寂寞
「いやぁ、サック。さすがですね。
まさか、自らの足と腕を犠牲にして真実味を持たすなんて身の斬り方。僕には到底できません。」
俺の報告を聞いたギリーは嬉しそうに手をたたいて喜んだ。
「北條の計画通りに進んだか?」
「そうですね。おおむね計画通りです。まぁ、サックがマリー様とキタラクタへ向かうのは許容できませんけどね。それは、僕が直接マリー様とお話ししましょう。」
「悪いが頼む。」
「いえいえ、そこまでマリー様に気に入られるのは大したものですよ。きっとホウジョウさんも喜びます。」
北條を喜ばしても俺としては全く嬉しくはないのだがな。
「それで、マリーとはいつ会う?」
「そうですね。二日後の夜にお食事でもとお伝えください。明日は、転生者の皆様の相手をしなければなりませんから。」
ギリーはにやにやと楽しそうに笑った。
そうか、明日か。
明日同じ転生者のジグとダッロたちを殺すのか……
考えるな。仕方ない。仕方がないんだ。
俺は悪くない。
俺は悪くない。
唱えるように痛む胸を落ち着かせて、話を続ける。
「わかった。伝えておく。」
「さて、明日ですがホウジョウさんをお迎えして、転生者の方々を葬る以外に予定はありません。
僕は、ホウジョウさんを朝から出迎えに行きますが、サックはどうしますか?」
「自由にしてもいいのか?」
「ええ。転生者達の会合とやらに間に合うのであれば、ご自由に。」
「わかった。それまでには宿に戻る。」
ホウジョウがやってくる。
いよいよこの国の崩壊が近いということなのだろう。マリーは死んでほしくないなぁ。
マリーだけは死なせたくない。心の底からそう思った。
「そろそろ計画とやらを教えてくれないか?」
思いきって尋ねてみた。
ギリーは俺をまじまじと見つめてから、にっこりと笑った。
「簡単ですよ。最初にホウジョウさんがいったではないですか。この国で信頼を勝ち取れと。それだけです。」
「それで?どうするんだ?信頼を勝ち取っておしまいってわけではないだろ?」
「当然です。でも、それは僕の口からは説明できません。明日、サックがホウジョウさんに聞いてくださいよ。本当にあの方は素晴らしいお方です。」
ギリーは最後にはそう言って、くるりと90度ほど回転し祈り始めた。
きっと、逆賊の徒のアジトがある方向を向いたのだろう。
気持ち悪いやつだ。
俺はそれを無視して寝ることにした。
手足がない感覚に違和感を持ちながらも、俺は疲れもあってすぐに眠りに落ちた。
眠りの中だけだ。
心の底から安らげるのは。俺は煩わしい全てを記憶の奥底に封印して優しい夢を待った。
翌朝、斡旋所にいくとマリーは施設の前で待っていた。
「おはようございます。サック、昨日は眠れましたか?」
「いえ、あまり眠れませんでした。」
咄嗟に嘘をついた。
「私もです。それに師匠に大変叱られてしまいまして……
今日から再び修行をすることになりました。」
マリーを改めてみると目が赤くなっている上に、隈ができていた。
「なので近いうちにこの国を出ることになってしまいました……」
ドキッ
平坦な心に急に痛みが走る。
マリーが出ていく?
居なくなる。
急激に寂しさが襲ってきたが、それと同時に安堵もした。
これで彼女を巻き込まないで済む。それならば、いい。そっちの方がいい。
「あの、私はサックも一緒に来ていただきたいのですが……師匠に話したら構わないとおっしゃっておられましたので。」
俺をキタラクタに連れていくという話を、師匠にも通してくれたのか?
ありがたい。ありがたいがそれは残念ながら叶わない。
本当に残念だ。
「あの、明日の夜、ご、ご主人様がお食事でもと……」
そこで、ギリーは俺を連れていくことを断るのだろう。
「明日の夜ですね。かしこまりました。そこに師匠も同席させていただいても?」
「えっ?」
「師匠が、弟子の失態は師匠の責任だと……なのでお詫びがしたいと申しておりまして。」
予想外の展開に酷く狼狽する。
勇者と会えるのか?
どんなやつなのだろう。
どれほどの強さなのだろう。
見てみたい。会ってみたい。
俺としては願ってもない提案だ。
「わ、わかりました。伝えておきます。」
「あの、サック?」
「はい?」
「一緒に行けるといいですね。」
マリーは泣き腫らした目で俺を見つめて、優しくにっこりと微笑む。
可愛い。可愛いなぁ。
心底そう思った。
このあとマリーは、勇者との修行があるとのことで明日の待ち合わせ場所だけを決め、去っていった。
俺は、一人で魔物を狩りに行く気にもならず、また今更ギリーと合流し北條を迎えに行くのも癪だったため、適当に街をぶらぶらすることにした。
結局は、数か所露店を冷かした後、ランイのいるいつもの食堂へと赴き、飯を食い、客足が落ち着いたのを見計らい、ランイと料理の話をしてそうそうに宿に戻った。宿には、北條もギリーもいなかったため、俺はひとまず寝ることにした。
最近、せっせと働きすぎた。たまにはこんな日もあってもいい。
ベッドに入るとすぐにまどろみがやってきて、俺はその気持ちのいい感覚に意識をゆだねゆっくりと眠りに落ちていった。




