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ハイド・天之御中主・ミラ ~その肆~

繰り返し書きますが此処に出ているハイドくんは原作のハイドくんとは別ルートのハイドくんです。


 力を込めて消えた二人、しかし、激突したわけではなかった。


「習作『二連水波龍王』」


 否、踏み込んだのは片方だけ。もう片方はバックステップついでに魔法を詠唱していた。

 呼白の放った二匹の水龍が合体しハイドを襲う。二匹なのは彼の防御を越えるためだった。

 が、そんなものに怯むハイドではない。

 戟の一振りは難なく水龍を両断し、彼はもう一歩踏み込む。


 赤黒い刃が振られる。

 だが、水龍が防がれることは、呼白は承知済みだった。

 振られる刃を前に、彼女はもう一度詠唱する。


「習作『裁定の木槌』」


 カンッ、大きな木槌の音が響いた。

 そして、ハイドの攻撃が呼白を斬った。

 かに見えた。


 が、そこに手応えはない。

 そして、微笑を浮かべる呼白がいる。

 その体は、あらゆる防御を貫通するその攻撃を、攻撃が当たる部分を消滅させることで、躱していた。


 『裁定の木槌』白黒つける程度の能力よりだされたその判決は可能な方法を持って実現される。

 今回の判決は『呼白はハイドの戟に触れられない』

 そして、その判決は、触れる部分が消滅し、消滅した側から再生するという形で達成された。


 振り切ったハイドの顔に、呼白の拳が迫る。

 ハイドは龍神力を放出するとともに、地面を蹴り、刃を返した。


 それを、全く意に介さずに呼白は手を伸ばす。

 返された戟は、呼白の体に当たらない。

 ハイドには距離がなかった。


「まだっ」


 ハイドは後退しながら戟を自分の尾でつかむ。

 そして、自由になった両手で、空間を切り取った黒い刀を取り出した。

 黒い刀が閃き、呼白の下半身が吹き飛ぶ。その瞬間、ハイドは足を取られた。


 ハイドの足元にはちょうどよい大きさの岩。

 『坤を創造する程度の能力』によって、動かされた大地の一部。


 ハイドの、龍人のアドバンテージである角は、今回もまたしても、それを逃した。

 足を取られ、減速した目の前に、上半身だけの呼白がいた。


 『水神波拳』で水を纏わせた拳、そこに、『百撃一手』を重ねて拳を百連打に、変える。


 一瞬は百瞬を防げない。

 ハイドは目前の少女の顔を見た。

 頬を染めた、乙女が、それを振り下ろした。





「痛いじゃないですかぁ」


 振り下ろした先、呼白は腕の先は燃え盛る炎に消し飛ばされていた。

 下半身が再生しきった呼白は、焼きつくされて一糸まとわぬ体で、楽しげな表情で笑う。


「黙れ」


 ハイドは笑顔の呼白に低く唸り、炎を噴出する。

 呼白はそれを踊るように躱し、距離を取り、黒いワンピースを生み出す。


「乙女の裸を見るなんて、イケナイ人ですね」


 呼白の顔は少女だった時の冷静な無表情はない。

 彼女は先の無くなった腕を見ながら頬染め、笑う。さながら恋する乙女のように。

 その表情はハイドの鼻についた。


「何を、笑っているんですか?」


 ハイドは低く言った。

 それに、明るく呼白は返す。


「何って戦闘の快感を」


 意味がわからない。そう、ハイドの内心は毒づいた。

 戦闘の高揚は確かにハイドにも理解できた。しかし、それがそこまでの表情を引き出すものだとは思えなかった。

 戟は当たらない。それに龍神力を纏わせたとしても、触れなければ効果はない。

 ハイドは戟をしまう。一番扱いやすかったこれを削られたのは彼には痛かった。

 龍神力、それは何にも勝るジョーカーだ。最終的に壊してしまうこの世界。龍神力で壊すのは簡単なことだ。しかし、迂闊に振りまけば、先ほどの戦場のように世界が破壊される。

