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白谷磔~その三~

はてさて、今回の終わり方はちょっと変速で行ってみました。

手慣れていない引きだったのでクオリティが低いのはご容赦を。

磔くんの場合はこんな感じのほうが格好いいと思ったんです。


二戦目の結果は言いません。どうなったかは皆さんの中で。


さて、次はトリです。八雲さん家の大丈優一くんです。では、また次回に。






 跳ね上がった戦闘能力、その速度と力は、余裕を持って接していたエルンから、真面目な顔を引き出した。


「頑張ったのね……」


 吸血鬼のその顔は、自分の息子を見るかのようなそんな顔。

 磔の頭には、その顔が、未だに母のイメージと重なって見えて、苦い顔をする。全てを理解されているかのようなその感覚に磔はやりにくさを感じていた。

 

「くそっ……」


 刀を振るう。跳ね上がった力と速度、しかし、それでも吸血鬼はそれに対応していた。

 自分の引き出せる限界、それに余裕を持って戦える相手、磔は悔しかった。

 引き伸ばした時間での修行。強敵との戦い。守りたいものを守れるように、強くなって、強くなって、強くなって、辿り着いた先。それでも、それの上を行く存在。

 よく知っている兄妹や、師匠などではない、自分より強い輩がいすぎる事が彼には辛かった。

 そして、その辛さが彼の動きを鈍らせる。


「温い」


 エルンの槍が、磔の刀を弾き飛ばしていた。

 そして目の前には槍の穂先。


「あ……」


 息が詰まった。目前に掲げられている槍が、自分の届かない壁が、彼には恐ろしく見えた。


「私が貴方より強いことがそんなに怖い?」


 吸血鬼の表情は笑顔だった。

 不意に向けられた笑顔に磔は呆気にとられた。

 そんな彼をエルンの手が包んだ。あやすように撫でられる背中。そして暖かさ。

 それは、悔しさで煮えていた磔の頭をゆっくりと冷やしてくれた。


「ごめんなさい」


「いいの。二十二歳で若いんだから、年長者に甘えなさいな」


 しばらく、その方に顔を埋めた。

 起き上がった磔は、ゆっくりと体を放して、飛んでいった刀の代わりにもう一本の刀を出した。

 『真桜剣』全長三尺三寸ほどの、少し短めの刀。西行家の元庭師にもらった刀だった。

 緑のオーラが揺れる。エルンを見据えたその目から、恐れは、悔しさは、消えていた。


「もう一回」


「ええ、承ったわ」


 お互いに、もう一度武器を構えた。


「手加減は……」


「抜きよね。わかってるわ。本気で……」


 言葉の途中で、エルンが消えた。

 磔は動体視力によらない、気配でそれを追う。

 そんな磔の真後ろで。


「殺してあげる」


 吸血鬼が笑った。



 怒涛。槍の攻撃はそれそのものだった。

 今までのは本当に自分を引き出すためのものだったのだと磔は確信する。

 そして、その攻撃をギリギリで捌きながら、エルンへの策を同時に巡らせる。

 それが決定した時、磔は動いた。


「疾風『断空斬』」


 唱えるとともに磔は体をひねる。同時にやりを弾くほどの竜巻が発生した。

 そして、その竜巻の中から、磔はもう一枚宣言した。


「乱符『スピンシュート』」


 竜巻の内側から、エルンに向けて、豪炎が発射された。それは最初のスペルであるフレアスパークの強化版。

 だが、これで倒されるエルンではない。

 エルンは槍を剣へと持ち帰る。『マザーズレーヴァテイン』と呼ばれるそれは、彼女の魔力を纏い、強力な破壊の力として、豪炎を切り裂く。

 その炎が切り裂かれた時、磔はすでにエルンの背後へと移動していた。

 そう、スピンシュートはブラフ。ファイナルブラスターを破られた時点であれで狙うつもりなど毛頭なかったのだ。

 背後の磔にエルンが振り向く。しかし、もう遅いとでも言うように、磔は刀を振るうと同時に宣言した。


「幻符『イマジネーションブレード』」


 振り抜かれる刀に緑の力が纏わりつく。そして、それは能力無効の力となって、エルンを襲う。



 はずだった。



 刀が振り抜かれる寸前で、その力は砕けた。


「は?」


 驚く磔の動きが一瞬止まる。

 その一瞬に、エルンは一撃を加えた。

 吹き飛ぶ磔はその場で体勢を立て直そうと力を込めて、漂う殺気に中断し、転げた。


 瞬間、磔のいた場所が弾ける。


「あれはフランの」


 磔は目を見開く。その現象を彼はよく見たことがあった。

 あれは、紅の吸血鬼の片割れの力。

 磔はいあまま予想していた彼女の能力を確信した。『あらゆるものを破壊する程度の能力』『運命を操る程度の能力』彼女はダブルスキルホルダーだと。

 それならば、夢想封印があたかも無いかのように避けられたことも、先程のスペルブレイクも、ファイナルブラスターが通じないことも納得がいく。弾幕が着弾する前に、破壊すればいいし、弾幕の来る場所を見てしまえば良い。

