ハイド・天之御中主・ミラ ~その弐~
前回も書きましたが、このハイド君は色々あったIFの別人ですのであしからず。
弾けた殺気の先、最初に動いたのは呼白だった。
展開された無数の青い刀剣が乱射される。それは全方位から嵐のように。
少女は目を細めながら相手を観察した。どう防ぐのか、どう対処するのか、どういった能力なのかを、見極めるために。
ハイドは迫る嵐に臆さず、黒曜石を切り出したような漆黒の戟を取り出した。
龍神力を帯びた黒い戟が振るわれる。それは、飛び向かう嵐を何の抵抗もなく削り取り、ハイドの身を守っていた。
あの武器に物理は無効。そう考えるのが妥当だと呼白は考えた。
その上で、この量でダメならと、すでに相当量だった刀剣をさらに増やした。
強くなった嵐が、純白の鱗を着たハイドを襲う。
それを見て、ハイドは大きく踏み込んだ。周囲を飛び交う嵐を戟で削りながら、自らの目の前にいる呼白へと近づく。
接近するハイドに呼白は笑顔を向けた。その場から動かない。一歩足りとも。
それに向けてハイドは戟を振る。目前の少女の笑顔を警戒して、周囲へと感覚を向けながら。
はたして、それは正解だった。戟を振るわれた少女は淡く風の様に消え去った。
そして、ハイドの真後ろへと突如として人の気配が現れる。
振り向いたハイドが見たのは五色の弾。五行を冠する五つの弾幕、それの連なった壁。
「習作『五行壁』」
ハイドが戟を振るう。
あっけなく削られた壁の向こうで、呼白はなおも笑顔だった。
瞬間、ハイドの背後に弾幕が出現した。前触れもなく、エネルギーの動きも何もなく、そこに突然弾幕が出来た。
それは先程と同じもの。五行で出来た壁。
ハイドは驚きながらも大地を踏む。が、振り向いて振り払うには少し遅すぎた。
呼白は笑顔を崩さない。そしてこう思う。時間差のない同時攻撃、どう防ぎますか?
ハイドは感知できなかった魔法に驚きはしたが、すぐに平静に戻った。
龍人の強力な鱗。それはそこに龍神力を流すことにより、瞬間的な物理攻撃を防御する。
ぶつかる直前に、ハイドは鱗に龍神力を纏わせる。それは、ぶつかった弾幕を全て吸収し、全くの無傷のハイドを残した。
「なるほど」
呼白は防御したハイドから距離を取りつつそう呟いた。
先ほどの一瞬見えた、否、感じたあの力。それが防御を可能にしたということを彼女は確信した。そして、起こっていることからおそらくあの戟にも同じものが入っているのだろうと予測する。
そして、あの力の効果の予測を立てた。無効化の力、それもほぼ全てのものを対象としたもの。
ならば、相手の武器には全ての防御は無意味とすべき、そう彼女は結論づけた。
やりようはある。と、少女は頷く。何度も何度も、そういう相手と彼女は戦ってきたのだ。
覚も鬼神も天魔も空狐も神も氷妖も吸血鬼も外側の存在も、彼女の経験の内。
未知なるものとやるときは、私の知る対処を全部するのが、普通ですよね。
そう彼女は笑顔で思う。そして構え、能力を使う。自分のすべてを出し切るために。
「強いですね」
対するハイドも距離をとった呼白を見て呟いた。
角に異常はない。しかし、二度も不意を打たれた。魔力すら流さずに、五行魔術に類するものが出現したこと、変わり身であることを悟らせない自然な気配運び。
移動に生物的な探知は効かないと見るのが妥当とハイドは予測する。そして、五行も探知できない。となればと、彼は自らの武器をしまった。
そして、取り出したのは一本のライフル。先ほどと同じ黒曜石を切り出したようなそれは、相手の心を読む覚の銃。
通常、呼白にはそんな読心の能力は通じない。しかし、龍神力を帯びたこの銃の力であれば、それを覆せる。感知できなければ感知できるようにすればいい。
「見せていただきます」
ハイドは心を覗く。そして、その思考に目を向けていたからこそ、呼白の動きに不意打たれた。