 世界を破壊したとして、それでも呼白が追ってきた場合、逃げ遅れて巻き込まれる可能性がある。その事実が、ハイドの力を止めた。

 だが、それで止まるわけにも行かないのだ。ハイドは刀を閃かせる。


 呼白はその剣筋を予測して、躱す。

 その、躱した先の空間が、斬れた。そして、それは入れ替わる。


 切断された呼白の真横の空間が、ハイドのいた空間と交換される。

 真横に出現したハイドは呼白に向けて刀を振りあげ、


 呼白の顔の直前で止まった。

 彼の目前には水の槍。ハイドの眉間に当たる位置に堂々と設置されていた。

 ハイドはそれを察知したわけではない。彼の勘が進んではいけないと後押ししたがゆえに止まったのだった。


「あら、当たりませんでした」


 楽しそうな笑顔が、刀の一本線の先に見えた。

 ハイドの焦り騒いでいた内心に悪寒が走った。

 どうしてこの女は目の前に刀が迫っていながら一歩も動かないのか。

 ハイドには理解不能な行動。先程からの戦闘で防げないことも回復力を奪うことも、全て知っているはずなのに。


「あなたは、相手の攻撃が恐ろしくないのですか?」


 ハイドは動きを止めたまま呼白に問うた。

 呼白は顔を崩さない。


「恐ろしいですよ。でも、それが気持ち良いでしょう?」


 その笑顔は狂気じみていた。

 その狂気がハイドを背筋を凍らせ、思い切りに距離を取らせた。


「ハッ……ハッ……」


 距離が開くのに合わせる様に溢れた冷や汗に釣られるように、彼は小刻みに肩で息をする。

 彼の頭は冷えていた。ただ、感情が揺れていたがゆえに、そこには微かな底冷えが残っていた


「理解できませんか?」


 呼白は自分を見たまま動けないハイドに語る。

 その笑みは崩れない。今でも、どうやって己を殺すのかと期待の眼差しが灯っている。


「理解できません。する気もありません」


 それに、ハイドは正直に答えた。偽ったところで意味は無い。

 焦りや不安、そういったものは認めてしまったほうがかえって落ち着ける。

 そうですか、と呼白は残念そうに口をとがらせた。


「皆分かってくれないんですよね、バトルの痛みって気持ちいいのに」


 ふわふわと揺れながら呼白はそう言って微笑む。

 でも、と彼女は続けた。


「貴方のその一族が滅んだことへの復讐心も、私は理解できないのでお愛顧ですね」


 ハイドはそれに言い返しす。


「理解しなくて構いません。神に庇護されるだけの人間に、僕の考えを理解しろなどと言いませんよ」


 と、そこまで答えて、ハイドは違和感を覚えた。


「なぜ、僕の復讐の理由を知っている?」


 その問に呼白は気付きました。と悪戯の成功した子供のように微笑んだ。


「知ってるからですよ。始祖龍人、ハイド・天之御中主・ミラ」


「僕の種族も……」


 ハイドは言いようのない不安が大きくなるのを感じた。

 呼白の能力の予測がつかなさ過ぎるのが、その一因だった。龍神力という、あらゆる力を吸収する力を持つが故に、あらゆるものから守られた彼の素性を知っており、角で探知不能な移動に魔術、極大の霊力に未来を見通すかのような動きに、事象の絶対確定、出来ることがありすぎる彼女に不安を感じた。

 能力の複数装備もわからないでもない。だが、その数が多すぎるのだ。群れか何かと勘違いするほどに。


「貴方は……」


 一体何だ、という疑問をハイドは口から出そうとして、引き止めた。

 聞いても意味は無い。それに、知ったところで攻略法が見つかるわけではないと知っているから。

 だから、刀を構える。得体のしれない恐怖を払拭することも目的として。

 途切れた言葉の先を、別の言葉としてハイドは紡ぐ。


「此処で消えてもらいます」


 それに、呼白は期待の眼差しで笑う。


「やってみてください。期待していますよ」


 そして、その口は小さく動く「最後の龍人よ」と。

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