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外道は外道のまま世界を救う  作者: カタヌシ
乳幼児期 奴隷編
6/54

リンス視点


私の名前はリンス。

年齢はわからない。

物心ついた頃から奴隷だった。

生きるのに必死で年齢を気にしたことなんてなかった。


私は、今グレイ=タイラント様の奴隷屋敷で、奴隷の子供の世話をしている。

長く辛かった人生で、これだけが幸せな仕事だと感じている。

奴隷として生まれ、

奴隷として生きてきて、

本当に辛いことの連続だった。

幼い頃は、無理矢理に働かされ、はたを織った。

同じくらいの子どもが楽しげに遊んでいる声を聞きながら、

私はひたすら働かされた。

嫌がると鞭をうたれ、ただでさえ少ないご飯をさらに減らされた。

あまりの空腹に、私は雑草や虫、最後には土を噛んで空腹を凌いだこともあった。


そして、多少魔法の才能があるとわかってからは、もっとひどい仕打ちになった。

朝に限界まで魔法の訓練。

昼は機織りの仕事。

そして、夜は魔法を使った仕事をした。


さらに、体が成長すると性的な仕事もそこに加わった。

奴隷として何百人もの男になぶられて、犯された。

何人の男と体を重ねたかはもう多すぎてわからない。

始めて、男に汚された時のことは今でも鮮明に覚えている。

冬の寒い日だった。

私はそのときの主人に殴られ、蹴られ、踏まれて、ぼろぼろにされた後、

抵抗できない状態で何度も何度も穢された。

自分が酷く汚れてしまった気になって凍える雪の中、冷たい水で体を洗った。

体が心から凍え、手先の感覚はおろか体の感覚がなくなるまで体を清めた。

それから、犯されることが常態化し、そういうことに慣れていってしまった。


限界まで体を酷使して、ボロボロになった。

妊娠すると腹を何度も殴られ、流産させられた。いつしか私は子供は生めない体にされていた。

悔しくて、辛くて何度も何度も死んでしまいたいと願った。

しかし、隷属の首輪がそれをさせてはくれなかった。


そんな私に若くなってから与えられた仕事が、この子どもたちの世話という仕事だった。


昔からお腹いっぱいにご飯を食べるというのが唯一の慎ましい私の夢だった。

けれど、内臓がまでボロボロになり、あまり食べれなくなった今となってはただこの仕事を続け、子供たちを見守り続けること。それが、自分の夢へと変わっていた。


屋敷には常時、0~7歳までの奴隷の子供たち120人ほどが生活している。

子供たちはかわいい。

本当に天真無垢で、汚れを知らない。

真っ白な状態で生まれてくる。それが、可愛くて、いとおしくてたまらない。

しかし、子どもたちは売られていく。

早ければ1歳で買われる子もいる。

どんなに遅くとも7歳には鉱山奴隷としてこの館を去る。

そして、私の愛しい愛しい子供たちは辛い人生を歩むことになるのだ。

きっと、私と同じかもっと辛い目にあうのだろう。

私は、幸いに魔法が使えたから、殺されはしなかった。

けれど、奴隷の中には極限まで使い尽くされ、破棄されるものが少なくない数存在する。


私にもっと力があれば、そんな子供たちを救えただろう。本当に不甲斐ない。

