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決意

 これで教凰十字軍との戦いは終わった。

 北條が二日前に俺たちに語った説明通りに事が運べば、次はムンジ=ハンリ。マントハンリの国王との戦いだ。その前に、北條を殺す段取りをつけねばならない。間に合わなければ、マントハンリとそしてライファル教国が滅びることになる。


 北條は、俺たちに次の指示を出す。

「さぁ、次は偽装工作の時間だ。わかっているな?

 ここで俺たち逆賊の徒はアテラスと、ジュキと相討ちした。

 アル。ちゃんと覗き魔たちの目はごまかせているな?」


 「ばっちりさ。嘘をついたり、偽装したりすることで俺に勝てる奴なんていねぇよ。」

 北條に話をふられたアルフォードが、まったく誇らしくないことを誇らしそうに語る。


 「じゃあ、次はこいつらの偽装を俺たちの死体へ偽装しろ。」

 取り出したのは、二日前に殺した転生者の楽園にいたやつらの死体だ。

 北條の計画では、逆賊の徒はここで死んだことになる。

 逆賊の徒は、ウォークターと共謀し、アテラスとジュキを襲撃。

 結果、ウォークターは生き残り、逆賊の徒はアテラスとジュキと相打ち。

 そういうふうに偽装するのだ。

 この戦いは、マントハンリにも、ライファル教国にも見られていたらしい。それをアルフォードが偽装して全く違うように見せていた。残る死体を偽装していたものと同じように、加工して残す。これで完全に、マハトリオとライファル教国は、偽装を本物だと信じ込む。今からするのはその作業だ。

 


 

 ウォークターは、教凰十字軍を二人も破ったが、瀕死の重傷。

 しかし、教凰十字軍を二人も失ったライファル教国はこれ以上の派兵は絶対にしない。なぜなら、奴らが第一に考えるのは聖都ライトカノンの安全だからだ。

 そこで、呼ばれるのがマントハンリで名声を高めているギリーだ。

 ギリーはウォークター討伐の依頼を受け、見事ウォークター討伐を成し遂げる。これは、ウォークターがグルなのだから簡単だ。

 ウォークター討伐の功績を持ち、ギリーはムンジ=ハンリに謁見の許可を得る。そして、謁見の場でムンジ=ハンリを殺す。


 あの倉庫で、同郷のやつらを殺しつくした後北條はそう語った。そして、今のところ北條の言ったとおりに事は進んでいる。


残虐で救いのないことばかりで心が荒む。俺は静かに目をつぶり、昨日のことを思い出した。


 勇者ユウラとマリーと、ギリーと俺での対談。

 涙ながらに、俺と旅することを懇願するマリーに対し、ギリーは困惑しながらも嘘で固めた理由で断り、ユウラがマリーを諫める。

泣き崩れるマリーを見ながら、温かくも鋭い痛みを胸に感じたあの一幕を、俺は思い出していた。


 勇者ユウラは、金髪で中世的な顔をした線の細そうな男だった。顔に似合わないほど豪奢な白銀の鎧を身にまとい、背中に身の丈ほどの剣を背負っていた。

 物腰は非常に静かで、激しく感情を表に出すマリーを淡々と叱っていた。


 「マリー。ここで貴方が流涕するのは卑怯という他ありません。

 それでは、ギリー殿が自らを責めてしまわれる。貴方はもう少し自分を律することを覚えねばなりません。」


 「ですが、わたくしは、わたくしは償いがしたいのです。

 サックをこのような体にしてしまったのは、わたくしの咎です。」


 「その言葉に、初めて出会った同年代の友達と別れたくないという感情が全くないと言えますか?

 それに望まれぬ償いなど、ただの自己満足でしかありません。

 相手には相手の事情というものがあります。

 それを汲みなさい。自分の感情ばかりを優先させてはいけません。

 特に、自分に至らぬところがあったと思うのであれば、尚更です。」


 「ですが、ですが……」

 「くどい‼」

「ギリー殿。私の愚かな弟子をお許しください。弟子には私からよく言い聞かせておきます故」


 「いえ。ユウラ様。私は気にしておりませんよ。ですので、あまりマリー様を叱らないで上げてください。」

 「本当にかたじけない。」


 あの場面には温かな日常につながる道があった。

 あそこで俺が二人に助けを求めることさえできれば、きっと幸せな道を見ることができたのだろう。

 しかし、俺はもう堕ちてしまった。いやもともとから、生まれる前から落ちていたのか……


 俺は逆賊の徒に、北條の手下になってしまった。

 リクリエットを殺し、リンスさんを殺し、バーストを殺した。

 俺が二人と旅に出るなど夢物語だったのだ。それほどに俺の手は汚れ切っている。

 

 もう二人はマントハンリを出て行ってしまった。キタラクタを経由して、ランス共和国に帰るのだそうだ。


 マリーはもう近くにいない。

俺のために涙を流してくれた優しい少女だった。強く、激しくそして美しかった。


バーストを殺したあの日、抱き締めてくれたあの腕は本当に温かかった。だが、もうマリーは行ってしまった。



待っていても、誰も助けてなんかくれない。誰も救ってくれない。

 そんなのは当たり前だ。

 いつだって、そうだった。

 俺は俺の力だけで、生き残ってきた。前世でも、この世界でも。


 俺は俺の力で北條を殺す。逆賊の徒を壊す。そして、清算するのだ。

 リビィという忌々しい名は、奇しくも北條のおかげで捨てることができた。

 サックという名では、ギリーの奴隷という立場だが、周りの人間とはいい関係を築けている。

 あとは俺の過去や正体を知る逆賊の徒のメンバーを一人残らず殺すだけだ。それで終わりだ。そしたら俺は自由になれる。マリーとも旅ができるかもしれない。


 俺は北條を殺す。

 殺して自由になるんだ。


 ゆっくりと目を開ける。視界の先では、死者をもてあそぶむごたらしい光景が広がっていた。

 俺はさらに決意を硬くした。

 


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