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外道は外道のまま世界を救う  作者: カタヌシ
乳幼児期 奴隷編
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初めての言葉

温かいぬくもりのなかで、光に包まれている。

あぁ、やっぱり失敗してしまったか…

死んだんだろうな。

あの不快な神とあうのだろうか。

それとも次の世界に転生するのだろうか。

今度は記憶を消されて、今の記憶は無に帰すのだろうか。


ぼんやりと考えていたら、リンスさんの声が聞こえてきた。

「頑張って。大丈夫。きっと治るから。」

随分と久々な気もするが、実際はそうでもない。


ゆっくりと、光が消えて俺は目を覚ました。

リンスさんが心配そうに俺の顔を覗きこんでいた。

目は涙ではらし、顔にはたくさんアザがあった。


「ちっ、本当に気味の悪い。

これでいいだろ!約束通り治したぞ。」

グレイの声がしたが、そちらを向く気にはなれなかった。

恐かったのだ。グレイを思い出すと体が硬直した。

もう逆らってはいけない。

俺は簡単にこいつに殺される。

出来るかぎり、グレイを意識から消す努力をした。


「ふん。せいぜい高値で売れるようしっかり育て。くそ餓鬼が!」

グレイによって、そんなことを言いながら、どしんどしんと俺から離れていった。


頬にねちょっとした液体がかかる。

臭くて、汚い。

どうやら最後に唾を吐き捨てていったらしい。

気持ちが悪い。最悪だ。


「ありがとうございました。ありがとうございました。ありがとうございました。」

リンスさんは、ひたすら床に頭をすり付けてグレイに感謝をのべていた。

そんなやつに礼をいうなよ。

なんだよ。

あいつは俺を死ぬ寸前まで追い込んだんだぞ。

あいつが光でなんかしたかもしれないが、そんなのする前に俺はなおってたんだ。

だから、あいつには何の恩もないんだ。

リンスさんは、グレイが部屋から出ていくと俺の頬の汚いものを、

あの温かい手でそっと拭ってくれた。

「ごめんね。でも間に合って本当によかった。」

リンスさんは、そう言って幸薄げに笑った。

あぁ、もっともっと笑って欲しい。

この人にもっと笑いかけて欲しい。

この人に心のそこから笑って欲しい。

切にそう思った。

「り、りん、りんす」

俺はなんとか震える声で、リンスさんを呼んだ。

口の形を工夫し、声の出し方を思い出してなんとか三文字言えた。

「今名前を?やっぱりあなたは賢いね。ありがとう。」

リンスさんは、素敵な笑顔で俺に笑いかけてくれた。


それが嬉しくて俺は何度も、何度もリンスさんの名前を呼んだ。

幸せだった。

くそみたいな環境で、

くそみたいな境遇で、

死ぬギリギリだったけど、

今確かに俺は温かく心地よい気持ちに包まれて幸せを感じていた。



奴隷から成り上がるならば、きっとこの人とも一緒だ。俺は密かに心に誓った。


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