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烏合の衆


俺は、バースト達と別れて、すぐに斡旋所でダッロとあった。ダッロは少し場所を変えて話そうと提案してきて、俺はそれに同意した。

石の街をダッロに従い、ゆっくりとした速度で歩く。どこに向かっているかはあえて聞かなかった。カツカツと石を響かせて二人で数分歩いた。しばらくして、ダッロは至って真剣な表情で俺に言う。

「俺は転生者だ。他の転生者が集まっているたまり場がある。そこに向かってる」そして、続けて「お前も転生者なんだろ?」と尋ねてきた。

「なぜ、わかった?」

俺がそう言って凄むと、ダッロは笑いながら「こえぇよ」とおどけた。ヘラヘラしていて、軽薄で馬鹿っぽく、俺はそれが心底気に入らなかった。


「まぁ、一言で言えば、俺の魔法でな。相手使った魔法の属性がなんとなくわかんだわ。んで、だ。お前は頻繁に闇の魔法を使ってた。最初はなんの魔法を使っているのかわからなかったから、気のせいかとも思ったんだけど明らかに闇属性の魔法の反応があった。それでわかったのさ。お前が転生者だってな。」


そういえば、北條が言っていたな。

 「最近では、各地で闇子が生まれているらしい。」

やつは、いつでも唐突に語り出す。俺がその唐突さに追い付けなくても構わずに、あいつは語った。俺はダッロの言葉で北條の話を思い出していた。


「闇子ってのは、そんなにホイホイと生まれるような存在じゃない。基本的に赤ん坊ってのはどこの世界でも純真無垢だ。だが、闇子は違う。生まれながらにして、魂が汚れちまってる。もし仮にあの神の言うことを信じ、魂が輪廻転生しているのだとしたら、その浄化機能でも落とせないほどのどす黒い汚れが、闇の属性なんて得たいの知れないものとして現れるんだろう。

そんな異常事態は一体のくらいの確率で表れる?

魂の清らかさ、醜さ尺度化して横軸において、いたって普通の魂を真ん中に基準として設定する。魂の清濁具合の出現頻度が正規分布すると考えて闇子が生まれる可能性はコンマがいくつ付く?

ようするにだ。

闇子は、俺の見解では数年に一匹しか生まれない。

しかも悪辣な魂は悪辣な環境に選ばれるってのを考えるとその生存率はかなり低い。腐った魂を賢く隠せりゃいいが、俺らみたいに前世の記憶持ちっていう例外でもないかぎりは、闇子なんて初めは所詮性格の悪いただの餓鬼だ。あるものは、周りに馴染めず虐げられ殺されるだろう。また、あるものは犯罪を犯し処分されるだろう。またあるものは、属性を調べられ破棄されるだろう。

すべてを切り抜けて闇子はようやく一人前へと成長する。

各地で生まれていると噂になるほどの数の闇子だ。そんなのが、噂になるほど生まれるはずがない。闇子なんてのは、親にとって汚点でしかないだろうからな。存在自体が闇に葬られてしかるべきだ。じゃあ、今の各地に生まれてくる闇子は本当に純粋な

闇子だと思うか?


俺は違うと断言する。

俺らみたいな余所者が各地に転生していると考えた方が普通だ。 逆賊の徒ですら、俺を含め闇子もとい転生者は7人もいるんだ。世界各地に転生者がもっといたところでなにも不思議ではない。」


今のところは、闇子=転生者と考えて差し支えない。そう北條は長ったらしく語ったのだ。北條が言うのだから間違いはないのだろう。


「なるほどな。そうだ。俺は闇子で、転生者だ。で?それがどうした?」

「おいおい。そう凄むなよ。別にあんたをとって食おうなんてかんがえちゃいねぇよ。さっきも言っただろ?

転生者の集まりがあるんだ。そこに招待したいだけさ。」

「なんのために?」

「え?なんのためって言われてもなぁ……別に意味なんてねぇけど。敢えて言うならば、みんなお前の話を聞いてみたいって考えてるんだ。」

「話?」


「まどろっこしいのは嫌いなんで、単刀直入に言うぞ。あんたは、あの伝説的な悪魔の子リビィだろ?」


ダッロにそう聞かれた瞬間に身体がカッと熱くなるのを感じた。

 悪魔の子?

