白谷磔~その一~
これは別のお話。
強力無比な力を持つものは誰も消さず、その悲しみを持って復讐を決意しなかった歴史。
さて、その別れた部分の話は今回の所は別で話すとして。今回はそこから繋がるお話。
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「あの種族生き残ってたんだ……どこぞの混沌もえらく凝った種族を作ったもんだ」
彼は、そう呟いた。
「滅ぼしたやつは……まぁあの生き残りに任せるか。消すなら消すで構わないし、一旦は忘れると言うならそれもまた構わない」
そして、彼はまた世界へと目を向ける。
「どの世界にしよう」
浮かぶ宇宙の群れ、と、枝。
重なりと枝分かれの連なった不思議な構造体。
とある夢の表層すぐ下で、兄妹の片割れを作ったものは思案する。
そして、指を鳴らした。
「決めた。まだ、発展途中のやつにしてみようかな」
それは構造体の一つを指差して、それを振るう。
「発展途上の主人公君、ご案内」
その顔はかの妹ですらため息をつく、期待の笑顔だった。
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紅魔館。幼い吸血鬼の少女が治める、湖の向こうに存在する真っ赤な洋館だ。
その門の向こう、洋館の裏庭、その端。
そこに古井戸が有る。少しばかりの妖力を帯びた、化け井戸だ。
それの底。井戸の底がつながっているのは冥界でも地獄でもなく、別の地域。
幻想郷とは別に、外界から遮断された特殊な結界にて守られた、古き西の都市。
そこには誰も居らず、その中央に荘厳と立地するのは、紅の城。
『紅魔城』
紅き幼い月が最も敬愛するものの住まう城。
その玉座の間で、その穴は開いた。
「うわあああああああああ!!!」
落ちてきた人物は叫び声を上げながらもとっさの判断で空中で立て直し、床へと着陸する。
ズシンという地響きとともに着地した人物は急な着陸でしびれた足を擦る。
青年は白谷 磔。どこぞの兄妹の片割れの友達の弟子であり、月の現指導者の夫。まぁ、別世界のという注釈は入るが。
「どこだここ?」
彼はそう言いながら周囲を見渡す。
そこは荘厳な石造りの広く広く、そして、狂うほどの紅に染められた間。
磔は自分が立っている位置が、床が赤すぎて気づかなかっただけで、一本のレッドカーペットの上だと気づいた。
その先へと、彼は目を向ける。
そこには玉座。
そして、紅のドレスを着た、金色の吸血鬼。
「ようこそ」
一言。客人を招く言葉。それに含まれた強烈な威圧に磔は拘束された。
その目は捉える。その悪魔の如き大きな翼と、そこに散りばめられた七色の水晶を。
「貴方は、どなたかしら?」
声は優しくされども威圧を込めて、青年へと再度向けられる。
その紅のドレスがふわりと揺れたかと思った瞬間に、青年の目前へと出現する。
吸血鬼の顔が、青年の目に写った。
瞬間、青年は息を呑む。その顔はあまりにも美しかった。
磔は動けない。そんな彼を前に、吸血鬼は手を伸ばす。
その目が閉じられた時。その頭に優しい掌の感触。
「へ?」
磔は素っ頓狂な声を上げた。
彼の頭の上には吸血鬼の手が置かれていて、まるであやすように彼の頭をなでていた。
磔ももう撫でられるような歳ではない。彼は慌てて身を引き、顔を上げる。その先には満面の笑みの吸血鬼。
「ま、答えは決まってるわね。ようこそ紅魔城へ。零の被害者さん」
その笑顔は、彼の遠い記憶をくすぐる。
全てを包むようなその笑みは、誰しもが描く母親の笑顔に重なった。
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紅魔城の複数あるバルコニーの一つに磔はいた。
城のバルコニーなだけあって、広く豪奢に作られている。
陽光が強く差す中、彼はバルコニーの柵に肘をついて庭を見下ろしていた。