 磔は、その事実を受け止めて、動いた。


「蹴符『スクリュードライブ』」


 磔がそう宣言する。同時に、六つの光球が出現し、磔の周りを浮遊する。

 そして、それを浮遊させたままに、磔は、走り出した。



 向かってくる磔を前に、エルンは能力を使っていた。

 磔の周りを浮遊する光球は蹴るためのもの。高速回転は触れるものを弾く効果を持つ。

 エルンは未来に有るその光球の効果を除きながら、先程までより格段に減った未来の道を見る。

 先程まで、エルンが地面を破壊するまで、未来は多くに分岐していた。その分岐が減ったということは、彼が私の能力に確信を持ち、作戦を立てたということ。

 そして、それはエルンの予想通りだった。その確信したことまでもが。


「はあ!」


 掛け声とともに振り抜かれた刀をエルンは槍で受け止める。

 そして、次に磔が取る行動は、光球……ではなく、もう一枚のスペル。


「蹴符『ディフュージョンシェル』」


 霊力を伴って振り抜かれる足を、エルンは左足で受け止める。

 ドレスのスカートがその衝撃で、ビリビリと破れ、弾けた。

 内側から現れたのは、レディスもののジーンズ。


「あら、破けちゃった」


 そう言って、エルンは足に力を込める。

 瞬間、霊力の込められたはずの磔の足がそれ事、吹き飛ばされた。


「おわあ!」


 飛んでいく、磔が、前を向いた時、エルンは先程まで来ていたドレスを裾から破り捨てた所だった。

 出てきたのはよく見るTシャツと先ほども見た、ジーンズ。それを来たエルンは「しんどかったー」と伸びをしていた。


「それは……」


「これが私の戦闘服よ。ドレスって不便なのよね」


 娘はドレスのほうが好きみたいだけどと付け足してエルンは笑う。

 磔はどれだけ先があるんだと頭を抱えていた。だが、それで彼の作戦が変わるわけではない。


 というより、もう作戦は成功済みだった。

 磔の周りには、もうあの浮遊していた光球は存在しない。


「集まれ」


 その声とともに、エルンの周囲には光球が出現していた。

 それはよく出来た浮遊する檻。


 運命操作にはそれを封じる檻を作る。それが一つ目の対処法だった。

 そして、当然、エルンはそれを破壊しようと動く。


 エルンの槍が動く。それを見越して、磔は能力を発動させた。

 光球に当たったエルンの槍が、破壊の力がいとも容易く、弾けた。


 エルンは、はっとして磔を見る。

 それに、笑顔で答えながら、磔はもう、目の前に迫っていた。


「奥義『幻狼風雷破斬』」


 それを唱えると同時に、磔は刀を振るう。

 檻の中のエルンは槍を弾かれた今、剣で防ぐしかなかった。

 金属音とともに、攻撃が防がれる。しかし、この奥義は一撃がヒットすれば防がれようと関係なかった。


 エルンの周りを回転しながら、磔の剣戟が檻の中を攻撃する。

 そして、斬撃がすべてを覆うほど繰り返され、全てをかき消して、磔は止まった。

 檻の中には切り刻まれたエルン。

 膝をついたエルンを前に、磔は刀をしまう。


「強かった。でも、二つともみた事あってよかったよ」


 そして、そこまで言って、檻を解こうとし……



 殺気に反射でスペルを唱えていた。


「夢想添生!」


 瞬間、存在が曖昧になり、半透明になった磔を、幾つもの攻撃が貫いた。

 振り向いた先にいたのは、先程目の前にいたはずの吸血鬼。


「酷いわ、あれで負けなんて。分身はさっきも見せたはずよね?」


 エルンの笑みには殺気がみなぎっていた。

 磔の背中に悪寒が走る。それを肯定するように、エルンは目前に現れた。


「恐れなさい、人間。そして、若き神よ」


 エルンに磔は刀を振るう。存在を曖昧化した、触れられない自分を使った捨て身の戦法。

 だが、エルンはそれをも、笑う。


「ぬるい」


 刀が振られる前に、エルンの手が触れられないはずの磔を捉えた。

 握力で痛みの走る手を剥がそうと、磔が手をつかむ、それを見ながら、エルンは唱えた。


「女王『デビルズマザー』」


 魔力がエルンから、噴出した。

 身を焼かれる魔力に、磔はもがく。それを眺めて、エルンは種を明かした。


「曖昧なものに触れる時は自分を曖昧化する。その回避は対処がしやすく分かりやすい。

 他者のスペルや能力を扱えるやつはこちらにもいる。そういう輩は一つ一つの能力を相手の来歴から予見して対処を組み立てる。

 そして、無効化能力は……そもそも使う相手を誤認させれば問題ない」


 魔力の噴出が止まる。

 焼け焦げた磔が、そこにいる。