伝説?

 あの人にもらった名をそんな風に形容されるのがたまらなく苛立たしかった。逆賊の徒で北條にサックという名を与えられてからは、もう捨てた名だと思っていた。どろどろとした嫌な記憶ばかりが付随する嫌な名前でもある。


ぐるぐると黒い感情が体内を駆け巡るのを押さえながら、俺はダッロを睨み付けた。

 「だからそう睨むなって。あんたの自信なさげな子供の奴隷の仮面が、完全にはがれてるぞ。」

 ダッロがおどけながら忠告してきたが、今更この男に対してそんな演技は必要ない。正体は完全にばれている。ならば素で対応したところで何の問題もない。

 「なぜわかった?」

 「簡単な話さ。各地で闇子が生まれているって言われているが数としてはそう多くない。あんたはちょうどリビィと同じくらいの年齢でしかも水魔法と、闇属性の魔法を使っていた。リビィの使う魔法として有名な血液を使った魔法と属性的に一致する。奴隷だったがゆえに魔法の知識に乏しいのも頷けるし、その割に魔法を使い慣れている感じもする。総合的に考えれば、あんたがリビィの可能性は高いってなわけさ。

 まぁ、世間的に言えばリビィは死んだって言われているから、あくまでも鎌をかけてみたんだけどな。どうやら当たりらしいな。」


 ちっ、確信はなかったのか。見事にはめられた事実が苛立たしさをつのらせる。

「で?俺がリビィだったらなんなんだ?お前はどうする?俺を探してるとかいうエリシャンテなんとかっていう奴に引き渡すのか?」

喋りながら魔法を構える。何時でも攻撃できる準備を整えた。

「おいおい!落ち着けって。さっきもいっただろ?話が聞きたいだけさ。リビィ、お前の武勇伝を聞きたい。

絶対の隷属の首輪の支配を逃れ、火剣のリクリエットを殺した話を。教皇の姪の追走を逃れ、最後には無惨に散らせた話を。俺は、いや、俺達は聞いてみてぇ。」


一番言いたくないし、思い出したくもない話だ。

それと教皇の姪?

俺はそんなやつは知らない。なんでもかんでも俺のせいにされるのは不愉快極まる。リクリエットのことだって、事故だ。 結果的に殺してしまっただけで、俺は殺す気なんてなかったんだ。