先程の邂逅から数分。彼は道がわからないだろうからと魔術で先に此処についていた。
「お茶用意するから」
と言っていた吸血鬼はまだ気配もない。
あの吸血鬼、彼には彼女が誰なのか大体予想がついていた。
紅い建物。赤い服。コウモリの羽に虹の水晶。そして金髪。エルン・スカーレットと名乗ったその名前から考えれば、彼女があの姉妹の関係者だと言うのは容易に想像できた。
だが、彼は此処を知らない。そして、エルンも知らない。ならば、出る可能性は一つ。
「まぁ、どう考えたって世界移動か」
磔は自分の結論に頷いた。
先程の彼女が呟いた言葉「零の被害者さん」その言葉から察して、彼はあの兄妹の兄を思い出す。
自由奔放すぎて翻弄され、自分の師匠である男に強いと評された者。
あの時の一瞬。全くの不意打ちで、引きずり込まれた大きな異空間の穴。能力の発動も何もかもを封じられたの一瞬を思い出して、磔は苦笑いする。
「あの人が強いって言うはずだ」
以前見た、男のヘラヘラした顔が本当に余裕から出たものなのだと、磔はため息をつく。
「俺もまだまだだなぁ」
強さを求める青年はそう呟いた。
そこに。
「じゃあ『まだまだ』を少しでも縮めてみる?」
背後から、声がかかった。
慌てて振り向いた彼の視界には、先程まで気配すらなかった紅の吸血鬼。
その側にはテープルセットとパラソル。そして、それに似合わない急須と湯呑み。
エルンは椅子に座り、湯呑みを片手に磔を見ていた。
「縮められるのか?」
磔は問う。その目は真っ直ぐに吸血鬼を見た。
エルンはもったいぶるようにお茶を一口飲んで答えた。
「ええ、もちろんよ。強くなるにはね」
強いやつと戦って限界越えるのが一番よ。そう言ったエルンは少し意地悪げに言った。
「ま、何にせよ。まずお茶よ」
そう言ってエルンは磔に湯呑みを差し出した。中身は、緑茶。
磔は湯呑みを受取り、もう一つ用意してある椅子に座る。
試しに飲んだ緑茶。その味に磔は目を見開いた。
「なんだこれ!?」
一口の見込んで、思わず彼はそう叫んでいた。
お茶が不味かったのではない。それを飲んだときに体中の活力が広がったからだ。
「薬効のあるお茶よ。運動前にはちょうどいいでしょ?」
ちょうどいいなんてものではない。そう磔は思った。
快調も快調、異様に軽い体は普段の倍は動けそうな気さえする。
「これ本当に大丈夫なやつなのか?」
磔は若干の不安を感じて吸血鬼に問うた。
それに、微笑んエルンは答える。
「どこまでが大丈夫の範囲なのか知らないけれど、安全かそうでないかで言えば、安全よ。
あくまでお茶としての効果で薬というほどではないもの。因みに、永琳いわく副作用は切れたら眠くなることだそうよ」
効果は緊張と弛緩を調整するってところね。そういって、吸血鬼はお茶を飲み干した。
磔はほんとに大丈夫なのか少し迷って、もう、一口飲んでしまったのだしと、自分も飲み干すことにした。
一気に飲み干した磔に、エルンはもう始める? と、首を傾げた。
金髪が揺れる。かしげられたその瞳は、覗き込むように見えた。
「……やるよ」
「わかったわ」
頷いた磔に、じゃあ、こっちよ。と、エルンは指を鳴らす。
それと同時に周囲を光が包み、次の瞬間には一面の荒野に出た。
「零御用達の、競技用宇宙よ。気兼ねなく、破壊しちゃって構わないわ」
そう言って、エルンは磔に笑いかけた。
期待が、その顔からはにじみ出ていた。磔がどのように戦うのか、見たくて仕方がないと。
それに答えるように磔は剣を取り出す。イクスブレードと名付けられた。自身の鍛えた剣。それを構えて、彼はエルンを真っ直ぐに、見据えた。
それに答えるようにエルンも槍を取り出す。圧縮された高密度の魔力の槍を。
そして、優しげな表情で微笑む。
「来なさい坊や。世界の広さを、教えてあげる」
それに、乗せられるように、磔は踏み込んだ。