私は、ただの奴隷でなんの力もない。

ならば、せめて。せめて。この館にいる間だけは少しでも幸せと思って貰いたい。

幸せな時を過ごして欲しい。

私はそう願い、全力で仕事をした。

全ての時間を子供たちのために使いたいが、主人であるグレイ様はそれを許さなかった。

私には、本宅の掃除や管理などのほかの仕事も課された。

それでも時間の許す限り、子供たちと接した。

一人一人に本を読んであげることはできないけれど、思念魔法を使ってみんなに本を読んであげた。

同じ役割を与えられた二人の奴隷仲間は頑張りすぎだと呆れていたが、私は満足できなかった。

もっと、もっと子供たちと関わりたい。

触れあいたい。世話をしてあげたい。

そう思って毎日子供たちと幸せな時間を過ごしていた。


その子はとても聡明だった。

生まれて間もないというのに、こちらの言葉を理解しているような感じがした。

そして、その子から強力な魔法使いの片鱗があった。

もう何人もの子供たちを見守ってきたが、その子は他の子にはない特別な感じがした。

私は、意識してその子を気にかけるようになっていた。

その子自身も他の世話役奴隷と私とを明確に区別しているような印象もあった。

残念なことに、その子に名前はない。

それをつけることは許されていない。

しかし、私はその子をこっそり、リビィと呼んだ。

賢い子という意味の古い言葉だ。


ある日、グレイ様がいつものように気まぐれに奴隷屋敷にやってきた。

商品チェックという名目のようだが、違うことは容易にわかった。

憂さ晴らしのためだ。

なにか仕事で失敗したり、嫌なことがあったりしたら、グレイ様はここに来た。

そして、子供や私たちに暴力をふるい帰っていくのだ。

私は、グレイ様が屋敷に来るといつも率先して側に寄った。

他の世話役奴隷は、どこかに隠れたり、できるだけ側に近寄らないようにしたりしている。

近寄れば、近寄るだけ暴力を振るわれるのだ。

それは、当然だろう。

しかし、私は今日もグレイ様に声をかけた。

理由?そんなものは簡単だ。

私に暴力を振るうことで満足したら、その分愛しい子供たちは暴力に晒されずにすむのだ。

肉体の痛みなど慣れっこだ。

いくらでも、私を殴ればいい。

蹴り飛ばせばいい。

こんな年老いた女でよければ、犯せばいい。

しかし、子供たちだけには、手を出さないで欲しい。

私はつねづねそう思っていた。


パシッ!

その日もグレイ様は私を平手で叩く。

私はわざとらしく苦痛の表情を作り、目に涙を浮かべ、痛みに耐える声を出す。

グレイ様の嗜虐思考を煽るためだ。

そんなことをしていると、突然変異部屋に大きな泣き声が響いた。

そちらを見ると、リビィがいた。

リビィは滅多に泣かない子だった。それが大声で泣いていた。

不振に思うまもなく、理由はすぐにわかった。

リビィの隷属の首輪が発動していたのだ。

不味いと思った。

隷属の首輪は、主人に対する敵対的行動や禁止行為をしたときだけでなく、

敵愾心を持ったときですら発動し強烈な苦痛を与えるように設定されていた。


リビィは私が叩かれたことで、グレイ様に敵対的感情を抱いたのだろう。

私のせいで?

私なんかのために?

