狂気
悪魔たちが、玉座の間に詰め掛けてきた。
「さぁ、悪魔ども俺と取引だ。全員にすべからく闇属性の人間の心臓をやろう。
代わりに北條とそれに従う者達を殺せ。そして、俺を守れ。」
悪魔たちに命令しながら、自分の首を切り隷属の首輪を外した。
もう何度も何度もやっているいつもの慣れた作業だ。
「どうだ?お前の望み通りの悪魔どもだ。」
北條に付いていた悪魔のキキットの声が頭に響く。俺が逆転の一手として手を組んだのがキキットだ。
昨日俺は、自分の心臓をキキットに差し出して契約した。依頼したのは、俺の心臓を餌にキキットに仲間を集めることだ。
心臓の対価を持って契約を望む闇属性の人間がいると喧伝して回ってもらったのだ。
そのもくろみは上手くいったようで、玉座の間には夥しいほどの悪魔が集まっており、気品の漂っていた空間が黒く染まっていた。
「さぁ、私は約束のとおり同類を集めれるだけ集めたぞ。まず最初に心臓を貰うのは私だ。」
キキットがいつのまにか目の前に来て、俺の心臓を握っていた。キキットの腕が、俺の体を透過して心臓だけを掴む。
「あぁ、ありがとう。キキット。これで逆襲ができる。」
悪魔に心臓を掴まれながらも自然と笑みがこぼれた。
息苦しさや痛みは強烈だが、もうそんなのには慣れっこだったので無視できる。
「お前、狂ってるよ。悪魔が認めるほどに、お前は狂ってる。」
そんなことを言いながら、キキットは俺の心臓を引き抜いた。
ブチブチブチっと血管やらなんやらが引きちぎられる音がして、遅れて痛みがやって来る。俺はそれを無視して、心臓を再生する。ほんの一瞬で痛みは消え、心臓は再生された。
キキットは、俺の心臓を旨そうに丸飲みしていた。
すぐに次の悪魔がやって来る。
「先払いだ。お前の心臓を貰う」
見た目は正直キキットとほとんど変わらない。だが、全く違う悪魔だということは何故か直感的に理解できた。
「後がつかえているみたいだからな。手短に行くぞ。」
そう言って悪魔はキキットと同じように俺の心臓を取っていった。
すぐに心臓を治す。するとまたすぐに次の悪魔がやって来た。
次の悪魔も同様に心臓を持って行く。
再生する。
悪魔に心臓を取られる。
再生する。
取られる。
再生する。
取られる。
再生する。
取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する。取られる。再生する……
この作業以外はなにも考える暇はない。なにも感じる余裕はない。ただ、ひたすらに心臓を取られては、再生するを繰り返していく。
いつまでも、いつまでも悪魔たちはやって来る。
俺はひたすらに再生を続けた。
痛みの感覚が薄くなり眠気に襲われたり、強烈に心臓以外の部分が痛んだり、心が折れそうになり再生をやめそうになったり、幾つかの山場を乗り越えてようやく悪魔たちの殺到が終わった。
体がダルくてひたすらに眠い。
さすがに無理をし過ぎたようだ。
悪魔は、いったい何体くらい集まったのだろう?
体感では千は超えていたように思う。
あぁ、眠い。
外がうるさいなぁ。
悪魔たちが戦っているのか……
これで北條は倒せたのだろうか?
倒せただろうな……
とりあえず、このまま寝てしまおう。いまはなにも考えたくない。
俺はゆっくりと意識を手放した。
穏やかな睡眠の後、ゆっくりと目を覚ます。どのくらいの時間が経ったのだろうか?