「それを俺が話すメリットは?」

「メリット?」

「そうだ。俺はあまりその話をしたくない。利もなくお前らの好奇心を満たすだけならば、俺はごめんだ。」

ダッロは少し考えてから、言った。

「俺らのアジトには色んな奴がいる。色んな情報がある。もし、おまえが望んでることがあるならば、それを叶える手助けくらいは出来るはずさ。」


不適に笑うダッロに、俺は少し期待する。

 こいつらに取り入れば北條を倒す糸口を見つけられるかもしれないと。

北條を殺し、逆賊の徒を潰し、俺は自由になりたい。

出来ることならば、バーストとマリーと3人で気兼ねなくパーティーを組みたい。

俺はそんな思いを胸にダッロに、付いていった。



  ダッロに連れられてやってきたのは石造りの大きな倉庫が立ち並ぶ場所だった。そのうちの一つの大きく重そうな扉を押して開きながら、ダッロはずんずんと入っていった。

 俺はこの扉なのか珍しいなとそんなくだらないことを考えながらダッロの後に続く。

「ようこそ!転生者の楽園へ。」

ダッロは、大きく手を開き、倉庫を見せびらかすように体を開いた。その倉庫では、十人を超える人間が寛いでいた。

それぞれが、ソファや椅子に座って思い思いの時間を過ごしながらも、こちらを注目しているのがわかる。こいつらが全員転生者か…………随分とたくさんだ。

 促されるがままに、倉庫の中へと入っていく。倉庫とは言っても別になにかをしまっているわけではなさそうだ。ただの不良のたまり場にしか見えない。

 俺が中に入ると扉が大きな音を立ててしまった。後ろを振り向き、逃走のシミュレーションを行う。扉がうち開きで重いことを考えるとかなり困難そうだ。


「紹介するぜ。ここのリーダーのジズだ。」

ダッロに紹介されたのは、全身包帯でぐるぐる巻きの男だった。

「はじめまして!包帯男のロールでやってます。ジズです。一緒にこの世界を楽しみましょう!」

このジズという男は顔面を包帯でぐるぐる巻きにしていて顔色は見えないが、その包帯の下には笑顔があるのだろうとそんなふうに思わせるほど、口調が軽かった。

「楽しむってのは何を?」


俺が疑問を投げ掛けるとダッロとジズの二人は顔を見合わせて不思議そうに首をかしげる。

「何をってのは、とくにないですよ。強いていうのであれび、この剣と魔法の世界でしょうか?」

「は、はぁ」

どうにも話が噛み合わない感じだ。

「まぁ、ここはMMORPGでいうPKギルドの様なところだと思っていただいて差し支えないですよー」

RPG?ギルド?

こいつは何をいっているのだ?

ここはゲームの世界なんかじゃない。前世と同じに、ヘドがでるほど不条理で、不公平で、それでいて平等な現実の世界だ。

「具体的には何をする?皆、義勇兵か?」


「あれ?リビィさん。ゲームやらない派でした?そうですね。一言で言えば、僕たちは人殺しの集団ってことになりますね。

義勇兵の人もいますが、兵士や商人もいますよ。ここで思い思い駄弁って、騒いで、それから楽しいことを計画したり、実行したりしてます。」


ダメだ。こいつら。

俺のなかで、ダッロの株が急降下した。

「随分と呑気だな。それでは後20年と少しで死んでしまうのではないか?」

 俺たち転生者はあの自称神様に何年で滅びる運命にある世界だと伝えられている。生まれてくる時期がばらばらだったために伝えられた猶予期間はそれぞればらばらだが、人間が滅びる時期はすべて同じだ。


 俺で換算するのであれば、生まれて30年。

 それがこの世界での俺たちのタイムリミットだ。

 「まぁ、それまで適当に楽しんじゃおうって感じですよ。世界救うなんて大変そうだし。魔族は強すぎるし。そもそも僕ら正義の味方ってタイプじゃないんで。残りの人生適当に楽しんで、あとは次の世界でも同じように楽しめたらなってそんな感じですかね。」

 ジズが薄ら笑いを浮かべながらいう言葉にダッロも含めた連中は興味なさげに聞きながらもうん、うんとうなずいていた。

 「あれ?リビィ。もしかして、お前世界救おうとか考えてたタイプか?」

 ダッロが俺のあきれた表情を覗き見て、尋ねた瞬間倉庫の中に爆笑が起こった。

 「そんなわけねぇだろ。あのリビィが正義の味方か?」「悪魔が世界を救っておもしろいな。」「俺らの魂は穢れてんだぜ。」「おいダッロ。馬鹿なこといいやがって、リビィさんに失礼だろ」

 口々に野次を飛ばしながら、腹を抱えて笑っている。

 殺してやりたい。全員まとめて殺してしまいたい。

 強く思うと同時に、あきらめた。こんなやつらではダメだ。逆賊の徒には勝てない。あの北條最貴には遠く及ばない。ここに来るまでは、あわよくばダッロ達を利用し、北條を倒せないかと思っていたが、それはできそうにもない。

 俺は世界を救う。誰にも笑わせねぇ。笑ったやつはころしてやるよ。

 そんな言葉の代わりに「そんなわけねぇだろ。俺の目標は一人だけでも助かることさ」と表情を崩す。逆賊の徒をつぶす駒に使えないのであれば、逆賊の徒に恭順するふりをするために使ってやる。


 「だよな。リビィはそうじゃなくっちゃな。」

 一瞬の間をおいてダッロが俺の肩をポンポンとたたいた。俺はそれを不快に思いながらも軽く流して、情報を集めることにした。


 「実はな。俺の仲間がマハトリオの中に入れなくて困っているんだが、何かいい手はないか?」

 「おいおい。自己紹介とかもすっ飛ばしていきなりだな。」

 ダッロがあきれながら、若干のイラつきを見せたが、包帯男のジズは表情こそ包帯で見えないが物腰柔らかにダッロを窘めた。俺としても性急だとは思ったが、めんどくさくなったのが正直なところだった。