 そして、それをおろして、エルンは周囲を確認する。


「分身は……なしね」


 そして、答えのない磔にもう一言告げる。


「限界を超えろと言ったはずよ。何を寝ているの?」


 その言葉に、誘発されるように、焦げていたはずの磔の口が、動いた。


「友符『ヘクセンチア』」


 それは、彼の友人のスペル。

 四つの破壊不能の柱を生み出すラストスペルの一つ。

 その柱を動かして、磔はエルンを攻撃する。


「それでいいわ」


 エルンは頷いた。そして、それに向かって片方の手に剣を構える。

 そして、もう片方には、小さな赤い石。

 石は『賢者の石』とある魔女の最高傑作。万物を含む究極の魔法装置。

 それを剣にはめて、彼女は能力を使用する。


 紅い力が剣を覆った。それは破壊の力。

 それはあらゆるものを破壊して、大きく大きくなる。


「魔剣『マザーズ・レーヴァテイン』」


 唱えると同時に向かってくる四つの柱に向けて、剣が反発した。


 柱は折れない。破壊されない。それは、友との友情のために。

 それは、次第にただの破壊を押しつぶす。

 しかし、それに向けて、エルンは笑顔で一枚唱えた。


「紅夜『紅き月』」


 声とともに周囲は、夜は、紅く染まった。

 磔は思わず頭上を見る。そこには紅い、紅い月。

 月は妖かしの力だ。そして、紅は吸血鬼の、エルンの力だ。

 破壊が増す。

 それと共に、柱にヒビが入った。


 磔が、声とともに霊力を柱に込める。

 柱のビビの進行が止まり、修復し、更に押し付ける。


「まだ……まだああああ!!」


 磔はありったけの霊力を込めた。

 自分に飛んでくるその破壊を超えて、今の自分を越えるために。

 だが、その一歩手前で、限界に阻まれた。


 柱が消え失せる。

 何よりも先に、磔の霊力が潰えた。


「終わりよ」


 冷たい吸血鬼の声が響く。

 そして、目の前には破壊の剣先が。

 磔は諦めないと、腕に力を込めて叫ぶ。


「終わるかアアアアア!」


 瞬間、そこ手は何かの力。

 それを見て、エルンは微笑んだ。

 エルンの剣を、その腕で掴む。破壊の乗ったそれを受け止めて、磔はなおも足に手に力を込めた。

 何かの力が溢れた。


 エルンの剣が砕けた。




      ****



 磔はベッドの上で目覚めた。


「ここは?」


 起き上がって、当たりを見回す彼の目に、見知らぬ男が目に入る。

 燕尾服を着た男は、磔に小さく頭を下げ、ゆっくりと話し始めた。


「ここは紅魔城の客室です。おはようございます磔さん。私は執事のウィルと申します」


 磔はお茶の効果が切れて、眠っていたのだと知らされる。

 ああ、そういえばと彼は思い至る。

 戦闘の結末。あまりにもあっけないそれを思い出した。



 最後の一撃、剣を破壊した一撃。その攻撃は、結局はエルンへは届かなかった。

 当たる前に逸れたそれを見ながら、エルンは言った。


「貴方のそれが私に当たる未来を破壊したわ。もうその攻撃は当たらない」


 その言葉とともに、吹き飛んだはずの槍が、彼の首に突き立てられ、彼の意識が吹き飛んだ。



「負けたのか……」


 ため息を付いて……磔は顔を俯けた。

 それに、ウィルは首を振った。


「いいえ。磔さんは勝利いたしました」


「は?」


 どう考えても自分のほうが気絶して終わったはずだと磔は首を傾げる。

 それに、ウィルは答えた。


「今回の目的は磔さんが限界を超え、強くなること。戦ったのは主とでしたが、あなたが勝負していたのは貴方自身でございます」


「つまり、俺は限界を超え、自分に打ち勝ったよって、勝利したと?」


「そうです」


 磔は唸った。当初の目的からすればそのとおりだったのだが、本当にそれで良いのかといや待てと、かれは腑に落ちない気分が残っていた。

 そんな彼を助けるようにウィルが口を開く。


「『もう一度を望むのであれば、受けるわよ』と主から言伝がございます」


「え? ホントに!?」


 それはありがたい申し出だった。

 磔は飛び上がって、ウィルに連れられてエルンのいる場所へと走る。



「もう一戦!」


 庭に飛び込んで最初に言われたその台詞に、エルンは笑う。

 そして頷いた。


「いいわよ。喜んで」


 そして、もう一度宇宙への扉が開かれる。

 飛び込む足は一度目よりも軽やかだった。



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