夜桜~その二~
デカくて速くて力が強い。そんな生物を見たのは何度目か。
体の大きさと言うのは特殊な能力や術を除いた場合の、単純な強さ。
あの烏賊も、あの怪物も、あの龍も、力強い。
いつもの暇つぶし、それは、とても楽しい。
「ばっ……」
「ぶっ……」
「あびゃ……」
「ごっ……」
だから、抵抗する暇も与えられずに、上半身を吹き飛ばされ、武器を弾かれ、人間としての原型を留めないほどになっても、俺は笑う。
一撃一撃が俺の一部を吹き飛ばしても、俺は気にしない。
「こんなもんかなぁ?」
そして、何千、何万と全力で行われた攻撃が、ついにスタミナの限界から止まった時に、無傷にまでまた再生した体と衣服。それに飛び切りの笑顔を貼り付けて、俺は先程までよろしくやってくれた龍に顔を向けた。
龍は、恐れるように、叫ぶように、咆哮する。それが、あまりにも思惑通りで楽しかった。
「もっときなよ! ドンドンさぁ!」
俺は微笑んだ。そして、そのまま振り下ろされる尾へと手を向け、唱えた。
「斬影『その手無刀の太刀なり』」
それとともに、目前の尾が吹き飛ぶ。
叫ぶような咆哮を上げる龍に向けて、俺は得意気に言った。
「肉質無視の切断技だ。面白いだろう?」
そして、今まで吹き飛ばされた分を仕返しするように、唱える。
「乱打『百撃一手』」
硬い体、丈夫な体。それは刀や銃撃を防ぐだろう。だが、拳は?
衝撃は、また別の攻撃だ。さあ、喰らってみろ。
「『暴君』『猛虎出草』『小身暴挙』『共通代体』」
懐かしき身体強化の技もふんだんに盛りつけて、龍へと俺は拳を振り上げる。
一撃を百の同時攻撃へと変えて敵を攻撃するこの技を、龍へとこれでもかと乱打する。
「オラオラオラオラオラオラ」
咆哮する龍へと、俺は叫ぶ。
「悪いなぁ! 俺は単体よりも周囲殲滅のが得意なんだ!」
でかい図体は狙いやすいのさぁ! と叫びながら拳を打ち付ける。
そして、最後の一撃と、思い切りに手を振り上げたその瞬間、俺の上半身に衝撃が走った。
破裂音とともに、揺れる視界。そして、引きちぎれた自分の下半身を見ながら、衝撃を放った原因を見た。
大きく肩で息をしながら、私は吹き飛んでいった男の顔がまだ笑っていることに気がついた。
『変り身』古典的で基本的な術、忍術ではなく呪術でのそれは、単純であるが故に、綺麗に決まれば相手の意表を完璧につける。
難しくない基本的な式のだったからこそ、相手のあの無数の攻撃を受ける最中でも、なんとか組めた。
そして、私の身代わりを攻撃しているあの男に、人の姿へ戻って一撃を入れた。
「こんなダメージ久しぶりよ。それに、変わり身なんて使ったの始めて」
私は呟く。そして、またしても立ち上がった男を睨みつけた。
「まだ立ち上がるのね」
「さっきから散々やったろ? 肉塊にされたくらいじゃ倒れないぜ」
それは解っている。まともに勝つなら、あの再生をどうにかしないといけないことも。
でも、私の能力にあの再生を止めるような力はない。
こういう輩は龍としての長い一生で知らないというわけではない。
物理攻撃でひたすらぶっ叩いて、能力で空間ごと隔離し、その空間を封印術で封じればいい。
手間はかかるが、それくらいしか思いつかない。
「いってなさい。目にもの見せてやるわ」
一回封じればこの男の気もすむはずだ。さっさと解いて帰らせてもらえばいい。
腰を落として、構える。ヘラヘラとした笑いを浮かべる男に向けて、私は踏み込んだ。
一撃は、零には重かった。
素人に毛が生えた程度の男に受け止める技術なんてあるはずもなく、龍の拳を受けて、後ずさりしたところに、追撃が来た。
「せいっ」
腹部への一撃、その後に続く顔面への横薙ぎの蹴り、倒れたところに顔面キック。
その体術はしっかりと戦場で鍛えられたもの。体が弾けるようなものであれば、残った体を動かして攻撃できる。しかし、そこまでいかない程度の威力で放たれる攻撃は、零の体を人体の自然な反応として起こる体の動きで怯ませ、反撃を許さない。
「止め!」
夜桜は大きく零を蹴りつける。そして、吹き飛んでいく零に向けて、唱えた。
「空符『圧縮される空間』」
その声とともに、零の周囲の空間が縮んでいく。
それに気づいた零はすかさず霊力弾を発射すると同時に唱えた。
「必然『そこにある勝利』」
瞬間、潰れかけていた空間から零が消え、同時に夜桜が零のいた場所にでた。
「なっ!?」
目を見開きながら夜桜は自らの力を解除する。そして、カウンターの入れ替えスペルだと苦々しく思いながら、先ほど自分がいた場所に降り立った零へと牽制も込めて妖力弾を放った。
「弾壁『一式』」
それに当たるのを無視して、零はそう唱えた。
零の隣に、空間に穴が空き、その奥から、大きな砲門が顔を覗かせる。
巨大であるがゆえに、砲門すら穴の奥へと入れられた。巨大な列車砲のガトリングが発射された。
砲弾の壁が夜桜を襲う。空を薙ぐその嵐に、夜桜は打ち付けられた。
地面をこれでもかと破壊し尽くす砲弾の嵐の後、土煙を見ながら零は目を細めた。
煙が揺らめく、それを感知して、零は笑う。
「さあ来いやぁ!」
飛び出てきた。夜桜は、その体をまたしても変貌させていた。
獣の尾と耳の生えたその姿はまさしく獣人のそれであり、その振り上げた拳は言うまでもなく強烈な威力を持っていた。
「憑依『神をも喰らう狼』」
それはその変貌の名前。神と巨人が産んだ魔狼を降ろす技。
夜桜はその拳を零へと向ける。そして、それを待っていたかのように零は吹き飛ばされたはずの自分の刀を取り出した。
思い切り振り上げ、唱えた。
「黒刀『神薙』」
刀の刃が紅く光る。それは大きなエネルギーを伴って、夜桜を待ち受ける。
「あああああああ!!!」
夜桜が咆哮する。拳が振り下ろされる。
同時に、
「セアアアアア!」
零も斬撃を振りぬいた。