疑問に思っていると、グレイ様は、リビィにどんどん近づいていった。

まずい。

グレイ様は、リビィに暴力を振るうつもりだ。

いやだ。それはだめだ。

こんな幼い子が、グレイ様に暴力を振るわれて無事であるはずがない。

なんとか阻止しなくては、私はグレイ様の足元にすがり付き、許しを乞うた。

しかし、グレイ様は私を蹴り飛ばし、引き離してリビィの元に近付いた。

そして、 リビィを蹴った。

リビィは何度も地面に衝突し、バウンドしながら7~8メートルもぶっ飛んだ。

これは不味い。

本当にまずい。

あれは全力だった。

どこか骨がおれる音もした。

このままでは、リビィは殺されてしまう。

私は必死にグレイ様の足元にすがり付いた。

頭を下げて、地面に擦り付けてお願いした。

しかし、グレイ様はやめてはくれなかった。

リビィの頭を鷲掴みにし、キセルの灰を首筋に落としたあと、地面に叩きつけた。

終始、リビィは泣いていた。

助けて、助けてと泣いていたのだ。

私はなにとできなかった。

グレイ様は、満足して屋敷から出ていった。

私はすぐにリビィを拾い上げて、抱き締めた。

体はまだ温かく、心臓はなんとか動いている様子った。

弱々しいが呼吸もしている。

体は、見るも無惨だ。

おそらく肋骨が折れている。

ごほっと咳をした痰に、血が混ざっていた。

どうやら内臓も痛めているようだ。


私のいとしい子どもが…

涙があふれる。

私は、いつも無力だ。

何もできない。

私は、泣いて謝りながらリビィを撫でることしかできなかった。

長い間そうしていた。

そしたら、リビィは弱々しく目を冷ました。

リビィは、私をいつもと変わらぬ目で見つめてくれていた。

そこに、私に対する非難の色は感じられなかった。


私は謝った。

何度も何度も謝った。

そしたら、リビィは手をこちらに伸ばし、「あう、あう」と可愛らしい声で何かを伝えようとしてきた。

私には、なんて言っているのかわからなった。

わからなかったが、助けなきゃと思った。

どうにかして、なんとしてでも助けなきゃと思った。

リビィがしばらくしてまた眠りにつくと私はすぐに行動を起こした。


グレイ様のもとに行き、リビィに回復魔法を使ってもらえるように懇願したのだ。

私はなぶられて殺された奴隷を何度も見てきた。

私は魔法が使えたから、治療を受けれたがそれは幸運なケースだ。

多くは満足な治療を受けられず、死んでいった。

それの死の過程を何度もみてきた私の勘がいっていた。


このままでは、リビィは長くない。


それは嫌だと思った。

絶対に死なせたくないと思った。

だから、回復魔法を使えるグレイ様に何度も何度も懇願しにいった。


何でもすると。

罰はうけると。

今いっそう頑張ると。


最初は、楽しそうに私をなぶり、暴力をふるい追い返すグレイ様だったが、

数日続けるとめんどくさくなったのか適当にあしらわれた。

それでも私はグレイ様にすがった。

しつこいと蹴られ、殴られ、辱しめられ、隷属の首輪が気が狂いそうなほどの激痛を与えようとも、私はグレイ様に食い下がった。

痛いのは耐えられる。

苦しいのも我慢すればいい。

恥など生まれてこの方感じたことはない。

リビィが助かるのであれば、なんだっていい。

どうだっていい。

子供たちが屋敷にいる間は、私の子供たちだ。

誰一人殺させたくない。

全員に幸せを感じて欲しい。リビィを死なせたくない。


私のしつこさにとうとうグレイ様が折れ、回復魔法を一度だけかけてくれることになった。


すぐにグレイ様を奴隷の屋敷にお連れする。

リビィが傷を負ってからすでに数日経っていた。

もう死んでいるかもしれない。

嫌な予感を必死で振り払い、私とグレイ様は赤ん坊の奴隷たちの部屋に入った


部屋に入って最初に感じたのは異常なほど強い血の臭いだった。

すぐに、リビィの方を見る。

リビィが寝ている布団、そして周りがおびただしいほどの血で濡れていた。

布団も服もぼろぼろだ。

あまりの痛みに全身をかきむしったのか、手にはべっとり血がついていた。

口から血を吐いたのだろう。

生えかけの乳歯も赤黒く染まっている。


しかし、どうやらまだ息はあるようだ。

「お願いします。早く、早く治してあげてください。」

私は深く深く頭を下げた。

「ちっ、気味の悪い餓鬼だ。」

グレイ様は、そういいながらも魔法をかけてくれた。

強い光がリビィを包む。どことなく、顔色がよくなった気がした。

リビィは、すぐに目を覚ました。

グレイ様は、悪態をつき、リビィに唾を吐き捨て部屋から出ていった。

私は何度も何度もお礼をいった。


私はリビィの頬に落ちた唾を丁寧に拭って頭を撫でる。

リビィは、私を見つめて、私の名前を呼んだ。

「りんす」と。

そして、言葉にはされなかったが、ありがとうと言われた気がした。


私の心のなかに温かいものが溢れだした。

すべてが報われた気がした瞬間だった。





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