先ほどと全く同じ、気配すら探知できない移動を介して行われた一発の蹴りを、ハイドは反射的に逆に跳んで緩和した。
自らが読んだ呼白の思考と、行動が全く噛み合っていないために彼の防御は一瞬遅れになっていた。
とっさに放った牽制の弾幕を、呼白はステップを踏むように躱し、余裕をもって笑った。
ハイドの思考は揺れていた。彼女の思考はハイドの力に関しての事、それなのに、体は関係ないとばかりに攻撃していたのだ。
思考が行動と乖離する。そんな存在をハイドは見ていた。覚の中で心を閉じた者。古明地家の妹古明地こいしだ。彼女の全ては無意識に操作される。思考がないゆえに先ほどの銃の影響を受けなかった。
読んだ思考と行動が違う。あれは意識はあるが、体は別で動いてるということですか。
そう思い、ハイドは少し考えてからもう一度戟を出し、構えた。
二人はお互いから目を離さなかった。
しかし、動かない。
ハイドは相手の動きが察知できない可能性を考えて。
呼白は次の一手のために。
ハイドは動かない呼白を前に、周囲も警戒していた。
三度に渡る不意打ちは、彼の警戒心を高めに高めていた。
角の効かない移動、魔力を介さない魔術、そして乖離した体と思考。
無理な探知は隙を作るだけと、ハイドは結論付ける。眼と耳、そして己の経験と勘で戦闘することに決める。その目の奥に普段は憎しみにてともらない闘志の火が燃えた。
呼白はどう攻めようかと思考していた。
体術は今のところ彼女の能力『意識と無意識を操る程度の能力』による無意識攻撃で成功している。だが、それでは決定打にならない。
体術の衝撃は確かにあの鱗の内側に届いていたが、それは体力を削るだけの攻撃であり、完全なダメージとはいかなかった。
あの不思議な力の正体もまだ分かっていないのだ。迂闊に体術に頼るのはいかがなものかと呼白は悩み、結果出した結論として、魔法戦を仕掛けてみることにした。
呼白は空を指した。それに合わせるように空へと大きく雲が張る。
ハイドの角はその雲の持つ魔力を捉えられていた。
先程のものとは別の魔術とハイドは警戒する。そして、その警戒を裏付けるようにそれは降り注いだ。
五行の弾幕の雨、それは神の持つ神力すらも含んだ御業の雨。
「合符『五色天降』」
降り注ぐ攻撃、戟を持ったハイドであれば、それを防ぐのは容易い。
しかし、ハイドはこの雨の意図を分かっていた。
これを防ぐには当然戟を振るう必要がある。しかし、それをすれば上空以外の部分はがら空き。攻撃し放題だ。
先ほどの嵐とは違う。一方向だけの攻撃は相手をそこに縛り付ける拘束具になる。
しかし、対処ができなければ世界を一つ潰すなど出来ているはずもなく、彼は空へと片手を向ける。
そこから放たれたのは雷、それは龍神力を帯、空に漂う魔力を全て吸収せんと進む。
しかし、呼白はそれを見越していた。突如として雲に穴が空き、雷が避けられる。
そして、何事もなかったかのようにそこには五行の雨が降り注いだ。
だが、ハイドはまだともう一つの対処を始める。
取り出したのは刀。空間を切り取り、貼り付ける力を持った武器。
それは、自分のいる空間と、空を切り取り、交換した。
しかし、それも好都合と呼白は笑う。これは雨は雨でも魔法の雨、向きなど彼女の思いのままだ。
雨は降り注ぐ、地上にではなく、空へ。
ハイドは鱗の下で眉をひそめた。防ぐ方法がないわけではない。しかし、防いでしまえば攻められない。
意地の悪い攻撃に、ハイドは仕切りなおしを、唱えた。
「『龍神星の最期』」
それは大きな星を読んだ。すべてを飲み込む、龍神力でできた星を。
巨大な隕石は当然のごとく、術者であるハイドに影響しない。
そして、降り注ぐ雨をひたすらに飲み込んで、呼白へ向かう。
うまくすれば、このまま呼白ごと打ち崩す一手。
呼白は近づくそれに目を細め、怖しようがないと悟っているが故に、防ぐ動作すら見せず星の影に消えた。




