を鳴らす。そして、宇宙の中にもう一度宇宙を作るだけの熱量を作り出した。
熱量は宇宙にあったはずのもの全てを蒸発させ、分解し、焼き尽くしていく。
それだけの熱量の中、物理的影響と切り離された結界の内側で優一はそれをしのいでいた。
「覚醒『終世者』」
その中で彼は唱える。
それに合わせて、身は左右の目に藍と橙の光を灯し、背には同色の翼を創造する。
幻想郷の守護者の真の姿が、そこにあった。
「優一、それがお前の全力か」
「ああ、そのとおりだ」
零の問いかけに優一は頷く。
そして、それを聞いて零は目をつぶり、ある場所へと声を届けた。
『女神の夫から世界の外へ、約束の事態だアレを返せ』
その言葉に宇宙も消えた何もないところから、白い光が零の目の前に出現した。
零は、それを掴む。それと同時に、彼の身を包んでいた強烈な力が、全て消え失せた。
「昇華『異能世界の英雄』」
そう、零は宣言する。その姿は、彼が初めて力を手に入れた世界での最後の姿。
世界の最終兵器を手に入れ、自分の愛するものを手にしていたいがために手に入れたもの。
「零…それは…」
「確率変動の世界最終兵器系能力との融合だ。普段はどこぞの奴らに貸し出してる」
コレを使うのは、今だからだ。彼は言外に優一に伝えているつもりだった。
そして、優一はそれを、正しく受け取っていた。
「じゃあ、全力で」
「ああ、いくらでも来い」
お互いの目を見合って、二人は同時に唱えた。
「確率『定める未来』」
「大地終焉『コキュートス』」
優一の周囲の全てが凍りついていく。溢れ出す力が、時間を、空間を凍らせていく。
だが、その脅威の力は、零の目の前でピタリと、止まった。
二人はお互いの目を見つめる。
最初に口を開いだのは、優一だった。
「これは、己の内から溢れる力、俺の根から湧き出す守護者としての希望の力」
それを聞いて零は納得したように頷いた。
「それがお前の持つ全てになりえるものだ。だが、まだ完成じゃない。無限結界が纏い切れないのも、俺を押しきれないのもまだそこから出しきれてないからだ」
零は続ける。
「お前の力は、たまたま偶然どれほど出力しようが此処までの範囲しか影響しなかった。そういう未来を確定した」
「そうか、俺が何をやろうとお前の定める未来に収束されていくわけだ」
「そのとおりだ少年。まだ、それでは足りないということだ」
零の言葉に優一は目を閉じて、深呼吸をする。そして、彼は今までの戦闘を、そのまま振り返った。
全ての技が、いつもよりも強力になっていた。そう、普段なら今の状態でなければ起こせないようなことも、先程までこの状態にならずとも起こすことができていた。
そう先程の技も本来なら空間や時間にまで影響を及ぼす者ではないはずなのだ。
優一は考えるこのバトルのそもそもの目的は、自分の安心を得ること。だから、それが影響しているのだろう。このまま、どこまで言ってしまおうという気持ちが、己のタガを外そうとしているのだ。
「ああ、このまま行かせてもらうよ。どこまでも」
「こい少年。いくらでも付き合ってやる」
「あああああああ!!!」
優一の雄叫びが響く。
あいつは今、自分の溢れる力で、俺の定めた未来を破ろうとしていた。
宇宙が、俺達の戦闘でボロボロだったその場所が崩れていく。
宇宙の外側、人類が知らないその場所にいることすら気に留めず、優一はその溢れる力を俺へとぶつけづつけていた。
「でも、それは違うんだ」
正確には、合っているが間違ってる。
俺は自分から溢れ出す力の轟音で聞こえていないであろう優一にそれでも声をかける。
「俺の感覚だが、お前の根源は守護なんだ。土地を守護し個人を守護し自分を守護する。お前が誰かを守るときに力が溢れるのはそういうことなんだ。そして、守護される側はお前に力を貸す。だって、今の妖怪のお前ができたのは、お前が幻想郷という土地を守ろうとしたときに手に入れたものなんだろう?」
優一の生み出す力はドンドン強力になっていく。だが、さっきも言った通り、どれだけ出力しようと、その影響は俺には届かない。
俺は、腕を振るう。同時に、優一が放出していたすべての力が優一の後方へと、向き直った。
消え失せた力の向こう側で、優一は剣を構えたままの姿で俺を睨んでいた。
「少年、お前は今何を守ってる?」
「自分の安心を」
「お前が新しい今までと別の力を手に入れた時、それは何を守っていた?」
そう聞いて、優一はっとする。
優一の力は、何を守るのか自覚してこそのものだ。
俺の目の前で、優一は宣言した。
「俺は、今、俺のたどる未来での幻想郷をの無事を確かめるために戦う。俺は未来の幻想郷を守るために!」
「それで良い」
そう、優一が宣言した瞬間、俺に阻まれていたすべての力が、元に向き直った。
俺はその力に手をかざす。
「割れろ」
そう言うが、向かう力は止まらずに、俺の体半分を消し飛ばした。
「届いた!」
優一はそう叫ぶ。
「ああ、届かせたな」
消え去った半分を戻しながら俺は頷く。
口からは久々に入った本当のダメージに血が吹き出していた。
それを拭って、俺は優一に言う。
「少年、見せるよ」
「え?」
優一は突然の声に首を傾げる。
その間の抜けた顔を見ながら俺は続けた。
「俺の全力。お前に見せるよ」




