夜桜~その三~
衝撃。
地面を揺らしたそれは、零が用意した空間の星を揺らした。
揺れは、大地を叩き割り、そのままその星に山を掘り返したかと見えるようなクレーターを作った。
その、中心で。
「空間……隔絶。封印……発……動」
右腕をまるまる吹き飛ばされた夜桜が、零を別空間に放り込み終わった所だった。
技の打ち合いは、一応は零の勝ちだった。零が此処で夜桜に封印されたのは、ただ単に彼の目測違いだった。身体強化技の掛ける数が少なかった。それ故に、彼は技では打ち勝ちながら、自分の攻撃に吹き飛んだ。
血を垂らしながら、夜桜はその場にへたり込む。
ちぎれた右腕を抑え、服を裂いて止血しながら、痛みに耐えて息をついた。
「何なのよ。ホントに今日は厄日だわ」
そうつぶやきながら、夜桜は仰向けに倒れた。
血は止まりかけている。夜桜は龍である体に感謝した。
呪術による回復も開始しているが、いかんせん腕一本まるごとだ。先ほど戦っていた奴のようにその場で再生なんてことは出来なかった。
気の抜けたせいか、彼女を眠気が襲った。腕は後で永琳にでも直して貰うことにしようと考えて、彼女は目を瞑った。
「終わりかい?」
目をつむった瞬間に、そう声がかかった。
その声に、私は青ざめた。先ほど私が出来る最大限の隔離方法をしたはずの相手の声が、私に掛けられたから。
目を開けられない。信じたくなかった。右腕までもがれてそれでも無理だったなんて思いたくなかった。
そんな私を知ってか知らずか、その声は続けた。
「やられたよ。体の殆どが消し炭だった。封印術も強かった。技術がない俺にはちんぷんかんぷんなシロモノだったさ」
でも、と彼は続けた。
「まだだよ。それじゃもう少し足りない。そこから世界の外側に送り届けちゃうまでが一括りだ。
そうしないと、俺は再生できるし、封印術やら隔絶空間は……無理矢理穴開けてきた。出てきたら、目の前には油断したお前さんだ」
声の方向から、男がどこにいるのかは把握できていた。
しかし、もう、体は動かなかった。数百発の連撃と、先ほどの一撃。外見的には右腕だけの外傷だが、実際は体の中がぼろぼろになっているのは把握済みだった。
再生されているなら、抵抗しようにも、私にはもう彼を取り押さえるほどの力は出せないだろう。
だから、
「もうすこし、やるかい?」
その言葉に、私はすんなりと首を横に振れた。
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「痛い! もうちょっと優しく……というか、再生させてよ!」
散らばった肉片を繋いで戻した片腕をつなごうとして、そう文句を言われた。
「え? 生やしちゃってよかったの?」
腕だし、呪術的な細工をしていたら俺が生やすと消えるからそのほうがいいかと思ったんだが。
まぁ、そう言われたことだし生やしちゃうことにしよう。
「傷口無理やり再生させるから痛むぞ」
「え? なにそれ聞いてな……痛い痛い痛い!!」
引き延ばすように生えてきた腕に、夜桜は叫びながら悶えた。
仕方ないので、肩口をさすってやることにする。
「ううー。あんたこんなこと毎回やってたのに、なんで大丈夫なのよー」
「痛覚消してるからな」
「私にもやりなさいよ!」
我儘だなぁ。
「もう生えたんだし、いらないよ。すぐひくさ」
「本当厄日だわ……」
生えた腕を回しながら悪態をつく夜桜が面白い。
これだから他人いじりはやめられないというもんだ。
さて、そろそろ外に出るとしよう。
幻想郷への扉を開けて、俺は夜桜と一緒に出た。
全て終わったと、夜桜は気分を入れ替えるように深呼吸した。
「さ、早く帰してちょうだい」
「はいはい。急かすなよ……」
もっと遊びたかったんだがと、俺は口をとがらせる。
「貴方と戦ってたら身が持たないの。別の誰かに頼んで」
「分かったよ。しょうが無い」
扉を開き、さ、お帰んなさい。と、促す。
「ありがと。じゃあね」
そう言って、夜桜は扉をくぐる。
それを横目で見ながら俺はニヤリと笑った。
そして、
「きゃあああああ!!!」
出てきた叫び声に腹を抱えた。
送った先は向こうの幻想郷の灼熱地獄の真上、通って下むいたらマグマ一直線だ。
「熱っ! 熱っ! おいこらアアアアア!!!」
マグマに浸かりながらも熱いで済ませる龍を見て、俺は笑いながら扉から顔をのぞかせた。
「最後の引掛けは楽しかったかな?」
「最悪よぼけええええええ!!」
その叫び声に俺は大きく笑う。
「仕返しに来な。いつでも待ってる」
じゃあな。夜桜。そう言って、俺は手を振った。
それに、それを跳んでマグマから抜けだした夜桜が、燃えた服を何とかしながら叫びで答えた。
「今ボコボコにしてやるわよ!」
そんな声とともに大量の霊力弾が扉に向けて放たれる。
「おっとあぶな」
それが飛んで来る前に、俺は意地悪い笑みを残しながら扉を締めた。
「あっ、待ちなさい! 零! こら!!」
閉まると同時に消えた扉、それがあった場所で俺はもう一度ひとしきり笑って、歩きだした。
そろそろ、姫ちゃんのお昼が出来る頃だ。できたてを食べなければ世界への冒涜だ。
さて、今日のメニューはなにか。気になるところ。
「毎日毎日、感謝だ。愛してるぜ、姫ちゃーん!」
俺は寺子屋に向かってそう叫ぶ。
そんな俺の声を聞いて、笑う姫ちゃんが、俺には見えた。