玉座の後ろにある荘厳な窓から夕焼けの赤い光が入って来ている。
もう夕方かなのだろう。
昼前にムンジ=ハンリに謁見したことを考えると随分と長い間玉座の間で気を失っていたことになる。
夕暮れの光に照らされて人がいない玉座の間は何処となく物悲しい印象がする。
悪魔はおろか人が一人もいない。ムンジ=ハンリやギリーの死体すらなかった。
「人間の死体は好きに食って良い。」
そう言えばキキットに仲間に伝えるように言ったんだったな。そんなことをぼんやりと思い出した。
誰もいない。
そして、俺を誰も捕まえてはいない。
つまりは、つまりはだ。
勝ったと言うことだろうか?
俺は遂に、遂に北條をぶち破り、逆賊の徒を倒したということだろうか?
いや、待て、焦るな。
完全にそうと決まった訳ではない。
とりあえず、外に行こう。
意識を失う前、結構な戦闘音が聞こえていたしな。まずは、状況の把握と行こう。
ゆっくりと体を起こす。
ふらっと目眩がしたが、無事に立ち上がることができた。
頭がくらくらする。
本当に今回はやり過ぎたようだ。倦怠感も凄い。
「だが、こんなことで勝てたのならば万々歳だ。」
一人呟きながらフラフラと歩く。
そういえば何処が出口かも知らないが、まぁ適当に歩けば着くだろう。
のろのろと歩き出す。
歩き出してしばらくしてからふと考えた。
俺は今、城のなかではどういう立ち位置にいるのだろうか?
今の俺を見たものはどう感じるのだろうか?
ムンジ=ハンリ暗殺は多くの兵に見られていた。
そいつらが俺に襲いかかり死んだとしても、何らかの情報伝達でギリーと俺がムンジ=ハンリを暗殺したことが知れ渡っているかもしれない。
ならばだ。
もしここで、首輪を外した俺がノコノコと歩いていたら?
そして、もし捕まったら?
俺が首輪を外すことができるリビィであるとばれるかもしれない。
もちろん捕まるつもりはないが、今は甚だ体調が悪い。何があるかわからない。
リビィに戻るのは駄目だ。
サックのままであれば、捕まったとて俺が何かしたようには見えていないだろうし、ギリーに命じられ無理矢理ということにできるかもしれない。
そもそも悪魔たちの襲撃のせいでムンジ=ハンリ暗殺が有耶無耶になっている可能性もある。
首輪を
首輪を付けなければ……
それと知覚阻害の隠遁魔法だ。城のやつに見つからないようにしないとな。
あぁ頭が重い。思考がまとまらない。
とりあえず、隷属の首輪はつけるだけつけよう。
あれは、一度首から外せば勝手に開くようになっている。着け直すのにいちいち首を切らなくても良い。
俺はその場に落ちていた隷属の首輪を拾い上げて首に嵌めた。
カチッと重い感覚があり、鉄の冷たさを感じる。重さに慣れてしまっている自分に辟易する。
さぁ外に出て勝利を確認しよう。
逆賊の徒は完全に人類の癌だった。
それを駆逐したのだ。これで人類を救うという俺の目標は一歩前に、進んだんだ。
俺の勝ちだ。
人類の勝ちだ。
世界平和への第一歩だ。
北條は、言っていた。
「人間の世界があと20年と少しで滅びるとしても俺はそれを救うのなんて真っ平ごめんさ。
俺はな、リビィ。
悪だ。
正真正銘の悪だ。
そんなやつが世界の安寧や平和を願ってはいけないんだ。そういう不文律があるのさ。
だから俺は人間の世界を壊す方に付く。
俺は魔族の仲間となって、人間を塵殺する。至極丁寧に人間を虐殺する。
そして、人間が滅び行く様を高笑いしながら楽しむんだ。
そして、人は滅び行き魔族の世界がやってくる。
そして、今度は魔族にとっての悪となろう。
俺は常に大衆の敵さ。
多い方を殺す。
多い方を殺しすぎたなら、次に少し少ない多い方を殺す。
俺は常にマイノリティの味方であり、常識や法律、ルール、規範、規律の敵だ。
つまり俺は今現在悪として純然たる人類の敵だ。」
そんなことを堂々と語る北條最貴が生きていて良いわけがない。やつをここで潰したことは人類にとって明らかなプラスとなるだろう。確かに、虚像の王であるムンジ=ハンリを殺すことにはなってしまったが、ほれは仕方がない。
大多数を生かすために、少数を切り捨てなければならないこともある。
回らない頭でごちゃごちゃと考えながら、ふらふらと城を出る。
道はよく覚えていない。だが、何故か誰も居なかった。
おかしい。
なぜ誰にも会わない?