 「まぁまぁ、ダッロさん。落ち着いて。ちなみにその方は転生者ですか?」

 「そうだ。よそで犯罪を犯した。」

 「なるほど、なるほど。でしたら、門兵のギギルという男を脅すのがいいでしょう。ギギルは金で密入国の斡旋をしています。その証拠を見つけて、脅してしまえばいい。もしくは、ギギルに金を積むのも手ですね。」

 「ジズさん。いいのかよ。」

 「いいんですよ。僕は早くリビィさんと打ち解けたい。そしたらもっと面白いことができるきがするんですよ。それにリビィさんの仲間にも興味がありますしね。」

 ジズはそう言って包帯ごしでもわかるほどに口を大きく開けてニタっと笑った。

 「さぁ、皆さん。新しい仲間を迎えましょう。名は、リビィ。かの有名な悪魔の子です。

 彼は、奴隷のみでありながら高名な義勇兵を殺し、世界で初めて隷属の首輪からの脱出に成功しました。さらに魔物を操り、人を襲わせました。そして、ライファル教国中に指名手配をされました。しかし、現在はどういうわけかそのライファル教国の名門貴族のガン=ミラー家の人間の奴隷としてのうのうと生きています。」

 ジズが急に語りだし、皆がそれをだらだらと聞いていた。

 「あぁ、面白い。実に面白い人材です。僕は、彼と各地の奴隷を開放して回り、世の中を混乱させたい。または、僕は彼と魔物を先導し、人々を驚かせたい。驚愕と恐怖を各地に届けてやりたい。

僕は楽しみなんです。世界の終焉が。叶うのであれば、滅びを最後まで鑑賞し、干渉しながら最後には滅びていきたい。

 遊びましょう。

 楽しみましょう。

 遊び、楽しみつくしましょう。この世界をもっと面白おかしく生きて、そして最後には死にましょう。」

 誰もジズの言葉に真剣に耳を傾けてはいなかった。あるものはソファでくつろぎ酒をあおり、あるものはカードゲームをし、あるものを剣を振り回し、あるものは眠り、あるものは別に熱く語りっていた。

 一方で、ジズの言葉には熱がこもり、いたって楽しげだった。聞かれていないのが当たり前で、なんの気にもとめていないのに、聞かせるために、煽るために語っている。そんな矛盾がひどく不気味で気味が悪かった。

 ジズは笑った。

 高らかに宣言した後、口元の包帯をはぎ、口元だけをあらわにさせて哄笑した。

 俺はそれを聞きながら、静かに思念魔法を発動し、ギリーにすべてを報告した。すぐにギリーから風にのって声が届いた。

 「今は帰還せよ。ホウジョウさんがやってくる。」

 ぞくっと背筋が凍る。北條が来る。きっとこいつらは見るも無残に殺されるのだろう。


 「情報の礼に、俺がどうやって魔物を先導し、人を襲わせたかを説明しよう。」

 ジズの語りと笑いが落ち着いたのを見計らい、俺は倉庫の中に入っていった。まずは溶け込み、この組織の情報を得よう。一番欲しいのは構成員の人数だろう。北條はきっと残らず殺すことを望むだろうからな。

 今はまだ逆賊の徒にいよう。逆賊の徒として使える人材を演じよう。それがいい。

 「それはいい。ぜひお願いします。」

 そういって俺は、ソファに座らされる。その周りに人が集まる。

 俺は、その日は遅くまでジズやダッロに武勇伝として今までの話をした。もちろん隷属の首輪から抜ける方法や逆賊の徒の話などはしなかった。非常に腹立たしいことではあったが、俺の話は大いに受けた。

 そして組織の副リーダーと名乗る清水から「明後日、全員が集まる催しがあるんだが、来ないか?」と誘われるほどには親しくなった。


 全員が集まるということはきっとこの組織の終わりになるのだろう。ぎゅっと心臓が握られる痛みを感じながらも俺は宿に戻り改めてギリーに今日の出来事を報告した。

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