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ハイド・天之御中主・ミラ ~その伍~

以上でハイド君編終了です。

意外と多くなってしまいました。和解エンドは……ロマンです。


あっ、ハイド君のコラボの扱いですが、これはIFであり、

実際の正史は、ハイド君はどこぞの兄妹に嵌められて遊びに来た感じになります。

変わったのは上司やらの不穏な会話という伏線が多少削られることくらいでしょうか。

特に問題はありません。

残っている方々のコラボを書かせていただいたら、そちらも描くかもしれません。


次回は颯人さんとのコラボになります。



 出し惜しみはしない。

 そう、ハイドは考えていた。


 ハイドは徐々に追いつめられる状況を打開する一手としてそう決断した。

 リスクが大きいのは、ハイド。出し惜しみしないと決めたとはいえ、分量を間違え、振りまきすぎればもろとも消えてしまうのだから。

 しかし、このままではジリ貧で押し負ける。

 ハイドは未だに寒気の残る背筋を正す。少しの不安を深呼吸で内に溜める。


 そして、強烈な踏み込みとともに、それをその場に置いた。

 龍神力の放出をあわせ、物理法則を無視した速度で、呼白に迫る。


 振るわれる黒い刀を前に、呼白の目は、その全てを越える速度に反応する。

 

習作『天之時断』


 それは、虹の翼の使う、物理法則を無視した光速を越えるための一枚。

 加速する彼女は、振るわれる刀を躱す。そして、断ち切られた空間と空間の境界に消える。


 ハイドは先ほど使った空間術の応用、であるその行動を、見逃さなかった。

 そして、この警戒されている状況で、一番狙いやすい場所を守る。

 自身の顔を覆う鱗の仮面を、彼は自分で剥いだ。


 瞬間、その芽の部分に当たる『隙間』から、斬撃とともに、呼白が出現する。


 その現れた姿に向けて、ハイドはもう一度取り出したライフルを構える。

 銃弾を放つ。それに己の炎を纏わせ、放つ。


 飛んで行く弾丸は紅い軌跡を伴って、呼白へ向かう。

 空中の呼白はそれを前に消え、呼白はハイドの目前に現れた。

 銃弾は無視される。彼女とハイドを結ぶ直線を、すでに移動したように呼白は現れた。


 顔面は、再生を始めたとはいえ、まだがら空き。

 とっさにハイドはライフルで顔を覆う。が、その防御をまるで無視して、彼の顔は衝撃とともに吹き飛んだ。

 『終点を与える程度の能力』それはハイドの角の探知を無効化していた能力の一つ、魔術は機動から、攻撃はそう動くところから、移動は体が動き始めたところから。あらゆる過程を吹き飛ばす。

 その間に有る障害は無視される。結果だけを出現させるが故に。


 頭の無くなったハイドの動きが止まる。

 そのまま、呼白は能力を発動させる。


『縁を力とする程度の能力』世界全ての生物の膂力を彼女は拳に込める。

 ついでのように、周囲を吹き飛ばすほど強大なその霊力をありったけに詰め込んで。


習作『天之極撃』


 呼白は拳を振るう。力の化身が宿した果てなき力の一撃を。

 それは動かないハイドの胴体へと直撃し、体を弾き、爆散させる。




 かに見えた。




 突如、ハイドの体から力が溢れだした。


「なっ!?」


 呼白はそこで初めて、顔を崩した。

 後退する彼女を追いかけて、進む。


「負けられない……」


 ハイドのそんな声が呼白には聞こえた。


 赤黒い力が全てを飲み込む中で、それだけははっきりと耳に残った。

 ハイドのいた場所には赤黒い力が球となって渦巻く。


「ハイドさん……」


 呼白はほぼ最後の札であろうその空間を前にその笑みを消す。

 少し前の問答。彼女が理解できないと言っていた復讐心。それは半分嘘だ。

 他を巻き込むことは理解できなかったが、その恨みを彼女は十分に理解していた。

 だから、その空間を出したことに共感する。


「負けられない。当然、ですよね」


 だが、それは彼女も同じことだった。

 負ければ自分の大切な全てがなくなるのだ。なら、それは防がなければならない。


 呼白は顔を上げた。

 その目は、変わっていた。


「その復讐のやりかたは終わりにしてもらうわ。貴方には別の方法をやってもらう」


 口調も変わる。その言葉とともに彼女は球体を見た。

 球体は渦巻いていた。すべてを飲み込む龍神力の奔流として。

 呼白には解っていた。あの中にいる限り彼女には手出しできないことを。

 その中央にいるハイドの顔は見えない。光すら消え失せる球の中心には何も見えなかった。


 その『無』の球体から、攻撃は発生した。


 炎が雷が隕石が、球体から生み出され、四方八方へと飛来する。


「くっ」


 他の場所に飛んで行くものへの対処を優先する。


「習作『肥大する世界』!!」


 彼女は両手を合わせる。それに合わせるように球体と呼白のいる空間がハイドの壊した擬似宇宙へと変化する。

 それは、己を破壊されないように攻撃を受けないように肥大し、己を守り、外の世界と別する。


 呼白の体を攻撃が襲う。躱そうとした呼白の体を、それらはあっけなく削りとっていった。


「あうっ」


 足を取られた呼白が初めて地面に倒れた。


 それを、攻撃が蹂躙する。

 そこに向けて、呼白は目を見開いて、力を発動した。


『境界を操る程度の能力』によって作られたその口は。蹂躙する攻撃を飲み込んだ。


 その向こうで、呼白はもう一度発動する。。

 

 球体は龍神力により守られる。では、そこにおなじ龍神力をぶつけたら?

