ハイド・天之御中主・ミラ ~その参~
四つで終わるとか言っていましたが、
もしかしたら五つになるかもしれません。
筆が乗りすぎました。申し訳ありません。
※ここに登場するハイドは本編とはIFのハイドです※
魔法の森上空、青く住んだ空、そこに一つの黒い球体が有る。宇宙だ。
神谷一家御用達の宇宙。様々なところから呼んだ人物たちが此処を何度も利用してきた。
それが、今、割れた。
赤黒い力が黒い球体を砕き、その内側から一人の人物が這い出るようにして出てきた。
「随分と厳重な……」
ハイドはそう吐き出した。幾重にも重なった宇宙と元の世界を阻む壁は、龍神力があるといえど、その数のせいでうんざりするほど手間がかかった。
ハイドは抜けだした先の世界を角で調べる。今度こそ、目的の世界であることを確認してから、彼は先程吸収しつくされた宇宙を見た。
ハイドが見た相手の最後の姿は抵抗なしに隕石の影に隠れるところ。当たったところを見たわけではない。
念を入れるなら確認をとも思うが、もし龍神力に飲まれているのであれば、確かめようはない。
「もう少し、安心はできませんね」
ハイドはそう呟いた。
「そうですね。安心されて無差別攻撃されたら困ります」
そう、呼白は別空間で言った。
隕石が迫った時、彼女はすぐ側に偶然ある穴を見つけた。
それはどこぞの龍が残した別空間。穴を閉じてしまえば先ほどの宇宙と繋がりのないそこは、あの一撃を回避するにはもってこいの場所だったのだ。
そして、負けを演出し、その少しの時間で策を立てるのにも。
呼白は直ぐに頭を回転させる。『理を追求する程度の能力』と名をつけられた、空狐からもらったその道筋を建てる能力を使用して。
「できました」
呼白は頷く。
彼女に切れるカード、隠してあるカードはまだまだ有る。それをふんだんに使って、彼女は相手をするつもりだった。
様子見はもう終わり、そう呟いて彼女は空間に穴を開け直す。
空中へと出現した彼女は、自由落下しながら新しく術を発動した。
「習作『マザーズ・グングニル』」
その声とともに現れたのは紅い槍。
吸血鬼より学んだ槍、それに使い手の力である『破壊の力』を載せて、彼女は放った。
****
ハイドは槍に気づきながらも動かなかった。
呼白が出現したことも感知したし、槍が放たれたことも感知し、その上で動かなかった。
槍が着弾する。その衝撃を、龍神力の放出で打ち消し、ハイドは雷を空へ放った。
が、そこにはもう呼白はいない。
彼女はハイドの後ろにいた。移動の歩法にて、気配を消して。
だが、それに合わせるようにハイドは笑う。
瞬間、ハイドの翼の付け根から炎が吹き出した。
呼白は先程から不意をつくためにハイドの視界の外、とりわけ、反応への猶予が有る背後へと回っていた。
それをハイドは読み、予め罠を施した。
そこに突っ込めば、発動する罠を。
呼白の目が見開く。その目は、その現象を理解する暇もなく、赤に飲まれた。
様に見えた。
呼白はハイドの正面に無傷で立ち、その拳を振り抜こうとしていた。
ハイドはそれをギリギリのところで躱す。空気を切り裂いた大きな音が響いた。
呼白は飲まれそうな瞬間に能力を発動した『奇跡を起こす程度の能力』何が起こるかわからないが、それは確実な有利をもたらす強力な能力。
それは炎に飲まれかけた彼女を誰にも気づかせずにハイドの正面に移動させるという奇跡を起こした。
ハイドは迎撃に戟を振るう。
それを風の変わり身で躱し、呼白は空中へと躍り出た。
振りぬいた体勢のハイドの頭に呼白の蹴りが飛ぶ。それを、ハイドは龍神力を放出して防御した。
物理エネルギーが吸収され、呼白の足が止まる。だが、次の瞬間に、呼白は裂帛の声を上げた。
「せいっ!」
そのまま、呼白は足を引っ掛けるようにして足を振りぬいた。
彼女は感じ取っていた。放出されるエネルギーは一瞬だけ、止まった後はもう一度力を入れられることに。
足によって投げ飛ばされた。ハイドは空中で体を立て直す。
そのまま、彼は翼を広げて彼は両手を広げる。そこに三つの力が集まった。
『力線・雷火龍神波動砲』雷と炎の大きな光の砲。それは当然のごとく龍神力を孕み、全ての防御を打ち崩す。