何故城はもぬけの殻なんだ?確かに戦闘した形跡は結構残っていた。
だが、全く誰もいなくなるってのはおかしくないか?
嫌な予感が襲ってくる。
背中にじっとりと汗をかいた。何かがおかしい。明らかに変だ。
とりあえず、外に出よう。何が起きたか確かめて回ろう。
歩き出した瞬間に、コツンと足に何かが当たる。
なんだ?
あぁ、隷属の首輪か?
それならさっきから頻繁に落ちていた。なにも気にすることがない。
いや?
本当に?
待てよ?
なぜ、王城に隷属の首輪がゴロゴロと落ちているんだ?
変だ。明らかに変だ。
何があった?
北條か?
北條は何をしたんだ?
何故誰もいない。城にも街にも誰一人いない。街は無惨に破壊されており、廃墟のようだった。
西日が寂れた街を赤く照らす。
そこに、人の声だけがない。ただ、静かに崩れた街並みがちらちらと光を反射して輝いていた。
雨も降っていないのに、街は湿っていた。
あちらこちらに水溜まりができている。そして、赤く輝く石の街に、狂ったように無機質な鉄の首輪が落ちていた。
「北條!お前はなにをした?」
思わず口に出して叫んでみたが、当然のように誰からも返事はなかった。
まずは、管理局へ向かった。もしかしたら、カンカがいるかもしれない。建物の中は無事かもしれない。
期待を胸に、おぼつかない足を必死に動かした。
気持ちばかりが急くが、なかなか体が言うことを聞かない。魔力駆動で体を動かそうとするが、上手く魔力を制御できなかった。
それでも足を前に出す。街は至るところが崩れていた。何の音もない。苦しいほどの静寂のなか、コツ、コツと石畳を叩く自分の足音だけを聞きながら歩く。
聞こえるのは本当に自分の立てた音だけだった。
えもいわれぬ寂しさが襲ってきた。誰もいない。何処にも誰もいない。
キョロキョロと人を探しながら、それでも真っ直ぐ管理局を見据えて歩く。
瓦礫を避けながら、時には迂回しながら、管理局にたどり着いた。
随分と時間がかかった気がするが、それも判然としない。
時を知らせる鐘が鳴らないのだ。
管理局の重い石の扉がいつもよりも更に重く感じる。扉の先、管理局の中は見事にもぬけの殻だった。
いつも誰かがいた受付カウンターに誰も立っていない。受付のカンカに怒られているリグの姿もない。
誰もいない。
受付カウンターの中に入ってみた。そこには場違いに隷属の首輪が一つだけ落ちていた。
拾い上げて、よく見ようとする。手に持って見ると何かが手についた。
血?
血だ。
隷属の首輪にはベットリと血が付いていた。
ドクン
胸が痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。
なにがあった?
このまちになにがあった?
いそいで、管理局からでて、次はランイが働く食堂に行く。道中で、落ちている隷属の首輪を拾い上げてみたが、血がついているものとついていないものまちまちだった。
食堂にも人は居なかった。
斡旋所にも、人は居なかった。
防具屋にも、武器屋にも、薬屋にも、道具屋にも、宿屋にも、門にも何処にも、誰もいなかった。
真っ暗になり、疲れはて、俺は街中で倒れこむ。どうか、どうか悪い夢であってくれ。そんな淡い願いを抱きながら、俺は硬い石の上で眠った。