 同じ力はお互いを喰い合う。そして喰いあった力はお互いを消し去る。

 

 ハイド自身が放った『力線・雷火龍神波動砲』。あれを、呼白は使う。


 スキマから、それは放たれた。


 さらに、呼白は手を緩めない。四方八方へと飛ばされる攻撃にスキマを重ねる。

 攻撃は火砲を取り巻き、追加される。


 絶死空間を削る砲撃が此処に作られた。


「ミラ『雷火龍神波動砲』……偽」


 その砲撃への迎撃を、呼白はスキマで利用しながら、球体へと激突させる。

 そのまま、中央を超えて、それを貫かせた。

 球体は弾けるように消え去った。同時に、中央にいた。ハイドが落ちる。

 自らの攻撃を返されたその体はあちこちが吹き飛んでいたが、それでもまだ回復し、意識を取り戻し、呼白へと、顔を向ける。


「『凍てつく波動』」


 それは、ハイドの最後の一手、龍神力の放出。それに合わせるように彼は飛ぶ。

 迎撃も何もかもを無効化する波動に乗っての一撃は、防御を許さない一撃となって、呼白に向けられる。


 だが、その一枚に、彼女は最後のスキマを開けた。

 そこから飛来したのは一発の隕石。ハイドが放った攻撃の一部。


 ハイドの目が見開かれた。


「あれを貫くのに、使いきったと思った?」


 もしもを考えてとっておいたの。そう、呼白は言った。


「貴方の望みは此処で折るわ」


「やってみろ!」


 そんな彼女に向けて、ハイドは構わず刀を振るう。

 それに頷き、呼白は消えた。


「神谷『』」


 その一枚を、彼女は唱えた。


 それと同時にそれは有った。

 力でもなく、エネルギーでもなく、概念でもなく、物体でもなく、虚像でもなく、あらゆる全てというものを全く内包しない、あらゆる方向性の無いもの。その欠片。


 先行するハイドの物を利用した攻撃が、凍てつく波動を打ち砕く。

 そして、その後で刀を振るおうとしたハイドを前に根源の欠片は、声と同化し、彼女を根源へと巻き戻した。

 そして、ハイドの一撃が振るわれた後に、彼女はハイドの背後に『はじめからいた』ものとしてそこにいた。


 そして、振り返るハイドを前にして、能力を使った。


『神を呼び出す程度の能力』にて武御雷をその身に宿し。


『白黒つける程度の能力』にて攻撃は当たると判決を付け。


『密度を操る程度の能力』にて周囲のエネルギーを収束し。


『永遠と須臾を操る程度の能力』にて認識できない時間を利用して。


『風を操る程度の能力』にて風神の風を呼び起こし。


『嵐を操る程度の能力』にて風神の風を嵐へと変え。


『時を操る程度の能力』にて須臾の時間を極限まで引き伸ばし。


『奇跡を起こす程度の能力』にて都合の良い状況を出現させ。


『霊力を操る程度の能力』にて世界の許す限りの霊力を集め。


『凍結させる程度の能力』にて引き伸ばした時間を固定化し。


『縁を力とする程度の能力』にて全生物の膂力を上乗せし。


『運命と破壊を司る程度の能力』にて自分の勝利の運命を探し。


『理を追求する程度の能力』にて運命を探すタイムラグを省略し。


『源を生み出す程度の能力』にて魔力を帯びた水を呼び出し。


『五行を操る程度の能力』にて他の属性を束ね。


『発現する程度の能力』にて『死』という概念を呼び出し。


『世界を管理する程度の能力』にてそれらすべての成功を歴史に書き記し。


 全てを束ねて相手の認識できない、全てが彼女に支配されたその場所で、彼女は一撃を放つ。


『終点を操る程度の能力』にて、それら全てはすでに終了したという結果を残して。


 ハイドの体をあっけもなく弾けさせた。




 散り散りになったハイドのいた場所に小さな球体が有った。

 龍人の核。それがある限りハイドは蘇生する。

 それを、呼白はつかんだ。

 後一瞬握ってしまえば、それは終わる。


「ハイド……」


 彼女はそれを掲げる。そして、深く息をして、それを手放した。



     ****



 龍人は、目覚めた。

 それは、少女の足の上で。


「目が覚めましたか?」


 少女は目を開けた龍人の顔を覗き込み問うた。

 龍人は今の状況を信じられないと呆気にとられた。


「呼白さん……あなた、バカですか?」


少女はそうですよと頷いて続ける。


「私はおバカよ。殺されかけたけど、貴方を恨む気持ちはないし、消す気も、途中で失せたわ」


 まぁ貴方の復讐がわからないわけじゃないしね。と、少女は此処で明かす。


「やり方に賛同できないだけよ。強力な割に随分使い勝手の悪い力ね」


「調べたんですか。龍神力を」


 龍人は膝の上で、良くやったものだと感心する。


「宇宙は私の一部。その記録ゆわゆる『アカシックレコード』等と言われるものには、ちゃんとそれが記されていたわ。それの出来方や、今どういう状態か、後は龍人がどういうもので、どういう目的を持っているかとか。随分面倒な来歴よね」