それを笑顔で見ながら、呼白は空中を指でなぞる。それに合わせるように空間が裂け、グバリと開いた空間の穴に、大きな砲はそのままピッタリと流れ込んでいった。
呼白は上手く言ったとほくそ笑む。『境界を操る程度の能力』によって作られた空間は龍神力を含んだ攻撃を飲み込み、その力に飲まれないように自らを拡張しつづけることで、それを封じ込めた。
そして、撃った体勢のハイドの真下に魔術が発動する。
「習作『五行一閃』」
それはそれぞれが属性を宿した五つの斬撃。
一瞬で閃くそれは先ほどと変わらず、魔力の移動すら無く発動する。
それを、予測して、ハイドは装備を取り替えた。
黒い盾、戟と同じ真っ黒なそれの力は、当たる直前に、彼女の攻撃をあっけなく弾いた。
盾は『破龍四剛罪尾』それは彼が攻撃へと行動を移していない間あらゆる方向の物理攻撃を防ぐ盾。
それは膠着状態を作るにはもってこいの武器だった。
二人の動きが止まる。最初に呼白が口を開いた。
「強いんですね」
素直な感想だった。彼女の知る人物で、彼とまともに戦える人はそうはいないだろう。
その言葉にハイドは一応の礼儀としてお礼と返しを言った。
「ありがとうございます。貴方も、手強いですよ」
呼白は苦笑気味に笑った。
「ありがとうございます」
そして、社交辞令は終わりだとでも言う風に彼女の目は静かに冷える。
「でも、そんなに私を観察して疲れませんか?」
それは、先程からの彼の動きが鈍いがゆえに言った言葉。
攻めてばかり、防げてばかりの自分がおかしいと、彼女は最初から気づいていた。
自分の思惑がうまくいきすぎる。それは相手の術中ということだ。彼女はその手は何度も受けていて知っていた。月の賢者がよく使うからだ。
ハイドは相手が確信してしまっていることにその目を見てもう悟っていた。故に、手を上げて認める。
「バレましたか。でも、疲れませんよ。何度もやってることなので」
「そうですか。じゃあ、今度からはちゃんと攻めてくださいね。あんまりにもスリル満点の快感が来ないからおかしいと思ったんですよ」
そう言って呼白は笑う。その笑顔に偽りはなかった。
「そうですね。次からは容赦しないことにしましょう。
でも、言うとしたら私も言いたいことが、そんなに必死に手札を隠してどうしたんです?」
それは彼女が先程から使っている能力諸々についてだった。
手を変え品を変え、先程から色々と躱す呼白だったが、未だに攻撃には物理と五行の術しか使っていないことをハイドは分かっていた。アレだけの防ぎ方が有るのだから攻撃も多彩で良いはずと、ハイドは予想をつけた。
呼白は隠しても良かった。しかし、彼女は明かす。それがさらに自分に危険を持ってくると知って。
「私もバレましたか。ただ単に切れるカードは多いほうがいいかと思っただけですよ。
出し惜しみしたほうがもしものときに意表をつけるかもしれないでしょう?」
「それもそうですね。ですが、そんなことをしているとさっさと殺されてしまいますよ」
ハイドは言った。
そうですね。と、呼白は頷いた。
「まぁ、私は殺されても死なない人種なので」
「おお、それは珍しい」
軽い調子で言いながら、二人の目は笑っていない。
お互いの目を除いて、何を考えているのか探りながら二人は言葉をかわす。
「このまま膠着状態なのは嫌なので、動いてくれるか、それとも諦めてくれるとありがたいのですが」
呼白は笑顔で言った。それに、ハイドは首をふる。
「申し訳ありません。私にも意地がありまして。諦めるのは無理ですね」
「それは残念です。その防御は多分私には破れないので、どうしたものかといったところですね」
「僕もこれは迂闊に外せませんね。あの不意打ちの連続がまた来るとなると心が冷えます」
二人の緊張は緩むこと無く続く。
だが、このままでは平行線なことは二人共がもう気づいている。
呼白は手をほぐして構え、ハイドは盾を左に持ち替えた。
そして、二人は動く。それは奇しくも、全くの同時に。
呼白の片手に現れた霊力の刀と、ハイドの右手に現れた戟が振るわれる。
