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思惑

北條の計画は、驚くほどに上手く進んだ。マハトリオに戻り、義勇兵斡旋所へ行くと直ぐにギリーは斡旋所所長の所へ呼ばれた。


小一時間ほど斡旋所で、貼り出された依頼を見ているとギリーが戻ってきて、俺に小さく「計画通りです」と呟いた。


次の日に、俺とギリー、それから腕に覚えのあるというリグを含めた義勇兵数名とウォークター討伐へ向かった。北條の作戦なのかウォークターの目撃情報は数件上がっているらしく、俺達はそれを頼りにビッラビットを通り抜け、死塑平野(しそへいや)と呼ばれる場所へと向かった。その道程は狂ったかのように平坦だった。


死塑平野は、平野というには草木もなくただ黒い乾燥地が地平線の彼方まで続いているそんな場所だった。俗にいうゴーレムみたいな体が岩や砂でできた魔物がその辺を闊歩しており、視界に入れば襲ってくる。そんな場所だ。



あまりにも平坦な場所ゆえに、ウォークターは直ぐに見つかった。


ウォークターは、怪我をしていた。

腕は左手の1本だけで、右腕はなくなっていた。綺麗に整えられていた服は無残にズタボロになっており、黒い素肌がチラチラと見えている。足を引き摺りながら平地の奥へ奥へと急いではいるが、全然思うように進めていないという様だった。


「あいつがバーストの仇か?」


隣でリグの殺気が膨れ上がる。


「落ち着いてください。まずは、気づかれないように接近しましょう。」


今回の討伐隊のリーダーであるギリーが今にも飛び出していきそうなリグを諫める。まだ、ウォークターとの距離は1㎞近くありそうだ。


俺達は急ぎながらも音をたてないようにウォークターに近付いた。魔法が十分に届く間合いに入った瞬間に、リグが駆け出した。


後を追って、義勇兵たちも、ウォークターに襲いかかる。


結果から言えば、リグを含めた義勇兵たちは見事にウォークターにやられて吹き飛ばされた。リグは何度も何度も立ち上がり、ウォークターに挑みかかっていたが、その斧がウォークターの本体に触れることは最後までなかった。


「突然襲いかかってきたと思えば、えらく弱いですね。この間の教鳳十字軍のお二方はそれは、強かったのですが……」


地に伏すリグをウォークターは、鼻で笑っていた。


 リグは悔しそうに拳を握りながら、ウォークターを鋭い目付きで睨む。

「殺してやるぞ。お前は絶対に殺してやる。」

そんな呪詛を放ちながら、リグたち義勇兵はウォークターになにもできなかった。



義勇兵が全員が倒されるのを待ってギリーは魔法を放った。


一戦いの間ずっと魔法を組んでいて、ようやく組上がったという設定だ。ちなみに、俺はギリーを守っていたという設定になっている。


魔法により、目でとらえられるほどにうねりをあげる暴風が巨人のかたをとる。巨人は10階建てのビルのような大きさがあった。


その巨人は、ウォークターの防御魔法を軽々と突破し、ウォークターを殴り付けた。ウォークターは、轟音と共に、地面にめり込み、黒い血を吐いた。


次に巨人は、風の塊で出来た指でウォークターをつまみ上げ、暴風吹き荒れる自身の体内にウォークターを投げ入れた。物凄い水飛沫をあげながら、ウォークターは暴風の塊に呑まれ見えなくなった。


そのまま暴風だけが吹き荒れる時間が数分続いた。



俺を含めた義勇兵たちは、その光景を唖然としながら見ていた。


数分後に、巨人のかたちをした暴風の塊は緩やかに消えていき、暴風の中から大量の水が洪水となって俺たちを襲った。


四方に散って、水から逃げたあと全員で合流し、帰路につく。その間、皆はギリーを褒め称えた。


特にリグは顕著で、涙ながらにバーストの仇の礼を言い、ギリーの手を握ってブンブンと上下に降っていた。


俺はそれを非常に冷めた気持ちで見ながらも、主人を称えられ喜ぶ奴隷を演じて笑っていた。



その後も北條の筋書き通りにことは進み、その日のうちにギリーはマントハンリの国王ムンジ=ハンリとの謁見の約束を取り付けた。



謁見は次の日の昼に行われることとなった。それが、この国の最後になるのだろう。



その夜、ギリーは北條と打ち合わせがあるといい、宿を出ていった。俺は、必死に来客を願った。ここからの逆転には不可欠な来客だ。


合図は送った。作戦も考えている。あとは奴が来て、俺の提案に乗ってくれるかどうかが勝負の鍵だ。


奴が北條を裏切り、俺についてくれれば俺は北條を倒せる。

 勝たなければならない。この国のことは正直どうでもいいが、リグやカンカ、ランイたちは死んでほしくない。


今日一緒にウォークターを倒しにいったやつらも気のいいやつらだった。


ちなみに、首輪は事前に外している。思考については、首輪を騙すことなど容易だが、今から実際に裏切り行為を行うのだ。首輪を付けていたら首輪が発動し、北條に気付かれる可能性がある。そのため、自分で首を切り落とし、首輪を取り、首をつけるという力業を再び行った。



「話ってのはなんだ?

昨日か?教鳳十字軍との戦いの最中、お前は私にずっとメッセージを送り続けていただろう。何の用だ?」

あれこれと考えていると突然頭の中に声が響いた。ドアが開く音も誰かが部屋にいる気配もない。しかし、奴はいる。それは、部屋の空気が雄弁に語っていた。


来た!これで俺は勝てる。

「提案がある。」

俺は、交渉を始めた。勝負は明日になるのだろう。



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