 なんて、少女は呑気に言った。


「随分他人事に話すんですね。僕はまだ動けます。また、暴れるかもしれませんよ?」


「いいよ。今度こそは消してあげても。一対一なら負けるつもりはないから」


「貴方の能力の大体の推測をつけていても?」


 龍人は試すようにそういう。しかし、少女はそれに微笑んだ。


「ええ、つけていても。切れるカードは多いほど良い。使い切れないほうが良い。そうでしょう?」


 少女の顔に感じられたのは余裕だった。

 龍人は、先程までに使っていたあれも、まだ彼女の手の一部でしか無いことを悟って、ため息をついた。


「わかりました。このやり方は諦めることにします」


「あら、随分と素直ね」


 少女は意外そうに呟いた。できればもう一戦も有りかもと考えていたから。

 だが、今度はハイドが微笑んだ。


「一族が消えて、目が覚めた先の世界を、神々への感情に任せて消してしまいました。

 だから、私は止まれなかった。あの消えた命に理由を付けなければ、申し訳が立ちませんでした」


 あんなにも暖かな生活だったから。と、ハイドは遠い過去を眺めてその顔は悲しみをにじませる。


「復讐心はあります。諦める気はありません。でも、このやり方はもうしたくありません。

 僕が消して続けてきたものは消してはいけないもので、僕のしたことはあまりにも罪深い」


 少女はその告白を黙って聞いていた。


「負けられないといったことに偽りはありません。負けられないという意思を持って挑まなければそれは復讐心への偽りになる。

 でも、もしそれでも負けたなら。止まって楽になりたいというのも偽りではありません。

 止まる理由はできました。自己満足であり、消した人たちは許してくれないかもしれません。でも、僕は……」




 もう誰も、消したくない。それは涙とともに絞られた、願いだった。




    ****


「私が手助けします」


 しばらく泣いていたハイドが泣き止んだ時、呼白がそう言って創り出したのは小さな扉型のペンダントだった。


「これは?」


「私特製、世界移動用ペンダント『アカシックドア』よ」


 呼白は笑う。


「アカシックレコードの記録を利用して、貴方の目的を達成できる場所へ連れて行ってくれるわ」


「でも、僕には龍神力が」


「大丈夫。考えて作ってあるわ。これは対象者を転移させるのではなく、対象者の前に移動用の入口を作るの」


 しっかり復讐しちゃって。呼白はいたずらっぽく言った。


「世界の運営が残っていますが……」


「あら、そこは大丈夫よ。あんなの知り合いのちょっとした人に言えば補充してもらえるし」


 その目は笑顔。だが、その奥は……いや、口にはすまい。

 ハイドはそれに少し気圧されながらも、素直にお礼を行った。


「ありがとうございます」


「いいのよ。だって、出来るならさっきの願いは叶えたいし、歴史を覗き見した私個人としては、あれを消しても痛くないもの」


 神話の神々を消えても構わないと呼白は言った。

 嘘ではない。彼女の母は、それを支配した物達とそれらの間に存在した上位者であるし、その神々すらも、彼女の本体から伸びる彼女の一部だ。


「伸びてしまった爪を切るようなものよ。おもいっきり叩き潰しちゃっていいわ」


「分かりました。その言葉に甘えます」


 膝から起き上がったハイドは、先程まで頭を預けていた膝があまりにも小さく、そんな少女に寝かしつけられていた自分に少し赤くなった。

 それを、呼白はクスクスと笑う。


「ハイドは可愛いね」


「え!? そ、そんなことは……」


 ハイドは面喰らっていた。その赤くなった顔をすこしばかりそむける。

 それをまた可笑しそうに笑いながら呼白はハイドの胸を押す。


「気が向いたらまた遊びに来てね」


「あ……はい。お世話になりました」


 ハイドはそう言って、作られたペンダントを握る。

 次の瞬間に、ハイドの側にはペンダントと同じ形をした扉があった。

 此処を通れば、どこぞの宇宙。十二神や創造神のいる場所。


「行ってらっしゃい」


 扉を押すハイドの背中にそう声がかかった。

 それは、いつぞや迎えてくれた世界で聞いたあの温かい声と同じで。


「行ってきます」


 ハイドはどこか晴れ晴れした気持ちで、それに返事をした。

 扉が閉まったのを見届けて、ハイドは呟く。


「ありがとう。本当に」


 その目前には、神々の城。

 そこを前に、彼は復讐者として、笑みを浮かべた。

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