お互いの獲物の刃渡りからすれば完全なリーチの外。だが、二人にそんなものは関係なかった。
ハイドの戟に炎が灯る。それは大きな刃となって、刀身を引き伸ばす。
呼白の刀。霊力で出来たそれは究極の斬撃を持って、その斬撃を彼方まで適応する。
二人の刃が同時に、振りぬいた。
呼白の体が分けられる。しかし、その顔は微笑んでいた。
ハイドは龍神の鱗に龍人力を放出する。物理的なダメージをそこで食い止めるために。
だが、斬撃は、鱗を俺の獲物ではないと無視して通り過ぎた。物理的な実体を全く無視して。
鱗の内側で、ハイドの体が二つになった。
「ゔ?」
ハイドから、初めてわけがわからないという不明と痛みの呻き声が漏れた。
物理的な実体を無視して、斬るべきもののみを斬る。『魂魄「斬」』と名をつけられたそれは、頓悟した剣術士の辿り着いた『斬る』という事柄の究極を体現する技だった。
しかし、それだけでは龍人は殺せない。その傷はすぐさまに回復を始め、傷はふさがり始める。
それでも、呼白は笑う。その一瞬の意識の隙と、攻撃しているという事実さえ、あれば良かった。
ガン、鈍い音とともに、ハイドの左腕の先が殴られた。
それは突如そこに創造された。白い柱。いつぞやの悪魔が残した細工。それは、ハイドの盾を、弾き飛ばし、新しく作った別空間へ飲み込んだ。
ハイドは呼白の一挙一動を見ていた。細工を使用ものならすぐばれる。
しかし、この柱は彼女が仕組んだものではない。彼女はただ単にその細工のある場所にハイドを誘導し、意識の隙間を作っただけ。
後は全て未来を見て、仕組んでいった、終作というなの悪魔の仕業。
防御の割れたハイドの目前に一つの光が灯る。
別れた呼白の口が動いた。
習作『二連波状五色』
その光が砕けると同時に、五色の波動が放たれた。
ハイドは揺れる立て直した意識のままに龍神力を放出する。
あっけなく防がれた五色の波動。その後ろから、また、波動が現れた。
龍神力の防御は一瞬。それは、先ほど行った蹴りでの投げ飛ばしで、呼白は承知済みだった。
二度目の攻撃、それを完璧に防ぐすべはハイドにはなかった。
衝撃音とともに、ハイドが吹き飛ぶ。
空中で上半身だけで宙に浮いた呼白は、それを見ていた。
ほぼ無傷。しかし、数カ所だけ、鱗が剥がれた場所が見えた。
すぐに再生したが、その剥がれた場所から、彼女は察する。あの鱗は水の魔法に弱いのだと。
ハイドは体勢を立て直しながらもこの状況を苦々しく思った。
先ほどの一撃で、呼白には鱗が水の魔法で消えることを悟られたことは明白。
その上で、逃がしてくれるような相手でもなく、勝ちに行くには少々手が足りない。
だが、負けて死ぬわけにもいかなかった。
あの神々を殺すまでは、不完全な龍人力で彼の親を友を消したあの物達を消し潰すまで、彼は歩みを止めることは出来ない。
「此処で止まったら、彼等の死は、いったい!」
なんだったのだと、彼は、先ほどの一撃で冷静が崩れ、劣勢に気の折れかけた自分に向けて、初めてそう声を荒げた。
戟を握る手に力が込められた。龍神力が刃を覆う。それは大きく、強くなった。
ハイドは空を見上げた。そこには回復力を消された下半身を、もう一度回復力を付け直すことで回復した呼白がいた。
ハイドの気迫は先程のものとは打って変わっていた。突き刺す氷のような殺気ではなく、若干の焦りを含んだ熱い殺気。
呼白は、目を細め、微笑む。やはり死合は熱くなくてはと。そして、唱えた。
開放『蒼き空の柱』
その声とともに蒼い柱が、空を貫いた。溢れるのは霊力。
それは、少女の体をした呼白が常に自分の中にとどめてあったもの。
抑えていながら、周囲の生物から意識すら奪うほどの強烈な力。それの枷を解く。それとともに、彼女の体は、成長した。
変わった相手の姿を、ハイドは顔を覆った鱗の奥で突き刺すように見た。
年端の行かない少女は無く、そこには二十代ほどの美しい白髪赤目の女性がいた。
「それが、貴女か」
ハイドは言った。
呼白は頷く。
「それが、貴方ですね」
呼白は言った。
ハイドは頷く。
ハイドが力むと同時に地面が割れる。
迎え撃つように、呼白は構えた。
二つの姿は、同時に消えた。




